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生きている親友

 フランシスカの話を聞いていたチャールズ王子が指摘をする。


「アウレリアとこのダンジョンに来たのって何年も前なんだろ?」


「私が水晶学園の生徒の一年の時の話だったから、今から6年前の話ね」


「6年前にダンジョンで別れた親友が今も生きている訳ないだろ」


「私もそう思ってたけど、家庭教師の命を受けて修道院を出てから水晶学園に来る道中からずっと、恨みつらみを吐きつつ私をこのダンジョンに誘うアウレリアの声がずっと聞こえているのよ」


「それって……」


「生きているって言うのは、正しくない表現だわね。死んでもこの世に存在させ続けられているんだと思うわ」


「どういうことだ?」


 チャールズ王子は理解が出来ず首を傾げるのでウィリアム王子が説明する。


「死んでもなお、このダンジョンボスのリッチの使い魔となって今もこの世に留まっているってことなんだろう」


「マジかよ!」


 驚きのあまり、チャールズ王子の声が裏返っていた。


「どうりで酒を飲むことしかしなかったフランシスカが、アイビスが学年首位になった褒美にレイクシア旅行に連れていって欲しいと言い出した訳だ。アウレリアを成仏させる為にな」


「私だって飲みたくてお酒を飲んでるんじゃないわよ。アウレリアの悲痛な叫びがずっと脳裏に響いて止まないから飲まなきゃやってられなかったのよ」


「まあ、事情はわかった。お前がアウレリアに引導を渡してやれ」


「事情を知っても協力してくれるのね。ありがとう」


 フランシスカたちは明日のダンジョン攻略に備えて夕闇迫る館へ戻ることにした。


 *


 バイトの終わったマリエルは湖畔の公園で剣の素振りをしていた。


 以前、武闘会前にコロシアムで一人練習をしていた時とは明らかに素振りの切れが違う。


 剣の素振りは凄まじい剣圧で空気を切り裂き摩擦熱で焦げ臭さ迄感じるほどで完璧に近い出来であったが、マリエルは納得していない。


「私がこうしてバイトで学費を稼いでいる間に、ランスロット君は師匠とマンツーマンの特訓で上達して、どんどん差を付けられちゃうんだろうな……」


 日課の素振りを1000回ほど済ますと背後から声を掛けられた。


「今日も剣の鍛錬か。真面目だねー」


「えっ?」


 振り向くとそこには武闘会の時に救護班でマリエル治療してくれたクリスくんが立っていた。


「あの時の……。武闘会では治療して戴きましてありがとうございます」


「あれは救護班の仕事で、当たり前のことをしただけだから礼を言う必要はないよ。むしろ救護班でもないのに治療を手伝ってくれたアイビス様に礼を言わないとね」


「そうですね。そういえばさっきアイビス様に会いましたよ」


「キミもかい? 奇遇だね、僕もついさっきアイビス様に出会ったよ。アイビス様はゴキブリみたいにどこにでも出没するよね」


「そんなこと言っちゃダメです」


 そして二人で笑い合う。


「それにしてもキミは毎日剣の修行を頑張ってるね」


「見られちゃいました?」


「うん、仕事帰りに毎日ね」


「そうだったんだ。後ろから見られてたと思ったらちょっと恥ずかしくなります」


「そうか、じゃあ今度は前から見てみるよ」


「それも恥ずかしいなー」


 そして再び笑い合う二人。


「ところでキミは魔法の練習はしないのかい?」


「実は私、魔法の方は全くダメで……。剣しか才能のない脳筋なんです」


「そうなのか?」


 そうとは思えなかったクリスくんはマリエルの腕に治癒魔法を掛ける。


 素振りで溜まった疲労が吹き飛ぶと同時に仄かに腕が光る。


「腕を見てくれないか? 治癒魔法を掛けた腕が僅かに光ってるだろ?」


「ええ」


「この僅かな光は魔法の才能の有無を示す指標なんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ、魔法の訓練したことが無いのにここまで光を放っているということは、訓練次第ではかなりの所まで魔法を覚えられるかもね」


「本当ですか?」


 それを聞いたマリエルは表情が明るくなる。


「もし良かったら、レイクシアにいる間は僕と魔法の訓練もしてみないか?」


「ぜひお願いします」


 こうしてマリエルは魔法の開眼へ向けて訓練を始めるのであった。

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