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257・はじめての とりたて

|д゜)500万PV突破!!

応援ありがとうございます!!



「よっ!!」


「ほっ!!」


『ガッコウ』の校庭に当たる場所で、

餅つきが行われ、その度に周囲から

歓声が上がる。


こちらの世界では珍しい、という事もあるが。

何せ餅つきをしているのは―――

身長二メートルを超える鬼人族の男たちだ。


「うはぁ、すげぇ迫力だなコレ。

 こっちの年越しってのは面白いな」


長い赤髪を持つ女性が、大きなお腹をさすり

ながら感想を口にする。


「これも去年からだよー、エクセさん」


「すっかり風物詩になっているがのう」


東洋系の童顔の妻に、ドラゴンの方の見事な

プロポーションを持つ妻……

メルとアルテリーゼが続く。


「あっ、出来上がったようですよ」


「わたしはきな粉にしようかしら」


お餅がつき上がり、今度は女性の鬼人族の手で

分けられ丸められて、次々と配られていく。


それを丸眼鏡の女性と、亜麻色の三つ編みの

幼顔の女性―――

ミリアさんとルーチェさんが待ちきれなさそうに

そわそわとしていた。


「はいみんな、甘酒ー!

 体を冷やさないようにね」


そこへ、ショートの黒髪に真っ赤な瞳を持つ、

娘が……

妊婦に配るために暖かい飲み物を持って来て、


「ありがとう、ラッチ。


 じゃ、並ぼうか」


「はーい!

 おかーさんたちは、そこで待っててね!」


そして私は娘と一緒に、お餅をもらうために

列に並ぶ事となった。




「あー、つきたてのお餅はウマいっ!」


「鬼人族の力で叩かれたものだからのう。

 味も極上じゃ」


メルは砂糖醤油、アルテリーゼはアンコをつけた

お餅を頬張(ほおば)り、


「団子は食べた事があったけど、こっちの方が

 ()(ごた)えがあるな!」


エクセさんも、醤油・みりん・砂糖を混ぜた、

いわゆる『みたらし』にかぶりつく。


これも鬼人族の里からもたらされたもので、


食にうるさい(とされている)鬼人族では、

甘味もそれなりに昔からあったらしく、


メープルシロップや砂糖など、手がかかる

甘味はあるのに、どうして水飴(みずあめ)が無いのかと

不思議がられたりもした。


実際、水飴は日本古来からの甘味で、

でんぷんと発芽した大麦さえあれば、

意外と簡単に作れたりする。


なので今では、それまでメープルシロップや

砂糖を使っていた調理の代替品として、気軽に

使われるようになっていた。


「くうぅうっ、この油の暴力がまた……!」


「ミリ(ねえ)、ガッツリいくよね」


バター醤油でお餅を食べるミリアさんに、

きな粉をまぶしたお餅を持ったルーチェさんが

ツッコむ。


そしてそこへ妊婦の旦那陣がやって来て、


「ミリア、そこにいたッスか」


「ルーチェも、食べたらすぐ産院に

 戻るんだぞ」


褐色肌の青年、レイド君と、彼と同じくらい

長身で痩身(そうしん)のギル君が手を振って駆けつける。


「あけましておめでとうございます、

 お二人とも」


「えっ? あー、おめでとうッス!」


「相変わらず慣れない挨拶ですね」


それを聞いていたエクセさんはきょとんとして、


「ん? 何しているんだい?」


「はは、まあ新年になったので今年もよろしく

 お願いします、という挨拶です。


 私の故郷や、鬼人族の里でもこういう挨拶が

 あるそうで」


この異世界では、年を越すのは別段特に意味の

無い現象であって―――

このように『だから何?』とよく返された

ものだ。


「でもあたいのところでもやったら、チビたち

 喜ぶだろうなー、コレ。


 来年から鬼人族を呼ぶよう、旦那に言って

 みよっと」


餅が配られても、餅つきそのものは継続されて

鬼人族が行っており、


掛け声と共に、それを見ている大人も子供も

歓声を上げていて、


「はーい!

 お汁粉とお雑煮が出来ましたー!


 のどにつかえないように、注意して

 食べてくださーい!」


今度はどうやら、お餅に何か味付けするのでは

なく、料理として出されるようだ。


「そういえばレイド君、ギルド長は?」


「あー、オッサンなら児童預かり所で、

 リベラ所長と一緒にチビたちの面倒を

 見ているッスよ」


「それにホラ、今年はチビたちに『ハレギ』と

 いうものが届きましたし」


レイド君とギル君の言葉に、女性陣が『ん?』と

振り向いて、


「何ですかそれ?」


「『ハレギ』?」


まずミリアさんとルーチェさんが首を傾げるが、


「あー、確かシンが交渉していたアレかー」


「数が足りないって言ってたが、大丈夫

 だったのか?」


次いで、メルとアルテリーゼが話に加わる。


そこへ野太く大きな声がして、


「おう、ここだったか。

 児童預かり所以外で餅つきしているところと

 言えば、『ガッコウ』しかないもんな」


アラフィフの筋肉質のギルド長が……

老夫婦のように、薄い赤色の髪をした

五十代ほどの婦人と一緒に姿を現す。


「ジャンさん、リベラさん。

 明けましておめでとうございます」


「おう。何か知らんがおめでとう」


「まったくもう、この人は」


ギルド長の言葉に、児童預かり所の所長が

苦笑し、


「おめでとー」


「あけましておめでとー」


その足元にいる子供たちが、意味がわからない

ままであろう、挨拶をする。


「うっわ! 何コレ可愛いー!!」


エクセさんが目を輝かせて子供たちを見る。


「わー、ホントだー!!」


彼女に続いてラッチも声を上げ、

すると周囲の女性陣も、『可愛いー!』

『キレイー!』と子供たちに向かって

手放しでほめる。


それを聞いた子供たちは照れくさそうに

身をよじり―――


「おお、『晴れ着』が間に合いましたかな」


鬼人族の一人が、その様子を見て目を細める。


そう、今年のお正月に合わせ……

鬼人族、そして天人族にも頼んで、『晴れ着』を

用意してもらったのだ。


ただ旧スラム地区の住人を取り込んだという

事もあり、子供たちの数が想定より多くなって

しまったのだが、


「えっと、数は大丈夫でしたか?」


「1日ずつ交代させる事にしましたわ。


 順番が来たら着られる、という事を

 納得させるのに時間がかかりましたけど」


あー、やっぱり足りなかったか。

そりゃそうだよな。

本当にお手数をおかけします、二人とも。


「取り敢えず1日置きで、3日もありゃ全員が

 着られる計算になった。


 そもそもショーガツ? 3日限定の着物だって

 聞いているしな」


「支給はしないで、児童預かり所で一ヶ所に

 預かって、公都の子供たちに貸出すという形を

 取っています。


 だから、どれが誰の、というものでは

 ありません」


ジャンさんとリベラさんが、老夫婦のように

交互に語る。


「こういう新年の過ごし方をするのか。

 悪かねーな」


「おー、みんなお餅もらって食べているねー。

 じゃあボクもお汁粉とお雑煮もらってくる!」


エクセさんの後にラッチが駆け出し、


「では私も頂いて来ますか。


 みなさんはどちらがいいですか?

 お汁粉とお雑煮―――」


すると妻二人が手を挙げ、


「お雑煮!」


「汁粉じゃ!」


次いでミリアさんとルーチェさんが、


「お汁粉!」


「じゃあ、わたしもそれで」


するとエクセさんは困惑した顔で、


「えっと、どういうものなんだい、そりゃ?」


「あー、それはですね……」


他のみんなが説明し、彼女は両方食べてみる

事を選択して―――

私とレイド君とギル君が、ラッチと一緒に

受け取りに行った。




「おう、来たか」


「明けましておめでとうございます」


新年に入って三日ほど家族と過ごした私は、

『ゲート』を使って王都・フォルロワの

冒険者ギルド本部へと来ていた。


「あー、まあ、おめでとう」


「おめでとうございます」


「おめでとうございます」


グレーの短髪に白髪の混じった、アラフォーに

見えるギルド本部長と、


金髪を腰まで伸ばした童顔の女性、それに

眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の同性二人が

揃って挨拶を返してくる。


正体は前国王の兄であるライさんと、その

秘書的な役割のサシャさん、ジェレミエル

さんだ。


「まあ、魔力通信機でやり取りして終わりでも

 良かったんだがな。


 お前さんは『ゲート』を自由に使える

 数少ない人間だし、それに直接会って

 話すのに越した事は無いと思ってよ」


「いやその、私だって別に好き勝手に

 使っているわけではないですからね?


 魔界を通るわけですから、その度に毎度

 お土産も用意しますし……」


確かに、王族でも貴族でもないのに『ゲート』を

比較的自由に使える立場ではあるのだが―――

それなりの理由が無ければ、私的に使う事は

避けている。


「それでお話というのは、やはり新年の

 大会の事で?」


「そうだ。

 サシャ、ジェレミエル、アレを」


私の問いに、本部長が秘書二名に指示を出して

書類を出させる。


私はその書面に目を通し、


「リバーシ、トランプ、麻雀と……

 大会も地区予選に本選と細かくやって

 いますね」


「はい。

 そしてそれぞれに賞品・景品もつけて

 おります」


「敗者復活やブービー賞、それに特別賞も

 シンさんのご説明通りに」


以前、エクセさんの町で麻雀大会が開催された

事があるけど、

(■169話

はじめての まーじゃんたいかい参照)


今はウィンベル王国全土を巻き込んで、

この手の娯楽の大会を行っているのだ。


当然それは、振興とか販売促進という

面もあるけど、


それならライさんが絡む必要はどこにもない。


「ラーシュ陛下も今回の件には賛同しているし、

 またその結果にも満足頂いているようだ。


 娯楽にかこつけた富の再分配機能―――

 確かにこれは国家の管轄(かんかつ)だろう。


 同盟諸国は元より、ランドルフ帝国でも

 出来ないかと、ティエラ王女様も言って

 いたぜ」


そう。表立っては国営による大会の運営だが、


その実態は、困窮(こんきゅう)した領地や民への救済措置

という目的があった。


実際、この世界の統治は中世。

中央政権はあるものの、各領地においては

独立性が高く、


何か天災や被害があったとしても、それを国に

報告する事はほとんどない。


なぜなら、統治能力無しとして地位の低下や、

下手をすれば領地没収もあり得るからだ。


それにいくら食料が必要無いと言っても、

それは魔力操作が出来る大人だけの話で、


経済的な被害があれば、食事が必要な子供から

飢えて死んでいくというのは、こちらの世界の

方がより深刻であった。


しかし、国家主催での参加対象が全国民という

事であれば、どの領地の民でも参加可能で、


さらに国の直轄運営の大会なので、審査員と

いう名目で各地に人を送り込める。


そこで何らかの災害や被害が出ていないか

調べ上げ、


損害のある地域の大会参加者に、『配慮』して

賞金や景品が配られるシステムになっている。


「なるほど。

 順調そうで何よりです」


そこで私が出された飲み物……

甘酒に口を付けると、


「ですが、問題が無いわけではありません」


「?? と言いますと?」


サシャさんの言葉に聞き返す。


「空気を読めない―――

 とでも言いましょうか。


 せっかく分配したそれを、領主権限で横から

 (かす)め取られるような場合もありまして」


あー、それは考えられるな。

領主命令とか貴族の論理でいけば、むしろ

当然と思っている領主もいるだろうし。


ドーン伯爵様とも今は友好的な関係を結べて

いるけど、初対面の時はアレだったしなあ。

(■05話 はじめての りょうしゅさま参照)


「少し自分の頭で考えりゃ……

 どうして被災地に都合良く物資が行くのか、

 わかりそうなものなんだが。


 まあそういうバカどもにはいい機会だから、

 ご退場頂いているよ。

 一応、警告はそれとなく出すけどな」


それはそうか。

伏せてはいるけど国家の方針なわけだし、

それに反抗すると見たら、そりゃあ。


第一、緊急事態に私腹を肥やすような人間は、

施政者としての資格は無いに等しい。


「そうそう、全部が全部うまくはいきませんか」


「お前さんみたいに力はあるクセに無欲、

 っていうのがむしろ(まれ)だからな?」


私はただ単に、現代日本の生活レベルでの

暮らしを望んだだけだから、無欲とはちょっと

違う気がする。


「それにお前さん経由の技術や道具は、

 ほぼ無制限で各地に伝えられているんだ。


 そうした上乗せもあるのに、さらに被災した

 民から(しぼ)り取ろうなんてアホは許さんよ」


なるほど。

確かに技術はフルオープンにしているし、

国も推奨(すいしょう)しているのだから、下駄を()かせて

もらっている状態のはず。


その上でさらに難儀(なんぎ)している民から取ろうと

するのは、欲深過ぎるというものだ。


「でもまあ、目的通り民は救えている

 わけですから―――」


「……そうですね。民は」


ジェレミエルさんが微妙な表情で答える。


「何かありましたか?」


「いやこっちの話だ。

 ご苦労だったな、シン。


 何なら今王都で開催されている大会でも

 見ていくか?」


ライさんに露骨に話をそらされ、


「いや気になりますって!

 何かあるなら話してくださいよ」


そこで本部長と後ろに立っている秘書二人は

顔を見合わせ、


「一応、話してみたらどうでしょうか?」


「しかし、こればかりはシンの能力でどうこう

 出来るものでも」


「いいから言ってみましょう!

 シンさんも気になるって言ってますし」


そして彼らの口から、事情が語られる

事となった。




「―――とまあ、ギルド本部で聞いて

 来たんだけど」


「それはちょっと、冒険者に対する依頼とは

 違うよねえ」


「魔物でも護衛でも無いからのう」


翌日、『ゲート』で公都に戻った私は、

産院で家族に情報共有していた。


「あー、あたいも覚えがあるぜ。

 そーいう厄介な取引先」


深くは触れずにエクセさんも会話に参加し、


「完全敵対ではないので、対応が難しいん

 ですよね」


「どこにでも困った人はいるんですねえ」


ミリアさんとルーチェさんもしみじみと感想を

口にする。


「おとーさん、どーゆーこと?」


ラッチが私の肩をつついて来て、


「まあ要するに、のらりくらりと言い訳して

 税金を納めない領主様がいるんだよ。


 地方の伯爵って言ってたけど……

 自然環境が厳しい土地ではあるらしく、

 全部がウソではないところがまた」


ライさんから聞いた話では、その貴族は

急に税を滞納するようになったらしい。


ただ自然災害は本当に起きているのと、

そういう厳しい土地である以上、あまり

強く出られないとの事。


「もともと、そんなに豊かな土地でも無いから、

 軍を出したり懲罰(ちょうばつ)したりする手間を考えると

 割りに合わないそうだ。


 だけど国として放置するものなあ―――

 って事で悩んでいるんだと」


ふむふむ、と周囲はうなずき、


「それでシンはー?」


「変に期待させてもいけないから、

 話だけ聞いて帰って来たよ。


 そもそも税の取り立てなんて、

 やった事も無いし……」


メルの質問にそう返すと、


「でも旦那様は世話好きだからのう。

 もう何かしようと考えているのではないか?」


「そりゃあ何とかしてあげたい気はあるけど、

 何せ相手は人間だし、別に敵対しているって

 わけじゃないからなあ。


 第一、何が原因で税をそんなに納めたく

 ないのか、理由もわからないし」


「理由?」


私の言葉にエクセさんが首を傾げる。


「いや、だって国に対し誤魔化そうって

 話でしょ?


 いくら言い訳したって、税を払わないって

 結構危ない橋を渡っている感じだし―――


 ウィンベル王国だってバカじゃないから、

 『本当は払えるのに払わない』という疑惑を

 持っているわけで」


それに対し周囲は顔を見合わせ、


「確かに、1年や2年ならともかく……

 連続して何年も誤魔化すとなると、かなり

 ヤバいと思います」


「わたしもギルド長に、税金絡みだけは

 かばえないからなって言われてました。


 ただ単に私利私欲でやっているのなら、

 スゴい度胸って事になりますね」


次期ギルド長の妻と、その弟分の妻の言葉に、

みんなは同意するようにうなずき、


「まあ難しい話はこれくらいにしよう。

 で、王都に行ったついでに、付き合いのある

 貴族家にも挨拶に行ったんだけど―――」


そこでお土産を渡した話や、魔界で

フィリシュタさん他に会った話をして、

私はラッチと一緒に産院を後にした。




「これはこれは……

 高名な『万能冒険者』殿に会えて光栄です。

 それに、可愛らしいお嬢さんも。


 ラーナ辺境伯令嬢もお久しぶりですな。

 今日はいったいどのようなご用件で参られ

 ましたか?」


とある屋敷で、アラフォーの四角い顔をした

男性が、私とラッチ、そしてラーナ・ルトバ

辺境伯令嬢にあいさつする。


私が公都に帰って来てから一週間ほど後……

事態は急速に動いた。


王都に行った際、ドーン伯爵家の別邸にも

挨拶に行ったのだが、


そこでマリサ・ドーン伯爵令嬢にも少し

例の件を話したところ、


それがちょうど新兵の訓練にOBとして

付き合っていた、ラーナ・ルトバ辺境伯令嬢の

耳に入り、


『タリス伯爵が?

 そのような御仁(ごじん)では無かったはずだが』


と、税を滞納したタリス伯爵家と

ルトバ辺境伯家は交流があったようで、


彼女の付き添いとして、直接タリス伯爵家に

問い合わせる事になったのである。


なお、タリス伯爵家は王都フォルロワと

公都ヤマト間で結ばれた、『鉄道』の

外側沿線に近く、


特別にワイバーン便の使用許可をもらい、

ラーナ様の案内で、乗り込む事になったので

あった。


「それで、耳に挟んだのだが―――

 急に税を滞納するようになったと聞いてな」


「いやあ……お恥ずかしい。


 不作に冷害、大風に大雨―――

 魔物の被害も今年は多くてですなあ。


 心苦しいですが、今すぐ国にお支払いする事が

 出来ないのですよ」


チラ、と伯爵令嬢がこちらに視線を寄越す。

う~ん……

ジャンさんのような『真偽判断(シースルー)』も無いし、

ウソをついているかどうかまではわからない。


「結構、他国からも農作物が導入された

 はずなのですが」


私からその話題を振ると、


「ええ! あれらは大変助かっております!

 それで飢え死にする子供たちがどれだけ

 減った事か!


 特に貝の養殖はいいですな!

 ほとんど何の世話もしないで、勝手に

 増えるのですから―――」


身を乗り出して手放しで賞賛してくる。

これは本気で思っているらしいけど……


「私も、国の下でいろいろな農作物を推奨して

 おりまして。


 出来れば、領内を見回って―――

 どんな作物や産業が適しているのか、

 調べてみてもいいでしょうか」


「はい、それはもう!

 『万能冒険者』殿に見て頂けるのであれば、

 これほど心強い事はありません!


 取り敢えず今日のところは泊まって頂いて、

 明日から見回ってもらう、という事でよろしい

 ですかな?」


貴族にしては腰が低いというか礼儀正しく、

平民である自分に頭を下げる。


「では、そうさせてもらおう。


 特に大豆やソバ、『奴隷殺し』などがいいぞ。

 手間がさほどかからん。

 我が領でも栽培しているが……」


そこからしばらくは雑談に興じ、それから

各自割り当てられた部屋へと案内された。




「う~ん」


「どう見られますか、シン殿」


自分とラッチに用意された部屋で、

辺境伯令嬢と一緒に話し合う。


「ざっとお屋敷の中を見たんですけど……

 溜め込んでいる、という感じでも無いん

 ですよね」


「私もそれは感じた。


 そもそも、タリス伯爵殿は質実剛健(しつじつごうけん)

 お方なのだ。

 国を(あざむ)いてまで、()(むさぼ)るような方では

 無いのだが」


それで二人で考え込むが―――

唯一、この屋敷に来てから別人のように

大人しいラッチに視線が行き、


「どうしたんだ、ラッチ?

 気分でも悪いのか?」


すると娘は天井を見上げて、


「そーじゃないんだけどねー。

 何か聞こえるんだよ」


「聞こえるとは……何が?」


辺境伯様が聞き返すと、


「小さな子供の声。

 女の子かなー、これ。


 何か泣いているような」


そこで私とラーナ様は顔を見合わせ、


「タリス伯爵様に子供は?」


「いる。モニカ夫人との間に3人。

 男2人は成人しているが―――

 確かルミナという娘が。


 そういえば挨拶にも来なかったし、

 夫人にも彼女にも話で触れなかったが……」


今考えればそれが不自然だと言外に語る。


それを聞いたラッチは立ち上がり、


「んー、こっちかな」


「場所がわかるのか?」


私の言葉に娘はうなずいて肯定(こうてい)し、


「ラーナ様」


「うむ」


私と辺境伯令嬢は互いに視線を交わし―――

ラッチの後についていく事にした。




「この部屋?」


「うん。この中から聞こえるー」


廊下の突き当り、その右側に……

決して大きくはなさそうな部屋に行きあたる。


「何か妙なうなりや振動も伝わって来るな?」


「どこかでこれと同じ音というか、状況に

 覚えがあるような―――」


そっと扉の取っ手に手をかけるも、当然ながら

カギがかかっており、


「ラッチ、開ける事は出来るか?

 そーっと開けてくれ、そーっと」


「よいしょお!!」


「あのさあ」


娘の掛け声と共に、バキンという音が響く。


ここまで来たら仕方が無いので、中に押し入って

みると、


「だ、誰ですか?」


そこには、マンバンヘア、いわゆるお団子ヘアで

髪をまとめた婦人……

恐らくモニカ夫人であろう女性と、


母親と同じやや薄いブロンドを姫カットにした

少女―――

こちらがルミナ令嬢であろう、二人の同性が

目を丸くしてこちらを見ていた。


「あ、あなたは」


「ラーナお姉さま!?」


知己(ちき)の人間がいた事で、ホッとした表情になる。


しかし、その二人が置かれている状況は

どう見ても異様だった。


少女の首には魔導具らしき首輪が取り付けられ、

そしてその横には大型バッテリーのような、

魔力動力源用の魔導具があり、それが不気味な

うなりと振動を続け、


「何があった!?

 ルミナ、モニカ!!」


そして駆け足と共に、タリス伯爵が部屋へ

飛び込んで来た。


「ラーナ令嬢!

 それに『万能冒険者』殿まで……!

 どういう事ですか、これは!?」


「そんな事よりこちらもお聞きしたい。

 いったい、ルミナ嬢のこの状態は?」


非難する伯爵に、辺境伯令嬢は怯む事なく

聞き返す。


「こ、これは……」


言いよどむ彼に彼女は続けて、


「話してもらえれば力になれるかも知れん。


 私もシン殿とその家族に救われた事が

 あるのだ」

(■100話

はじめての うろこといきち参照)


「そーそー。

 おとーさんに頼めば、たいていの事は何とか

 なるよー」


ラーナ様とラッチが説明を促し、


「あなた……」


「…………」


妻であるモニカ夫人にも眼差しで訴えられ、

タリス伯爵はぽつぽつと語り始めた。




「誘拐され、戻って来た時はその首輪を

 着けられていたと―――」


「う、うむ。

 手紙も()えられていた。


 この領地を手放すようにと……

 もし断れば、モニカの首に着けた魔導具の

 首輪を爆発させると書いてあって」


彼の言葉に夫人と娘は目を伏せ、私と

伯爵令嬢、ラッチは交互に顔を見合わせる。


「遠隔操作?

 それとも時限式か―――


 どういう仕組みなのですか?」


「仕掛けた者は見つけ出したのです。

 ですが、誤って死なせてしまい……

 解除方法がわからなくなってしまいました。


 魔導具の技術者に調べさせたところ、

 どうも一定の魔力量まで下がると爆発する

 ようなので、ひたすら膨大(ぼうだい)な魔力を

 供給し続けなければならず―――」


そういえば爆発系の魔導具ってあったな。

それに膨大な魔力という事は、それだけ

爆発の威力もあるという事だろう。


そしてそのために、全財産を費やしていたと

いう事か……

この魔力動力源用の魔導具だって、決して

安くはなかっただろうし。


「それが、突然税を滞納した理由か」


「お、お恥ずかしい限りですが―――

 娘の命には代えられず。


 どうかこの事はワシ1人の首で」


潔く責任を認めてその身を差し出して来るが、


「今はそんな事より、この状況を何とか

 するべきでしょう。


 幸い私は、『抵抗魔法(レジスト)』を使えますから」


「ど、どうにか出来るのですか!?」


懇願(こんがん)するような目で、アラフォーの伯爵が

私に(すが)りつく。


「そういえばシン殿は、『抵抗魔法』の使い手で

 あったな」


「うん!

 魔族相手でも互角以上に戦えるんだよー」


ラーナ様とラッチの言葉を背に、私は

母子の方へ向かい、


「モニカ夫人様。

 少しの間、ルミナ様から離れて頂けますか?」


「は、はい……」


不安そうな顔で彼女は娘の側から離れ、そして

夫である伯爵に寄り添う。


私はその間に小声で、


「魔力で爆発する、または魔力量の増減で

 爆破する魔導具など、

 ・・・・・

 あり得ない」


そう言って無効化した後、


「魔力量で爆発するのであれば、一気にその

 魔力・魔法に対抗すれば、爆発は防げるはず」


「か、確実ではないのですか?」


モニカ夫人から悲痛な声が上がる。


すでに百パーセント私の能力で無効化されている

はずなのだが、その説明は出来ない。


どうしたものかと悩んでいると、


「じゃーおとーさん。

 ボクが首輪外すね」


と、軽い感じでラッチがルミナ嬢に近寄り、


「ひゃっ!」


後ろから彼女を抱きしめるように密着する。


「もし失敗したら、ボクも巻き添えだし。

 これならいいかな?」


「そ、それは」


タリス伯爵も、『それだけの覚悟がある』と

さすがに認めざるを得ず、


「シン殿を信用してやって欲しい。

 もしまだ足りぬと言うのであれば」


辺境伯令嬢はそう言うと、ラッチとルミナ嬢

二人の場にさらに加わって、


「ラ、ラーナお姉さま」


「もし何かあれば私も一緒だ。

 大丈夫、シン殿に任せておけばよい」


彼女もまたルミナ嬢に抱き着くようにして、

伯爵夫妻の方を見る。


反論する術を失ったのか、タリス伯爵は

ゆっくりと私の方を向いてうなずき、


「では、いきます。


 ラッチ、首輪を外してくれ」


私がいかにも魔法を使っているかのように、

両手を前に差し出すと、


「ほりゃ」


と、ラッチの気の抜けた声と共に、パキンという

音が聞こえ、


彼女の手に、半分に割られた魔導具の首輪が

それぞれ別れた事を確認すると、


「え……?」


「ル、ルミナ?」


伯爵夫妻の声にポカンとしていたルミナ嬢は、


「終わったぞ。

 今までよく頑張ったな」


と、抱きしめていたラーナ様の声で我に戻り、


「お父さま、お母さまあぁあああ!!」


そう叫んだかと思うと、タリス伯爵と

モニカ夫人も駆け寄って来て、


「ルミナ!!」


「ルミナー!!」


父と母、そして娘は抱き合い―――

死の魔導具から逃れた事を、心から喜んだ。




( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

休日のお供にどうぞ。


みなさまのブックマーク・評価・感想を

お待ちしております。

それが何よりのモチベーションアップとなります。


(;・∀・)カクヨムでも書いています。

こちらもよろしくお願いします。


【女性冒険者パーティーの愛玩少年記】

https://kakuyomu.jp/works/16818093088339442288


ネオページ【バク無双】

https://m.neopage.com/book/31172730325901900


【ゲーセンダンジョン繁盛記】【完結】

https://kakuyomu.jp/works/16817330649291247894


【指】【完結】

https://kakuyomu.jp/works/16817330662111746914


【かみつかれた】【完結】

https://kakuyomu.jp/works/16818093073692218686


【ロートルの妖怪同伴世渡り記】【完結】

https://kakuyomu.jp/works/16817330666162544958

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・「明けましておめでとう」ですけど、昔の年齢は数え年でしたから新年で全員一斉に一つ歳を取りました。なので「誕生日おめでとう」の意味も込められていたのではないでしょうか。 暮れに「良いお年を」と言います…
(*ゝω・*)つ★★★★★ 麦芽糖水飴作り、小学生のクラブ活動でやった事があります。 あまり甘くない感じでした。煮詰めればもっと甘くなる? 洋菓子つくりには向かなさそうですねー
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