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避暑地への旅立ち

 わたしとアイとウィリアム王子とチャールズ王子は夏合宿という名目で避暑地で有名なレイクシアへの二泊三日の旅行をすることになった。


 レイクシアの別荘では自由研究をするらしいんだけど……。


「レイクシアに自由研究しに行くんでしょ? それなら自由研究経験者のフランシスカお姉ちゃん先生に任せなさい!」


 やたら得意気な顔をするフランシスカ。


 わたしはその得意気な顔の根拠を聞き出す。


「なにか自由研究の題材に思い当たることがあるの?」


「レイクシアには地図に載ってない小さなダンジョンがあるから、そのダンジョンの生態調査をするわよ。たぶん半日もあれば調査の終わる規模の小さなダンジョンだから、課題はすぐに終わって後は遊び放題飲み放題よ」


 「飲み放題はフランシスカだけでしょ!」


 と、わたしはフランシスカに突っ込む。


「それにフランシスカは四六時中飲んでるじゃない!」と突っ込もうとした時、ウィリアム王子から指摘が入った。


「合宿の課題をなににしようかと思って、ボス討伐でも出来るダンジョンが無いか調べてみたんだが、レイクシアにそんなダンジョンは無いと思うんだが……。本当にレイクシア周辺にダンジョンなんてあるのか?」


「あるわよ」


「レイクシアの冒険者ギルドに問い合わせてもダンジョンがあるなんて情報はどこにも無かったんだが?」


「そりゃそうよ。ダンジョンの発見者は私で冒険者ギルドに報告してないもん」


 まるで高笑いをするように天を仰ぐフランシスカ。


 物凄く偉そうにしてるけど、ダンジョン発見の報告をしないことは褒められた行為じゃないと、ウィリアム王子にも突っ込まれていた。


「普通ダンジョンを見つけたら、冒険者ギルドに報告するのが冒険者の義務だろ?」


「私は冒険者じゃないから報告する義務はないし、ダンジョンボスを倒されたらお宝盗られちゃうじゃない」


 お宝を盗れらちゃうからダンジョンボスの報告をしなかったって、どれだけ欲にまみれた生臭シスターなのよ。


 ダンジョンボスの討伐が終わったら、フランシスカが泣き叫ぼうとしても冒険者ギルドにお宝と一緒に報告してやるわ。


 きっと欲にまみれたフランシスカのいい泣き顔が見れるわね。


 わたしはその時を楽しみにダンジョンに攻略をすることにした。


 *


 馬車に揺られて半日弱ほどでレイクシアの別荘に着いたわ。


 さすがに王様も利用する別荘だけあって大きくて豪華な館が待っていた。


 水晶学園にある元迎賓館(げいひんかん)だったわたしたちの寮より大きい。


 ちょっとしたお城ね。


 レイクシアまでの距離は王都への距離よりもずっと短い感じだった。


 たぶん、現代の電車で行ったら鈍行でも30分ぐらいの距離だったわ。


 馬車を降りたんだけど、乗車中ずっと腕を組んでいたアイが離れてくれない。


 夏なのにずっと腕を組まれたままだとさすがに暑苦しいわよ。


「アイ、馬車を降りたことだし、そろそろ組んでいる腕を離して欲しいんだけど」


「アイビス様、アイは馬車に酔ってしまって、目の前がグルグル回っていてアイビス様に支えて貰えないと歩けません」


 今にも倒れそうなアイだけど、アイが馬車に弱いなんて聞いたことが無い。


 王宮から水晶学園に来るときはもっと長時間馬車に乗ってたけど、アイはずっと話し続けてて馬車に酔ってやつれてる感じなんて無かったもの。


 きっとこれはわたしを好き過ぎるアイがベタベタしたいだけだと思ったわたしはカマをかける。


「そんなに体調が悪いと、お姫様抱っこをしてベッドまで運ぼうと思ったけど出来ないわね……。すぐに別荘の使用人に担架の手配をするわ」


 それを聞いたアイは背筋をピシッと伸ばしわたしの前で身を正し敬礼をする。


「アイは元気であります!」


「さっきまで一人じゃ立てないほど馬車に酔ってたんじゃないの?」


「あれは演技ですから、健康に全く問題ありません! さあアイビス様、早くお姫様抱っこをお願いします」


 やっぱ嘘だったのね。


 わたしは冷たく言い放つ。


「元気ならお姫様抱っこなんてしないわよ」


「そんな~」


 まるで、谷底に落とされたかの絶望的な表情をするアイ。


 あまりにもかわいそうなので、少し(なぐさ)めてあげたわ。


「急遽レイクシアのダンジョン調査の予定が入った事だし、装備の用意をするからレイクシアの町に買いに出掛けるわよ」


「アイビス様とお買い物ですか!」


 死んだ魚の目をしていたアイは目を輝かせて屋敷の中へと荷物を抱えてすっ飛んで行った。


 フランシスカはと言うと……。


「私は馬車移動で疲れたから、明日のダンジョンの調査まで自室で飲んで寝てるわね。今日は営業終了するわよ」


 フランシスカは馬車の中でもずっと飲んでいたのに、まだ飲むか。


 でもウィリアム王子は寝ることを許さない。


「フランシスカ、寝るのは本当にダンジョンがあるのかを確認してからだ。明日になってダンジョンが無かったなんて事になったら、予定がひっくり返って取り返しのつかない事になるからな」


「わかったわよ」


 王子に諭され、しぶしぶダンジョンの確認に同行することを了解するフランシスカであった。


「あと、お前が飲まなきゃやってられないのはわかるが、ダンジョン調査が終わるまで飲むのは禁止だ。自由研究に決着を付けたいんだろ?」


「わかったわよ」


 そう言って、酒瓶を置いてダンジョンの確認に行くフランシスカであった。

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