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最高のスィーツ対決1

 フランシスカがわたしの言うことを聞かずに問答無用でアウレリアを討伐してしまったせいで、楽しくなるはずの夏休みの合宿は最悪の雰囲気になってそのまま終わったわ。


 わたしはあれ以来なにもやる気にならず残りの休みを宿でふて寝。


 喜んでいたのはわたしと一日中添い寝が出来たアイだけだったわ。


 アイが添い寝してくれてたお陰でベッドの中で泣き続けることも無く過ごせたのよね。


 落ち込んだ時こそ、絶対に裏切ることのないアイの優しさが身に染みる。


 そうそう、ダンジョンのことを忘れていたわ。


 冒険者ギルドへのダンジョンの調査報告や手続きはウィリアム王子が全て片付けてくれたの。


 あのダンジョンの名前はあんなことがあった後で『アイビスダンジョン』と名付けるのは酷と言うことで『レイクシアダンジョン』と名付けてくれたみたいね。


 学園に戻るとフランシスカはわたしの家庭教師を辞任、聖女修行を再開する為に修道院へ戻っていったわ。


 それから三日後。


 あまり浮かれない顔をしているわたしをウィリアム王子が心配して話し掛けて来た。


「せっかくの夏休みの旅行が台無しになってしまったので埋め合わせさせて欲しい」


「別に埋め合わせなんて……」


「夏休みの思い出にちょっと料理を食べに行くだけだ。ぜひとも俺に付き合って欲しい」


 アウレリアの件で気を使ってくれているウィリアム王子を無下にするのも失礼だからあまり乗り気じゃなかったけど食事に付き合うことにしたわ。


 連れて来られたのは意外な店だった。


「レストランかと思ったら……」


「女子は普通の食事よりも甘い物の方が喜ぶだろ?」


 そう言ってウィリアム王子はドアを開けてわたしを店内に(いざな)う。


 学園城下町で人気のパティシエによるスイーツレストラン。


 そう言えば乙ゲーの『リルティア王国物語』の中で主人公のマリエルが攻略対象のウィリアム王子に誘われてデートでスィーツ店に誘われるシーンがあったわね。


 最近は忙しすぎてスィーツとかきれいサッパリ頭の中から抜け落ちていたわ。


 リルティアのスィーツ店を一度訪れてみたかったのよ。


 わたしがウィリアム王子の誘いに乗ると当然の様にアイも付いて来た。


「この店では最新の流行のスィーツが食べられるらしいぞ」


 それは『リルティア王国物語』の中で最新スィーツとして紹介されていたタピオカだった。


 タピオカと言えば今回のリメイク版リルティアの数年前に流行った飲み物。


 一時はSNS界隈でタピオカが流行りまくってたわね。


 わたしも飲んでみたことあるけど、濃いめの紅茶に味のしない硬めのゼリー粒が入ってる感じで、タピオカの食感は面白かったけど正直もう一度食べたくなる味じゃなかったわ。


 それに量が多過ぎてあんなに飲めないわよ。


 わたしと同じ感想を持つ人も多かったらしく、リルティアのリメイク版が発売された最近ではタピオカミルクティーのブームは完全に去っていたわね。


 でも、わたしたちのテーブルに現れたタピオカはミルクティーベースのドリンクじゃなかった。


 これは更に一周前のブームの小皿に盛られたスィーツだわ。


 練乳なのかしら、小皿に載ったタピオカに白いミルクが掛けられているわ。


「さー、アイビス。食べてみてくれ」


 見た目は結構おいしそうだわね。


 ウィリアム王子も勧めてくれているし、さっそく食べますか。


「さー、アイもご馳走になるわよ」


 ふとアイを見ると……。


「ちょっ!」


 アイはわたしが食べる前にタピオカを既に食べ終えてた。


 食べるの速いわ。


「だいじょうぶ、毒は入ってない」


 「グッ!」と親指を突きあげて勧めてくるアイ。


 わたしも食べてみた。


 でも……。


 練乳と思ったのはココナッツミルクだったみたいで、スィーツとしては圧倒的に甘さが足りない。


 またしても味のないゼリーを食べている感じ。


 これならタピオカミルクティーの方がマシかも……。


 なんとも言えない微妙な感じのスィーツで、甘みの薄いジュースをお皿で食べてる感じで凄く微妙な気分だった。


 ウィリアム王子も同じ感想だったらしく、美味しいとも言わずに「面白い食感の食べ物だな」と一言だけ言ってあとは無言で食べていた。


 そこへ王子がやって来たことを耳にしたパティシエのおっさんがやって来る。


「ウィリアム王子、ご来店ありがとうございます!」


「うむ」


 パティシエはわたしを見て自慢気にする。


「どうです? この最新スィーツは? 女子に大人気でモテモテなんですよ」


 どうって言われても……。


 感想に困る味のスィーツだったけど、『不味い』と切り捨てるほどわたしは空気を読めない子どもじゃない。


 わたしが返答に困っていると、パティシエの顔が迫る。


 ちょっ! 顔ちか!


「ねぇ? ねぇ? こんなスィーツ食べた事無いでしょ、褒めてくれていいんですよ!」


 さらに自慢げにするパティシエ。


 これはわたしが美味しいと言うまで終わりそうもない。


 わたしはあまりにしつこいパティシエの態度にムカついて言ってやった。


「一週間待ってなさい! 本当のスィーツという物をあんたに食べさせてあげるわ!」


 絶賛されると思ったら予想外の返答が来て鳩が豆鉄砲をくらったような表情で驚くパティシエ。


 でもパティシエも言われっぱなしじゃない。


「いいでしょう。わたくしもあなたが頭を下げたくなるほどの新作スィーツを出しましょう。審査員はウィリアム王子にお願いして判定してもらうのでいいわね」


 こうしてわたしはスィーツを食べに行ったはずなのに料理対決になってしまったの。


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