マリエルとの戦い
気が付いたらマリエルに師匠が出来て剣技の覚醒をし、闇落ちまでしていた。
闇落ちってなんなのよ?
マリエルと言えば誰にでも優しいのが売りな主人公だったのに……。
今まであんな暴力を働くことは一度も無かったのをわたしは知っている。
攻撃出来ない弱者を一方的に攻撃するなんてことはどのルートでもなかったわよ。
こんなに性格の悪い主人公ならわたしはここまでリルティアにのめり込まなかったわ。
*
第3戦目、わたしはマリエルと戦うことになった。
マリエルが話し掛けて来た。
「あら、アイビスさん? お久しぶりです。探索トライアル以来ですね」
「マリエル、お久しぶりね。この大会は騎士団長に師事してもらうために参加しているとばかり思っていたんですけど、既に師匠が出来ていたとは思いもしませんでしたわ」
「剣の才能に開花した私にはもうガレス騎士団長は不要ですの。それをこの剣で騎士団長に伝える為にこの大会に参加したのですわ」
確かにこの武闘会の後にサプライズで開かれるエキシビジョンマッチにはガレス騎士団長が参加することになってるんだけど、そのエキシビジョンマッチが開かれるのはウィリアム王子やチャールズ王子が入学した今回が初めてでマリエルが知っている訳がない。
知っているのはウィリアム王子やチャールズ王子、そして学園幹部の極一部の参加者のみ。
なんでマリエルがそのことを知っているんだろう?
わたしにはそれが引っ掛かった。
「そんなこと簡単よ。師匠に教えて貰ったもの」
師匠っていったい誰なのよ?
マリエルが言った情報を纏めると、マリエルの師匠は学園幹部関係者以外にあり得ないんだけど?
まさか、校長?
いや、校長は剣なんて持てなくて剣の師匠なんて出来るわけがない。
となると教師陣の中の誰かってことになるんだけど、こんな短期間でマリエルの剣の才能を開花させるほどの優秀な指導者なんて教師陣にいたかしら?
ちょっと前にマリエルの練習を偵察した時は完全な素人だったのに……。
「こんな短期間でここまで剣の才能を開花させるってかなり優秀なお師匠さんなのね」
マリエルは笑う。
「私が優秀なだけよ。私はアイビスさんに匹敵する剣の才能がある剣士だと師匠が言ってたから」
そしてマリエルは語気を強める。
「そして、わたしはアイビスさんを倒して最強の剣士になるわ!」
そうはさせるか!
マリエルが剣の才能に完全に開花すると、わたしが困るのよ。
マリエルとブラッドフォードがくっつくと私に待っているのは断罪ルート。
まだ死にたくないから絶対に阻止してみせるわ!
審判の先生の声が掛かった。
「星側アイビス、月側マリエル、試合準備!」
わたしとマリエルはリングの指定された位置に着く。
マリエルの装備はわたしと変わらないレベルのものだった。
目が飛び出るほど高い装備では無いんだけど、下級貴族出身で常にお金に困っていたマリエルに買えるものとはとても思えない。
装備も師匠とやらに支給してもらったんだろうか?
まあ、覚醒したマリエルの前に装備なんて誤差レベルだからどうでもいい。
試合開始直後にマリエルがどんな戦法を取ってもいいように神経を研ぎ澄ます。
「はじめ!」
試合開始と同時にマリエルは飛び込んで来て剣を振り上げる。
頭か上半身への袈裟切りね。
わたしは即ガードの構えをすると、マリエルは攻撃する場所を変えて足元を狙って来た。
今からガードの場所を変えても間に合わないと判断したわたしは瞬時に飛び退く。
「マリエル、なかなかやるわね」
「アイビスさんこそガードされてない足元への攻撃に切り替えた途端に即飛び退くとは素晴らしい判断です」
「お互い、小細工は通用しないってことね」
「そのようですね」
それを機に正々堂々の斬り合いが始まった。
わたしが打ち込めばアイビスが受け流しをし、そのままの勢いで切りかかって来る。
わたしはその攻撃を受け流すと、逆に切りかかる。
それが延々と繰り返される。
周りの観客にはただ高速で模擬刀当て合ってるようにしか見えず、なにが起こっているのかいるのか理解できずに呆然としている。
これでは勝負がつかない。
そう判断したマリエルは更に攻撃の速度を上げる。
わたしも必死に食らいついたがさすがにこの速度はきつい。
数日前に気合の入っていない素振りをしていたマリエルとは思えない進歩だ。
あの短期間では覚醒したと言っても半覚醒状態が精々だと思っていたら、既にマリエルは完全に覚醒していたようね。
あの短期間でマリエルをここまで覚醒させる師匠とはどんな人物なんだろう?
『リルティア王国物語』でマリエルを覚醒させたのはランスロットだったけどここまでではなかった筈。
それに荒々しい気性になっているのも気になる。
あの優しいマリエルが短期間でここまできつい性格に変わるものだろうか?
とにかく今はマリエルの攻撃を捌き続けなければ負ける。
わたしは剣を受け続けるんだけど、マリエルの剣の一振りが重くて受け流すのもつらい。
多分この攻撃はランスロットの攻撃を超えているわね。
わたしが必死に耐えているとマリエルが根を上げた。
「さすがアイビスさんね。それならば私も最後の切り札を使わせてもらうわ。私の最強の攻撃を受けて下さい。そして負けて下さい」
そういって剣を掲げるマリエル。
その時にわたしは見逃さなかった。
マリエルの指輪が光ったことを。
あの指輪は?
シンプルなデザインの指輪。
どこかで見たことがある。
超高速でわたしの頭の中の記憶を探し出す。
そして引っかかったのが、色は違うけど数日前に探索トライアルで見た指輪。
まさか、ロックバードの燃えさしから出て来た指輪と同じものでは?
指輪に見覚えがあるものだったわたしはマリエルの攻撃を受けずに敢えてその指輪を攻撃した。
「くっ!」
すると指輪はマリエルの指から弾け飛ぶ。
それと同時にマリエルは糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちるのであった。
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