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284・はじめての けいび

|д゜)通勤で1日の半分くらいの

体力を消費するので仕事にならない

(言い訳)



「シン殿!

 ありがとうございました!!」


「僕の開拓地ではまだ物々交換が主流ですので、

 取り入れる事は出来ませんが……

 ケンダル辺境伯でさっそく導入するよう、

 父に伝えておきます!」


パープルの長いウェービーヘアーを持つ少女と、

赤茶の短髪の少年が揃って頭を下げる。


あの後、一施政者としてのアンナ様・

クロム様から質問攻めにされた私は、


彼らが私の言う事を書類にまとめるまで、

付き合わされたのであった。


しかし―――

特にアンナ様は結婚式を挙げたばかりだと

いうのに、こんなに時間を取ってしまって、


いつの間にか私と二人以外は別の部屋に

行ってしまい……

特にムサシ君に申し訳なく思っていると、


「静かになりましたが―――」


「終わりましたか?」


そこへちょうど、アンナ令嬢の新郎である

青みがかった短髪の少年と、


クロム様の恋人の魔狼(まろう)……

銀の長髪を持つ女性が入って来て、


しかし二人ともどこか顔が赤く、


「じゃあ今夜からシン技―――

 もとい新技を試してみなさい!」


「効果のほどは我らで証明済みだからのう」


「れっつ・ふぁいと!!」


私の家族である、アジアンチックな童顔の女性、

欧米モデルふうな顔立ちの妻……

そして黒髪ショートに紅い瞳の娘が、ムサシ君と

ユキさんにエールを送る。


「そうか。

 メル、アルテリーゼ、ラッチが2人の相手を

 してくれていたのか。

 ありがとう」


私が家族にフォローをしてくれた礼を言うと、


「い、いえ―――

 僕の方こそお礼を」


「ユキ・ばーじょんあっぷ2、いや3に

 なりましたからね!

 今宵(こよい)から大活躍しますよ!!」


やたらユキさんの気合いが入っているみたい

だけど、まあ機嫌を損ねる事を回避出来た

ようだし……

そこはあまり深く考えないようにしよう。

何はともあれ、これで一段落したようだ。


そして、すでに深夜近くになっていた

事もあり―――

私たちはここで一泊した後、ウィンベル王国へと

帰る事にした。




「じゃあ、私たちはこれで戻ります。

 また何かあればご相談ください」


翌朝……

と言っても準備などがあり、昼近くに

なっていたが、


アンナ令嬢のお屋敷前で、私たちは別れの

あいさつをする。


「そういえば、ヒミコ様来なかったね」


「律儀そうな性格じゃから、いると

 思ったのだがのう」


ふとメルとアルテリーゼがそんな事を口にする。

そこは私も不思議に思っていたんだけど、


「ヒミコ様は、僕を正式に名代として

 任命する際に―――

 改めて婚儀(こんぎ)の事も祝うと言っておられました」


「そこはお忙しいお方ですから」


と、新婚よろしくムサシ君とアンナ令嬢は

ベタベタにくっついていて、


「シン殿!

 もしお時間が空きましたら、また開拓地に

 いらっしゃってください!」


「歓迎いたしますよ」


もう一方のカップルも、身長の低いクロム様を

後ろから抱きしめるようにして、ユキさんが

密着していた。


そして周囲にはムサシ君の家族やアンナ様の

身内も見送りに来ていて、


彼らにも丁重にあいさつし……

私たちはチエゴ国を後にした。




「シンさん」


土精霊(アース・スピリット)様、また面倒な事をお願いして

 申し訳ありません」


後日、公都『ヤマト』に戻った私は―――

果樹&各種野菜エリアで、魔物の木である

ドルランと、


それを説得してくれた土精霊様に、

お礼を兼ねて会いに来ていた。


「説得に応じてくれた、との事ですが……

 何か条件などは無かったんですか?」


「木の魔物ですからね。

 日光と水と土地さえ確保すると約束すれば、

 たいていの事は聞いてもらえますよ」


流れるようなグリーンの髪と、エメラルドの

ような瞳をした美少年が、事も無げに答える。


「そういえば、私たちは襲われたんですけど、

 栄養が足りなかったんでしょうか」


「ちょっと待ってください、聞いてみますね」


あの成木のドルランにはいきなり襲い掛かられた

ので、気になって通訳してもらうと、


彼は少し困ったような顔になって―――


「あー……

 シンさんが狙いだったそうです」


「へ? 私が?」


どういう事かと聞き返すと、


「やたら魔力の高い人間が来たと思ったところ、

 その中に魔力がほぼ無い人間がいたので、


 これなら食べる事が出来るかも、って

 手を出してしまったらしいです」


ああ、そうか。

確かにここ最近の養殖用の魔物確保でも、

自分自身をエサにしているし。

(■280話 はじめての あっぷるぱい参照)


チャンスがあれば野生動物も同然なんだから、

そりゃ食べようとするわな。


「でもそれだとちょっと危ないような。

 公都で誰かが襲われたら」


そう言うと土精霊様は首を左右に振って、


「ここはボクもおりますし、土もとても

 いいらしく、わざわざマズい人間なんて

 食べないって言ってます。


 それにシンさんはあの魔力の高い人間の

 女性の(つがい)だという事で―――」


まあ一方はドラゴンだし。

報復は丸焼きになるわけで。

さすがにそれは避けるか。


「可能な限りの希望は叶えますからと、

 伝えておいてください。


 あと土精霊様にはこれを……

 出来立てのアップルパイです」


「ありがとうございます!

 氷精霊(アイス・スピリット)沼精霊(スワンプ・スピリット)と一緒に食べますねー」


人間の子供のように無邪気な笑顔をこちらに

向けて、彼はお礼を言うとふわりと空へと

浮き上がり、飛び去っていった。


「そういえば、風精霊(ウィンド・スピリット)様は今は

 ダシュト侯爵家のあるチエゴ国か。


 ムサシ君・アンナ様の結婚式の時に、様子見に

 行けば良かったかな」


そんな事を思いながら―――

私も果樹&各種野菜エリアを後にした。




「……この報告書は事実かね?」


「ザハン国のお墨付(すみつ)きでございますよぉ。

 それに、メナスミフ自由商圏同盟―――

 ひいては賢人会議の皆さまを騙そうなんて、


 そんな度胸のある人はわたくしも含め、

 あの国にはいないと思いますよ♪」


長いテーブルを四方に囲むようにして、

並べた部屋で、


その囲いの中に入るようにして、リーゼントの

ような髪型をした青年が立っていた。


「タクドルよ。

 お前がこの自由商圏同盟の最高機関である、

 賢人会議に呼ばれた理由……


 それは例の辺境大陸を相手取り、

 戻って来たという実績があるからだ。


 一千隻の船団を用い、わかった事を

 全て()らさず説明せよ」


議員というよりは、司法の人間が着込むような

衣装を身に着けた面々が、彼に要求すると、


「とは言われましても。

 報告書にて提出した事、それが

 事実でございますればぁ?


 何かご不審な点がございましょうか?」


普段なら身振り手振りも含めてそう言う

ところを、口調だけでおどけた様子で語る。


「では聞こう。


 まず被害に関してだが―――

 一隻、一人たりとも欠かさず戻って

 来たのだな?」


「はぁい♪

 我が軍は統率が取れてございますのでねぇ。

 数え間違いなどはありません。


 あ、奴隷の子供たちは全員没収されて

 しまいましたけど」


そして一辺あたり3名ほど座っている

『賢人会議』メンバーは、手元の資料を

めくっていき、


「ファルコン部隊が人間の姿となった事……

 これは人をやって確認が取れているゆえ、

 問わぬ。


 だが、


 ここ1・2年でクアートル大陸から入って来た

 料理・娯楽・新技術の数々は―――

 辺境大陸が大本(おおもと)だという事、


 また、一千隻の船団がフェンリルによって、

 魔導具を含め魔法を封じられた事……


 これについて実際に目にし、また経験して

 来たであろう君に詳細を求めたい」


ファルコンの人間化は実物という現実を前に、

認めざるを得なかったのだろうが、


数々の新機軸の品物・技術が実は辺境大陸が

オリジナルであった事―――

何より、魔法を封じられたという件は、


魔法前提のこの世界において、最重要案件と

位置付けられても仕方は無かった。


「詳細と申されましてもねぇ。


 例えばクアートル大陸で今話題の、

 『鉄道』という新たな交通手段ですが、


 あちらでは労働者階級までもが、普通に

 足として使っているシロモノでしたし」


その説明に、同席していたメンバーから

ざわつく声が聞こえ、タクドルは続けて、


「それに料理や各種の魔導具ですか?

 それもあちらが元祖と言っても差し支え

 ないでしょう。


 質も普及具合も何もかも、辺境大陸が上!


 驚いたのは、わたくしが上陸して間もない

 時点で、そこの王都にすぐ連絡がついた

 事ですねぇ。


 あの魔導通信機というヤツですか?

 それが、大陸の隅々(すみずみ)まで通されている

 証明でもありましたよぉ。


 ああ、そうそう。

 これお土産で頂いたんですけれどー」


そう言ってザハン国の官僚の青年は、

(ふところ)からとある薄い板のような魔導具を取り出す。


「何だそれは?」


「板のように見えるが……」


その問いにタクドルは、スイッチのような

ボタンを押すと、『ピッ』と電子音みたいな

音が室内に響き―――


「映像魔導具か?」


「それに近いかも知れませんが、ただ映像を

 流すだけのものではございませぇん♪


 これ、リバーシなんですよぉ」


そして画面を彼らに向けるようにして、

四方へぐるりとその場で回転すると、


そこには升目(ますめ)と、その中に〇●で

表現された駒が表示されていて、


「何と!?」


「あのルールの通りに動くというのか!」


リバーシ自体はクアートル大陸経由で、

フラーゴル大陸のメナスミフ自由商圏同盟、

その各国にも入って来ており……

知名度は高かったが、


「これが『最新版』ってヤツですねぇ。

 これはクアートル大陸にすらありません。


 辺境大陸でもらって来た、多分この大陸でも

 ここにある1台しかございませぇん♪」


タクドルは希少性(きしょうせい)の高さをアピールする。


「そういえば、例の合同軍事演習でも―――

 自由商圏同盟はほとんど興味を示しません

 でしたからねぇ。


 まあそこは、わたくしも同程度の認識でしか

 なかったわけですけれども」

(■213話

はじめての ごうどうぐんじえんしゅう参照)


「クアートル大陸の四大国の軍事情報は、

 常につかんでいたからな。


 水中戦力とやらも、せいぜいが試作段階、

 導入もおぼつかないと思っていたが……


 まさかそれも?」


彼の言葉に答えたメンバーは、それに続けて

疑問を呈する。


「はぁい♪

 人魚族にロック・タートルが、動力を失った

 船を引っ張ってくれました。


 今のところ、水中戦力というものを有して

 いるのは、辺境大陸だけでしょうねえ。


 ランドルフ帝国に滞在していた時に、

 情報収集も行いましたが―――

 四大国ともせいぜい、対抗手段として

 水中に対する攻撃能力を準備している

 くらいですか」


実際に水中戦力を見たタクドルは、すでに

辺境大陸では実戦配備済みという事と、

それは四大国でも真似出来ない、という事を

示唆(しさ)する。


ざわめきにため息やうなる声が混じる中、

『賢人会議』メンバーの一人が片手を挙げて、


「それで我々が最も聞きたい事……


 フェンリルによって、魔導具含む一千隻の

 船団の魔法が封じられた。


 これは事実なのか?」


その問いに対し彼はうなずいた後、


「それは、今回辺境大陸へ出撃した船団の

 誰にも聞いても構いません。


 出航する直前になって、フェンリル様に

 祈り(すが)って謝って、魔法を再び使えるように

 して頂きましたけどぉ、


 このような事は、クアートル大陸でも何度か

 起きていたみたいですねぇ」


決して珍しいケースではない、という説明に、

メンバーたちは顔色を変える。


「一千隻、魔導具を含むと言ったな?」


「はいー」


「一隻も、一人も例外なく?」


「まさにそこなんですよねぇ―――」


問答の最中に、タクドルは肩をすくめて、


「これが一千隻中、例えば百隻でも封じられて

 いなければ、いろいろ計算出来ます。


 じゃあ次は一万、いや十万で攻め込めば、

 何とかなるだろうとねぇ。


 でも一隻、一人すらフェンリル様の力から

 逃れることはかなわなかったわけで……


 これだともう一度攻め込もうにも、どうにも

 検討出来ないわけありましてぇ」


彼らの疑問と考えを代弁するかのごとく、

官僚の青年は語る。


「―――ふむ。


 それで確か君は、さらなる情報収集と調査を

 進言したそうだが。


 もし辺境大陸と歩調を合わせる場合、

 どのような事が考えられる?」


そこでタクドルは一官僚として、頭脳を

フル回転させ、


「そうですねぇ。

 まずは亜人・人外に対する差別方針の

 転換でしょう。


 それと奴隷に対する待遇改善。


 すでにクアートル大陸の四大国は、

 これに沿って動いておりますれば」


「そういえば……

 大ライラック国もドラセナ連邦も、

 奴隷取り引きが大幅に減少した。


 あれはそういう事か」


「つまり辺境大陸との交易は、奴隷以上に

 利益があると見たのだろう」


「同盟も視野に入れているという報告もあるし、

 技術レベルでは―――

 我がメナスミフ自由商圏同盟よりも数段上を

 いっている可能性もある」


彼の意見を追認する言葉が返ってくるが、

メンバーの一人が反発するように、


「しかし―――

 たかが一千隻、魔法を封じられただけだ。


 その程度で脅威と断じる事は出来ん。

 攻略の糸口は無いのか?」


するとタクドルは片眉をつり上げて、


「まさかと思いますが……

 これ以上、辺境大陸と事を構えるおつもり

 ですかぁ?」


その声には抗議も含まれていたが、


「一千隻程度、メナスミフ自由商圏同盟に

 取っては、誤差の範囲内」


「ザハン国とて、痛手というわけでもなかろう」


「それに辺境大陸全土でも、人口は3百万に

 達するかどうかだと聞く。

 最終的には数が多い方が勝利するのだ」


一人を皮切りに、まだ辺境大陸制圧を試みる

意見が次々と噴出(ふんしゅつ)する。


そこで彼はいったん冷静になり、


「ですからぁ、まずは交易なり交渉をしてみて

 ですね。

 それで調査・情報収集してから、お考えを

 決めた方がよろしいかと―――」


だが強硬派(きょうこうは)はそんなタクドルに対し、


「そもそもだな。

 たかが一千隻で失敗した件を重要視する方が

 問題なのだ」


「1/100にも満たない戦力が例え全滅した

 ところで、何だというのだ?」


「それに損害は無かったのだろう?

 つまり連中こそ、事を構える度胸は無いと

 いう事よ」


と、威勢(いせい)のいい見解や主張が飛び出すが、


「お言葉ではありますがねぇ……


 一千隻を全滅させるのと、一千隻に一切

 被害を与えずに返すのと―――


 どちらがより困難だと思われますかぁ?」


その問いには誰も答えず、少し経ってから

彼は続けて、


「わたくしは一千隻で辺境大陸を攻めました。


 属国になるよう書面も送った。


 それに対し、『ヨシヨシいい子だから、

 こんな事しないでねー♪』って丁寧(ていねい)

 もてなされて、クアートル大陸へ

 引き渡されたんですよ。


 次にまたそんな事を性懲(しょうこ)りも無くやったら、

 相手はどう思いますかねぇ?」


『うむ』『むむ』とうなる声があちこちから

上がり、


「わたくしなら、次は許しませんねぇ。


 『せっかくうまく事が収まるようにして

 やったのに、そういう事するんだふーん』

 って。


 後は徹底的にやるしかなくなりますよぉ?

 その責任を取るお覚悟はおありなんで

 しょうか?」


タクドルの問いに、室内は沈黙に包まれる。


「(……やれやれ。

 賢人会議のメンバーといえど、

 この程度ですか。


 実行には責任が伴うもの。

 それを背負って行動するのが当然なのに、

 『責任』―――

 この言葉を出すだけで、行動不能になる者の

 何と多いことか。


 泣けてきますねぇ)」


そんな彼らを見たザハン国の官僚は、

聞こえないように毒づく。


「とはいえ、対応は慎重にお願いしますよぉ♪


 あ、でももし辺境大陸と全面戦争をすると

 いうのなら……

 わたくし、本国でも言ったんですけどねぇ。


 その時は辺境大陸に亡命します。

 クアートル大陸ではなく、です」


すると数名が書類をめくりながら、


「その言動も報告を受けておる。


 お前もザハン国の―――

 メナスミフ自由商圏同盟の一国の官僚だ。


 そのお前が、辺境大陸へ亡命すると」


「それだけの戦力差があると思っての事か?」


「自由商圏同盟の総力戦でも勝てないと?」


その疑問に対しタクドルは、


「勝てる、勝てないの話じゃないような

 気がするんですよ、あそこは。


 次元が違うというか、技術は元より……

 超えられない壁があると言いますか」


「そんなあやふやな事で―――」


一人が叱責(しっせき)するように返すも、


「まあ、カンという事は認めますけどねぇ。

 嗅覚(きゅうかく)と言った方がいいかも知れませんが。


 でもそれがあったからこそ、わたくしは

 ここまで生き残れた……

 という自負がございます」


彼の言葉にメンバーは顔を見合わせて、


「わかった―――


 有益な情報提供に感謝する。

 辺境大陸に対する方針は、今後『賢人会議』で

 決定する。


 ご苦労だった、帰るがよい」


その言葉にタクドルは深々と一礼すると、

部屋を後にした。




「……泥棒?」


「ああ。

 盗まれたのは飲食物くらいなものだが、


 ただメシはガキなら銅貨1枚で食えるし、

 スラム問題も解決している。


 わざわざ盗む意味がわからん」


公都『ヤマト』に戻ってから数日後、

ジャンさんから相談があると言われ、

冒険者ギルド支部を訪ねたのだが、


そこで受けた相談は、奇妙なものだった。


「それに、盗みの手口がわからないって

 言うんスよ。


 奇妙な影とか、霧のようなものを

 見たって証言もあるッスし」


アラフィフの、白髪交じりの筋肉質の

ギルド長と、


黒の短髪に、褐色肌の次期ギルド長の

青年が頭を痛めていて、


「じゃあ何らかの魔法を使って―――


 っていうか、それくらいの魔法を使えるので

 あれば、普通に稼げていますよね」


それを聞いたジャンさんとレイド君は、

同時に父子のようにうなずく。


「特殊系だからなあ。

 そんな事が出来りゃ、使い道はいろいろと

 あるだろう。

 偵察やら警備やら」


「それでいて被害はそんなに無いんスよ。


 今さら盗みを働くヤツなんてこの街には

 いないでしょうし、だとすると外部から

 来た可能性が高いって事で……


 それでシンさんに相談する事にしたッス」


そこでようやく事情を飲み込む。


つまり、街の人間に疑いをかけて信頼関係を

悪化させたくないのと、


もしこれが外部からの侵入者の仕業であった

場合―――

街の治安関係者の責任となってしまう。


だから内密に『処理』するため、私を

呼んだのだろう。


「状況はまあわかりました。


 えーと、資料によると……

 あ、宿屋『クラン』が一番被害を

 受けているんですね?」


手元の書類を見ながらペラペラとめくって

いくと、


その被害は夜中、寝静まった後―――

いつの間にか飲食物が無くなっている。


見張りを立てたが、前述のように影や

霧のようなものを見ただけで、犯人は

捕まえられなかった。


特に被害が大きいのは、


「ん? トマト?

 そしてそれを加工したジュースが

 最も盗まれている、と。


 その他は牛乳……

 後は普通の加工品とかですね。


 何でしょうかコレ。

 犯人の好物なんでしょうか」


「別にこの公都じゃ、高い物じゃねぇと

 思うんだが」


「もしかしたら他では高価なものだったり

 するんじゃないッスか?」


そんな事を話しながら、私たちは段取りを

詰めていき―――

一度宿屋『クラン』で、寝ずの番をする

事となった。




「悪いねぇ、こんな事までしてもらって。

 でもシンさんが来たならもう安心さね」


その晩、営業時間が終わった後……

宿屋『クラン』、その厨房の一角で、


赤髪を後ろで束ねた四十代くらいの女将(おかみ)さんと、

私たちは言葉を交わしていた。


「ま、後は旦那様にお任せあれ!」


「で、でも影とか霧とか―――

 生きている相手ならいいのだが」


「げ……っ!

 アルちゃんそういうの禁止!」


メルとアルテリーゼがそう軽口を叩くと、

(ラッチはシンイチ・リュウイチと一緒に

児童預かり所でお泊り)


「ウチでオバケが出たなんて話、

 聞いた事もないよ。

 変な噂を立てないでおくれ」


クレアージュさんが店の女将として口を

とがらせる。


そして彼女も就寝時間となり―――

私たちは厨房で、正体不明の敵を待つ事と

なった。




「どこか異常あるー?」


「これと言ってないのう。


 しかし、トマトジュースが好物なのか?

 確かに美味いと思うが、そればかり狙うと

 いうのも、妙なヤツじゃのう」


メルとアルテリーゼと一緒に暗闇に身を潜め

ながら、犯人について考察する。


「シンは何か、そういうのに心当たりは

 無いの?」


「う~ん……


 影や霧になって、かつトマトジュースが

 好物ねえ……


 あるような無いような、何かこうもう少しで

 思い出しそうなんだけど」


「あるのか」


そんな事を妻たちと話しながら監視を続けて

いると、


「んっ?

 シン、アルちゃん。

 警戒して!」


メルの声に私とアルテリーゼが、彼女と

同じ方向へ視線を移動させると―――


証言のように、影とも霧ともつかない

モヤモヤした感じの存在が出現し、


黙ったまま見守っていると、それはゆっくりと

厨房の中を徘徊(はいかい)して、


やがて実体化すると……


「今日は誰もいないようですね。

 最近はどこも監視が厳しくて。


 取り敢えず栄養補給を―――」


ひと昔前の貴族のような衣装に、マントを

背負ったその人物は、トマトジュースを

手にすると、ゴクゴクと飲み始める。


「(どうする?

 取り押さえる?)」


「(だがアヤツ、霧のような状態になって

 いなかったか?

 またその状態に戻られると逃げられるぞ)」


そこで二人の視線が私に集中し、


「(無効化しておいた方がいいだろうね。


 霧や影のような状態に姿を変える……

 そんな変化をする二足歩行の動物など、

 ・・・・・

 あり得ない)」


そう私がつぶやくと、それが終わると同時に

彼女たちはそいつに飛び掛かり、


「捕まえた!」


「大人しくせいっ!!」


あっという間に二人に組み伏せられ、


「えぇっ!?

 な、何で!? どうして!?


 何で姿が変えられないのですかー!?」


そこには、ドラキュラのようなコスプレ―――


というより、ドラキュラそのものの姿をした、

パープルの髪で片目を隠したワンレングスの

女性が、うつ伏せで捕らえられていた。



( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

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【女性冒険者パーティーの愛玩少年記】

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(*ゝω・*)つ★★★★★  トマトジュースの段階で日本版のライトな吸血鬼キャラだと思いましたが、 美少女キャラでしたか(* ̄∇ ̄*) 次回の展開を楽しみにしています!(*゜∀゜)=3
報告書作成の最後まで付き合わせるのは如何なものかとも思いますが。その場ではメモを取りながら聞き漏らしなんかを「すみませんがもう一度」は私もよくやりました。 まぁ後日になって抜けや不明点があるから、と呼…
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