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夏休み後の実力測定②

 剣技測定は入学式直後に行われた実技オリエンテーションの再現となった魔力測定とは違うものとなったわ。


 実技オリエンテーションの時は王国の騎士団から騎士さんを派遣してもらって剣の打ち込み相手をするという練習試合形式だったんだけど、今回の剣技測定はマリエルがクラスを移動してきたことで急遽(きゅうきょ)開催されることとなったので騎士さんの派遣まで手が回らなかったらしいのよね。


 もちろんガレス騎士団長がサプライズゲストで現れることも無いわ。


 生徒同士のトーナメント形式の試合にしようという話もあったらしいんだけど、対戦相手の強さで順位の決まる運任せの結果になってしまうので、生徒の実力測定としては相応(ふさわ)しくないとのことで運の絡まない地味な体力測定方式となったの。


 測定する競技は三種目。


 徒競走、重量挙げ、牧草ロール切りね。


 徒競走で瞬発力と持久力を測定し、重量挙げで腕力を、牧草ロール切りで基本的な剣技のスキルを測定することになったの。


 まずは徒競走。


 学園の剣技場の外周にある長いトラックを一周走る時間を測定するの。


 トラックを走るだけなんだけど脳筋代表のランスロットとチャールズ王子はライバル心剥き出しでバチバチに張り合っている。


 この世界の元ネタの『リルティア王国物語』ではマリエルをランスロットとチャールズ王子で取り合うイベントもあったので張り合うのも至極真っ当な結果。


「チャールズ! お前だけにだけは負けられねぇ。マリエルは絶対に渡さねえからな!」


「ブラッドフォードこそ、お前にアイは絶対に渡さん!」


 言い争いがエスカレートして、いつの間にか勝った方が負けた方の彼女とデートする話になっていた。


 なんでそうなるのよ?


 あんたたちは彼女にベタ惚れでそれ以外の異性には全く興味ないでしょ。


 それに告白して猛アタックしている女の子が居るのに他の子に手を出したら一気に破局へ進む可能性もあるわ。


 ウィリアム王子もそれに気が付いたのか笑っている。


「巻き込まれて俺たちにまで争いの火の粉が飛んでこなくて良かったな」


「ですね。チャールズ王子。ここは高みの見物といきましょう」


 *


 まずは徒競走。


 クラスメイトが3人ずつトラックを走る。


 スタート地点から走り出した生徒はトラックを一周し、再びスタート地点に戻って来る迄の時間を測定する。


 体育の成績があまり良くないクラスメイトから徒競走が始まる。


 体育の得意でないクラスメイトがトラックを一周するのに2分近くかかっていたのが、クラスメイトの終盤の順番になると1分を切ろうとするところまでタイムが縮む。


 そしてマリエル、チャールズ王子、ブラッドフォードの順番になった。


「勝負だ、チャールズ!」


「ブラッドフォードには負けん!」


 戦いの火花が(ほとばし)る二人。


 ホイッスルが鳴らされると同時にスタート。


「貰ったぁぁ!」


 スタート勝負はチャールズが頭一つ分抜け出る。


 だが次の瞬間抜け出たのは……。


「嘘だろ?」


「追いつけん!」


 なんとマリエルが集団を抜け出して一気にトップに!


 そして大逃げしてそのままゴール。


「私の意志を無視して取るとか取らないとか決めないでよね。こんなムードの無いプロポーズは要りません」


「す、すいません」


 二人は平謝りだった。


 そして最後はわたしたち、ウィリアムとアイとわたしだわ。


 アイも戦いの火花を(ほとばし)らせている。


「相手が王子だからと言って遠慮しない」


「お手柔らかに」


 ウィリアム王子はアイの火花を軽く受け流している。


 戦いの火花を迸らせているのはアイだけだった。


 ホイッスルが鳴らされるとスタート。


 結果はスタートから大きく抜け出たアイの大逃げで勝利。


 2位と3位の競争はいい感じで争ったわ。


 ウィリアムの方が頭一つ分抜け出て勝ちだった。


 あとちょっとでわたしがウィリアムに勝てたんだけど、全力出したから悔しくなんて無いんだから……。


 *


 次の体力検査はバーベル上げだ。


 最初は自己申告の重量から始める。


 男子は40kg、女子は20kgから始める人が多かったわね。


 5秒間持ち上げられたらクリアで、クリアしたら重りを10kgまたは5kg追加で再計測。


 クリア出来なかったらそこで失格ね。


 わたしもアイもマリエルも70kg、ウィリアム王子は80kgを上げて王子が暫定1位となった。


 最後に残されたのはチャールズ王子とブラッドフォードだったんだけど、この二人がとんでもなかった。


 チャールズ王子の番になるといきなり100kgに挑戦を始める。


 今まで100kgをクリアした生徒は居なかったので申告を聞いた先生が青ざめて止めた。


「いきなり100kgに挑戦するのは無茶だ。もう少し軽い所から始めたらどうだ?」


「ブラッドフォードなら間違いなく100kgは超えてくるからこれでいい」


 チャールズ王子はバーベルを軽々と持ち上げた。


「どうだ!」


「クリア!」


 「どうよ?」とブラッドフォードにガッツポーズをするチャールズ王子であった。


 対するブラッドフォードは……。


「俺は150kgだ!」


「150kgだと!?」


 教師の声が上ずる。


「さすがにその重量はケガをするのでやめた方がいいのでは?」


「チャールズが100kgを持ち上げたのに、俺が100kgや110kgじゃマリエルに舐められるだろ」


 そしてバーベル上げに挑戦。


 バーベルのバーもブラッドフォードの腕も(きし)みをあげるが既定の5秒をクリアした。


「とんでもないな」


 先生もあきれ顔だ。


 再度チャールズ王子の番になった。


 チャールズ王子は160kgに挑戦すると思いきや違った。


「100kg追加の250kgだ!」


「250だと!?」


 人間て本当に驚くとあごが外れると思う程、口が開くのね。


 先生は呆れかえっていた。


「どりゃー!」


 チャールズ王子の覇気が辺りに砂埃を舞い上げる。


 チャールズ王子は渾身の力を籠め一気に、そして物凄い勢いでバーベルを持ち上げた。


 大きくしなるバーベルのバー!


 そしてパンパンに膨らむチャールズ王子の筋肉!


 腕も足も元の太さの2倍は超えている。


 250kgの重りを持ち上げているんだからそうなるのも当然よ。


 そして5秒を迎える直前……。


 (きし)みを上げて限界を超えたバーベルのバーは真っ二つにブチ折れた。


「ぬあ……」


 バーベルが折れるというあり得ないことが起きたので先生もどうしていいか判断に困っていた。


「これで失格というわけにはいかないから、再度バーベルを用意して再挑戦するぞ」


 それを聞いたチャールズ王子は首を振る。


「バーベルを雑に扱ってブチ折ったのは俺のせいだ。失格でいい」


「でも、それでは……」


「再測定はやらなくていい。それに俺の腕が限界を超えてもう無理だ」


「それでいいのか?」


「ああ」


「そうなると重量挙げの一位はブラッドフォードになるな。おめでとう」


 こうして重量挙げの測定は終った。


 チャールズ王子は250kgの挑戦に失敗したけど、清々しい表情をしていた。


 アイがチャールズ王子を労う。


「勝負に勝って試合に負けた。チャールズはがんばった」


 重量挙げで一位になれなかったけど、アイの言葉に救われたチャールズ王子であった。

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