夏休み後の実力測定①
二学期初めての授業は実力試験となったわ。
マリエルがクラスを移動してきたのでクラス内での実力を確認するのと、それ以外の生徒の1学期からの実力の伸びを確認することとなったのよね。
こんなイベントは『リルティア王国物語』の中では無かったんだけど、乙ゲーの中ではマリエルのクラス移動も無かったので『リルティア王国物語』とは結構細かいことが変わっているのよね。
そもそもアイビス・コールディアであるわたしが攻略対象と仲良くしている時点で原作シナリオと違いまくりなので細かいことは気にしたら負け。
いきなりの実力測定を実施するとの連絡が来てクラスがざわついた。
抜き打ちテストみたいな感じなので仕方なし。
でも、騒いでいない生徒も数は少ないけど存在していて、落ち着き払っているのよね。
夏休み前は至って普通の感じの目立たなかった生徒が夏休み中の特訓で実力がかなり向上したのか凛々しい表情をしていたり、逆に全く能力の向上は感じられないのに恋のアバンチュールの夏休みを過ごしたのかやたら大人びた雰囲気を放つ生徒まで居る。
クラスの女子たちの話声がわたしの耳に入った。
「アイビス様のグループの雰囲気変ったね……」
「なんというかアイビス様は大人びたって感じだというか……」
「放つ佇まいが夏休み前と段違いよね」
えっ?
わたし自身が変わってたの?
夏休み中は色々あったけど……変わるって程じゃないんじゃないかな。
わたしはウィリアム王子に聞いてみる。
「ウィリアム、わたしって夏休み前と雰囲気変わった?」
「アイビスはいつも通り変わらずに素敵だぞ」
当たり前のように惚気話を受け流すわたし。
夏休みぐらいの短い期間じゃ簡単にわたしの性格は変わらなく、いつもと変わらないはず。
念のためにアイにも聞いてみる。
「アイ、わたしって夏休み前と雰囲気変わった?」
「アイビス様のアイへの愛は夏休み前から全く変わっていません。同じくアイのアイビス様への愛も常時限界振り切りでMAX状態を維持しています」
わたしのアイへの愛なんて最初からないし。
アイが夏休み前と全く変わってないのだけはわかった。
*
測定は入学時のオリエンテーションと同じ順番で行われることになった。
魔法測定、剣技測定の順番ね。
でも、オリエンテーションであった探索トライアルは無かったわ。
今度、探索トライアル替わりの遠足というイベントがあるから、それを探索トライアル代わりにするらしい。
探索トライアルは能力測定というよりも、クラスメイトとの親交を深める目的が主な目的だったから能力測定としては無くても構わないわね。
まずは魔法実習棟に移動し、魔道水晶で大体の基礎魔力を測定。
基礎魔力の測定結果で上級、中級、初級にクラス分けをする。
これは設備を壊さないためのクラス分けらしい。
初級は入学式に使った標的とほとんど変わらないけど、上級になると多少の威力の魔法では壊れないように頑丈に補修されたとのこと。
入学直後の測定の時にアイが設備を破壊して騒ぎになっちゃったからね。
わたしたちは魔法が苦手なチャールズ王子を除いて全員上級。
魔法を使えず魔力のないチャールズ王子は初級と思いきや中級だった。
わたしはチャールズ王子を素直にほめる。
「チャールズ凄いわね。中級じゃない!」
チャールズ王子は頭を搔きながら照れる。
「アイに愛想尽かれないように夏休み中、剣技だけじゃなく魔法の特訓もしていたんだ」
マリエルと同じことを考えていたのね。
案外二人は気が合うじゃない。
それを聞いてなぜかアイが対抗心を燃やしている。
「アイビス様はアイのもの。どんなに強くなったとしてチャールズにはやらない」
でも、目的のアイには全く評価されず。
努力が報われない男、チャールズ王子であった。
そんな話をしていると、測定の準備が終わったのか担任が測定の説明を始める。
「ルールは春にやった測定と同じだ。習熟レベルごとに各5レーンの射的場に分かれ、標的を破壊するつもりで全力で魔法を放つんだ!」
先生はそういうものの、本気でやったらまた標的の背後の防御壁まで木っ端みじんに壊すことになるので手を抜かないとね。
でも先生は全力を出せという。
「我が校の魔法実習棟は最新の魔道技術を導入し全面改装をし、その堅牢さは国の魔導士団の設備に匹敵する。全力で魔法を放ってみたまえ」
本当に全力で魔法を放っていいのか悩んだけど、ニタニタと笑う先生に腹が立ったので本気で魔法を放ってみる。
わたしの得意とする炸裂魔法だ。
『炸裂!』
心の中でそう叫ぶ!
これで威力は魔法を詠唱した時と同じく大幅向上だ。
標的に着弾した炸裂魔法は標的で大爆発!
これで標的は木っ端微塵……のはずだった。
でも、標的は無傷!
「なっ!」
わたしの魔法が標的に負けた……。
愕然とするわたし。
そして勝ち誇る先生。
「どうですか? 改良に改良を重ねた魔導士団クオリティーの実習場は! この標的を破壊できる魔導士はこの国にはいないでしょう!」
だったんだけど……嘘!
隣のレーンにいるアイが飛び跳ねて喜んでいる。
親指をあげてドヤ顔をするアイ。
「やりました。木っ端みじんです!」
耳をつんざく爆音と共に標的ごと背後の防御壁まで炸裂魔法で吹き飛ばしていた。
今度はわたしの代わりに愕然とする担任の先生。
「我が校自慢の魔道射的場が……。上級のレーンには魔道減衰装置が組み込まれていて20分の1に魔力攻撃力が減衰するはずなのに……」
膝をついてうなだれる先生、そして勝ち誇るアイ。
「アイビス様への愛の勝利です。愛が勝ちました!」
そしてガッツポーズをしている。
なにが愛の勝利よ。
誰が修理代を払うと思ってるのよ……。
まったく……。
わたしの大負けよ。
わたしも先生と同じくうなだれた。
*
それから魔力測定はつつがなく進行する。
皆の測定結果も良好だ。
ウィリアム王子が皆を褒め称える。
「この学園に入学してからみんな頑張ったな。特にチャールズ王子とマリエルはこの夏休みで魔法が全く使えない状態からここまでよく頑張ったものだ」
褒められ二人は素直に喜ぶ。
「王国の魔導士を先生に付けて、毎日特訓で頑張ったもんな」と、自己評価するチャールズ王子に対してマリエルはただただ顔を赤くして畏まっているだけだった。
でもリルティマニアのわたしは知っている。
一人で考え込むことの多いマリエルは、ウィリアム王子に褒められたことで頭の中をモノローグボイスで満たされていることを……。




