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252・はじめての にらみあい

|д゜)熱いお茶が美味しい季節ジジイ



「……なるほど。

 まあシン殿がいれば大事にはなるまいと

 思っていたが。


 それでどうなったのだ?」


漁村同士の揉め事を止めた後、一通りの解決を

見て―――

私とテン君、パチャママさんは鬼人族の里へと

戻って来ていた。


身長二メートルはあろうかという、鬼人族の(おさ)

ヤマガミさんの問いに、


「やはりといいますか、漁場争いが前提として

 ありましたので」


「シンさんがテン君と一緒に、近辺の海の魔物を

 ある程度退治して来たのー!」


平安時代のような、和風の着物に身を包んだ

狐耳狐目の少年と……

人間にしてみれば十才前後の、幼顔の赤い肌の

少女が答える。


「テン君は威力はそこそこですが、雷魔法(サンダー)まで

 使えましたので、


 浜を一巡させて、目に付いた魔物を間引いて

 来ました。


 仕留め切れなかったものもいましたが、

 これで魔物は寄り付かなくなるでしょう」


結局、漁場争いが発生した原因というのは、

豊かで安全な漁の出来る場所を巡っての事だ。


ならば、安心して漁が出来る場所を拡大すれば

いい―――


安易だが現実的な方法として、それを二人に

伝え、その方針で解決して来たのだが……

さてヤマガミさんはどう見るだろうか。


彼は両腕を組んで両目を閉じ、うなっていたが、


「黙っとってはわかりませんよ、あなた。

 ウチはよう収めて来たなぁ思いますけど?」


夫と同じく長身の、ショートヘアーから二本の

角を出した現代風美人の妻が促す。


「そうだのう。


 現状としてはそれで良いし、それ以上に

 何か良い解決策があったかどうか。


 まあ合格としてやろう」


父親の言葉に、娘は喜んで夫予定の少年に

抱き着くようにして、


「やったで、テンちゃん!

 これであちきと結婚出来るー!!」


それを見て私の家族も微笑みながら、


「これで一件落着、かな?」


「立場があると面倒なものよのう」


アジアンチックな童顔の妻と、ドラゴンの方の

欧米モデルのような顔立ちの妻がつぶやき、


「山の主の息子と、鬼人族の長の娘の

 カップルかー。


 ……ってアレ?」


黒髪ショートで、燃えるような真っ赤な瞳を持つ

ラッチが首を傾げる。


「ん? どうしたんだラッチ?」


私が娘に質問すると、


「え? だってテン君は山の主の息子でしょ?

 そしてパチャママちゃんは鬼人族の長の娘……


 山の主と鬼人族、どっちを継ぐの?

 って話になるんじゃないかなーって」


すると周囲もざわつき始め―――


「それは……」

「確かに」

「テン殿に兄弟はおらぬのですか」


と、それぞれが不安を口にし始め、


「ワシのパチャママを(めと)るのであれば―――

 当然、鬼人族の長を継いでもらうぞ!?


 そうでなければ結婚は認められん!!」


と、今度は別の問題が持ち上がり……

再び騒動になってしまった。




「で、どうなったんだ?」


数日後、私は宿屋『クラン』で―――

アラフィフの筋肉質のギルド長、そして

褐色肌の青年の次期ギルド長と一緒に食事を

取りながら、事の顛末(てんまつ)を説明していた。

(ラッチは『ガッコウ』)


「まあその場は、今の長夫婦も若いし……

 10年20年は長の立場でいるから、

 いったん棚上げとなりました。


 で、その相談をしにパチャママさん同行で

 山の主様のところに行ったら―――

 主様夫婦も当分は現役でいるから、

 しばらくは考えなくてもいいと。


 もしテン君が鬼人族の跡継ぎにならなければ

 いけないのなら……

 後にテン君とパチャママさんの子供が2人

 出来た時に、一方を山の主の跡継ぎにして

 欲しい、という事で落ち着きました」


ジャンさんとレイド君は料理を食べながら、

ふむふむと聞いていたが、


「まあ両方ともトップだもんな。

 そりゃ揉めるか」


「しかし、子供の方に継がせるって―――

 先の長い話ッスねえ。


 じゃあ、今その2人はどこにいるッスか?」


次期ギルド長の質問に対し私は、


「テン君もパチャママさんも今は公都に

 いますが、後で2人とも鬼人族の里へ

 向かうそうです。


 まあ実質、テン君が鬼人族の跡取りになった

 ような感じですね」


するとそこに宿屋『クラン』の女将さん、

クレアージュさんがやって来て、


「おや、珍しい3人組だね。

 男だけのメンツで来るなんて」


赤髪を後ろでたばねた年配の女性が、

料理をテーブルに置きながら話す。


「いや、コイツらのカミさんは今、

 西地区の施設に行ってるんだよ。


 この公都も妊婦が増えたからな。

 それで、専門に面倒見てくれる建物が

 出来たんだ」


「あー、そういやそんなの作っていたねえ」


ギルド長の説明を聞いて、彼女は納得した

表情になる。


公都『ヤマト』がベビーラッシュになって

いたのは、結構前からで、

(■209話 はじめての ぎょじょう参照)


また旧スラム地区の人間も取り込んだ事で、

さらなる人口増加に備え……

産院とも呼ぶべき機関を設立。


妊娠が発覚してからすでに半年以上経過している

女性陣―――

メル、アルテリーゼ、ミリア、ルーチェさん

たちは、経過観察のため一時入院する事に

なったのである。


「そういえば先日、エクセさんもそちらに

 入ったんでしたっけ。

 後であいさつに行かないと」


「あー、そういやそうッスね。

 俺も同じ次期ギルド長として、顔見せに

 行かないと」


奥さんを持つ者同士で、同時に飲み物に

口をつけると、


「2人とも、今日はもう会って来たのか?」


「いえ、これからですが……」


「昼メシ食ってから行こうと思っていたッス」


ジャンさんの言葉に私たちが答えると、


「そうだな。1日1回は会いに行ってやれ。

 男にゃそれくらいしか出来ないんだからよ」


「そういう事なら、何か包んで行くかい?」


ギルド長の後に女将さんに聞かれ、


「でも向こうで食事制限とかしているだろうし。

 何がいいかなあ」


「酸味が効いたものとかなら、

 大丈夫じゃないかい?

 梅干しや果物の寒天ゼリーとか」


「あー、じゃあそれを適当にお願いするッス!」


こうして私たちは各種のゼリーをもらって、

産院へと向かう事になった。




「あれ?」


「いったい誰ッスかこの子は?

 でも、どこかで見たような」


私たちが妻たちが入院している部屋に入ると、

12・3才に見えるシルバーの長髪をした

女の子が、うれしそうに女性陣の輪に

入っていて、


「あー、わかんないか」


「でも2人とも会った事というか、見た事は

 あるはずですよ」


ライトグリーンのショートヘアにタヌキ顔の、

眼鏡をかけた女性・ミリアさんと、


亜麻色の髪を後ろで三つ編みにした、

ルーチェさんがこちらへ視線を返す。


「うーん……

 確かにレイド君の言うように、記憶には

 あるんだけど……」


「名前は何て言うッスか?」


彼がその少女に近付いて名前を聞くと、

困ったように、


「…………、…………」


口が多少開くがそこから声は聞こえてこない。

しゃべれないのかな?

でも、そんな子に心当たりは―――


「あっ、レム。ここにいたのですか」


「あれ、シン殿も」


そこへ、産院と病院の責任者である、

夫婦揃って白い長髪を持つ男女……

パックさんとシャンタルさんが入って来て、


「はい?」


「レムって」


私と青年が揃って少女の方を見ると、

わずかに頬が緩んで微笑んだようになり、


「「えぇえええーっ!?」」


そして男二人、同時に叫び声を上げた。




「あー、あの人工ゴーレムの体を」


「はい。数百年前の物にしては、各素材の

 保存状態が良く―――」


「皮膚素材の伸縮も申し分なかったので、

 再利用させてもらいました」


パック夫妻の説明によると、あの亜神フェルギを

追跡してきた人工ゴーレムを迎撃した後、その

体は研究対象として二人に提供していたのだが、

(■247話 はじめての でみごっど参照)


核にあたる部分は無かったとの事で、

人工ゴーレムの素材を使って新たにゴーレムを

作成、そこへレムちゃんの核を移植したとの事。


さすがにしゃべる機能までは無かったが、

表情がわずかに動くまでには出来たようで、


クール系美少女ともいうべきゴーレムが完成して

しまっていた。


「身体能力や戦闘力も相当上がった

 みたいだけどねー」


「まあこの子も公都に来て長いしのう。

 危険視するような者はおらんだろう」


ベッドの上で横になりながら……

メルとアルテリーゼも会話に参加する。


「でも3倍くらい大きくなりましたよね」


「動力源は魔力なんですよね?

 それは大丈夫なんでしょうか」


次いでミリアさんとルーチェさんが心配そうに

たずねると、


「確かにまあ、以前と比べて10倍から

 それ以上の魔力が必要になったと思うけど」


「わたくしもパック君も、魔力は売るほど

 ありますから」


ドラゴンの妻に、それ絡みで覚醒した夫も

いるんだからなあ。

問題は無いか。


「おう、シン。

 久しぶりだな」


「レイド様、ミリアさんもおひさー♪

 お世話になってまーす」


そこへ、頬に十字のキズが入ったアラフォーの

男性と―――

赤い長髪のまだ二十歳前後と思われる女性、

カルベルクさんとエクセさん夫婦が入って来た。


「どこに行っていたんですか?」


私が聞くと、彼はハァーと大きくため息を

ついて、


「公都に行くんだったら、ってお土産をいろいろ

 町の連中から頼まれちまってよ。


 遊びに来ているんじゃねぇってのに」


そういえば他領から来ているんだっけ……

ここに来る人たちは、特に身分が上な人ほど

公都の品を要望されるという話を聞いた事が

ある。


それに彼は、あの町では現役のギルド支部長で

組織のトップだ。

要求される量もそれなりにあるのだろう。

そう思っていると、


「ンな事言ってさー、チビたちへのお土産で

 頭を痛めていたじゃねーか。


 あたいも似たようなモンだけど」


エクセさんがそう言うと、カルベルクさんは

照れ隠しのためか視線をそらす。


「お土産ですか」


「でも、そちらの町でももうたいていの物は

 あるんじゃないですか?」


そこでミリアさんとルーチェさんが首を

傾げるが、


「いやぁ、まだまだ公都にはかなわねーよ。


 領主様や町長と相談しながら、いろいろ

 取り入れちゃいるが―――

 どうしても食料、次に医薬品、あと

 下水道や各種設備が優先されるからな。


 特に衣服や娯楽は後回しにされる傾向が

 強いんだ」


なるほど……

大人に食料は必須ではないけれど、今後の世代の

事を考えれば、それは優先事項だ。


また各種インフラ設備も重要で、当然医療関係も

優先度は高めだろう。


となると着る服や娯楽までは、手が回らない事も

考えられるか―――


「だからこの人、防寒着や寒さ対策のものを

 目を皿のようにして見て回ってたんだ。


 まあマフラー? ってヤツ?

 2人してあれで落ち着いたけどさ」


妻の言葉に、夫はバツが悪そうにガシガシと

頭をかく。


「そういや、ボーアの毛皮とかが異様に

 安かったな。

 ありゃなんだ?


 またシンが獲って来たとか?」


カルベルクさんの問いに私は首を横に振り、


「今、王都ではボーアや各種魔物の養殖を

 しているんですよ。


 肉もそうですが、副産物として毛皮も

 取れますから……

 それが出回っているんだと思います」


「はぁー……

 魔物の毛皮なんてひと昔前じゃ、

 貴族様や金持ちくらいしか買えない

 ものだったのに。


 変われば変わるモンだぜ」


しみじみと話す彼にエクセさんが、


「そーいう事言っているとホントに老けるぜ、

 オヤジ。


 これからパパになるんだから、もっと

 頑張って長生きしてもらわねーと」


「お、おう。そうだな。


 それじゃ先生、コイツをお願いしやすぜ」


そう言ってカルベルクさんはパック夫妻に

頭を下げる。


「あれ? もう帰るッスか?」


「いやそりゃ一応ギルド長だしよ。

 俺がいないと片付けられない書類だって

 あるんだ。


 こっちに来るのだって、いろいろと仕事を

 前倒しして済ませてきたから出来た事だし」


「へぇー、大変ッスね」


と、他の支部の現役ギルド長とこの公都の

次期ギルド長がやり取りしていると、


「他人事みたいに言っているけどねぇ、レイド。

 あなただってもうすぐギルド長になるんです

 からね。

 よく見習っておきなさい」


奥さんであるミリアさんから手厳しく注意され、


「わ、わかっているッスよ。

 そ、そういえばルーチェ。ギルは?」


レイド君は答えながら話題をそらそうとする

ように、ルーチェさんに質問すると、


「ギルは今朝方来ましたけど、今はプルランの

 狩りの護衛に行っています。


 そういえばジャンおじさんとリベラ先生に

 赤ちゃんの名前を頼んでいたんですけど、

 今どうなっています?」


「あー、ジャンさん、そんな事を話して

 いましたっけ。


 まだ考え中みたいですよ?

 でも、こちらもそろそろ考えておかない

 と―――」


すると妻二人がそれに反応し、


「あー、そうだよシン」


「特に2人以上は確定だからのう。

 それに男女どちらも考えておかねば」


と、とりとめもなく話が続き、カルベルクさんが

病室を後にしたのは、結局小一時間後になった。




「……はい?」


『だから話した通りだ。


 ティエラ王女様の話では、モンステラ聖皇国と

 大ライラック国との間で―――

 一触即発(いっしょくそくはつ)の事態になっているらしい』


それから二日後、緊急事態という事で

ギルド支部に呼ばれた私は……

ライさんから直接、魔力通信機で事の次第の

報告を受けていた。


「いやいや―――


 ちょっと前まで同盟しようって言ってた

 国々ですよね?

 いったい何がどうなってそのような」


私が困惑しながら聞き返すと、


『あの、直接よろしいでしょうか?』


「あ、ティエラ王女様」


そこでランドルフ帝国の皇族である彼女に

通話先がバトンタッチされ、


『ええと、こちらの間者(かんじゃ)からの情報なのですが、


 大ライラック国は軍の一部駐留を、

 モンステラ聖皇国に対し求めたそうなのです。


 それに対し、現在の聖皇国の実質上の

 最高責任者であるレオゾ枢機卿(すうききょう)が拒否。


 そして警戒心を抱いたようで……』


「あー……

 いやそりゃ警戒というより、下手をすれば

 宣戦布告モノでしょう」


日本で生まれ育った私は、常日頃から

在日米軍とかいう存在を聞き慣れているが、


本来、国内に他国の軍隊の存在を許すという

事は―――

異常事態なのである。


『はい。それは重々(じゅうじゅう)承知しております。


 ただレオゾ枢機卿はシン殿のご活躍により……

 数々の失態を演じております。


 そのため拒否はしたものの、負い目もある今、

 直接的な抗議行動は起こさないものと見ていた

 のですが』


「一触即発とは?

 軍を投入したという事でしょうか」


私の続けての質問に、


『いえ、モンステラ聖皇国と大ライラック国の

 中間地点へ向けて―――

 聖兵隊を差し向けたようです。


 恐らく、偵察や何かあった時の足止めにと

 考えていたのでしょうが、


 そこで大ライラック国の兵団を目撃、

 にらみ合いの状態が続いているとの事です』


王女様の説明の後、通話先がウィンベル王国の

王族に戻って、


『どちらもそれほどの規模じゃねえって

 聞いているし……

 大ライラック国も、侵攻しようとして

 兵を出したわけじゃねえだろう。

 圧力をかけるためか、それともけん制か……


 だが状況としては最悪だ。


 多分両方とも、進む事も退く事も出来ない

 状態だろうからな』


双方、軍を出し合っている以上―――

おいそれとは退けないだろうしなあ。


かと言って戦闘に突入すれば、それをきっかけに

本格的な戦争状態になる可能性も……


「あのー、いいッスか?」


そこで同じ部屋にいたレイド君が片手を挙げて、


『何だ?』


「いや、その2つの国って―――

 こちら側と敵対していたようなものッスよね?


 だったら敵同士、争いでも何でもやらせて

 おいた方がいいと思うッスけど」


すると、向こうのギルド本部長とこちらの

支部長……

その両人から大きなため息が聞こえ、


「そりゃたいして大きくも無い国がやってりゃ、

 俺たちもそれでいいと思うけどな」


『今回はクアートル大陸の四大国が戦争に

 なりかけている。


 それに、公算では大ライラック国が勝つ

 勝算が強い。

 結果いかんでは、これまでの均衡(きんこう)を大きく

 (くず)す可能性があるのだ』


つまり、これまではある程度の差はあれど、

ランドルフ帝国にドラセナ連邦―――

モンステラ聖皇国と大ライラック国、


この四つの国でクアートル大陸の軍事バランスが

保たれていたのだが、


今回、もし大ライラック国が勝利して

モンステラ聖皇国を接収もしくは属国化すると、


大陸全土を巻き込んだ、大戦争に発展する

恐れがあるのだ。


また辺境大陸の同盟諸国は、クアートル大陸との

交易拡大を望んでいる。

そのためには安定してもらう必要が

あるわけで……


『実は先ほど、この情報は緊急の同盟諸国会議で

 共有された。


 それで出た結論だが―――

 やはりシン、お前さんに任せるしかない、

 という事になった。


 事後承諾(じごしょうだく)で済まんが、各国とも出来る協力や

 あらゆる許可を出す事を約束している。


 何かあれば言って欲しい』


『あ、ラ、ランドルフ帝国としても……

 全面的に協力は惜しみませんっ!』


申し訳なさそうに、ライさんとティエラ王女様が

頼んで来る。


「え~と、その~……


 依頼内容は、その大ライラック国と

 モンステラ聖皇国の衝突を止める、もしくは

 回避させる―――


 という事でよろしいのでしょうか?」


私がおずおずとたずねると、


『まあ、そんなところだな』


『理想を言えば、双方ともに軍を退いてもらう

 事ですが……』


私はポリポリと頬を人差し指でかくと、


「ではですね……」


『おお、また浮遊島(ふゆうとう)を持っていくか?』


私の言葉に、すかさずライさんが返して

来るが、


「いえ―――


 レイド君とワイバーンの2名……

 『ハヤテ』さん、『ノワキ』さんを

 お貸しください。


 それと、一時的に魔王・マギア様もお借りする

 事になるかと」


『?? ああ、わかった。

 この件については魔族領も承知している。


 『ゲート』を通じて招聘(しょうへい)するよう

 手配しておくか?』


「出来ましたら」


こうして私は―――

大ライラック国とモンステラ聖皇国の衝突を

防ぐため、動く事となった。




「……という事でね。


 なるべく早く済ませて来るから―――」


翌日、私は産院を訪れ……

妻たちに事情を説明すると、


「まー、しょーがないね」


「しかし寒くなってきたというのに、

 連中は元気だのう」


と、メルとアルテリーゼはやや呆れながら

事情を受け入れ、


「じゃあ、また一ヶ月くらいおとーさん

 海の向こう?」


ラッチの『また単身赴任するの?』と言わん

ばかりの口調が私の胸を突き刺す。


「う~ん……

 そこまで長くはならないかな?


 まあ一週間くらいでカタをつけるよ」


「レイドも連れて行くんでしょう?

 こき使ってやってくださいな♪」


と、ミリアさんの笑顔に苦笑でうなずき、

私は娘の頭を撫でて、部屋を後にした。




「しっかし大変だねえ、『万能冒険者』って

 いうのも。

 こんな時でもあちこちから引っ張りだこで」


シンが去った後、妊婦だけが残り―――

まずエクセが奥さん同士としての会話を

スタートさせると、


「あ~、でも……」


「本当にさっさと片付けて帰って来るかも

 知れんのう。

 特に今回は―――」


メルとアルテリーゼは眉間にシワを寄せて

語り合う。


「?? と言いますと?」


ルーチェがその言葉に聞き返すと、


「多分シン、今回はちょっとキレて

 いるからねー」


「そーなの?

 おとーさんが?」


メルの答えに、ラッチは首を傾げ、


「シンはのう……

 黙ってキレるタイプじゃからなあ。


 ほとんど怒鳴(どな)ったり怒ったりしないが、

 内心、『もうすぐ子供が産まれるというのに

 余計な事を』と思っている顔じゃったよ、

 あれは」


そう説明する母親に、娘は『ふーん?』と

生返事をし、


「そういえば、魔王様もお借りするって

 言ってましたよね―――


 『面倒くせえ両方とも(ほろ)ぼすか』

 ってならなければいいんですけど」


ミリアの言葉にシンの妻たちは顔を見合わせ、


「やろうと思えば出来るだろうけどさー」


「それは身内に手を出されない限り、

 やらないと思うぞ?」


「いや可能なのかよ」


最後にエクセのツッコミが入り、話題は別の

方向へと移った。




「もうすぐ子供が産まれるというのに、

 余計な事を……!」


「シンさん、俺もうそれ100回くらい

 聞いているッス。

 まあ気持ちは俺もわかるッスけど」


そして一週間後―――

私はレイド君とワイバーンの『ハヤテ』、

『ノワキ』の両名を連れて、


クアートル大陸中央にある、未開拓の森の奥、

やや東側にいた。


時間は朝。時刻にして七時か八時くらい

だろうか。


「まさか、こんな一瞬で海の向こうに

 行けるとは」


いかつい戦士のような外見をした、白緑(びゃくろく)

髪をした青年……

『ハヤテ』さんがうなり、


「して、シン殿―――

 我々はこれからどのように動けば?」


中性的とまでは言わないまでも、細マッチョな

感じの黄色い髪を持つ『ノワキ』さんが指示を

聞いてくる。


あの後……

メル、アルテリーゼのお見舞いに行った後、

すぐに魔王・マギア様が『ゲート』を通じて

公都『ヤマト』を訪問してくださり、


彼に事情を説明して、そのまま魔界へ行き

魔界王フィリシュタさんに面会。


彼女の部下であるミッチーさんに協力を依頼し、

その後今いるメンバーも加わりランドルフ帝国の

大使館へと移動。


大陸中央の未開拓の森まで飛行を続け、

森の中のやや東側、つまり現地に到着後

ミッチーさんに魔界側から『ゲート』を設置して

もらい、その『ゲート』で全員帰還。

この間約三日。


魔王・マギア様が魔族領へ戻られた後、

私とレイド君、ワイバーンの『ハヤテ』さん、

『ノワキ』さんと共に作戦共有&演習。


そして依頼から六日後―――

作戦を『実行』する時を迎えたのである。


「やる事は、事前に共有した計画通り……

 変更はありません。


 まずレイド君と『ハヤテ』さん組に、

 大ライラック国とモンステラ聖皇国の中間へ

 先導してもらい、『範囲索敵(サーチ)』で

 目標を探し当ててもらいます。


 その間、私と『ノワキ』さん組も2人を追尾。

 また両組の半径五十メートルを除く外側、

 百メートルを私の能力で『無効化』させます」


事ここに来て、私の能力について共に作戦を

実行する彼らに隠し事は無く―――

計画共有時に正直に告げ、その範囲は

全魔法無効化だと理解してもらっていた。


「わかりました」


「しかし我々は、とんでもないお人を敵に

 回していたのだな……」


そういえば彼らと『レップウ』さんを含む

ワイバーン三人組は、人間と協力関係になる事を

良しとせず、一度自分と戦ったんだっけか。

(■71話

 はじめての はなしあい(わいばーん)参照)


あれはもう三年くらい前になるのかな?

だけど昔話に花を咲かせる時間は無い。


「レイド君、君がこの作戦の目であり耳です。


 まず大ライラック国とモンステラ聖皇国の

 両軍を見つけたら―――

 その間を低空飛行かつ最高速度で通り抜けて

 ください。


 その間に私が両軍の魔法・魔力を無効化

 させます」


「わかったッス!」


「そして離脱後……

 両軍の魔力が君の『範囲索敵』に反応

 しなければ、そのままここにある

 『ゲート』まで引き返します。


 なお、この『ゲート』は作戦終了後、

 ミッチーさんに頼んで消してもらう予定

 ですので。


 それでは出撃します!!」


そして私とレイド君は、顔を隠す為にフードを

被り、それぞれワイバーンの姿となった

『ハヤテ』さん、『ノワキ』さんの背中に

乗って―――

朝日を浴びて空へと飛び立った。




( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

休日のお供にどうぞ。


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(;・∀・)カクヨムでも書いています。

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【女性冒険者パーティーの愛玩少年記】

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【ロートルの妖怪同伴世渡り記】【完結】

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― 新着の感想 ―
(*ゝω・*)つ★★★★★  この世界、兵站も大きく魔力に依存してるでしょうから、 無効化の影響もデカイでしょうね~ 特に貴族階級の兵は空腹耐性が低そうですしw
かなり昔に聞いた話ですけど貴作品同様で一人っ子同士が結婚するって事があったとかで。 落とし所としては、子供は二人以上こしらえて一人を女側の両親の養子にするってことになったそうで。 そんなのができるんか…
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