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278・はじめての おみまい

|д゜)早く有給を消化せねば(夏が来る前に)




「どうなりましたか?」


スタンピードの前兆を見せた鉱山、そして

『食い尽くす者』とやらの攻撃を退けてから

小一時間後、


ワイバーンたちも人の姿となり、また

ラウラさんとつっちーさんも一緒に私の

ところへと集まって来た。


そして担当者らしき男性から説明を受ける。


「鉱山から魔物の活動が見られなくなりました。


 一応、『範囲索敵(サーチ)』を使える者を呼んで

 これから内部を確認します」


「そうですか……

 中の酸素、いえ空気をごっそり消費した

 はずですから、風魔法を送り込んでから

 内部を調べた方がいいかと」


「わかりました、そのように」


そして私は連れて来た二人と、ランドルフ帝国で

合流したワイバーンたちに頭を下げ、


「みなさん、お疲れ様でした。


 今日1日は念のため残りましょう。

 私も何か作りますので―――」


それを聞いた赤茶色の髪に気の強そうな

太眉のアラクネと、黒髪ロングの和風美人は、


「やったー!

 じゃあアレ、あの新作お願いしまっす♪」


「えー、でももう暑いし……」


恐らくパーコー麺の事を言っているのだろう。

そこで私は少し考え、


「今日は暑いですし、あれだけワイバーンの

 みなさんにも炎を吐いてもらいましたから、


 冷やしでいってみましょうか。

 冷やしラーメンの要領でやれば多分

 大丈夫かと」


そのやり取りに、ワイバーンの青年たちも

色めき立ち、


「そ、それ俺たちもいいですか?」


「もちろん作りますよ?

 功労者は間違いなくあなた達ですし」


そう答えると彼らは『やったー!!』と

歓喜の声を上げ、


みんなと一緒に、料理を作る事の出来る

施設へと向かった。




「これが『食い尽くす者』―――」


「何て大きさだ。

 こんな質量のものが、丸まって攻撃を

 してくるというのか」


「100年前は、数匹の『食い尽くす者』が

 通り抜けただけで、いくつかの村や町が

 壊滅したと聞く。


 確かにあんな攻撃は防げないだろう」


シンたちが去った後、大ライラック国の

人間たちは、無効化された巨大なダンゴムシの

ような魔物の死骸の周囲で……

困惑の色を浮かべていた。


「だが―――

 コイツを倒したのはあのシン殿だよな?」


一人がそう言うと、周囲は顔を見合わせる。


「自分は見ていなかったが……」


「俺もだ。逃げるのに精一杯で」


「いつの間にか、シン殿の前で仰向けに

 倒れていたぞ」


と、口々に状況分析を出し合うが、


「これ、

 『あなたがやったんですか?』

 『どうやって倒したんですか?』


 って誰かシン殿に聞きに行けるか?」


それを聞いた全員が首を左右に振る。


これほどの魔物を倒したであろう腕前の人間に、

疑いをかけるようなものだからだ。


「た、倒した時の状況を聞きたい、

 でいいんじゃないかな?」


「非常に温厚そうな人物に見えたし―――」


「き、機嫌が良かったら、さり気なく

 それについてたずねる事にしよう……!」


そう彼らは頭を痛めていたが、後にシンは

その質問にあっさりと答え、拍子抜けする

事となる―――




「スタンピードが解決しただと!?」


大ライラック国、首都・マルサル……

その王宮で御前会議中に緊急連絡が入り、

待機していた面々は顔を見合わせていた。


「は、はい!


 ランドルフ帝国及びその同盟諸国から来た

 数名により、魔物たちは完全に排除されたと

 あります!」


そして反応は困惑から歓喜へと変わり、


「しかし、いったいどういう事なのだ?

 まだ発覚からそんなに日は経過しておらぬ。


 ランドルフ帝国や同盟諸国は、短期間で

 それだけの人員を送って来たというのか?」


六十代の老人にして国のトップである

軍王ガスパードの言葉に―――

場は一瞬静まり返るも、


「いえ、ランドルフ帝国からは10人ほどが

 派遣されて来たとの事ですが、


 それらは全て、人の身に姿を変えた

 ワイバーンだったそうです」


報告者の言葉に再び議場がざわつき始め、


「ワイバーンが!?」


「しかし、確かにワイバーンが10体もいれば、

 それなりの戦力にはなるだろう」


「そういえば同盟諸国からも数名が来たと

 言ったな?


 そちらはドラゴンか?

 それともフェンリルか?」


疑問を口にする重鎮(じゅうちん)たちの前で……

彼はペラペラと急いで書類をめくり、


「いえ、1人は人間の中年男性で、


 もう1人はアラクネという蜘蛛の亜人の女性、

 そして人間の姿となった土蜘蛛という魔物だ

 そうです」


すると軍王は片手を挙げ、それと同時に

沈黙が訪れ、全員が彼のトップを待つ。


「しかし、それでも被害はあっただろう。


 100年前は我が国は国軍の実に1/3を

 失ったとある。

 無論、今とは規模も比べるべくも

 ないが―――」


その言葉に、報告者は書類を読む手を止め、


「そ、それについてなのですが……

 少なくとも人的被害はありません。


 鉱山の出入り口をアラクネ・土蜘蛛の

 糸で封鎖し、その後、ワイバーンたちが

 鉱山内に炎のブレスを吹き込んで

 壊滅させたとの事」


すると集った面々は安堵のため息をつき、


「なんと、被害無しとは」


「確かにそれなら全滅させられるかも

 知れん」


「しかし鉱山は無事では済まなかった

 だろう」


「だが、被害をこれだけで食い止められたと

 思えば―――」


と、彼らはすでに鉱山の損害は止む無しという

表情で話し合うが、


「あ、いえ。

 鉱山に一ヶ所、大きな穴が開いたそうですが、

 一週間以内に鉱山は再稼働が可能との事。


 これは万能冒険者と呼ばれるシン殿が、

 なるべく鉱山を壊さないよう配慮してくれた

 結果だと、鉱山主から報告を受けております」


それを聞いた全員はキョトンとした表情になり、


「万能冒険者―――

 先ほど、人間の中年男性といっていた

 者の事か?」


ガスパードが聞き返すと、彼は直立不動の

体勢を取って、


「は、はい!

 そして先ほど、鉱山に穴が開いたと申し上げ

 ましたが、


 『食い尽くす者』の、恐らく群れの主である

 巨大な魔物が飛び出して来たところを、

 彼が仕留めております。


 当人の話では、すでにワイバーンの攻撃で

 弱り切っていたのでは、との事ですが」


報告者の話で、再び重鎮たちは相互に

口を開き、


「『食い尽くす者』……!

 伝承の魔物が本当に!?」


「その主を仕留めただと!?」


「まあワイバーンと共に派遣されるほどの

 人間だ。

 それなりの実力者という事か。


 それで、その『食い尽くす者』は?」


彼は書類をまたペラペラとめくりながら、


「現在、鉱山近くにて保管中です。


 また、鉱山内の群れの死骸も―――

 外に運搬している最中でして」


と、そこへ乱暴に扉が開かれ、


「ほ、報告します!」


突然現れた新たな報告者に、異常事態だと

察知した彼らは、


「何だ?」


「何かあったのか?」


「まさか、スタンピードが再び……?」


最悪の想定も混ぜて不安そうに問い質す。

しかし返ってきた答えは、


「ち、違います!


 現在、スタンピードが起きた鉱山から、

 魔物の死骸を運び出している最中なのですが、


 魔物の巣と繋がった事はすでに承知かと

 思われますが―――

 その巣から大量の鉱脈が見つかったとの事!」


『おお!』『それは』と重臣たちは()き立つが、


「それで、どのくらいの量なのだ?」


軍王が質問すると、周囲は静かになって次の

報告を待ち、


「け、見当もつかないとの事です。


 少なく見積もってもこの鉱山資源に限れば、

 大ライラック国の……

 いえ、このクアートル大陸全土の数十年分の

 埋蔵量があるのでは、と。


 これは鉱山主の見解です」


その説明に、議場の全員がガスパードも含め

息を飲んだ―――




「えっ、エードラム様にビルドさんが?」


翌日、ランドルフ帝国の大使館に戻った私は、

ラウラさんとつっちーさんに、いったん施設内で

待機してもらい、


私自身は帝都グランドールにある……

冒険者ギルド本部へとあいさつに来て

いたのだが、


「うん。奥さんの出産が間近らしくてね。

 ビルドともども、クエリーの故郷へ行って

 いるんだ」


中肉中背の目付きの鋭い、シルバーの短髪の

男性―――

ベッセルギルドマスターが返して来る。


「それはめでたいと言いますか……

 妊娠した事は知っていましたけど」


以前、大ライラック国とモンステラ聖皇国が、

ランドルフ帝国とドラセナ連邦に戦争を

仕掛けそうになった際、


それを食い止めるために、ここに(かくま)われていた

メルビナ大教皇様にも話を通そうとして来た時、

クエリーさんの妊娠を知ったのだが……

(■261話

はじめての きみつかいじょ参照)


「シンさんもこの前、子供が産まれたって

 言ってましたっけ」


ピンクヘアーの巻き髪をした受付嬢、

カティアさんがお茶を出してくれて、


「そうですね。

 まあ、あの時は紹介どころでは

 なかったので」


「そうだよねえ。

 今思うと、よくあれだけの被害で済んだと

 感心しているよ」


話している三人でしみじみとした表情になり、


「大ライラック国に呼ばれた件も

 片付きましたし―――


 一度みんなを連れて、クエリーさんの里に

 お見舞いに行くのもアリかなあ」


私がそうつぶやくと、


「あ!

 それなら今度、シン殿のお子さんを

 自分にも見せてくれないかな?」


「えっ!

 それなら私も見たいです!」


と、みんなで談笑していたその時、

ギルドマスターの部屋にノックがなされ、


「万能冒険者が来ているんですかい?

 もしお時間があれば新作料理でも……


 お、お時間があれば、ですけど」


と、厨房から料理長らしき人が来たので、


「あ、ちょうどありますよ。

 パーコー麵って言うんですけど」


するとベッセルさんとカティアさんが

私に向き直り、


「ぜひ!!」


「それお願いしますー!!」


そう懇願(こんがん)にも似たお願いをされ……

大使館に戻る前に、私は新作料理を厨房で

他の料理人たちに伝えた。




「お土産はこんな物でいいかなー」


「獣人族が公都にいて助かったわ。

 何が必要かよく知っておったしのう」


「オムツにシッポ用の穴があるって

 面白いねー」


童顔にモデル風の顔立ちの妻二人と、

黒髪ショートの娘が語り合う。


私が帝都の冒険者ギルド本部にあいさつに

行った翌日―――


大量の荷物と一緒にやって来たメルと

アルテリーゼ、ラッチはその整理をしながら

はしゃいでいた。


「まさかすぐに来るとは思っても

 みなかったけど」


私が彼女たちの実行力に半ば呆れながら話すと、


「こういうものって、気が付いた時に

 するもんだよー」


「大ライラック国でのスタンピードとやらは

 終わったのであろう?


 ならばこのまま、クエリーの見舞いに

 出掛けても問題あるまいて」


「詳細な報告なら、ラウラさんとつっちーさんが

 やってくれるって言っているしさー」


あの後、亜人・人外の二人と一緒に、

『ゲート』で公都に戻ったのだが、


クエリーさんが出産間近だという事を

メルとアルテリーゼに話すと、

『それは祝わなければ』という流れになり、


あれよあれよという間にお土産が選定され、

私は家族と一緒に帝都グランドールへと

トンボ帰りする事になったのである。


「じゃあまずは、シンイチとリュウイチを

 連れて、冒険者ギルド本部へと行くか。

 息子たちの顔を見たがっていたし」


そして私は昨日の今日になるが、再び

冒険者ギルド本部へと向かう事になった。




「可愛いー!」


「お母さん似かしら。

 でも口元はシンさんの面影が

 あるわねー♪」


「生後半年ですか。

 じゃあ、本当に産まれたばかり

 なんですね!」


本部に到着した私たちは、まず受付で

女性職員たちにご挨拶した後……

ギルドマスターへと連絡を取ってもらう。


そしてカティアさんの案内の下、

ベッセルギルドマスターこと、アウリスさんに

さすがに驚いた顔で出迎えられ、


「きゅ、急ですね。

 しかし、その子たちがシン殿とそこの

 奥さんたちの」


「えーと、何かすいません。


 メルが抱いているのがシンイチ、

 アルテリーゼが抱いているのがリュウイチに

 なります」


彼は興味津々という表情で、二人の息子の顔に

交互に視線を送る。


すると、私たちの後方にいる狐耳にブロンドの、

獣人族の女性に気付き、


「ところで彼女は?」


「あ、ネストと申します。

 一応、医者という事になっています」


彼女がペコリとあいさつすると、


「ネストさんはビルドさん、クエリーさんと

 同郷の方らしくて。


 今回、道案内をして頂く事になりました」


ランドルフ帝国の亜人・人外に対する融和政策(ゆうわせいさく)

一環で、ウィンベル王国始め各同盟諸国へ

学びに行かせる人員を帝国が選出して

いたのだが―――


軍事や技術、料理に医療と……

それらを学びに行くメンバーの中に、

獣人族である彼女も含まれていて、


さらにネストさんは短期間ながら、パックさんに

師事していた事もあるという事から、

今回の同行メンバーとして急遽(きゅうきょ)帝国が

手配してくれたのである。


「なるほど。

 お医者さんがいるならあちらも心強い

 でしょうし、それに同性ですからね」


カティアさんがウンウンとうなずく。


「帰りにまた寄るでしょうから、今回は

 本当にあいさつだけで……

 お時間を取らせてどうもすいません」


冒険者ギルドには、あくまでもビルドさんたちの

里へ行く前に立ち寄っただけで―――

一応あいさつをしてギルドマスターの部屋を

出ようとすると、


ベッセルさんが私に近付いて小声で、


「(それで……

 この子たちに、シン殿の能力って

 受け継がれてますか?)」


「(う~ん、どうなんでしょう。

 現時点ではまだわかっていないとしか

 言い様が)」


確かにそれも今後、考えていかなければならない

事だよなあ。

指摘されて気付いた事ではあるけれど。


「何してるの、シン」


「ゆっくりするのは戻って来た時でよい」


「どーせまた、大使館まで行くしねー」


と、家族に促され―――

私たち家族とネストさんは、冒険者ギルド本部を

後にした。




「シンさん!!」


「シン様、お久しぶりです!」


獣人族の里に到着すると、ブラウンの短髪に、

ハチマキみたいな布を頭に巻いた青年と……

ダークブラウンの毛並みの、筋肉質な体の

獣人族、ビルドさんが出迎えに来てくれた。


「これはこれは……


 ドラゴン様の姿が見えたと報告を受けた時は、

 何事かと思いましたが」


今回はアルテリーゼにドラゴンになってもらい、

帝国で用意されたワイバーン用の乗客箱を貸して

もらって、荷物を詰め込んで飛んで来た。


そして人だかりの後方から、長老らしき

獣人族の老人がのそりと姿を現し、


「ご無沙汰しております、長老。


 本日はクエリーさんの懐妊祝いと

 出産祝いを兼ねて、お土産を用意しました。

 どうぞご笑納(しょうのう)ください」


「これはこれは、ご丁寧にどうも」


そして里のみんなが荷物をそれぞれ運び出すが、


「ねーねーお父さん。

 何か様子がヘンじゃない?」


ラッチが気付いた事をストレートで言葉にする。


そう、喜んではいる。いるのだが―――

みんなどこか(かげ)が差すような表情だ。


「エードラム様、クエリーさんは?」


「え? はい。

 さすがにいつ産まれてもおかしく

 ないとの事で、横になっています」


大丈夫なのかな?

もしかしたら、クエリーさんの身に何か……

と思ってしまったけど。


「ねー、何か困っている事とか無いの?」


「せっかくシンが来ておるのだぞ?

 遠慮せずに言うてみい」


メルとアルテリーゼも何かを察したのか、

ビルドさんにたずねると、


「いえ、クエリーは無事です。

 身重ですから、それなりに苦労は

 ありましょうが」


この時、ビルドさんの―――

クエリー『は』無事、という言葉が引っ掛かり、


「ではクエリーさん以外で誰か?」


「!」


私の一言で彼の顔色が変わる。


「やはり、シン様には誤魔化せませんか」


「お、おいビルド!」


他の獣人族が慌てて止めに入るが、

そこへエードラム様が割って入り、


「だから、シンさんに話すだけ話してみれば

 いいだろう。


 確かにせっかくの祝いの席に水を差すような

 事かも知れないけど、この人はそんな事で

 機嫌を損ねるような方じゃない」


「エードラム様の言う通りです、遠慮は

 要りません。

 何でも仰ってみてください」


そうして私たちは、獣人族から事情を聞く

事となった。




「どうでしたか?」


「……難しいですね。


 わたくしの治癒魔法(ヒール)だと、もってあと

 数日としか」


ネストさんから、絶望的な回答が返ってくる。


獣人族たちの話では、クエリーさんと同様、

身籠(みごも)った女性―――

ライブラという方らしいのだが、


その彼女が今、危ない状態にあるらしい。


「治らないの!?」


「薬でもダメなのか?」


子供を産んだばかりの妻二人も、他人事では

ないのか聞き返すが、


「熱さえ下がれば、何とかなると思うの

 ですが、手持ちの薬ではどうしようも」


女医である彼女は、私たち以上に残酷な

現状がわかってしまっているのだろう。

その顔を歪めるが、


「手持ちの薬以外なら効くの?」


すかさずラッチが可能性を求めて質問すると、


雪妻草(ゆきつまそう)というのはありますが……

 入手は不可能です」


「どうしてですか?」


私がネストさんに問うと、


「冬の間にしか採取出来ない薬草だからです。


 そして今は夏です。

 季節ばかりはどうしようも―――」


そこへビルドさんがやって来て、


「今の季節、少ない雪妻草を使って何とか

 ライブラの命をここまでもたせていたんです。


 ですが在庫はもう……」


確かにそうか。

使えるものならとっくに使っているはずだ。


そこで私は少し思考した後、


「その雪妻草とやらは、どれだけの量がいるん

 でしょうか?」


「シン様!?」


ネストさんが目を丸くして大きな声を

上げるが、


「先ほども申し上げましたが、雪妻草は

 冬の間しか入手出来ないのです。


 いくらシン様といえど―――」


すると家族が口々に、


「まーまー」


「何か考えがあるのじゃな?」


「だよね?

 おとーさん?」


そう言ってこちらを見つめ、私は少し

照れながら、


「夏であっても、冬の場所はあります。


 例えばものすごく高い山の山頂……

 まだ雪が残っているところとか。


 この辺りにそういう山はありませんか?」


「あ―――」


そして急遽、アルテリーゼの乗客箱に乗って、

一番近くの高山へと飛び立つ事となった。




『さすがに寒いのう。

 ここなら、冬と言っても差し支えないのでは

 ないか?』


伝声管から、アルテリーゼが乗客箱内に状況を

伝えて来る。


吹雪のような極端な現象こそ起きていない

ものの、眼下に見える光景はすでに真っ白で、


「どうですか、ネストさん」


「この辺りなら確かにありそうですね。

 幸い、わたくしも雪妻草の特徴は知識として

 ありますから……」


女医である彼女は当然、薬草の知識も

豊富であり―――


また山自体は目標物として大きいという

事もあって、特に案内役無しで飛んで

来たのである。

(ラッチはシンイチとリュウイチのお世話を

するため、里でお留守番)


「んじゃアルちゃん。

 ここらで降りてくれる?」


『りょー』


そして乗客箱の高度が低くなっていくと、


「エードラム様、ビルドさん。

 準備をお願いします。


 この際ですから、雪妻草の在庫もある程度

 増やしておきましょう」


手伝いとして名乗り出てくれた二人にそう

伝えると、


「わかった」


「仰せの通りに!」


そして私たちが乗る乗客箱は、一面雪の地面に

着地した。




「すごい! すごいです!!

 今の時期に、こんなに雪妻草が採取出来る

 なんて……!」


ネストさんが歓喜しながら、エードラム様と

ビルドさんの用意した袋に採集した薬草を

詰め込んでいく。


「これってどうやって使うんですか?

 粉末にするとか、干すとか」


私がふと思った事を質問すると、


「保存する場合はそうですが、一番効果が

 高いのは、新鮮なうちに服用する事なんです」


「里に残っていたのは、当然干して保存した

 ヤツでしたから―――

 効果も今いちでした。


 ですからこれを持ち帰れば、一発で

 治せるでしょう!」


獣人族の二人が作業を進めながら答えてくれる。


氷室(ひむろ)とか無いんだ?」


メルが何気なく聞くと、


「獣人族は基本、身体強化(ブースト)以外の魔法は

 苦手なんですよ。


 それに氷室の中でも乾燥はしますからね」


エードラム様の言葉に、私とアルテリーゼが

『う~ん』と同時にうなる。


「これくらいあれば十分でしょう。

 2人とも、これらを乗客箱の中に!」


ネストさんの指示で、エードラム様と

ビルドさんが袋を乗客箱の中に詰め込む。


私とメル、アルテリーゼはそれを護衛するように

周辺警戒していたが、


「……んっ?」


と、メルが何かに気付いたらしく、


「何じゃアレは。

 サメ? こんな山の中に?」


見ると、雪の中から突き出すようにして、

サメの背びれみたいなものが見える。

一つだが、それだけで一メートルほどの高さが

あるくらい大きく、


「まさか、雪鮫(スノーシャーク)!?」


「くっ!

 冬にしか出ないと思っていたが、

 これだけ雪があれば」


獣人族の男女が声を上げる。

どうやらその存在を知っているみたいだけど。


「早く乗客箱の中へ!

 俺の灼熱の風(ヒートブラスト)があれば―――」


しかし女医からは、


「だ、ダメです!

 ここは雪妻草の群生地でもあるのです!

 もしここ一帯が枯れてしまったら……!」


「あー、そうだとすると我の炎のブレスでも

 マズいか?


 しかし肉弾戦で相手にするのも、ちと

 被害が出そうだのう」


そうアルテリーゼが言うと、もう一人の妻と

一緒に私の方へ振り向いて―――


「というわけで♪」


「シンの出番じゃな♪」


「まあ、そうするしかないか」


私は、ネストさんとエードラム様、ビルドさんが

乗客箱の近くにいる事を確認すると、妻二人を

抱き寄せるようにして近付ける。


幸いにもターゲットはこちらのようだ。

しかもかなり特殊な魔物。

これなら範囲指定も必要無いだろう。


「雪でも地面でも……

 その中を泳ぐように移動するサメなど、

 ・・・・・

 あり得ない」


私がそうつぶやくと同時に、まるで吹雪のような

大きな雪煙(ゆきけむり)が上がり、


それが収まるとそこには―――

陸に打ち()げられたサメのごとく、その巨体を

のたうち回らせる魔物がいた。




( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

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― 新着の感想 ―
こちらの世界で生まれた子供はこちらの常識を見て育ちます。フェンリルやらワイバーンが存在するのが当たり前である、と。 ですからシンの能力はおそらく一代限りではないかなと愚考致します。
(*ゝω・*)つ★★★★★  雪の中のサメ映画、予告編だけでお腹一杯になった覚えがww
感想一覧
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