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294・はじめての ほてん

|д゜)熱いお茶が旨い季節になった

(冬一直線)


「……というわけで、ルクレセントさん・

 グラキノスさんが話し合いで―――


 ザハン国に侵略の意図は無かった事、

 今回の件はお互いに勘違いであり、

 大事(おおごと)にしない事……


 などを取り決めて帰ってきました」


ウィンベル王国王都・フォルロワ―――


そこの冒険者ギルド本部で、私は本部長に

事の顛末(てんまつ)を報告していた。


それを聞いて、40代前半に見える前国王の兄、

ライオネル様はその白髪交じりのグレーの短髪を

ガシガシとかきながら、


「ご苦労だった!

 いや、ホント。


 サシャ、ジェレミエル。

 さっそくだがラーシュ陛下に、魔力通信機を

 使っての多国間会談を呼び掛けてもらうよう

 連絡してくれ。


 同盟諸国に、危機は去ったと共有しないとな」


「はい」


「そちらはお任せを」


彼の言葉に、金髪を腰まで伸ばした童顔の

女性と……

眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の女性が

一礼し、


そのまま部屋を退室していった。


「で、ルクレセント殿とグラキノス殿は?」


ライさんはそのまま話を続け、


「2人とも、『ゲート』でそれぞれの国に

 帰りました。


 侵入経路は別に伝えておりませんし、

 魔族と神獣―――

 それにルクレさんが、


 『ウチは人間じゃないからなあ。

 いつでも好きなところへ飛ぶでー』


 と言ったらしいので、まあ突然いなく

 なっても、不思議ではないでしょう」


「そうだな。

 グラキノス殿は魔族だし空も飛べる。

 いざとなればそれで帰ったと思われるだろう。


 何にせよ、『ゲート』に目が向く事は

 ないだろうしな」


『ゲート』はごく一部の人間しか知らない

極秘事項のため……

このあたりはつじつま合わせが難しく、

神経を使う。


ただ今回は前述した通り、魔族と神獣。

あまり深く疑われる事はないと思う。


「あと、『見えない部隊』のメンバーの方々は、

 後々の動きを見るため―――

 ザハン国商業都市・スタットで待機継続を

 しています」


「今回はアイツらのおかげで、連中の出撃が

 細かくわかったからなあ。


 臨時報酬でも追加してやるか。

 お前さんの言うところの『ぼーなす』って

 やつ?」


そういえばボーナスも、他の国や大きな

商家では浸透(しんとう)してきていると聞く。


特に今回の彼らの情報は、文字通り

ザハン国の出鼻(でばな)をくじく事が出来た。

特別報酬はあって然るべきだろう。


「そうですね。

 ぜひそうしてあげてください。

 彼らも喜ぶでしょうから」


そこで本部長はソファに座ったまま、大きく

伸びをして、


「これでザハン国はさすがに大人しく

 なるだろうけどよ。


 メナスミフ自由商圏同盟……

 連中はどうするかな?」


「名前からして商売中心みたいですからね。


 ウチらと戦う事が割に合わないと、

 理解してくれればいいんですけど」


「まあともかくお疲れ。


 また何かあったら頼むぜ」


そしてライさんと別れのあいさつをして、

私はようやく、家族の待つ公都『ヤマト』へと

帰還するために『ゲート』へ向かった。




「ふむふむ―――


 1万の艦隊は氷に阻まれ、それはたった

 1人の魔族によって……


 その後、神獣・フェンリル様の登場で

 魔法を封印され、


 何とか誤解を解いて、魔法を戻してもらった、

 と……」


同じ頃、ザハン国商業都市・スタットにある

大きな屋敷の一室で、


初老の男性が書類に目を通していた。


「以上が、今回―――

 辺境大陸へ懲罰(ちょうばつ)に向かった者たちの

 経緯と結果だそうです」


細身の、執事のような格好の若い青年が、

飲み物を取り換えながら話す。


さらに室内には、ボディガードと思われる

屈強な男たちもいて、


「ほっほっ。

 辺境大陸へ向かうどころか、港を出て間もなく

 進めなくなったのであろう?


 『永氷(えいひょう)』……

 『永氷(フローズナー)』のグラキノス、か。


 まさかおとぎ話の存在が出てくるとは」


真っ白い眉毛にヒゲの、好々爺とも言える

老人は、笑いながら若者に答える。


「失礼いたしました、ベルマイヤ様。

 言葉が正確ではありませんでした」


「よいよい。

 どうも年を取ると細かいところが

 気になってしまってのう。


 しかしまあ、今回の件をどう見る?」


質問された彼は(たたず)まいを直し、


「情報を軽視し過ぎましたね。


 タクドルの時に、1人の死傷者も出さずに

 一千隻の船団ごと返して来た事―――

 また、ザハン国の主要施設や重要人物の家に、

 密かに警告とも取れる物を置かれた事……


 さらにクアートル大陸各国からも、辺境大陸の

 脅威を裏付ける情報は入っていたはずです」


その返しに、ベルマイヤと呼ばれた老人は

満足そうにうなうずき、


「そうじゃのう。


 何事にも売り時と買い時というものがある。

 そのための情報収集は不可欠だ。


 それにも関わらず、あったはずの情報を

 うまく使えなかった。

 いや、使おうともせなんだ」


老人は飲み物に口をつけ、


「それだけではない。


 今回の(いくさ)―――

 戦になっていたと思うか?


 のう、お前たち」


それを聞いて、執事の青年は元より、

ボディガードたちも首を横に振る。


「そう……

 言ってみれば格が違い過ぎる。

 (あきな)いが成立していないのよ。


 さらに売り時も買い時も考えないのであれば、

 これはもう、利益など上がるまい。


 やればやるほど大損じゃ」


「では―――」


執事が言葉を繋ごうとすると、


「いや、(あせ)る事は無い。

 また焦っても……いかん。


 我がザハン国を始め―――

 メナスミフ自由商圏同盟には、

 数えきれないほどの属領がある。


 拙速(せっそく)な方向転換は、屋台骨(やたいぼね)を揺るがしかねん。

 ここはよく考えないとのう」


他の周辺諸国を武力で圧倒し、強制的に

支配下に置いて来た経緯は、

クアートル大陸の四大国と五十歩百歩であり、


その事を理解している彼らは黙り込む。


「どちらにしろこの件はもっと上……

 自由商圏同盟の『賢人会議』にまで

 上がるであろうなぁ。


 一千隻でダメ、一万隻でも赤子の手をひねるが

 (ごと)き―――


 さぁて、どう判断を下すかのう。

 ほっほっほっ」


ベルマイヤが笑うと、彼らもまたぎこちない

笑顔を作り、


「そ、それでベルマイヤ会長。


 ロックウェル家としては、どのような

 方針で?」


代表の質問者ように執事の彼が問うと、


「だから言っているであろう。

 焦る事は無い。


 売り時と買い時をよく考え……

 勝機と商機を見極めるのだ。


 どう転んでも損の無い方向で、な」


老人はそう言って笑うが、目は笑って

おらず―――

彼らはまた、ぎこちない笑顔を継続して

対応した。




「はー……

 もうこれ以上、何も起きないで欲しいよ」


「お疲れ様ー、シン」


「しかし本当にこの真冬に出撃とは―――

 根性があるのう」


同じ黒髪の……

アジアンチックな人間の方の童顔の妻と、

西欧モデルのようなドラゴンの方の妻から

(ねぎら)われる。


「まあしばらくは休ませてもらえるはずだ。

 あまりする事も無いしね」


公都『ヤマト』に帰った私は、いつもの

日常に戻っていた。


児童預かりの一室で―――

妻たちが抱いているシンイチ・リュウイチの

頭を撫でたり、指を握らせたりする。


冬場はさすがに、魔物鳥『プルラン』を

回収する機会も少なくなり、


それまでに捕獲・冷凍保存した肉や魚を

食料源として、公都に回す。


また養殖された魔物肉も今は出回って

いるため……

冬の間は狩りやその他の作業の回数が

落ちても、許容範囲で何とかやって

いけていた。


「それでラッチは―――」


もう夕方近く、『ガッコウ』はすでに

終わっているはずだし、と思っていると、


「元気だよー、今も外を走り回って

 いるんじゃない?」


「ラッチだけではなく、子供たちはどの

 種族の子も、元気のカタマリじゃからのう。


 特にあの綿入(わたい)りの衣服が出来てから……

 寒さをものともせぬゆえな」


そう、この寒さで大人たちがあまり外で

活動しなくなった半面、


綿の大量生産に成功後、その綿入りの服が

出回った事で―――

外で遊び回る子供たちが増えたのである。


「元気なのはいいんだけど……

 危ない事とかしてないかな?


 特にここ、川があるからなあ」




            北

   果樹&  川       川 米専用&

   各種野菜 川       川 芋類等の穀物

     ◆  川  町本体  川  ◆

 西側新規│  川  □□□  川  │

 開拓地区■―――――□□□―――――■東側新規

     │  川  □□□  川  │開拓地区

     ◆  川   │   川  ◆

魚・貝の養殖& 川   │   川 小麦専用

 鳥の産卵施設 川  ■■■  川

        川  ■■■  川

        川 亜人・人外 川

        川 専用居住地 川

        川       川

        川       川

        川   南   川




昔は上の図のように、それぞれの地区が

独立していて、また地区ごとに石壁で

囲いを作っていたのだが、


今では全体の地区をぐるりと石壁で囲い、

川も敷地内に入れた状態で公都としたため、

水辺の近くは要注意なのだ。


「そこは大丈夫なんじゃない?

 ギルド長を始め、冒険者や住人が

 見回っているって話だし」


「それにまあ、夏でもあるまいし―――

 そうそう冷たい水に近付く事もあるまいて」


それもそうか、という思い半分、

そういう想定を無視して動くのが子供、

という不安が半分といった感じだが、


多分ジャンさんもそのへんは考えて、

パトロールしてくれているだろう。


「この際、ちゃんと柵とか作った方が

 いいかもなあ」


「そだねー」


「今の時期、暇を持て余している者たちは

 いるであろうしな」


そして私は室内をキョロキョロと見渡して、


「ところで、ミリアさんやルーチェさんの

 姿が見当たらないんだけど」


この児童預かり所で、乳幼児用の部屋では

妻たちと同じく赤ちゃん連れでいたはず

なんだけど、と思っていると、


「今、2人ともギルド支部に行ってますよ」


そこでここの所長である……

薄い赤色の髪をした、五十代くらいの

上品そうな婦人が入って来て、


「こんにちは、リベラさん。


 でもあのお2人―――

 どうして冒険者ギルドへ?」


「ギルド支部でもここと同じように、

 赤ちゃんや子供を預ける事の出来る

 部署を作ったそうなんですよ。


 ほら、レイドとミリアは夫の方が

 次期ギルド長だし、妻もギルド職員。

 ギルとルーチェはどちらも冒険者でしょう?


 だから今後、夫婦で子供が出来た冒険者の

 事も考えて……

 ジャンが新設したと言ってましたわ」


ふむふむと私たちは夫婦でうなずき合い、


「なるほど……

 考えてみれば、私もメルもアルテリーゼも

 身分は冒険者ですしね」


「それに公都はともかくとして、

 冒険者というのは時には、魔物とも

 戦わなければならない職業です。


 そういう人たちに、児童預かり所に

 頻繁(ひんぱん)に来られても困る、という事情も

 ありますので」


所長の言葉に、メルとアルテリーゼは、

『あ~……』という顔になる。


ここでは手洗いや衛生を徹底させているけど、

基本的に冒険者の活動範囲は野外。

それも力仕事や汚れる事が多い。


いくら子供を預かったとはいえ、そういう

人種にしょっちゅう施設に上がられるのは、

責任者として容認は出来ないだろう。


「あと、やっぱり子供は自分の手元か、

 近い位置に置いておきたい、というのも

 あるでしょうし。


 だから今のところは、急な用件に備えてとか、

 一時的な預かり施設と考えているみたいです。


 また、冒険者の子供だからって―――

 児童預かり所は使わせない、という懸念が

 生じる恐れもありますので……

 あくまでも限定的な使用を想定している

 みたいですわ」


なるほど―――

ジャンさん、いろいろ考えているんだなあ、

と感心していると、


「そだねー。

 まさかジャンさん、孫みたいな彼らの

 子供たちをなるべく手元に置いておきたい

 から、とかいう理由じゃないだろうし」


「ははは、いくら何でもそれは考え過ぎ

 じゃろ」


そう妻たちが笑い合うと、


「……そうですわねぇ。


 もしそういう理由もあったとしたら、

 ちょっとブッ飛ばして来ますわ♪」


そう言って、目だけ笑っていない笑顔を作る

リベラさんに―――

私たちは本能的に逆らえないような恐怖を

感じた。




「……では、今期の補填(ほてん)はこれくらいで」


「そうですな。


 いやしかし、シンさんの商売とは、

 基本競合(きょうごう)するものは少ないのですが―――


 まさかこのような事が起きようとは」


翌日私は、ドーン伯爵様の御用商人である、

カーマンさんと打ち合わせをしていた。


場所はすっかりリニューアルされた、

御用商人のお屋敷……

そこの3階で、いくつかの書類に目を通しながら

話を進めていく。


「おとーさん。

 これは何を支払っているのー?」


後ろから私に抱き着くようにして……

黒髪ショートの燃えるような瞳を持つ娘が

聞いて来る。


「私が新たに起こした商売や商品で、

 他の同じような業種の方々が不利益を

 (こうむ)らないようにするためだよ」


「ふーん?

 でもそんなのあったー?」


そこで私は書類の一部を指差し、


「例えばこれだね。


 今は重曹(じゅうそう)や果物の酵母(こうぼ)を使った、

 柔らかいパンが主流だけど―――

 以前はほとんどが、かなり固いパンばかり

 だったんだ」


「あれ?

 でも今は、そんなに固いパン見た事

 ないよー?」


そのやり取りを見ていた、白髪混じりの

60代ほどの老紳士が、


「シンさんが作った、柔らかいパンが

 流行りましたからなあ。


 それにシンさんは作り方を独占したり

 しなかった。

 それで、ほとんどがその柔らかいパンを

 作る人たちばかりになったのですが」


「でも昔のパンもそれはそれで、いろいろと

 利点もあったんですよね。


 まず柔らかいパンより(はる)かに日持ちする。

 固いから多少乱暴に扱っても大丈夫だし、

 水分を含んでいない分軽い。


 つまり緊急時の食料とか輸送とかには、

 持ってこいなんだ」


「ほほー」


ラッチが密着した状態から離れて聞き入る。


「それに、フライやカツに使っている衣は、

 その固いパンを削ったものだ。


 みんながみんな、柔らかいパンを作って

 しまうと、それが手に入らなくなる。


 だから補填して、昔ながらのパン作りを

 頼んだりしているんだよ」


そこで一息つくとカーマンさんが、


「それとシンさんが興す事業(じぎょう)はたいてい、

 優良なものばかりですからなあ。


 それに賃金もいい。

 となると、どうしてもそこに人が集中して

 しまい、旧来の仕事に人が集まりにくくなって

 いるのですよ。


 それもシンさんが補填対象としてくれて

 いるのです」


それを聞いたラッチは不思議そうな顔で、


「そこまでおとーさんがしなきゃいけないの?」


「まあもちろん義務ではないよ。

 強制でも無いし……


 だけどそういうのはいつか、巡り巡って

 くるものなんだ。

 因果応報って言ってね。


 自分さえ良ければ他はどうなろうと

 知った事じゃない―――

 そういうのは仕事でも商売でも、いずれ

 自分に返ってくる。


 自分勝手な行いは、長くは続かないんだよ」


とは格好つけて言うものの……

実際のところは、周囲に迷惑をかけない、

トラブルを起こさない日本人気質の

ためだが―――


私の言う事がよくわからなかったのか、

ラッチは『ふーん』とまた不思議そうな

顔をする。


そもそも今回ラッチが私について来たのは、

アルテリーゼが彼女に、『普段のおとーさんの

仕事ぶりでも見て来なさい』と促したからで、


まあ娘としては好奇心はあるけれど、退屈でも

あるだろうな……


「そういえばカーマンさん。


 今、ドーン伯爵様のお屋敷の周囲は、

 『鉄道』の駅が出来たからか、街のような

 状態になっていると聞きますが」


「そうですな。

 あそこも目覚(めざ)ましい発展を遂げております。


 やはり短時間で王都や公都と結ばれた

 という事が―――

 経済を活性化させておるようで。


 あ」


そこで彼はふと何かを思い出したようで、


「シンさん、その伯爵領の街について

 なのですが。


 近頃、妙な噂を聞きまして……」


「えっ?

 なになにどんなー?」


それにラッチが食らいつき、


「いえ、それがですね。

 『吹雪をまとう女性』の目撃談がありまして。


 何でも、小さな吹雪が起こったかと思うと、

 その中に白い服を着た女性の姿が見える、

 というものでしてね」


うーん。

人型でそういう事が出来るとすれば、

氷精霊(アイス・スピリット)様以外に心当たりは無いんだけど。


「その女性というのは、幼い少女の姿とか?」


「そんな話はありませんでしたな。

 ただ吹雪の中と言っているので、

 そもそも正確な姿形なのかどうか」


ふーむ、と私はうなり、


「何か被害が出たとかは」


「それもありません。

 ただ、局所的に雪や氷の痕跡(こんせき)があり―――

 噂自体は事実なようなのです。


 ドーン伯爵様も、この問題をどう扱ったら

 いいのか、困っているようでして」


被害が出ていない以上、本腰を上げて

あたるわけにもいかず……

しかし急速な発展を遂げている街で、

そういう噂も捨て置けない。

その板挟みってところか。


「私が行って調査しましょうか?」


「そ、それは―――

 シンさんがやってくださるのであれば、

 これほど心強い事はありませんが。


 ですがいいのですか?

 最近は、遠出(とおで)の依頼を断っていると

 お聞きしておりまして」


「なに、ドーン伯爵様のお屋敷なら遠出とは

 言えませんし、今は『鉄道』を使えばすぐ

 ですからね。


 一応、伯爵様に伝えておいてください」


「は、はい!!

 それはもう……!」


そして何度もペコペコとカーマンさんは

頭を下げると、こっちも下げ返し―――

しばらくお辞儀合戦となった。




「んー? 知らないのー。

 だいたいわらわは、そんなにあちこち

 飛び回ったりしないの」


透き通るようなミドルショートの白い髪をした

12・3才くらいの外見の少女は―――

わけがわからない、というふうに答える。


御用商人のお屋敷を退出した後、私は

氷精霊様を探し……

取り敢えず噂の事で確認を取ってみたのだが、


「じゃあ氷精霊様の友達とか、仲間とか、

 そういった精霊様はいませんか?」


「精霊自体珍しい存在なのー。

 ここの精霊密度が異常なの」


確かになあ、と思いつつ同意してうなずく。


「確かフクロウみたいな眷属(けんぞく)いたよね?

 あの子たちはー?」


「でも人間みたいな姿していたんでしょ?

 違うと思うのー」


ラッチの質問を彼女はあっさり否定する。

言われてみればそうか。

こうなると氷精霊様はまったく関係無さそうだ。


「『鉄道』で向かってみるか。

 でも今日中に帰る事が出来るかな?」


開通した当時は、1日数本しか運航されて

いなかったがものの―――

今ではだいたい2時間に1本くらいまでに

増便している。


今は昼過ぎで、まだ2・3本は出ているはず。

だとするならギリギリってところか。


「わかった。

 じゃあラッチ、私が行くから……

 お前は母さんたちにこの事を伝えに」


「ヤダ。

 ボクも行くよー、面白そうだし」


即座に答えが返ってくる。

まあそう言うとは思ったけど―――


「じゃあ氷精霊様、出来れば伝言を」


「んー? わらわも行くのー。

 雪や氷が関わっているんだとしたら、

 放っておけないのー」


と、もっともらしいセリフで返されてしまい、


「おとーさん!

 行くなら行くで早く乗らないと!」


「そうなのー!

 今日中に帰るんだとしたら急ぐの―!!」


そして私は『鉄道』で……

ドーン伯爵様のお屋敷の街まで向かう事に

なった。




「ああ、あの噂かい?


 もちろん、街中じゃないよ。

 少し離れたところに出るって話だ」


現地に到着した私たちは、公都になったばかりの

『ヤマト』と見紛(みまが)うくらいの街に降りると、

聞き込み調査をし、


その噂自体は有名なようで、すぐに『出る』

場所を教えてもらい―――

私たちはそちらへ向かった。




「このあたりかな?」


街から郊外に歩いて30分ほど……

そこは雪原とも言えるほど、雪が残っている

一帯で、


「今年、こんなに雪降ったっけなあ」


「チラホラとはあったけど」


私はラッチと一緒に首を傾げる。


「なんだかおかしいの」


そこで氷精霊様が口を開き、


「おかしい、と言いますと」


「この雪―――

 わらわが作り出す雪にとても似ているの。


 まるであの、わらわの山から雪を持って来た

 ような」


精霊様の山というと、あの大怪獣ウサギが

いたところか。

(■87話 はじめての うさぎがり参照)


という事は、やっぱりどこかの精霊が関わって

いるのだろうか?


しゃがんでその雪に彼女が触れようとした時、


「!! おとーさん!!」


「!? どうした、ラッチ!」


娘の声に、思わず構える。

すると小さな竜巻のような風が目の前で起こり、

それは雪を巻き込んでいて、


「やっと見つけました……


 あなたはいったい、どこで遊んでいたの

 ですか!

 あの山も放置して―――」


やがて吹雪が収まると、そこには……

白い和服をまとった、氷精霊様と同じような

透明に近い白髪をロングにした女性が

立っていて、


「え? 氷精霊様の知り合いですか?」


「んー……

 見た事があるような無いような。

 でも何か思い出しそうなのー」


そういう私たちのやり取りを見ていた、

雪女のような女性は、


「どこまで忘れているのですか!

 早く山に帰ってきなさい!

 久しぶりに戻って来たと思ったら」


そう言って彼女は近付いて来て、氷精霊様の

腕をつかむ。


「わわっ!?

 は、離してなのー!」


「な、何するの!」


ラッチが慌てて止めようとするが、


「邪魔をしないでください!

 これはわらわの問題―――


 これ以上関わろうとするのであれば、

 容赦はしません!」


そう雪女のような女性が言うや否や、

猛吹雪が巻き起こり、


「わわっ!?

 おとーさん、反撃しちゃダメ!?」


「待つんだラッチ!

 し、仕方ない……


 何の媒体(ばいたい)も道具も無く、生体だけで―――

 吹雪のような自然現象を発生させるなど、

 ・・・・・

 あり得ない」


私がそう宣言した途端、荒れ狂っていた雪と風は

パタリと止んで、


「……なっ!?」


さすがに驚いたのか、彼女は目を見開いて驚き、

そしてラッチが氷精霊様を引き離す。


「大人しくするの!」


「す、すいません。

 事情はよくわからないんですが、まずは

 話し合いを―――」


呆然(ぼうぜん)とするその女性を前に、まずは

交渉を提案した。



( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

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【女性冒険者パーティーの愛玩少年記】【完結】

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― 新着の感想 ―
亡くなった作家の安部譲二氏が作中で書いていましたけど、ヤクザは抗争を「間違い」と呼ぶんだとか。 喧嘩(と呼んでいいのかなぁ?)となると収めるのは大変なんだとか。だから 「あれは喧嘩ではなく間違いだった…
(*ゝω・*)つ★★★★★    雪女?新ヒロイン参戦っ!?Σ(゜∀゜ノ)ノ
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