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オリエンテーション

 入学式の翌日、オリエンテーションが始まった。


 オリエンテーションとは学校の施設を見て回ったり、加入したいクラブ活動に体験入部とかする中学生活や高校生活の開始時の恒例になってるあれね。


 リルティアの場合、これとは別に実習授業の体験会みたいなのもあるんだけど、それは2日目の話だわ。


 たぶんマリエルは下級貴族クラスで誰にも声を掛けられずに一人で居るはず。


 おまけにゲームでは2日目の実習授業のオリエンテーションの前にアイに制服を汚されて、オリエンテーションに参加できなくなったマリエルは友だちを作る機会が無くなって二学期が始まるまでボッチになるのよね。


 まあ、アイには他の生徒に手出しをするなってキツく言い渡してあるので、マリエルは2日目のオリエンテーションで友だちが出来る事でしょ。


 *


 オリエンテーションに行くときにグループを組むと大抵はそれをきっかけにして友だちグループに発展するんだけど、わたしには誰も声を掛けて来ない。


 原因はわかってるわ。


 ウィリアム王子よ。


 ただでさえ王族関係者ってことで近寄りがたい雰囲気を(かも)し出しているのに、入学式の会場でウィリアム王子が『わたしに手を出したら首が物理的に吹き飛ぶ』なんて最高にサイコパスな発言をするもんだから、わたしの座っている席の周りには男子どころか女子さえも寄り付かない。


 取り巻きは要らないけど、友だちは欲しい。


 わたしは不満をぶちまける。


「ウィリアム王子のせいでわたしの周りに誰も寄って来なくなったじゃないの。このままじゃわたしはずっとボッチで、これからの学園生活がお先真っ暗だわ」


 するとアイがわたしを励ます。


「アイビス様にはアイが付いているので安心してください。アイは今までもこれからもアイビス様の仲間で味方です」


 チャールズ王子も励ましてくる。


「アイビスには俺たちが付いているからそう悲観するな。なあ、兄貴」


「もちろんだ! 俺たちこそアイビスの真の仲間だ!」


 わたしが避けられるようになった原因を作った奴がなにを言うか。


 わたしはウィリアム王子の能天気な思考回路に結構ムカついていたんだけど……。


 何の脈絡も無く、ウィリアム王子は愛の言葉をささやき始める。


「愛してるぜ、アイビス!」


「はぁ? なんでいきなり愛の告白すんのよ」


「恋人が不安がっていたら、愛の言葉を伝えれば大抵の場合、解決すると執事の爺さんから聞いたんだが……。あれ? おかしいな」


 あんたね……。


 そんな耄碌(もうろく)したお爺さんの戯言(たわごと)なんて信じないでよ。


 愛の言葉を囁かれるのは悪い気はしないけど、脈絡なさ過ぎてビックリだわ。


 これだから、恋愛経験値の低い男って駄目ね……って、わたしも恋愛経験値は0に近いか。


 まあ、恋愛不器用なりに頑張っていると評価しておきましょ。


「はいはい。ありがとね」


「それに他の生徒が寄り付かない方がアイビスを取られる心配をしなくていいしいな」


 どんだけ、ウィリアム王子はわたしが取られるのを心配してるのよ。


 どんだけ、わたしのことが好きなのよ。


 わたしはリルティア王国物語の学園生活で恋人なんて一人も出来なかった悪役令嬢NPCのアイビスよ。


 そんな心配しなくてもアイビス(わたし)に浮気イベントなんて起きません。


 もしかしてウィリアム王子にこれだけ好かれているのならば、マリエルが現れてもひとめ惚れなんてイベントは発生しないんじゃないの?


 そうね……。


 わたしもウィリアム王子をもっと信じてみることにするわ。


「グループはこの4人だけで十分だろ」


「アイビス様、グループはこの4人だけで十分です」


「そうだわね」


 みんなは笑顔を見せているけど……わたしは知っている。


 2日目のオリエンテーションのグループには6人必要なことを……。


 結局、わたしたちはどこのクラブにも入らずに学園生活をすることになった。


 まあ、わたしたちがクラブに入っても他の部員たちが気を使って楽しめなくなるから仕方ないわね。


 *


 今日は2日目。


 朝のホームルームで渡されたプリントには今日の予定が書いてある。


 まずは、実習棟に行って魔力の測定。


 標的に魔法を当てる、異世界学園物のゲームやアニメでおなじみのやつよ。


 アイは上流貴族クラスへの編入を希望していたので入学試験で受けて経験してるけど、わたしは上流貴族なので今回の測定が初めてになるわ。


 家庭教師のクレア先生の授業で測定済みなので平均以上の結果が出ると思うので心配はしていない。


 *


 次が剣技の試験。


 王国騎士団から派遣された騎士と模擬刀での打ち合いをすることになるわ。


 アイやチャールズ王子ならトップクラスの成績で試験を終えそうだけど、わたしもウィリアム王子も剣は殆ど使ったことが無いので多分すぐに負けて捨て試合になると思う。


 まあ、学園生活では魔法か剣のどっちかが使えれば十分なので問題なし。



 そして、最後は学園外の森にある実習施設での探索トライアル。


 入り口で渡されたマップに書いてある3つの塔を巡ってスタンプを押してゴールに向かうってイベントなんだけど、入り口で2人組の3手に別れてスタンプを押してこないといけないのよね。


 なので6人必要なの。


 そのことを伝えるとチャールズ王子は6人も要らないという。


「俺とアイが単独行動するから4人で十分だ。な、いけるよな?  アイ」


 アイはチャールズ王子の提案を秒で断った。


「無理。アイはアイビス様から10m以上離れてしまうと死んでしまう」


「まじかぁ?」


 チャールズ王子は驚いているけど、もちろん嘘だわ。


 剣技の練習で散々わたしから離れてたじゃないの。


「わたしから離れてもアイが死んじゃうことは無いけど、スタンプを押すときに離れたボタンを同時に押さないとダメだから2人いないとダメなのよ」


 本来はこの探索トライアルのオリエンテーションでマリエルと攻略キャラの出会いフラグが立つってイベントだったらしいんだけど、シナリオライターの思い付きで気が変わったのかマリエルは制服にインクを掛けられて不参加になっていて、既に描いたキャラ別の出会いの場面の一枚絵グラを何枚も没にされてグラフィッカーが怒っていたって制作秘話がファンディスクで暴露してあったわね。


「一つの塔でスタンプを押してから別の塔にスタンプを押しに行くのもダメなのか?」


「スタンプを押したら魔法で即ゴールに飛ばされるから無理なのよ」


「そうなのか……兄貴、なんとかしてくれよ」


「わかった。俺に任せておけ」


 ウィリアム王子は自信満々で胸を叩いた。


 ウィリアム王子に任せておけば大丈夫。


 そう思える安心感がウィリアム王子にあったわ。

読んでくれてありがとうございます。

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