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入学式

 入学式の会場となる水晶学園の講堂に集められた生徒たち。


 けっして狭い会場では無かったけど、新入生が一堂に集まるので講堂内は新入生でひしめきあっていた。


 この人混みの中にはウィリアム王子とチャールズ王子はもちろんのこと、ビーリーくんやクリスくんの見知った顔が見え、ゲームで散々みた攻略キャラたちの顔もちらほらと見えた。


 アイが期待満面で見つめてくる。


「アイビス様の主席入学の成績を盾に、アイと二人でこの学園を完全支配しましょう!」


「そんなことしないわよ!」


「では、アイはチャールズ王子と武力でこの学園を制圧することにします!」


「そんなこともしちゃダメだから!」


 マリエルに喧嘩を売らないことが第一目標なのにそんなことしちゃダメでしょ。


 『作戦:みんななかよく』よ。


 アイはさっきまで一緒に居たウィリアム王子が居ないことに気がついたのか辺りをきょろきょろと見回す。


「いつもアイビス様に金魚の糞みたいにベッタリなウィリアム王子が居ないです」


 アイ、ウィリアム王子を金魚の糞呼ばわりしちゃダメだから。


 アイはわたしと同じクラスに通えてテンションが上がりまくって口が軽くなっているのはわかるけど、ウィリアム王子の前でそんなことを言ったら不敬罪で断頭台送りになるわよ。


 わたしはゲームでこの後、なにが起きるのか知っていた。


「多分、生徒(せいと)宣誓(せんせい)の準備よ」


「生徒なのに先生(せんせい)なんですか?」


「先生じゃなく宣誓よ。入学後の意気込み……勉学に精進しますって感じのことを先生たちに宣言するのよ」


 本来は入学試験の成績一番の主席の生徒が生徒宣誓をするんだけど、ウィリアム王子は国王の継承権一位の王子なので主席の生徒に変わって宣誓することになっているの。


 ちなみに乙女ゲーの『リルティア王国物語』では入学式の閉会後に入学試験一位で本来生徒宣誓をするはずだったマリエルにウィリアム王子が詫びに行くのがマリエルとウィリアム王子の出会いの切っ掛けだったりするわ。


 まあ、今年はわたしが入学試験の成績一位なのでマリエルとのイベントは起こらないはず。


 *


 入学式が始まった。


 校長先生の睡眠効果を伴った長くてありがたいお話の後に、予想通りウイリアム王子が演台に登場する。


 ウイリアム王子は講堂に響き渡る声で生徒宣誓を始めた。


「宣誓! 我々、新入生一同はリルティア王国の(いしづえ)となるべく、学問に惜しまない努力をすることを誓います! 新入生代表、リルティア国ウィリアム第一王子」


 するとアイの隣に座っていたチャールズ王子から感嘆の声が上がる。


「兄貴、決まったなっ!」


 チャールズ王子だけじゃなく、わたしも会場の生徒たちもあまりの凛々(りり)しさに息をのんだ。


 これこそが王子の威厳というやつだ。


 ゲームの中の名シーンを思い出す。


 そして演台を降りるはずなのだが……。


「新入生主席のアイビス、来なさい」


 えっ?


 なんでわたしが呼ばれるの?


「ほら行ってこい!」


 チャールズ王子に背中を叩かれて演台に送り出されるわたし。


 こんなイベントは無かったはずなのにどうなってるのよ……。


 わたしが演台に登るとチャールズ王子がわたしの手首を取り天高く掲げる。


「このアイビスこそが、今年の入学試験で最高得点を取った主席の生徒である。一同拍手!」


 最初はパラパラと鳴っていた拍手が講堂全体を割れんばかりに鳴り響く。


「拍手、やめ!」


 王子が号令すると再び講堂が静まりかえった。


 そして再び話始める。


「そして、このアイビスこそが俺の婚約者(フィアンセ)であり次期王妃である。在学中アイビスにけっして失礼なことをしないよう留意して欲しい」


 ちょっ!


 普通、入学式で新入生全員の前で婚約者を披露する?


 めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!


 そして王子は茶目っ気ある声でとんでもない事を言い出した。


「あと、言い忘れてた。特に男子は忘れないで欲しい。俺の女に手を出したら伯爵の息子でも首が飛ぶからな! しっかりと覚えておけよ!」


 ウィリアム王子のシャレとは思えない断首宣言を聞いて入学生全員どころか、教師まで青ざめることになったのであった。


 *


 こうして入学式は無事に?終わったんだけど、ウィリアム王子とマリエルの出会いイベントが起きない無い代わりに、わたしとの婚約披露イベントが発生。


 明らかにリルティアのシナリオと違う展開で学園生活が始まったの。


 ウィリアム王子がマリエルにひとめ惚れしなくて一安心したけど、まだまだ出会う機会はあると思うから気は抜けないわね。


 あと、ウィリアム王子のフィアンセ発言でわたしは少し浮いた存在になった気がする。


 ちゃんと友だちが出来るか心配だわー。

読んでくれてありがとうございます。

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作者のやる気に繋がります。

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