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狂化ロックバード

 狂化っていうのは他のゲームでいう『暴走モード』とか『狂乱モード』とか言われてるあれね。


 ゲームセンターのTVゲームとかでじっくり着実に戦っていると点数稼ぎをしていると勘違いされて、永久プレイ対策で敵がとんでもなく強くなっちゃうあれよ。


 リルティアはゲームセンターじゃないんだから別に時間を掛けて敵を倒してもいいじゃないと思ったんだけど、発売直前に敵に『毒の魔法』と『鈍足の魔法』を掛けて逃げ回っていたら初期装備のLV10のプレイヤーキャラでもラスボスクラスの敵を倒せることがわかって、慌てて修正したってファンディスクの開発秘話に書いてあったわ。


 狂化した状態になると敵の動きが素速くなって逃げることが出来なくなるの。


 おまけに攻撃力も攻撃速度も速くなるから敵がとんでもなく強くなるのよね。


 簡単に言うと敵の大幅強化で普通には倒せなくなるの。


 さらに言うと敵味方関係なく、目の前の動くものに見境なく襲い掛かるようになるのよ。


 バーサーカーモードってやつね。


 狂化したモンスターと遭遇したら待っているのはゲームオーバーのみで、復活やコンティニューのない『リルティア王国物語』では再度セーブポイントからやり直すしかないわ。


 でも、わたしが今いるこの世界はゲームに似ているけどゲームじゃない世界。


 セーブポイントからのやり直しは多分なさそうというか、セーブポイントのはずの教会でお祈りしてもセーブメニューなんて出てこなかったんだからやり直しは出来ない。


 死んだらそれっきりで終わりだ。


 死んだこと無いから確信はないけど、たぶんそうなるんだと思う。


 倒せる敵なら倒すしかないけど、倒すことも出来ない敵なら取れる選択肢はひとつだけ。


「こっちよ!」


 わたしは洞窟にみんなを呼び寄せて避難する。


 ついさっきまでビリーくんたちが隠れていたあの洞窟だわ。


 幸い、ビリーくんとマリエルは既に逃げていて巻き込まないで済んだと一安心。


 チャールズ王子からいつもの猛々(たけだけ)しさが消えうせて泣き叫んでいる。


「こんな洞窟に自分から閉じ込められてどうするんだよ? くちばしを突っ込んで来て俺たち一人ずつ引き摺り出されてあいつの腹の中だぞ」


「それなら大丈夫」


 わたしは土魔法で壁を作り入口に封印をする。


 チャールズ王子は今塞いだ入り口の壁にもたれかかって一息付いている。


「こんな方法があるなら、先に言ってくれよ」


「あっ、言い忘れてたけど、その壁にもたれかかっていると、ロックバードの鳴き声が貫通して石化するわよ」


「まじかよ?」


 慌てて飛び退くチャールズ王子。


 洞窟の中が薄暗いからよく見えなかったけど、顔が真っ青になってるのはわかったわ。


 ウィリアム王子はこの先のことを心配している。


「ところで、アイビス。これから先のことは考えているのか? 例えば……先に逃がしたビーリーが助けを呼んで来るとか……」


 学園最強の戦力のわたしたちがここにいて苦戦している以上、それは淡い期待だった。


 先生たちが助けに来ても返り討ちにされる未来しか見えない。


「ロックバードは夜になると巣に帰って寝ると思うからそれを待つしかないわね」


 ロックバードはあんな大きななりをしていても所詮(しょせん)は鳥。


 夜になって薄暗くなれば夜目になって周りが見えなくなるから巣に戻るわ。


 お腹が空けば諦めて食事を取りに行くかもしれない。


 でも、狂化したロックバードがどんな行動を取るのかはリルティマニアだったわたしでもわからないのよ。


 だって『敵に気付かれる前に逃げろ』が狂化したモンスターの対処方だったからね。


 *


 しばらくすると狂化したロックバードは洞窟の封印をこじ開けるのを諦めたらしく、洞窟の前に座り始めた。


 壁の隙間から外を観察していたウィリアム王子は現状を分析。


「洞窟をこじ開けるのは諦めたけど俺たちを諦める気はない。持久戦に突入だな」


「でも、あいつ……」


 チャールズ王子はなにかに気が付いたみたいだ。


「あいつ、いびきかいて寝てねぇ?」


 わたしも外を覗いてみたけど明らかにロックバードは寝息を立てていて寝ている。


 アイも外を覗く。


「明らかに寝ている。逃げるなら今」


 このまま洞窟に隠れていてもどうなるかわからないから、この隙に逃げるしかない。


 洞窟の封印を解除して、わたしたちその場を立ち去ろうとした瞬間、なにかが起き上がる音がした。


 狂化ロックバードだ。


「狸寝入りしてたのかよ!」


 狂化ロックバードの猛攻が始まった。


 そこからはもう滅茶苦茶。


 チャールズ王子とウィリアム王子が交代しながら壁役をしてアイが回復、わたしは魔法で攻撃するけど狂化しているからダメージが通ってる気がしない。


 おまけに狂化ロックバードは底なしの体力とスタミナで弱ってる気が全くしない。


 このままじゃ、やがて疲れ果ててわたしたちが負けるのは確実だ。


 チャールズ王子が提案をする。


「俺とアイでなんとか耐えるから、その隙に兄貴とアイビスは逃げてくれ!」


「アイが餌になる」


 餌って……。


 言い方。


 もうょっと違う言い方は無いの?


「チャールズやアイを見捨てて逃げられるわけが無いだろ!」


 仲間を見捨てないウィリアム王子をチャールズ王子は怒鳴りつける。


「リルティア王国は俺を必要としないが、兄貴は必要とされている。このままじゃ全滅だ! 逃げて生き延びてくれ! アイビスまで死なすわけにはいかないだろ?」


 チャールズ王子はぎゅっと拳を握りしめると、わたしの腕を掴む。


 それは有無を言わせぬ強い力で……。


「逃げるぞ! アイビス!」


「はい!」


 わたしが王子の顔を見ると、目には涙を溜めていた。


 ウィリアム王子の言いたいことは聞かなくてもわかっている。


 その時……。


 狂化ロックバードが真っ二つに裂けた。


 そして現れたのは……。


「待たせたな!」


 既に水晶学園には居ないはずのガレス騎士団長だった。

読んでくれてありがとうございます。

面白いと思いましたらぜひとも高評価をお願いします。

作者のやる気に繋がります。

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