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マリエルのこと

 わたしは探索トライアルのゴール前のベンチでウィリアム王子の手を握り甘々な時間を過ごしている。


 アイとチャールズ王子も甘々な時間を過ごしてる……わけも無く向こうの方で早くも練習試合をしていた。


 チャールズ王子は渾身の一撃を打ち込むがアイに受け流しをされ逆に攻め込まれて、今はつばぜり合いをしている。


「まさか、俺の必殺の一撃をこうも簡単に返してくるとは、最高の女だな」


「最高の女はアイビス様。でも、最高の(おとこ)はチャールズ王子と認めざるを得ない」


 二人はケガをするのが心配になるぐらい激しく打ち合ってるけど、これがアイとチャールズ王子の付き合い方なのよね。


 こっちはこっちでマッタリとやらせてもらうわ。


 わたしがウィリアム王子の手を両手で握ると王子は緊張した感じでぎこちなさげに顔を少し赤らめている。


 初めてチャールズ王子と出会った時は喧嘩ばかりで、こうして手を繋げるような関係になれるとは思いもしなかった。


 わたしはウィリアム王子と出会った頃の思い出話をする。


「チャールズと出会ったばかりの頃はケンカばかりしてたよね。勉強が出来なかったから怒られたのをわたしが怒ったのがケンカの始まりで、今考えても大人げなかったと反省してるわ。ごめんね」


「あの頃の俺たちは今よりずっと子どもだったろ」


「そうかもしれない」


 二人して笑いあう。


「俺も初めてアイビスを見た時、こんなにも綺麗な人が婚約者だったんだって驚いたんだよ」


「そうなの?」


 美人と言われて気分を害する女はいない。


 わたしも表面上は冷静さを保っていたけど、頬は(たる)みまくってたはずだ。


「さすがに口には出せなかったけどね。そのうえ、勉強をしたいって言うんだから、俺にとってはまさに『理想の嫁』だったんだよ」


「そうだったんだ」


「まあ、そのあと全く勉強が出来ないことがわかってガッカリして俺が怒鳴り散らしたんだけど、あれは大人げなかった。勉強できないから家庭教師を呼んだんだもんな。勉強できなくて当然だよ」


「まあ、二人とも子どもだったからね。わたしも見返してやろうと意地になって勉強したわ」


「そうだったのかよ」


「こう見えても負けん気だけは強いのよ」


 特にリルティアのことだけは譲れない。


 またしても二人で笑い合った。


 きっとゲームの中でもウィリアム王子とアイビス(わたし)は同じような出会いがあったと思うの。


 でも、ゲームの中のアイビスは勉強する努力を怠って、わがまま放題に時間を浪費し、お洒落だけにのめり込んでウィリアム王子に愛想を尽かされたんだと思うわ。


 嫌われたのも自業自得ね。


 わたしは気になっていたことを聞いてみた。


「そういえば、さっきマリエルって子と会ったけど、彼女綺麗じゃなかった?」


「確かに綺麗ではあったけど……」


「清楚でいい感じの子よね。ぶっちゃけた話、彼女に惹かれなかったの?」


「それは無いな」


 キッパリと否定。


 そして手を握り返し、言葉を強めて続ける。


「俺には理想の女のアイビスが居るし、アイビスも約束を守ってくれてるしな」


「わたし、約束なんてした?」


「俺以外の男と浮気しなかったろ?」


 ああ、それね。


 ウィリアム王子との恋愛フラグが立っちゃってお腹いっぱいだったのに、他の攻略対象とのフラグをわざわざ立てにいきたいとは思うわけ無いでしょ。


 おかげで、ウィリアム王子のゲームとは違う嫉妬深い一面が見れてよかったわよ。


「まあ、そんなことだからこれからもこの俺をよろしく!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 アイとチャールズ王子の練習試合の区切りがついたのか戻って来た。


 辺りを見回しチャールズ王子はため息を吐く。


「ビリーとマリエルの奴、まだ戻ってなかったのか」


 ビリーくんとマリエルは一番短いコースなんだから、最初にゴールしててもおかしくないはずなのに遅いわね。


 そんなことを話していると、大空に花火が打ち上げられた。


「こんな真昼間っから花火か? どこのバカが花火を打ち上げてるんだよ?」


 あれは花火じゃない!


「救援信号よ」


「救援信号?」


 わたしがビリーくんに渡したものに間違いない。


 ビリーくんになにかトラブルがあったらしい。


 きっとウルフハウンドあたりの一匹一匹は弱くても群れると厄介な魔物に襲われている。


 ここでマリエルを見捨ててしまえば、これ以上攻略キャラからの断罪に頭を悩ませなくていいんだけど、今のマリエルにはなんの罪もないから見捨てる理由も無い。


 わたしは事情を説明した。


「探索トライアルが始まる前にビリーくんに魔物退治用の呪符のセットを渡して来たんだけど、その中に入れておいた救援依頼用の信号灯と思うわ」


「なにか起きてるのか?」


「たぶんね」


 チャールズ王子が声を張り上げる!


「アイ、二人を助けに行くぞ!」


「了解!」


 二人はつむじ風の様に現場に急行。


「俺たちも助けにいくぞ!」


「はい」


 わたしとウィリアム王子もビリーくんとマリエルの救出に向かった。

読んでくれてありがとうございます。

面白いと思いましたらぜひとも高評価をお願いします。

作者のやる気に繋がります。

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