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嘆願書

 あれからどれぐらい時間が経ったんだろう?


 半日ぐらい?


 マリエルはドロシーに復学の嘆願書を30枚も書けと無茶ぶりされたのでなかなか書き終えられない。


 途中で投げ出して帰りたいけど、帰ったら帰ったで今日みたいにまた絡まれる未来しか見えない。


 小窓から差し込む日差しが多少柔らかくなったのを見るに、夕方とは言わないけど完全にお昼休みの時間を超えておやつの時間を過ぎているのは間違いなとマリエルは考える。


 嘆願書を書いているマリエルの横でドロシーが(まく)し立てていた。


「ダメダメダメ! わたしをもっと褒め称える様に書かないと。これじゃ復学は無理だわ!」


 そう言われてもドロシーは友だちでも無いから、褒める様なことはなにも思い浮かばない。


 これじゃいつまで経っても終わらない。


 ドロシーは更に捲し立てた。


「早く書き上げないと、校舎の門が閉まっちゃうわよ!」


 急がないと学校が終わるぐらいの時間なのね。


 二学期の始業式を連絡なしで無断で休んでしまったから、明日学校に行ったら間違いなく先生に怒られるだろうな。


 憂鬱。


 ブラッドフォードくんが白馬の騎士の様に現れて私をここから救い出してくれないかな……。


 助けてよ、ブラッドフォードくん。


 マリエルは心からそう願った。


 でも救世主は現れてくれそうもない。


 それなら自分でかたずけないと。


 出鱈目でもいいからとっとと嘆願書を書き終えて、一刻も早く先生に謝りに行こう。


 そう、覚悟を決めたマリエル。


 マリエルは思いつく最大限の賛辞の言葉でドロシーを褒め称える嘆願書を書き上げた。


 クオリティー無視で書き上げた嘘で固めた出鱈目過ぎる嘆願書が書きあがった。


 マリエルの書き上げた噓八百の嘆願書を見てドロシーは満足気だ。


「やれば出来るじゃない。これを持ってわたしと一緒に校長のとこに復学の嘆願に行くわよ!」


 ドロシーの言葉にマリエルは気が動転する。


「わ、私も一緒に嘆願に行くんですか?」


 始業式をサボったことを一刻も早く先生に謝りに行かないといけないのに、先に校長先生に嘆願しに行かないといけないの?


 当然のことと言った感じでドロシーが言い切る。


「誰が嘆願しに行くと思ってるのよ? あなたよ、マリエル!」


「ええ~!」


 私の心からの叫びが塔に鳴り響く。


 その時……!


 バン!と塔のドアが開け放たれた!


「マリエル!」


 ドアから飛び込んできたのはブラッドフォードくんだ!


「マリエル、助けに来たぞ!」


「ブラッドフォードくん……」


 いい所に白馬の騎士が現れてくれた。


 ブラッドフォードくんに事情を説明して、嘆願する前に先生の所に謝りに連れて行ってもらおう。


 そう思っていたんだけど……更に現れた助け舟。


 ウィリアム王子、チャールズ王子、アイビス、アイ、クリスの王家御一行とその仲間たちだった。


 状況を見てブチ切れるウィリアム王子。


「てめーら、また性懲りも無くマリエルになにをやってるんだ!!」


「ひえっ!」


 あまりのウィリアム王子の怒りの声にドロシー一味は縮みあがった。


「退学で大目に見てやったのに、また俺の前に現れるとはどういう要件だ!」


 怯えつつ、目的を話すドロシー。


「マリエルに協力してもらって、わたしの復学嘆願書を書いて貰っていて――――」


 それを聞いたウィリアム王子は激怒した。


「舐めるな! なにが復学だ! 二度と俺の前に姿を現すなと言っただろう!」


 ドロシーは既に覚悟を決めた後なのか、激怒したウィリアム王子に(おく)せず理由を説明する。


「わたしが学園に復学しないと家を追い出されて大変なことになるのです」


 身勝手な理由でマリエルを監禁したのが理由なのを知ったウィリアム王子は更に怒りを増すかと思いきや、冷静に告げた。


「安心しろ」


「復学を手伝って貰えるのですか?」


 ドロシーの顔が明るくなるが、ウィリアム王子は笑っていない。


「お前の家は今回の件で取り潰しになるから、家を追い出されることを心配する必要は無い」


「えっ?」


 一瞬で青ざめ嘆願書を床に落としすドロシー。


 ウィリアム王子は更に追い打ちを仕掛ける。


「衛兵! 第一級国家反逆罪の犯人を確保した。こいつらを直ちに連行せよ!」


「国家反逆罪??」


 乗り込んで来た衛兵たちで塔の中が大混雑して身動きが取れなくなるが、すぐにドロシー一味が連れ出され、静寂が戻る。


 ブラッドフォードがマリエルを抱きしめた。


「無事だったか?」


「はい」


「よかった……」


 ブラッドフォードは更に力を込めて抱きしめる。


 安心感がマリエルの身体全体を包みこむが、物理的な痛みも全身を駆け巡る。


(いた)!」


 男の力いっぱいの抱擁はマリエルには少しきつかったようだ。


 慌ててマリエルの抱擁を解くブラッドフォード。


「す、すまない。マリエルの姿が消えて心配で心配で居ても立っても居られなかったんだ」


「私も……ブラッドフォード君が助けに来てくれて嬉しかったです」


「これからはマリエルから絶対に離れず守ってやるからな」


「ありがとう」


 今度はマリエルからブラッドフォードを抱きしめる。


「ずっと守って下さいよ」


「ずっとな」


 この日、マリエルとブラッドフォードの関係は友だちから一歩先の段階へと踏み出した。

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