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277・はじめての さんけつ

|д゜)もう梅雨って終わった?



「どうですか?


 共同開拓地区に関する資料はまとまって

 いるでしょうか」


モンステラ聖皇国、その首都・イスト―――

そこの大聖堂の一室で、


中肉中背だが目付きの鋭い、シルバーの短髪の

男性が、病的に痩せた細面の白髪の青年に話を

向ける。


「アウリス様……」


彼は大ライラック国の後ろ盾を得て、聖皇国で

クーデターを起こし―――

メルビナ大教皇を軟禁、実質上のトップに

収まっていたが、


シンの活躍により大教皇は救出され、

そして彼が再び本国のトップに戻り、


結果、大ライラックにも見放された今……

権力の座から引きずり降ろされていた。


「……しかし、意外でしたね……


 ……まさか私を生かし、あまつさえ助祭(じょさい)

 落としても、政治に関わらせるとは……」


「まあ良くも悪くもあなたは、事務処理能力が

 高いですからねえ。


 それに大ライラック軍の国内駐留も拒否し、

 あくまでも独立を死守しようとした。


 さらに今は共同開拓地区に関して、

 人手が全く足りない状態なんですよ。

 使える者は何でも使いますって」


レオゾ枢機卿(すうききょう)―――

現在は助祭となった彼に対し、アウリスは

おどけて見せるように答える。


「……そこまではわかります……


 ……ですが、私のした事を公表しないで

 いいのですか……?


 ……私はメルビナ大教皇様に対し、

 謀反(むほん)を企んだ極悪人ですが……」


そこでアウリスはふぅ、と軽く息をついて、


「同時に大ライラック国の意図や、

 亜人・人外に対する兵器化計画も潰す事が

 出来ましたから。


 メルビナ大教皇様も、もし自分が指揮を

 取っていたとしても―――

 それに対抗する事は出来なかっただろう、

 と(おっしゃ)っておりまして。


 何より大精霊様の顕現(けんげん)があり、それで

 丸く収まっている今……

 そこに水を差すような事は出来ないとの事、

 らしいです」


その説明に、助祭は事務処理の手を止めて、


「……そこなのですが……


 本当に大精霊様は現れたのですか?」


レオゾ助祭の言葉に、彼は天井を見上げて、


「今は共同開拓地区の森の、モンステラ聖皇国が

 担当する区間の森にいらっしゃるよ。


 聖堂を建てただけで、いつでもいらっしゃるか

 どうかわからないしね。


 君も行ってみるかい?」


アウリスがそう聞き返すと彼は首を左右に振り、


「……止めておきます。


 ……ただでさえ、大精霊様は私と私のした事を

 嫌悪(けんお)しているでしょうし……


 ……それに、エルフであるアウリス様が、

 大精霊様だと認めている……


 ……それだけで十分でしょう……」


「そうですか、それじゃ―――


 自分はランドルフ帝国に戻りますね。

 一応、あそこで冒険者ギルドマスターを

 やっていますので。


 何か欲しい物とかありますか?」


彼の申し出に助祭は少し考え込んで、


「……甘い物を、いくつか……


 ……それとお湯だけで麺類を作る事が出来る

 簡易食を……」


それを聞くとアウリスは微笑んで退室し―――

後にはレオゾ助祭だけが残された。




大ライラック国、首都・マルサル―――


その王宮で、ある会議が行われていた。


「共同開拓地区で、こちらの担当区域の開発は

 順調であるとの事です」


「やはり本国から『鉄道』が開通した事が、

 物流の速度を桁違(けたちが)いに上げているようですね」


「首都でも環状鉄道の完成が間近です。

 開通式にはぜひ、軍王ガスパード様にご出席

 頂いて、各国の貴賓(きひん)を……」


軍王ガスパードを中心とした御前会議―――

だがこれまでのものとは雰囲気が異なっていた。


今までは、軍事や安全保障、外交についてが

主な議題であったが、


今は共同開拓地区や内政が主な内容であり、

緊張感というより生産的な活力が(みなぎ)り、

臣下たちの表情も明るく、


「属領の権利向上や懐柔は上手くいっておるか?」


軍王の質問に担当者が書類を片手に立ち上がり、


「ハッ!

 特に一番多い獣人族の各属領ですが、

 あの『鉄道』の運転手兼動力として

 厚遇したところ、


 その噂が広まり、今では募集するまでもなく、

 希望者が殺到(さっとう)しているとの事で」


その報告にガスパードは目を細め、


「して、首都内における児童預かり所に

 ついてだが」


「はい!

 それも間もなく完成となります!


 10万人まで収容出来ますから、

 孤児だけではなく、母子家庭や父子家庭、

 貧困層の子供も預かる事が可能になります。


 子供たちの安全を守るだけではなく、

 その親が安心して働けるようになる……

 画期的な施設となります!」


それを聞いて軍王はうなずきながら、


「これも、辺境大陸から入って来た制度だ。


 国民が安心して働けるという事は、

 それだけ税収も見込めるという事。


 今年度から人頭税の廃止も行うぞ。


 あの労働者マニュアルというものによれば、

 その方が税収増が見込めるという話だからな」


それを聞いた部下たちが次々に口を開き、


「あれですか―――


 各部署や職場、果ては鉱山施設にまで

 配りましたが……

 どれも目覚ましい成果を上げています」


「連日働かせるより、適度に休ませた方が

 効率が上がるとは―――

 そう聞いた時は耳を疑いましたが」


「特に危険な職場では事故も減り、各鉱山や

 採石場では、生産量が2倍から3倍に

 増加しましたし。


 見違える、とはこの事でしょう」


満足そうに意見を述べる彼らに大ライラック国の

トップは、


「だが、これで慢心(まんしん)してはいかぬ。


 辺境大陸から得たものをそのまま使うのでは

 なく、さらなる飛躍(ひやく)()げられるようにせよ。


 我が国ならそれが出来る。

 出来るはずなのだ」


「ハッ!!」


「「「ハハッ!!」」」


そこで軍王以外の全員が立ち上がり―――

最敬礼の姿勢を取った。




「うひょー!!

 行け行けー!!」


「負けないよー!!」


公都『ヤマト』……

そこにある亜人・人外専用居住地区。


そこで主にラミア族が()人造湖(じんぞうこ)で、

ラッチを始めいろいろな種族の子供たちが、


ロック・タートルであるオトヒメさんの子の

背中に、浦島太郎(うらしまたろう)のように乗りながら遊ぶ。


しかし目の前にある光景は、そのような長閑(のどか)

ものとはほど遠く、


水上バイクのように水飛沫(みずしぶき)を上げながら、

子供たちが競争していた。


「言っても聞かないだろうから、人数制限で

 対応したけど、大丈夫かなあ」


「自分の子供たちならよく言い聞かせて

 おりますし、成長もして来ておりますから

 心配ありませんわ~」


パープルの長いウェービーヘアーをした、

身長190cmくらいの背の高い女性―――

人間の姿になったオトヒメさんが微笑みながら

答える。


「まあもう、風物詩(ふうぶつし)みたいなモンだよ」


「公都内はあちこちに氷柱と送風の魔導具が

 あるから、そんなに暑くはなかろうが、

 やはりプールや水辺の涼しさにはかなわんで

 あろうしな」


童顔と彫りの深い欧米風の、対照的な顔立ちの

妻たちが、苦笑しながら話す。


実際、オトヒメさんたちは基本は陸上で

過ごすので、ここで暮らしているわけでは

ないが、


夏になるとラミア族の人造湖で、こうして

子供たちが遊ぶようになって数年……

もはや季節の名物みたいになっていた。

(■174話 はじめての すぴーち参照)


「ママー」


「ママー」


ふと見ると、オトヒメさんの足元に、

五・六才くらいの子供たちが寄ってきて、


「あれ?

 オトヒメさんの子供たち、少し前に

 人間の姿になったと聞いていますが」


しかし、その姿は確か十才前後であり、

ここにいる子たちほど小さくなかったような、

と思っていると、


「あ~、この子たちはこの前保護した

 子供たちですわ。


 あの時以来、なかなか離れなくて」


「ああ、ザハン国の子たち?」


「いったい何人くらい引き取ったのじゃ?」


例の、ザハン国の大船団に魔物の(おとり)用に

乗せられていた子供たちを救出したのだが、

(■274話 はじめての ようきゅう参照)


どうしても彼女から離れなかった子たちを、

我が子として引き取る事にしたらしい。


「10人、ですね。


 まあもともと子供は33人おりますし、

 それくらい増えてもどうという事は

 ありませんわ~」


そして何人か、オトヒメさんの子供たちが

陸に上がって来ると、人間の姿となり、


「にーにー!」


「ねぇねぇー!!」


男女ともに上半身裸の彼らに、幼い子供たちが

飛びつく。


そして黒髪ショートに燃えるような瞳の娘、

ラッチも上がって来て、


「あー、気持ちよかった!

 また乗せてねー。


 次は負けないぞー!」


「それはそうと体を()いて、ラッチちゃん」


「ヘンリーも付き合わせてしまって、

 すまんのう」


妻たちが娘と、その対戦相手の男の子に

話しかける。


「いえ、ラッチお姉ちゃんと遊ぶのは、

 僕も楽しいですからっ」


オトヒメさんの子供たちより、やや年下に

見えるその少年は―――


ヘンリー・サイリック様。

サイリック大公家の跡継ぎであり、そして

ラッチの婚約者? でもある。


「んじゃー着替えて来ようか?

 行くよ、ヘンリーちゃん」


「はいっ、お姉ちゃん!」


そして子供たちが更衣用の施設に行くのを

見送り、


「しかしヘンリー様、『ガッコウ』入学には

 まだ早いよね?


 公都に移住して来たのは驚いたけど」


『ガッコウ』入学は一応、十才以上という

条件があり……

その前準備という事で、数年前倒しで

彼は公都に来ていた。


休日は交互に、ヘンリー君が王都に戻ったり、

家族が公都に来るらしい。

もちろん、『鉄道』あっての話だ。


「まー、ちょっと(あせ)って来たんじゃ

 ないかな?」


「焦る?」


メルの言う事に私が首を傾げると、


(にぶ)いのう、シンは。


 ダナン王子という強敵が現れたのじゃぞ?

 サイリック大公家としては、何としてでも

 この縁をまとめたいであろうし」


続いてのアルテリーゼの説明に私はうなる。


確かに今、将来の旦那様候補として―――

ダナン王子とヘンリー様が()げられているが、


「うーん……

 ヘンリー様はそれでいいのかな?」


そう私が口にすると、


「いや、ありゃどう考えても初恋の

 お姉さんを見る目でしょ」


「ベタ()れってヤツじゃ」


「子供の一途(いちず)な思いを、甘く見ない方が

 いいですわよ~」


と、なぜかオトヒメさんまで加わって、

私を(さと)す。


でもなるべくなら、嫁に行くのはまだまだ先で

あって欲しいなあ―――

そう思いながら、私たちは湖を後にした。




「大ライラック国から救援要請?」


ある日、冒険者ギルド支部へ呼ばれた私は、

ジャンさんからの言葉に聞き返していた。


「何があったッスか?」


褐色肌の次期ギルド長の青年が、筋肉質の

アラフィフの現ギルド長へ問うと、


「ランドルフ帝国経由で……

 辺境大陸同盟諸国へ、要請があったらしい。


 ティエラ王女様が伝えてきたんだが、

 どうも鉱山で何かあったようでな」


レイド君にジャンさんが答えると、

支部長室にある魔力通信機から、


『わたくしが詳しく説明させて頂きます。


 とは言っても、大ライラック国の話なので

 どこまで正確かはわかりませんが』


と、ティエラ王女様の声が聞こえて来て、


「こちらに来ていたのですか。


 それで、大ライラック国の話とは」


『今クアートル大陸では、共同開拓地区の

 開発で盛り上がっているのですが、


 その開発のため、各地で鉱山や資源地帯を

 最大限に稼働(かどう)させている状態なのです』


まあそうだよな。

開発するには当然、資材やら何やら必要に

なるわけで―――


『大ライラック国もまた、国が所有している

 鉱山を大々的に掘り進めていたようなの

 ですが、


 どうもその過程で、魔物の巣と繋がって

 しまったとの事です』


「??

 よくある話じゃねぇが、珍しい事でも

 ねえだろ。


 そんな事で大ライラック国が要請して

 来るものなのか?」


ギルド長が訝し気(いぶかしげ)に聞き返すと、


『それがな。

 『スタンピード』って知っているか?』


魔力通信機の向こう側がライさんに変わり、


「何スか、それ?」


レイド君がきょとんとした声を出すが、


「『スタンピード』……


 魔物が異常発生するという事ですか!?」


ゲームで出てくるような単語に思わず

反応し、大きな声を上げてしまう。


『さ、さすがシン殿です!


 大ライラック国ではこの『スタンピード』が、

 100年以上前にあったらしく―――

 状況が酷似していると言われているのです』


ティエラ王女様が肯定(こうてい)の返事をする。


「そんなに焦ることか?


 魔物の異常発生なんて、これまでにも

 何度かあったじゃねぇか」


「いえ、彼女が言っているのは恐らくそういう

 レベルではなく……


 下手をすると、ハイ・ローキュストの

 異常発生に匹敵するものかと」


私の答えに、現ギルド長と次期ギルド長は

顔を見合わせる。


『まあ、その認識で合っていると思うぜ。


 ちなみに100年前の『スタンピード』では、

 国軍の1/3を失って、何とか食い止めたんだ

 そうだ。


 しかしよく知っていたな。

 それも『前の世界』での知識か?』


「そうですね。

 そもそも魔物がいない世界でしたけど」


『で、だ―――


 緊急会談を同盟諸国間で行った結果、

 とにかくシン、お前さんへの依頼が

 決まった。


 ただ……』


そこでいったん間が空いて、


『そもそも今回の件、『スタンピード』の兆候(ちょうこう)

 あるというだけで―――

 そうだと決まったわけでは無いんです。


 もしそうだとしたら恥も外聞もなく、

 他の三ヵ国にも要請を出しているはず

 ですから』


ティエラ様の言葉に私は首を傾げ、


「いや、そんな。

 もし始まってしまったら、どうしようも

 無いでしょうに」


『国のメンツとか誇りってのはそんなものだ。


 あちらさんもまだ軍レベルの同盟は結んで

 いないし、可能な限り自分たちで何とか

 出来る手段を探しているんだろう。


 ただ万が一を考え、ハイ・ローキュストの

 大群すら退けた事がある辺境大陸(ウチ)に、

 連絡して来たんだろうな』


ライさんの言葉に、こっちのギルドメンバーは

ため息ともつかない息を吐く。


『とにかく、シン殿が一度様子を見て来て

 ください。


 非効率的ですが、状況によってさらなる

 救援を送る事になると思います』


『って事で頼む、シン。

 支援や希望は可能な限りこっちも聞くからよ』


夫婦のようにティエラ王女様とライオネル様が

合わせて言って来て、


「…………


 その『スタンピード』の兆候があるのは、

 鉱山だけなんですね?」


『そう聞いております。

 他の場所でも発生したという話は聞いて

 おりません』


王女様の言葉に、私は少し考え、


「わかりました。


 ワイバーンは現地の者を借りるとして―――

 連れて行きたい人が2人ほど」


そこで私は指定の名前を告げ、さっそく

出掛ける準備に取り掛かった。




「それでアタイらをご指名とな?」


「まあ別に反対する理由もないけどさー」


あれからすぐ、私の屋敷に二人の女性が

やって来た。


一人は上半身は人間の、髪は赤茶色、

気の強そうな目と太い眉をした二十代の

女性だが、下半身は巨大な蜘蛛の胴体と

八本の足を持つ、アラクネ。


もう一人は完全な人間の姿の、白装束の和風の

着物に、黒髪ロングの日本美人。

だがその正体は巨大な土蜘蛛で、


「ランドルフ帝国までは『ゲート』で

 ひとっ飛びだと思うんだけど」


「まあシンに何やら考えてあっての事の

 ようだから。


 旦那を頼むぞ、ラウラ、つっちー」


二人の妻に言われ、アラクネと土蜘蛛の二人は

メルとアルテリーゼの抱いている息子たちに

視線を落とし、


「子供を産んだばかりの奥さんを、

 そうあちこちに連れ回せないよねえ」


「んじゃワタシたちにお任せあれ!」


するとラッチが不満気な表情で、


「またボクはお留守番ー?」


「いや、遊びに行くわけじゃないから……」


子供特有のワガママを全面に押し出し、

その説得に少し時間を要した。




「えっ!?


 あ、あなた方が辺境大陸から来た―――

 援軍ですか?」


ランドルフ帝国を経由し、大ライラック国の

問題の現場に到着した私たちは、まずそこの

担当者らしき人物と会ったが、


多分、たった三人……

それに後方にランドルフ帝国で合流した

10人しかいない事に戸惑ったのだろう。

目を白黒させていた。


「落ち着いてください。

 まずは状況をよく知るために、一足早く

 派遣されて来ただけです。


 それで、現状はいったいどうなって

 いますか?」


私が問うと、彼の後ろに管理職らしき人たちも

顔を見合わせ、


「い、今は鉱山に入っている鉱夫たちを

 外へ避難させています」


「200人全員です。

 ですから、今は無人という事に―――」


私はふむふむとうなずいて、


「『スタンピード』の前兆らしきものがあったと

 聞いているけど」


「もしそれが起こるとしたら、あとどれくらい?

 残った時間は?」


土蜘蛛のつっちーさんはともかく、アラクネの

ラウラさんは下半身がもろに魔物だからなあ。


向こうはやや腰が引き気味になるけど、

担当者は書類に目を通した後、


「100年以上前の記録になりますが……

 魔物の巣と繋がってからおよそ10日後に

 鉱山から魔物があふれ出て来たと、記載されて

 おります。


 5日前に魔物の巣が確認されておりますので、

 このままいけば後5日くらいで―――」


彼らの背後の鉱山を見るに、かなり大きい。


二百人の鉱夫が働いていたという話だし、

ちょっとした町くらいの規模だ。


「そこで、1つ聞きたい事があるんですけど」


「何でしょうか?」


担当者、多分この鉱山の最高責任者だろうけど、

そこで私は彼に一歩近付いて、


「出来ればこうしたいというか、理想の

 結末とかはありますか?」


「は、はぁ……?


 それはもちろん、『スタンピード』を止めて、

 かつ鉱山が再び稼働するようになればとは

 思っていますが」


その彼の言葉を飲み込むようにうなずき、


「ちなみに、鉱山の出入り口だけど……

 どれくらいありますか?」


「で、出入り口ですか?


 基本的には1つですが、新たに追加された

 坑道(こうどう)の数によって、ええと―――

 合計8ヶ所ございます」


「そこ以外は無いんですね?」


担当者に念を押すと、彼はコクリとうなずく。


「ではラウラさん、つっちーさん。

 打ち合わせ通りに」


私が彼女たちに振り向くと、


「任せてー」


「やるかー」


そこで私たちは、とある作業に取り掛かった。




「終わったよー、シン殿」


「魔物も何匹か見たなあ。

 まるで巨大なダンゴムシのようなヤツらが

 チラホラと」


二人の言葉に、複数の管理者らしき人たちが

不安そうな表情でやって来て、


「あのう、いったい何をしたのですか?」


「お二人とも少し入っていったと思ったら、

 どの出入り口もすぐに出てこられたの

 ですが」


説明を聞かないと納得出来ない、という

表情でいたので、


「ラウラさんとつっちーさんは蜘蛛の亜人であり

 魔物なので……

 出入り口からある程度入ったところまで、

 何重にも巣を張ってもらったんです。


 最後はラウラさんがガチガチにやっていたと

 思いますけど」


「た、確かにそうですが―――

 あの程度で魔物が出てこれなくなる、と?」


疑問形で聞いて来るので、不安を払拭させる

ためにもう少し説明する。


「ラウラさんの出す糸は、魔力通信機にも

 使われているもので……

 ミスリル銀のショートソードですら

 切れない強度を誇っています。


 つっちーさんの糸もラウラさんほどでは

 ありませんが、熱にも火にも強い。

 まず魔物が力ずくで引き裂けるものでは

 ありません」


すると、『ミスリルでも!?』『そんなものが』

と、驚きの声が上がる。


まあ鬼人族は力づくで引き裂いていたけど、

あの時はつっちーさんの力も弱まっていたし、

また手でほどきながらというのもあるので、

魔物が効率よく同様の事を行うのは不可能

だろう。


「で、ですがそれでどうするのですか?

 あの鉱山から魔物を出られなくして―――


 は、廃坑(はいこう)にするのでしょうか。

 『スタンピード』を防ぐためであれば、

 仕方のない犠牲だとは思いますが」


意気消沈(いきしょうちん)する担当者に対し、


「いえ?

 出来れば鉱山は再稼働して欲しいですし、


 それに今開発で盛り上がっていますからね。

 これほどの鉱山が止まるのは影響が大きい

 でしょう」


「それはその通りなのですが」


そこで私は、スタンバイしていた青年十人を

呼び出し、


「出番です!

 それじゃ、それぞれ出入り口前に行って

 ください。


 残りの2人はいざという時に備え、周囲の

 護衛を」


「「「はいっ!!」」」


そして青年たちは『元』の姿……

ワイバーンへと変化する。


「なっ!?」


「そ、そういえば帝国には、人の姿になれる

 ワイバーンがいると聞いていたが」


「10体のワイバーンが援軍―――

 これは心強い!」


そしてそれぞれが飛び立ち、その中の一体が

一番近い出入り口に着地する。


そして鉱山の中へ向けて……

炎のブレスを吐き始めた。


「おおっ!!」


「ね、熱風が我々のところまで」


「しかし、巣は奥にある。

 いくらワイバーンのブレスが強力だとしても、

 届くのだろうか?」


そう担当者や管理者たちからは、困惑する

声も上がるが、


実際、狙いは炎の熱気や温度で殺す事ではない。


燃焼効果は確かに直接のダメージや、温度上昇が

見込めるが―――

それ以外にも注意しなければならない事がある。


それは『酸欠』。


出入り口全てから炎のブレスを叩き込めば、

鉱山の中の酸素は一気に減るだろう。


もちろん巣の方にも空気穴くらいはある

だろうが、


『スタンピード』を起こすほどの大量の魔物が

いるとすれば、消費する酸素も通常のそれでは

すまないはず。


そしてあちこちでワイバーンたちが炎を

鉱山内に叩き込む事、数分くらいで、


「ピギュウアァアアアアッ!!」


と、何と形容したらいいのかわからない

叫び声が、鉱山のあちこちから聞こえて来て、


「効いているみたいだねー」


「でもワタシたちの糸を何重にも張って

 あるからー。

 残念だけど逃げ場はないよ」


あちこちから上がる魔物の叫び声を前に、

我ながらえぐい事を考えたなあ、と思わず

合掌(がっしょう)する。


多分、出入り口に殺到(さっとう)して糸に(はば)まれ、

そのまま焼死していくか、それとも奥で

酸欠死するかの二択。


ダンゴムシみたいな、ってつっちーさんが

言っていたから、昆虫のような魔物だったら

まだ良心が痛まないかも、と思っていると、


「!?」


「な、何!?」


そこで急に地震のような地響きが起こり、


「な、何だあれは!」


「まさか、100年前の記録にもあった、

 『食い尽くす者』……!?」


鉱山の出入り口以外の場所に大きな穴を開けて、

巨大なダンゴムシのような魔物が姿を現す。


するとそれは丸まって、直径三メートルほどの

球体となり―――

炎をまといながらこちらに転がって来て、


「シ、シン殿!!」


「どうか後ろへ!!」


人間の姿のワイバーンの青年が二人、私の

前に立つが、


「私は大丈夫です!


 それより他の人たちの護衛を!」


彼らに指示を伝えると、私はすぐに、


「ダンゴムシのような節足動物(せっそくどうぶつ)で、

 それだけ巨大になり、その速度で動けるなど、

 ・・・・・

 あり得ない」


そう私がつぶやくと、球体の速度は鈍くなり、

転がるというよりずるずると(すべ)るような感じで

やって来て、


やがて私の前でその速度は完全に無くなり、

仰向けになって倒れた。


「うわ、でか!

 アタイが鉱山の中で会ったどの魔物より

 でかっ!」


「これがボスかもねー」


ラウラさんとつっちーさんは、それを呆れる

ように見ていたが、


「すいませんラウラさん! つっちーさん!

 あの空いた穴、糸でふさいでくれませんか?


 私は護衛のワイバーンに、あの穴も攻撃

 してくれと頼みに行きますので」


新たな指示を出すと、自分も含めてそれぞれが

動き出した。





( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

休日のお供にどうぞ。


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【女性冒険者パーティーの愛玩少年記】

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― 新着の感想 ―
(*ゝω・*)つ★★★★★  この世界の人達も一部の人は経験則で酸欠は知ってそうですが、 魔法のせいであまり問題視されてなさそうですね~
一酸化炭素中毒が有名ですが二酸化炭素もかなり凶悪なガスです。濃度次第では少し吸い込んだだけでほぼ即死みたいな感じだとか。 酸素も濃過ぎても薄過ぎても生存できないらしいですね。
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