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301/312

301・はじめての ひなんくんれん

|д゜)300回を超えたの、これで

3作品目だったりします。



「ふっあ~……

 何か疲れたわ」


模擬戦が終わり、支部長室へと戻って来た

エリザベート選手ことイヴレット様が、

真っ赤な長髪を揺らしながら、そのまま

飛び込むようにソファに腰掛ける。


「おう、お疲れさん」


そしてこの部屋の主である、アラフィフの

筋肉質のギルド長―――

ジャンさんが(ねぎら)いの言葉をかけ、


「いやー、しっかし……

 ありゃもう完全に『神前戦闘(プロレス)』のノリ

 でしたッスねえ」


長身で褐色肌の黒髪の青年で次期ギルド長の

レイド君がうなずきながら話す。


「まあ、新年1回目の(もよお)しとしては、

 それなりに盛り上がったのでは」


模擬戦のもう一方の相手として、私が

評価も込めて語る。


「だろ?


 な、俺の言う事聞いて正解だったろ。

 イヴレット様♪」


「ん~、まあ確かにね」


そう、実は彼女との模擬戦に入る前に、

ジャンさんを交えて打ち合わせをしていたのだ。


「シンは確かにあらゆる魔法を『無効化』

 出来るが―――

 『雷魔法(サンダー)』のアンタと戦った日にゃ、

 開始即無効化、それで終了。


 盛り上がる事は無かっただろうよ」


「それで、ああいう試合形式になったッスか。


 確かに、魔法を出す前に封じられたら、

 見せ場も何もあったもんじゃなかったッス

 からね」


ギルド長と次期ギルド長は、父と息子のように

うなずき合い、


「そういえば他のみんなは?

 どこに行っているのさ」


ドラセナ連邦の女帝が、ふとそちらに話を

向けると、


「全員が全員、私の秘密……

 『境外(けいがい)(たみ)』である事を

 知っているわけじゃありませんからね。


 私の妻たちや他の方々に頼んで―――

 外に誘導してもらっています」


「ああ、そういう事かい。


 それにこの街……

 冬だってのに、いろいろと店とか商売

 やってんだよねえ。


 連邦じゃちょっと考えられないよ」


まあこちらの世界だと時代背景的に中世くらい。

人々の生活は季節に大きく左右されてしまう。


そんな中、店はもちろん屋台まであちこちで

冬季(とうき)にやっている場所は珍しいのだろう。


「そういや、ちょっと小腹が空いたな」


「俺たちもどっか食いに行くッスか?」


「アタシもアタシもー!

 アンタたち地元だろ?

 案内してくれ!」


「そうですね。

 もしかしたら、メルやアルテリーゼたちも

 屋台を巡っているかも知れませんし」


そして私たちは4人のパーティーとなって、

外に繰り出す事となった。




「世話になったのう。

 では、またな」


「お(しの)びで来ているので、帰りも『ゲート』で

 一瞬ですが―――」


模擬戦から5日後……

『ゲート』のある公都『ヤマト』の

西地区・北エリアで、


60才ほどの好々爺に見える老人、

ランドルフ帝国皇帝・マームード陛下と、


パープルの長髪に、前髪を眉毛の上で整えた

ティエラ王女様があいさつし、


「また来るからねー!

 あ、もちろんアタシもお忍びで」


ドラセナ連邦女帝イヴレット様が元気に

手を振り、


「貴重な経験であった。

 そのうち、また来るぞ」


「わらわも来ますのー!

 その時はもっともっとお買い物

 しますの!!


 あとラッチちゃんとレムちゃん!

 我が国に遊びに来て欲しいですのー!」


マームード陛下と同じくらいの年齢の老人、

大ライラック国軍王・ガスパード様と、


その孫娘である、金髪縦ロールのお嬢様、

アンニーナ様が両手に大きな荷物を抱え、


「世話になったな。じゃあ」


最後に、白髪交じりのグレーの短髪の、

40代くらいに見える中年―――

ライオネル様が頭を下げ、


それぞれの国へと戻っていった。




「やっと帰ったねえ」


「最近の人間の王族やトップは、

 身軽なのだのう」


見送りに来ていた私の妻たち……

アジアンチックな童顔のメルと、

欧米モデルのようなアルテリーゼが

ひと息つき、


「寂しくなるねー」


「アーちゃんとせっかく仲良くなりましたのに」


外見上は同じ中学生くらいの、

黒髪ショートの私の娘、ラッチと―――


シルバーの長髪をした女の子、

ゴーレムのレムちゃんが2人でしょんぼりと

肩を落とす。


「そういえば他の人たちは?

 見送りに来てなかったけど」


ラッチが首を傾げると、


「あー、あまり大々的にやると変に

 思われるから、自粛(じしゅく)したんだよ。


 だってみんな、ただの一般人や

 ご隠居(いんきょ)さんって事になっているのに、

 ギルド長や次期ギルド長とかが

 揃って来てもおかしいし……」


『そーなんだー』『ふーむ』と妻たちは

納得し、


「それに、みなさんはもうお仕事に戻って

 いるからね。


 新年の行事もだいたい済んだし」


日本でいうところのお正月も過ぎ、異世界(ここ)では

年越しにあまり意味はない事もあり―――

全員、いつもの暮らしに戻っていた。


「じゃあレムちゃん、児童預かり所に行こー」


「そうですね。

 『ガッコウ』はまだ冬休みですし」


娘たちが次の行き先を決め、


「じゃあ私たちも」


「そうじゃのう。

 リュウイチとシンイチを預けておるしの」


そして私たちもまた、揃って同じ行き先へと

向かう事となった。




「はぁ?

 賢人会議が揉めている、ですってぇ?」


ザハン国のとある政治機関の施設の一室……


そこでリーゼントのような髪型の若い官僚は、

上司からの説明に首を傾げていた。


「例の辺境大陸への対応で、ほぼ真っ二つに

 割れているようだ。


 まあこれは彼らの思想や意見というより、

 立場によるものが大きいが」


「と言いますとぉ?」


彼の言葉にタクドルは聞き返す。


「メナスミフ自由商圏同盟も―――

 様々な国家の寄せ集め所帯だからな。

 当然、一枚岩ではない。


 それで問題になっているのは、

 それぞれの国家の成り立ちだ」


若い官僚は今度は黙って、上司の話の先を促す

姿勢を取る。


「もし亜人・人外に対する融和(ゆうわ)政策を取るので

 あれば……

 それを受け入れられない国が当然出て来る。


 特に、苛烈(かれつ)な差別や支配で国家を(おこ)した

 ところはな」


それを聞いてタクドルは『あー……』と言って

うなずく。


メナスミフ自由商圏同盟―――

それは交易やビジネスによって繋がっている、

いわば経済共同体のような体制であり、


どのような政治や法律、統治を行うかは

各国に任されていた。


そして国に応じて過去や歴史も様々であり、


「でもですよぉ?

 クアートル大陸ではいくらかの騒動はあった

 ものの……

 寛容策(かんようさく)は受け入れられているという話じゃ

 ないですかぁ?」


「それはあの大陸の特殊性による。


 四大国とて最初からあの規模であったわけでは

 ないだろうが―――

 初めからそれなりの強さはあったのだろう。


 四大列強となり、それらがそれぞれ周辺の

 弱小国を吸収・併合し始めた。


 だからほとんどの場合、圧倒的な力で一方的に

 戦いを終わらせる事が出来たのだ」


「そこはまぁ、今のメナスミフ自由商圏同盟と

 同じですわねぇ」


自由商圏同盟もまた、つい最近辺境大陸に対して

恫喝(どうかつ)砲艦(ほうかん)外交を仕掛けていた。


それを思い出したのかタクドルは苦笑するが、


「しかし、同じ程度の実力を持つ国同士の

 戦いとなると……

 なかなか決着がつかないばかりか、

 長年の恨みを引きずる事になる。


 そうなった場合、例え統一をしたとしても

 相手を皆殺しにでもしない限り―――

 内側に爆弾を抱え続ける」


「いやぁそんな国……

 メナスミフ自由商圏同盟には、1つや2つじゃ

 きかないでしょう?


 つまりそういった国が融和策に反対している、

 という事ですね?」


そこで上司は大きく息を吐く。


「まあ必死さが違うというか―――


 要は融和政策を取った時、そして

 辺境大陸のような存在を知った時……


 その爆弾が一斉に爆発する恐れがあると

 いうわけだ。


 そこで賢人会議でも、まとまった方針が

 取れないでいるのだよ」


タクドルは両目をつぶって腕を組み、


「しかしですよぉ?

 わたくし、賢人会議に出た事があります

 けど、そこまで深刻な感じではありません

 でしたわ?


 何で急にそんな流れになったんでしょう?」

(■284話 はじめての けいび参照)


部下の問いに上司はこめかみを抑えて、


「我が国の跳ねっかえりどもが、たった3人に

 船団ごと無力化された事があっただろう」

(■292話

はじめての ひょうけつせんじゅつ参照)


「ありましたわねぇ」


「それを機に、一気に融和政策推進派と、

 脅威(きょうい)と見做す反対派の対立が激化した。


 辺境大陸を巡りメナスミフ自由商圏同盟が

 2つに別れるのではないかという危惧(きぐ)は、

 我がザハン国の上層部も持っていたが―――


 それが現実化しつつあるという事だ」


そこで官僚の青年が手を挙げて、


「推進している方の国々は、どうやって事を

 収めようとしているのかしら?」


「反対派を黙らせるほどの利益を提示出来れば、

 という考えのようだが、


 それで積年(せきねん)の恨みやいがみ合いが消える

 はずはあるまい。


 商売として利益しか見ない連中と……

 表面上だけ同盟に加わっていた連中の違いが

 浮かび上がった、とも言えるが」


それを聞いて今度はタクドルが大きな

ため息をついて、


「まさかメナスミフ自由商圏同盟の存続にまで

 影響してくるとはねぇ。


 そしてその引き金を引いたのはわたくしと、

 あの跳ねっかえりども!


 何とも泣けてきますわぁ」


両手を挙げて彼はおどけるように語る。


「それでそれで?

 そんな話をわたくしに聞かせるためだけに、

 新年早々呼び出した―――

 ってわけではないですわよねぇ?」


すると2人とも示し合わせたかのように、

顔をお互いに近付けて小声で、


「(まあザハン国(うち)は辺境大陸の実力を、

 嫌と言うほど見せつけられたからな。


 あれで例の跳ねっかえりどもも黙ったし、

 融和派になる方針をすでに固めたようだ)」


「(なるほどぉ♪

 それで、わたくしは何をすれば?)」


そこで上司は一通の書類を彼に渡し、


「(これは?)」


「(賢人会議の融和派からの『資料』だ。


 融和派はこれを機に、爆弾を抱えている

 反対派を処分する目論(もくろ)みらしい。


 これを辺境大陸に届けてもらいたい)」


タクドルはそれを無言でフトコロにしまうと、


「(責任重大ですわねぇ。


 ……クアートル大陸へは?)」


「(それはこちらの伝手で何とかする。


 とにかく、敵対意思の無い勢力もいるのだと

 伝える事―――


 あわよくば、この前のように向こうで何とか

 してくれるかも知れん。

 そうなれば上々よ)」


つまり、うまくいけばほとんどこちらの

手を汚さず、さらにはタダで解決する事を

狙っているのだろう。


その真意を察したタクドルは軽く息を吐いて、


「(そう何度も同じ手が通用するとは

 思いませんけどねぇ……)」


「(融和派もそこまで高望みはしないだろう。

 正直なところ、反対派を抱えてやり合うどころ

 ではない、というのが本音だろうな)」


「(しかし、届けろと言われても今は冬ですよ?

 さすがに船が出ないと動けませんわぁ)」


「(そこまで無茶は言わんよ。

 もう少し暖かくなってから、だな)」


そこでようやく納得のいった若い官僚は頭を

コクリと下げて、


「じゃあ新年のあいさつはこれくらいに

 しましてぇ♪


 しかし、今年もまた忙しくなりそう

 ですわねぇ」


「まったくだ。


 早く状況が落ち着いてくれる事を願うよ」


そう言うと2人の役人は別れ―――

部屋には上司だけが残された。




「何かねぇか?」


「とは言われましても」


新年に入ってから10日もすると、公都は

落ち着きを取り戻していたが、


私はジャンさんに呼ばれ、冒険者ギルド支部に

向かうと、


そこには白髪の短髪と真っ白なヒゲを持つ老人、

クーロウさんがいた。


「何でもよ。

 そろそろ『ガッコウ』が始まるわけだが、


 再開した当初は勉強に身が入らず、

 だらける生徒が多いんだってよ」


「まあ私もその気持ちはわからなくも

 ないのですがのう。


 何かこう、(かつ)を入れるというか、

 心機一転になるようなものはないかと」


確かに、長期休みの後は何事にも身が入らない

ものだ。


理解は出来るがそんな理由で呼ばれても……

と思っていると、


「とまあ、それは表向きの話でな」


「シン殿には本当の事を話しておきますと」


と、そこでギルド長と校長の2人が神妙な

表情になって、


「今や公都『ヤマト』の『ガッコウ』は、

 他国はおろか、様々な人種が通って

 おります。


 ですがその中に、なかなか溶け込めない、

 馴染めない子供もおりましてな。


 そこで何か、交流を深めるような

 行事が無いかと考えていたのですよ」


「みんなが一堂に集まって何かするって言やぁ、

 せいぜい入学式と卒業式くらいだしよ。


 大勢で楽団で演奏するというのは

 やった事があるが―――

 あれも全員が全員、出来るわけじゃ

 ねえしな。


 そこでお前さんの故郷では、どういう事を

 やっていたのか聞きたくてさ」


クーロウさんとジャンさんの話を聞いて、

なるほど、とうなずく。


確かに小学校なら運動会や遠足、そして

修学旅行と、全員参加の行事はある。


しかしここでは、そういう事はまだやって

いなかったわけで……


でもどうしたものかな。

運動会は時期的に外れているし、遠足も

修学旅行もみんなで出かけるとしても、

今は冬季。


第一、出掛けるにしてもどこに―――

って問題もあるし。


そこで私は応接室の天井を見上げると、

何やら外が騒がしくなり、


この施設のトップが扉を開けて、近くの

ギルド職員に何事かとたずねると、


「あ、すいません。

 どうも厨房でちょっとしたボヤが

 起きまして。


 すぐに消し止めたそうですが」


「油での火事には気をつけろよ。

 ありゃ水魔法じゃ消えねえんだからよ」


そんな事を二言三言(ふたことみこと)話すと彼は戻って来て、


「ったく……

 仕事に身が入らないのはどこも同じか」


そう言いながらソファに腰を下ろすと、


「あー、えっと。

 ジャンさん、クーロウさん。


 行事やお祭りではありませんが―――

 全員参加でやる事を思いつきました」


「本当か!?」


「それはどのような……!」


そこで私は2人に、その『訓練』について

説明し始めた。




「お~、緊張するねえ」


「うむ。しかし我ら大人が冷静にならねば」


後日―――

児童預かり所と『ガッコウ』で、それが

行われる事となった。


今や両方の施設は公都『ヤマト』の中に

30件ほど作られていて、


それぞれ魔力通信機で繋がり……

その時が来るのを待っていた。


『あーあー、聞こえますか?

 クーロウ校長です。


 これより、避難訓練を開始いたします。


 火事や魔物の襲撃、もしくは悪い人たちが

 施設内に侵入した際―――

 素早く施設の外へ避難出来るように、

 予め練習するのが目的です。


 子供たちや生徒は、先生や大人の職員の

 指示に従い、行動してください』


施設内放送で、クーロウさんの声が流れ、

周囲の子供たちがキョロキョロとし始める。


そう、私が思いついたのは避難訓練で、

構想だけは以前、提案した事はあったのだが、

(■222話

はじめての にんげんのすがた参照)


結局、実施する機会が一度もなく……

今回が初めてとなったのである。


ちなみに私と妻たちは児童預かり所で、

ラッチは『ガッコウ』でスタンバイとなり、

家族総出での参加となっている。


「出来れば、シンイチとリュウイチの

 避難を手伝いたかったけど」


「それじゃ家と同じじゃないか。

 避難訓練にならないだろ」


「それに、我らが子供たちを預けたまま、

 公都にいない事も考えられるしのう」


まあそもそも―――

ドラゴンやワイバーン、ラミア族その他まで

常駐しているこの公都を狙うバカがいるのか?

という話でもあるのだが。


それを言ったら身もフタもないが……

ただこの公都でやった事は、いずれ

ウィンベル王国内、さらには他国へと

普及していく流れになっている。


そういう事であれば決して無意味ではあるまい。

元よりこの話は―――

全員参加の行事で交流を深める、というのが

目的だし。


そんなふうに思案していると、


『カンカンカンカンカンカンカンカン!!』


と、スピーカー型魔導具から、鐘を激しく

叩く音が聞こえて来て、


その途端、子供たちがビクッ!

と一斉に反応する。


『緊急事態が発生しました!

 みなさん、落ち着いてください!!


 施設内にる生徒たちは、先生や職員、

 周りの大人の指示に従って避難を

 開始してください!』


今度は職員であろう女性の声に変わって、

指示が出される。


『繰り返します!!

 緊急事態発生!!


 施設内にいる生徒たちや子供は、

 大人の指示に従ってください!』


それを聞いた子供たちは不安そうな表情で

私たちを見上げてくるが、


「はい!

 みんな落ち着いてー。

 取り敢えず立ち上がってー」


「ええと……

 とにかく、今持っているオモチャや

 絵本は全部置いてって!」


「今はひとまず、外に出る事だけを

 考えるのだ!

 メルと旦那様についていけい!」


そしてまず、私とメルが先導して、

子供たちがその後にずらっとついて来て、


最後尾にアルテリーゼが配置され、

前と後ろで挟むように子供たちを誘導する。


私たちの分担は、オモチャが置いてある

いわゆるプレイルームからの避難で―――

施設の中ほどにあるので、出入り口まで

それなりに距離がある。


「走らないでー!

 走っちゃダメだからねー!」


「そうそう!

 転ばないように進めばいいから!」


「あ!

 何も拾わないでいい!

 とにかく外を目指すのじゃ!」


この児童預かり所にいる子供は、基本的に

幼児から10才くらいの年齢。

なので目が離せない行動も多い。


それでも何とか外まで誘導し、人数確認のため

点呼を取る。


そしてその間に、ジャンさんとレイド君が

集まった冒険者&男性職員、公都住人の

青年たちに、


「よし!

 乗り込むぞ!!」


「ちゃんと隅々まで探すっスよ!!」


ギルド長と次期ギルド長の号令の元、

男たちが児童預かり所に乗り込む。


これは、逃げ遅れた子供の発見と、

侵入者がいたら即排除する訓練も兼ねており、


「お疲れ様です。

 シンさん、メルさん、アルテリーゼさん」


そこに50代くらいの、薄い赤色の髪をした

この施設の所長がやって来て、


「お疲れ様です、リベラさん」


「こんな訓練があるなんてねぇ。

 確かに、公都の子供たちも多くなってきて

 おりましたし……

 こういう避難の練習もしておりましたら、

 安心ですわ」


そう上品そうな老婦人は返すが、すぐに

別の場所に視線を移して、


「ところで、やっぱりあれもやるんで

 しょうか?」


そこには、子供たちが児童預かり所に通う時に

使う、いわゆる『蜂箱』とハニー・ホーネット、

それにハーピー族も待機していて、


「あー、アレね。

 万が一の時、子供たちを公都の外まで

 逃がすためのものだから」


「アレが今回の目玉―――

 というかシメじゃな」


妻たちと所長が話しているのは、

空への避難経路だ。


本当に最悪の場合、公都の外まで逃がすような

事態になった時のため……

子供たちを最優先に、ハニー・ホーネットや

ハーピー族に頼んで運んでもらうのだ。


もちろん、公都を囲っている外壁の上を

越えなければならないので、それなりの高さを

飛ぶ事になるが、


「大丈夫なのでしょうか―――

 あ、いえ。

 シンさんのやる事に間違いは無いので

 しょうが」


「一応、二重三重に安全策を講じて

 ありますので……

 万が一の時はハーピー族もいますから」


そこへメルとアルテリーゼも加わり、


「まあ見てもらった方が早いと思う」


「シンイチ、リュウイチの運搬も行う

 からのう」


まだ赤ちゃんである息子たちも、

今回の訓練に参加させている。

なので失敗や事故はもちろん許されない。


「あ! あの箱に乗るのー?」


「じゃあワタシからー!」


と、子供たちが『蜂箱』に向かうが、


「いや、君たちはそっちじゃない。

 これを装着してもらうから」


と、他の職員さんと共に―――

子供たちの脇の下に挟むようにして、

命綱を装着していく。


その先はハニー・ホーネットと繋がっており、

つまり1匹につき1人、子供を運ぶ計算だ。


そして『蜂箱』には赤ちゃんと幼児が乗り込む。

もちろん、大人1人が同乗し……

一度に7・8人の未就学児(みしゅうがくじ)くらいの子供を

運ぶ予定になっている。


「さらにハーピー族も支援します。

 もし落ちたりした場合は彼女たちが

 受け止めますので」


「は、はあ。

 ですがそれでも―――」


まだリベラさんは不安そうだ。

無理もない。

大人は身体強化(ブースト)が使えるからともかく、

落ちたら大けが、下手をすれば死んでしまう

ような高度を飛ぶのだから。


だが、もちろん私だってそこは考えている。


「リベラさん、ちょっと下を見て

 頂けますか?」


「え? 下を……ですか?」


私が指差したその先、もちろん何の

変哲もない地面なのだが、


「えっ!?

 こ、これは―――」


驚く所長に妻たちが、


「そろそろ飛ぶよー!」


「離れるのじゃ!」


そう注意を呼びかけ、私たちがその場を

離れると……

ハニー・ホーネットと『蜂箱』は、一気に

10メートルほどの高さに舞い上がった。




「キャー!!」


「たっけー!!」


「スゲー!!」


「イヤー!!」


喜んだり驚いたり怖がったりと、

子供たちの反応は様々だが、


「あれは―――」


よく見ると下の方に、キラキラと光る

ネットのようなものが見え、リベラさんが

それに気付いて声を上げる。


土蜘蛛(つちぐも)のつっちーさんの糸で編まれた(あみ)です。


 『蜂箱』や子供たちは、あの上を飛んで

 いるんですよ」


そのネットは四方に大きく広がっており、

四隅(よすみ)をそれぞれハーピー族がつかんで

飛んでいた。


よって、もし子供たちや『蜂箱』が落下したと

しても……

その落下防止ネットによって受け止められ、


さらにネットを持つ担当とは別に、もう1体

ハーピーが同行し、最悪の状態に備えるため、

よほどの事が無い限りは安全といえた。


ちなみにハニー・ホーネットが子供たちを

運んでいる命綱は、アラクネのラウラさんの

糸を使っている。


「あくまでも公都の壁を越えるまでだから、

 そんなに長い間飛ぶわけじゃないし」


「今のところ、アレで運ぶのが一番いい

 方法だろうて」


そして5分もしないうちに彼らは、

壁の向こう側へと消えて行き、


またあちこちで同様の光景が空に浮かび―――

各所の児童預かり所や『ガッコウ』から、

次々にハニー・ホーネットとハーピー族が、

子供たちを運び出して行った。



( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

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(*ゝω・*)つ★★★★★  先月、ビル全体の避難訓練の各テナント代表避難役をやった際に 前を歩く新人のお嬢さんのベルト無しデニムからお尻上部が覗き始めて 気が気じゃなかったですw やはり、イザとい…
いつか拙文で書くつもりなんですけど避難訓練てやつ。 アレって情報を統括する部署(職員室とか市役所だったりしますけど)は常に無事で職員も全員無事に揃っている前提で実施されているんですよね。連絡用の通信回…
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