アイビスの帰省②
冷蔵庫が普及する前、欧米でも肉とか腐りかけのものが平然と売ってたって話で衛生状態がかなり酷かったらしいわね。
それも中世のヨーロッパの話じゃなく、1800年代後半の産業革命の頃のイギリスやアメリカの話らしいわ。
まあ、リルティアの世界ではそこまで不潔な食材を扱ってるって話は聞いたこと無いので現実の冷蔵庫の無い時代よりもかなりましなのかもね。
牛乳だって常温保存が出来るように高温で完全殺菌がされてるもの。
スィーツに使える牛乳が手に入らないと聞いたけど、そんなことでわたしのスィーツ道を止めることは出来無い。
マリー・アントワネットの『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』の失言じゃないけど、『お菓子に使える牛乳が無ければ新鮮な牛乳を取りに行けばいいじゃない』だわ……全然違うか。
まあ、お菓子に使える牛乳が無ければ新鮮な牛乳を取に行けばいい。
しかも極上の牛乳をね。
これには心当たりがあるの。
幸いこのコールディア領にはリルティアの中で登場する、ミノタウロスの村があるのよ。
人間たちには知られてない入ると間違いなく遭難すると言われている『迷いの森』奥底にある村なんだけど、リルティマニアのわたしならマップは完全に暗記してあるから目をつぶってても行き来出来るわ。
その村で買えるミノタウロスミルクが栄養満点の絶品で、二年生ルートで発生する『竜の卵』クエストで卵から孵った竜の赤ちゃんにミルクを飲ませるのに何度も訪れた事があるのよね。
竜の赤ちゃんにミノタウロスミルクを与えると母親として懐かれて、その後に頼もしい仲間になるってイベントが有ったのよ。
まあ、アイビスの話じゃなくてマリエルの話なんだけどね。
竜の赤ちゃんが美味しそうに飲む絶品のミノタウロスミルクがどんな味なのかちょっと興味があったので、ぜひ飲んでみたいってのもあったわ。
*
翌日、わたしはミノタウロス村での通貨となる交換品の大量の『岩塩』と、ミルクの持ち帰り用のクーラーボックスと保冷用の氷の呪符を用意して早速乗り込んだわ。
護衛はアイだけだけど迷いの森にはそんなに強い敵がいないから大丈夫。
強いて言えばミノタウロスが最強の支配者となる森よ。
ミノタウロスとの戦闘を避けるのも簡単。
言葉が通じるから彼らの欲しがる岩塩を渡してあげれば戦闘にならずに村まで案内して貰える。
初見プレイだと岩塩を渡すなんて逃げ道がわかる訳ないから、どうしてもミノタウロスと戦闘してしまってその時点でお尋ね者になって村に入れなくなって積むのよね……。
わたしはアイと迷いの森を彷徨う。
彷徨うと言ってもミノタウロスとのエンカウントポイントは決まってるからその地点を目指して一直線よ。
「アイ、牛の獣人のミノタウロスを見つけても大人しくしててね」
「牛の獣人なんてアイの手に掛かれば……、今夜はビーフステーキ」
「いやいやいや、獣人はモンスターじゃなく人だから倒しちゃダメだし、食べるのはもっての他だわ」
「わかった」
程なくしてエンカウントポイントに到着。
二人組のミノタウロスの衛兵が現れた。
「なに奴だ!」
「怪しい侵入者め! 手を上げろ!」
わたしは岩塩を手にしたまま手を上げる。
わたしが岩塩を持っているのに気が付いた兵士は目が釘付けだ。
さっそく攻略法通りに兵士に話し掛けた。
「岩塩の行商にミノタウロスの村を訪れようとしたんですけど、道に迷ってしまいました。村まで案内して貰えないでしょうか?」
怪訝そうにわたしを見るミノタウロスの兵士。
そこですかさず正解となる選択肢を答えた。
「もちろん、タダでとは言いません」
そしてミノタウロスの兵士に道案内の報酬の岩塩の塊を一個ずつ渡すと表情が笑顔に変わった。
ミノタウロスは牛の獣人と言う設定なので、常に不足している塩分を欲っしていて岩塩に目が無いらしい。
「行商人か。お安い御用だ!」
ちょろい。
「ちょろ牛」
アイも同じことを思っていたのかわたしだけに聞こえるように呟く。
岩塩一個で不審者を村まで案内する衛兵って……それでいいの?
この辺りは原作の『リルティア王国物語』と全くおんなじなのね。
*
衛兵さんにミノタウロスの村まで案内して貰うと、わたしはミノタウロスミルクを求め食料店を目指す。
店頭には新鮮なミノタウロスミルクが山積みになっていた。
わたしは店番のお姉さんにありったけの岩塩を渡す。
「ミノタウロスミルクを全部下さい!」
クーラーボックス一杯に入る分とその場で飲む分の2本を購入。
石清水でひんやりと冷やされたミノタウロスミルクをアイと一緒に飲んでみた。
「こ、これは!」
「!」
濃厚!
クリーミー!
そして芳醇。
まるでホイップした生クリームを飲んでいる感じ。
調理する前からここまで美味しいんだから、アイスにした時の味が想像できない。
アイも目を丸くしている。
「おいしいれす」
ミノタウロスミルクを飲んで二人で放心状態になっていると村に突然サイレンが鳴り響いた。
「逃げろー!」
突然の悲鳴。
わたしは逃げようとしている食料品店のお姉さんになにが起こっているのか確認する。
「なにが起こっているんですか?」
「あいつが現れたんだよ!」
わたしは信じられないものを目にした。
お姉さんが指さす村の上空には大きな竜の姿があったのだ。
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