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225・はじめての ぎゃくむこうか

|д゜)基本、シンは倒す以外であれば、

無効化は元に戻しています。


「オイ! 囚人番号412番から417番!!

 そろそろ夕食の時間だ!


 あと夕食後、各自夜食の希望を聞くから

 それまでに考えておけ!

 それと来週には囚人・看守対抗ゲーム大会が

 ある!

 せいぜい腕をみがいておくんだな!!」


牢屋の前で看守が言うだけ言うと、離れていく。

それを聞いていた中の囚人たちは―――


「……相変わらず冗談みたいな牢獄(ろうごく)ですねえ」


顔の星のマークが特徴的な、かつてのスラムの

犯罪組織リーダー、リコージがつぶやく。


「ここも鉄格子(てつごうし)をのぞけば、

 どこの宿屋かと思いますよ」


「あー、味噌汁のいい匂いが……

 焼き魚の匂いもしますね」


「そういえばゲーム大会は何やるんです?

 俺はリバーシでいこうと思っているんですが」


部下たちも牢屋内の暮らしに慣れたのか、

口々に気の抜けた言葉を返す。


「私たちが、この公都の治安維持部隊に()く、

 ですか」


彼はゴロンとベッドの上に横になり、天井を

見上げる。


「服役後になりますが―――

 確か月金貨20枚って言ってましたぜ」


「それにあの部隊長2人も、気の良さそうな

 人でしたし」


「まあ刑期が終わるまでゆっくり考えてくれって

 話ですから。

 俺たちはリコージ様に従いますよ」


部下たちはそんなリーダーに声をかけ、

彼は体を横にして彼らに向けると、


「万能冒険者との約束でもありましたしねえ。

 引き受けるしか無いと思っていますけど。


 ただ、それでいてどうも拒否権はこちらに

 あるみたいな話になっていますし。


 ……よくわかりませんねえ」


どちらかというとリコージの疑問は―――

『どうして犯罪者である自分に対して、

対等な立場での交渉権があるのか』

に向けられていた。


ただそれは、シンが約束したのはあくまでも

『言う事を一つだけ聞いて欲しい』という

事であって、


治安部隊に入って欲しいが、その条件までは

考えられておらず……

ロンとマイルはただ契約時の待遇について、

彼と話し合ったに過ぎなかった。


だがそれは、メンツを重要視する裏社会の

彼らからすると異常な事で、


「あのお2人も腰が低かったですし―――

 礼儀正しくもありました。


 ああいう人の下なら、カタギになっても

 やっていけるかも知れませんねぇ。


 ま、とにかくやるだけやってみましょうか」


やがて夕食の時間を報せる鐘がなると、


「貴様ら、食事の時間だ!」


看守がやってくると全員が一斉にそちらを向き、

ワゴンに載せられた料理に注目する。


「きょ、今日は何ですか?」


「一夜干しとミックスフライ定食だ!

 デザートはプリン!

 ソースとタルタルソースは好きなものを使え!

 酒はビール1杯までだ!!」


ガチャガチャと鉄格子越しに食事が牢内に

運び入れられる。


それらの作業が一通り終わると、看守は

小声で、


「それとさっき厨房をのぞいたんだけど、

 夜食はそばかうどんっぽかったな。


 ここの料理人は鬼人族もいるから、

 期待していいぞ」


それぞれの牢屋には決まった担当者が

()てられており……

今では顔なじみと言うか、誰も見ていない

ところだと親しく接する看守も多く、

フレンドリーに会話する。


「それにしてもここは、罪人だというのに

 すごく居心地が良い場所ですねぇ。


 出来ればずっといたいと思ってしまいますよ」


「ははは、まあ俺もそうだった。

 ケチなコソ泥で捕まって、ここに収容されて

 いたんだけどさ。


 それが服役中に、『ここで働いて

 みませんか?』って言われてよ」


看守も元犯罪者だと聞いて―――

彼らは目を丸くするが、


「囚人はここにいる間に、出た後の希望職種とか

 聞かれるんだ。

 出所した途端にまた犯罪に走られちゃ

 たまらん、っていう理由らしいが。


 何でもここの領主様の方針なんだとよ。


 お前さんたちもいずれ聞かれるだろうけど、

 待遇はかなりいいと思うぞ」


実はすでにスカウトされているのだが……

そういうケースが珍しくないという例をその目で

見て、リコージは目を白黒させる。


「あ、それと―――


 今度の囚人・看守対抗ゲーム大会の賞品、

 とある新作のお酒だと聞いたな」


「おおー、それは負けられませんねぇ♪」


「こっちもだよ。

 じゃあ、それまで頑張るんだな」


その会話が終わると、看守の彼はシャキッと

背筋を伸ばし、


「夕食運搬、完了!

 各自、食事を開始しろ!


 食事は1時間以内に終えるように!!」


そう大声で怒鳴ると彼はワゴンを押して……

廊下を去っていった。




「おとーさん、ただいま!」


「お帰り。『ガッコウ』はどうだった?」


短いが母親譲りの黒髪を揺らしながら、

ラッチが帰ってきた。


実はラッチはこの前まで児童預かり所へ

通わせていたのだが、


人間の姿だとすでに中学生くらいに成長して

いたので、『ガッコウ』へ入る手続きを進め、


季節的には今は5月くらいだが、遅めの入学を

果たし、通い始めていた。


「問題は無いか? メル、アルテリーゼ」


娘と一緒に帰って来た妻たちに話を振ると、


「まーまだ入って間もないし。

 でも大丈夫だと思うよー」


黒髪セミロングの童顔の妻が答え、


「問題はどちらかというと、児童預かり所の方が

 ありそうだが」


続けてドラゴンの方の、大人の雰囲気と体格を

持つ妻も続く。


「ん? 何かあったのか?」


私が聞き返すと妻二人は苦笑しながら、


「だって通う先が『ガッコウ』になっちゃった

 からねー」


「それで小さい子たちがのう。

 ラッチお姉ちゃんと離れたくないって

 言い出して、大変だったのだ」


そういえばずっと児童預かり所だったものなあ、

ラッチは。

みんなとすごく仲が良かったと聞いているし。


「それで、今は『ガッコウ』からの帰りに

 児童預かり所に立ち寄っているんだよ」


「休日もなるべく行くと約束しているでな。

 まあ段々と慣れるであろうが」


「そうか。まあお疲れ様。


 夕食の仕込みは終わっているから、

 手を洗って食堂へ行こう」


そこで私と家族は食堂へ向かい、家族団らんの

ひと時を過ごした。




「その話は本当ですか」


「わざわざそんなウソをつくために、緊急時用の

 『ゲート』を使ってまでここまで来ません」


ウィンベル王国王都・フォルロワ―――


その王宮の一室で……

国王であるラーシュ・ウィンベルは、

ランドルフ帝国王女・ティエラが極秘対談を

行っていた。


そしてラーシュ国王の隣りには、急遽(きゅうきょ)呼ばれた

ライオネルもおり、


「情報の確度はどのくらいですか」


グレーの短髪をした、四十代くらいに見える

前国王の兄が問うと、


「我が帝国の諜報機関―――

 それにドラセナ連邦からも同様の『忠告』が

 ありました。


 少なくとも大ライラック国が、急激な

 軍備増強に入った事だけは確実です」


パープルの長髪を眉毛の上で揃えた帝国の

王女が、静かに答える。


それを聞いた三十代前半の陛下は、ブロンドの

短髪をかきあげながら、


「それと……

 モンステラ聖皇国にも不審な動きあり、

 というのは」


「大ライラック国と秘密裏に、連絡を

 取り合っているフシがあります。


 ただそれが何のためなのかまでは、

 こちらでもつかめておりません」


その言葉に、ライオネルは鼻から大きく息を

長く吐き出す。


「叔父上」


現国王は肉親としての意見を彼に仰ぐ。


「……とにかく、スキを見せない事です。


 いくら何でも何の大義名分も無しに、

 攻めてくるとは考えにくい。


 しかしあの合同軍事演習を見て、警戒するのは

 仕方ないとしても―――

 何が開戦止む無しと決断させたのか。


 大ライラック国に、あれ以上の戦力・技術が

 あるとでも……?」


「それについては現在調査中です。


 そこで、しばらく『ゲート』を頻繁(ひんぱん)

 使用するご許可を頂きたいのですが」


ラーシュ陛下はうなずき、


「状況が状況です。許可しましょう。


 他には何か……」


と、そこでライオネルが片手を挙げ、


「ティエラ王女様、すまないが―――

 このまま公都『ヤマト』へ向かって

 くれないか。


 ジャンとシンの耳に一言入れておいた方が

 いいだろう。

 それも当人の口から聞けば信用性は高まる。


 こちらから例の魔力通信機を使って連絡して

 おくから、『ゲート』を使ってすぐに向かって

 欲しい」


そうして、ランドルフ帝国から情報を伝えにきた

彼女は、そのまま公都『ヤマト』へ急行する事に

なった。




「悪い方向に転がっちまったか。

 こればかりは何とも言えねぇが」


公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部……

そこの支部長室で、アラフィフだが筋肉質の

ガッシリした体格のギルド長が、白髪交じりの

髪をガシガシとかきながらつぶやく。


「ええと、あのー。

 それとおめでとうございます。


 こんな状況の時に来てしまいまして、

 申し訳ありません」


「あ、いえいえ!

 こればかりは何とも―――

 連絡もしませんでしたし」


ティエラ王女様が頭を下げるのを、私は

あたふたして止める。


「実際にどうなんだ?

 開戦する可能性は」


「それは、ライオネル殿も言っておりましたが、

 大義名分が今のところありませんし……


 すぐにどうこうという話ではないと思うの

 ですが、急激な軍事力拡大も事実ですので」


困惑しながらも受け答える彼女に私は、


「王族を寄越したという事は、ランドルフ帝国は

 その情報を軽視していないのでしょう。


 また『ゲート』を使ってまで情報を届けたと

 いう事は―――

 同盟国としてよほどウィンベル王国を

 信頼している(あかし)かと」


私の言葉に、王女様の表情が和らぐ。


「とにかくお疲れでしょうし……

 今日はゆっくりして行かれてはどうで

 しょうか。

 『ゲート』を使えばあっという間に帰国

 出来ますし。


 それにそちらから輸入した食材で、新たな

 料理も続々作られておりますよ?」


今度はパアッと明るい顔となり、ようやく

年相応の笑顔を見せた。




「びっくりしました……!

 ラッチちゃん、こんなに可愛くなって」


「えへへー♪」


その夜、ティエラ王女様は宿泊するため、

私の屋敷に来ていた。


公都『ヤマト』はようやく囲いは完成した

ものの、中の住宅はまだまだ造成中であり、


安い宿屋も簡易住宅も満杯で―――

ギルド支部の客室まで工事に従事する人に

貸し出していたほどで、


やむなく家に来て頂いたのである。


「しかしまた、キナ臭くなっているみたい

 ですねえ」


「人間の世界は面倒なものよのう」


妻たちも大陸クアートルの話を聞いて、

同情するように答える。


「まっ、後でゆっくり女同士、お風呂にでも

 入りましょう」


「不満を聞いてやるくらいは出来ようぞ」


「あはは……お願いします」


女性同士で意気投合したのか、楽しそうに

ティエラ様も返す。


「ボクはー?」


ラッチがそこに割って入ってくるが、


「んー、今回はラッチちゃんはガマンして」


「大人の話し合いだからのう♪」


それに対し、ラッチは不満そうに頬を

ふくらませるが、


「まあまあ。

 ラッチはまだまだ子供なんだよ。


 今日はお客様を優先してあげなさい」


私は父親として娘をなだめ―――

食後、妻二人と王女様はお風呂へ向かった。




「す、すごく広いですね……

 まるで公衆浴場みたい」


ドラゴン用に広くしてあるシンの屋敷の

風呂を見て、ティエラ王女は目を見開く。


「アルちゃん用でもありますから」


「確か我と同じ、ドラゴンを妻としている

 パック殿の家もこんな感じじゃぞ」


「なるほど……」


それを聞いて、彼女は何度もうなずく。


そして話し合う内に女子会は―――

段々と打ち解け、込み入った話に移行して

いった。




「そうなんですよねぇ……

 ホント人間って面倒なんですよ。


 私も下手に王族に生まれたばかりに……

 だって地位としては末端もいいところ

 なんですよ?


 それに『暴風姫ウインドストーム・プリンセス』という

 二つ名までついた日にゃ―――」


女性同士での話は最近の話題から、段々と恋愛、

恋バナの方へと移行していった。


「まー確かに、お貴族様や王族の女性なんて、

 政略結婚が前提みたいなものだもんね」


くだけた態度を通り越して……

ほとんどグチのような口調でティエラは語り、


「そうかのう?

 我が見たケースだと、結構恋愛していたような

 気もするが」


「アレはシンが絡んでいるからだよー。

 それにほとんど身分も違わない人も多いしー」


アルテリーゼの意見にメルが返す。


「って事はさー、ティエラ様に誰か気になる人は

 いるの?」


「おぶぇっ!?」


突然火の玉ストレートを投げ込まれ、

王族らしからぬ声を彼女は上げる。


「一緒にいた従者2人……


 まあ1人は年が離れておったが、ほれ、

 確かもう1人。


 アレはどうなのだ?」


「せっ、セオレムですか!?

 いえあちらも結構年は離れていますがそのっ!


 ……まあ、2人とも幼い、というより

 生まれた時から仕えてくれておりますので、

 どちらかというと兄や父親のような感情しか

 ありませんけれど。


 でもどうしてそのような」


あたふたと表情を変えながら、何とかティエラは

対応しようとする。


「あー、元奴隷とか従者と結婚したり、恋人に

 なったケース、知っているからね」

(■例1:ニコル・グレイス伯爵(養子)/

 アリス・ドーン伯爵令嬢

 ■例2:ミハエル/

 セシリア・ナルガ辺境伯))


「亜人や人外との結婚も珍しくなくなって

 おるし、今さらという感じかのう」

(■例1:ケイド/リリィ(魔狼)

 ■例2:ムサシ(ワイバーン)/

 アンナ・ミエリツィア伯爵令嬢))


その説明に彼女はふむふむとうなずき、


「小さい頃は2人とも大好きでしたけど、

 大人になったら、まあその。


 それに多分、わたくしが恋愛感情を持ったと

 しても……

 あの2人の性格上、それを知った途端姿を

 消すんじゃないかと」


「む~……」


難儀(なんぎ)なものよのう」


今度はシンの妻二人がうなずき合う。


「じゃあ、今はフリーっていうか気になる人は

 いないんだ?」


「い、いない事は無いんですが、その」


「お? 何じゃ?

 今まで散々もったいぶっておいて」


メルとアルテリーゼは彼女を挟むようにして

肩をくっつける。


「で、誰なの?」


「素直に吐くのじゃ。

 力になれるかも知れぬぞ?」


尋問のような問いに対し、ティエラは首まで

お湯に体を沈めて、


「そ、それは~……」


と、意中の人の名を明かした。




「さて、と……

 例の新石材加工の技術共有についても、

 今回の締結内容に入っています。


 さすがにタダってわけにはいきません

 でしたが―――」


「いえ、これだけでも望外の成果です。


 やはりこちらと同盟を組んで良かった……

 心から感謝申し上げます」


翌日―――

ウィンベル王国王都・フォルロワ。


その王宮内で、前国王の兄であるライオネル・

ウィンベルと……

ランドルフ帝国の王女ティエラは、各技術共有の

確認と締結を行っていた。


大ライラック国が不穏な動きを見せているとの

情報を得た、ウィンベル王国及び大陸各国は、

緊急通信での会談の後、


現状、防衛に関する技術だけでもと公開に

踏み切り、ティエラに渡す事にしたのである。


もっともそれはシン=ウィンベル王国の

最先端技術ばかりで、各国からの技術支援は

ほとんど無く―――

事実上一国の公開ではあったのだが。


「ではさっそく、これらの技術を持ち帰ろうと

 思います。

 マームード陛下にもよろしく伝えて

 おきますので……」


「こちらとしても、ラーシュ陛下の意向として

 同盟国が危険な目にあうのは見過ごせません

 から。


 では、お気をつけて」


そこで両者ともに席から立ち上がったが、


「あの、ライオネル殿。

 帰国する前に1つお願いしてもよろしいで

 しょうか。

 個人的な事ではあるのですが」


不意にティエラからの申し出に、ライオネルは

首を傾げるが、


「ええ、どうぞ。

 私が出来る事であれば」


そして二人は、ある場所へと移動する事に

なった。




「ん~♪

 人間の姿になったラッチちゃんも可愛い~♪」


「でもまだ小さいドラゴンの姿にもなれるん

 でしょう?

 無敵! 無敵過ぎるわぁ♪」


王都・フォルロワにある冒険者ギルド本部―――


そこの本部長専用の訓練場で、金髪を腰まで

伸ばした童顔の女性と……

眼鏡をかけた黒髪セミロングの秘書風の同性が、

人間Verのラッチを挟んで可愛がっていた。


「えーと、そろそろよろしいでしょうか」


私が声をかけると―――

サシャさんとジェレミエルさんがようやく

我に返り、


「はーい、いつでもどーぞー」


「本部長、それにティエラ様。

 準備は出来ていますか?」


二人の声の先は訓練場中央……

そこにライオット本部長とティエラ王女様が

対峙していた。


「俺を相手に模擬戦ですか。


 以前、自分が全属性である事は―――

 シンを相手に見せたはずですが」


「だからこそ、です。


 もし大戦に発展しそうなのであれば、

 あなたとの戦いは大きな経験となります」


ティエラ王女様がライさんにお願いした事……

それは彼と一戦交える事であった。


そしてそれはこちらも承知していた事で、


「ここまでは上手くいったけど」


「後はティエラと―――

 シン、旦那様の手にかかっておるぞ」


そう、昨夜聞いたのだが……

ティエラ王女様には意中の人がいたらしく、


それがライさんだと聞いてびっくりした。


さらにどうお近付きになればいいかと

相談されたのだが、昨日の今日なので

これといった作戦は立てられず、


一か八かぶっつけ本番の策を立てて、

こうして(のぞ)んだのである。


「しかし、一方的な申し出ですいません。

 何かそちらにご希望はございませんか?」


王女様が前国王の兄にたずねると、


「こういうのは賭けてこそ面白いものだからな。


 そうだなあ、定番だが―――

 負けた方は何か1つ、言う事をきくってのは

 どうだ?」


ライさんの答えに妻たちが反応し、


「おー、いいですね」


「そうこなくてはのう」


ここまでは思い通りに話が進んでいる。


だが同時にリスクもあるわけで……

まあライさんの事だ、彼女が負けても

理不尽な要求はしないと思うけど。


「ちなみにライさん、今回は私、

 ティエラ王女様の方を応援しますんで」


私がそう言うと、


「あ、本部長。

 私たちは当然ラッチちゃんを応援します」


「本部長の健闘をお祈りいたします」


「お前らは何しに来たんだよ」


サシャさんとジェレミエルさんの言葉に、

ライさんは呆れながら答え―――


そして模擬戦が始まった。




「おー、やはりすごいですね」


「さすが『暴風姫』と称されるほどの実力者。


 本部長の火球(ファイヤーボール)石弾(ストーンバレット)風刃(ウインドカッター)

 ものともしませんよ」


「ふえぇ」


ラッチを挟みながら、この施設のギルド職員が

感想を口にする。


確かライさんは全属性にして、しかも身体強化(ブースト)

使った時の強さは、ジャンさんが武器特化魔法(ウェポンマスター)

使った時より、若干劣る程度だという。


さらには奥の手で……

全属性の魔法弾(マジックショット)なるものまである。


実際、それらは私なら全て無効化出来たのだが、

(■28話 はじめての おうと参照)


魔法前提のこの世界なら、五本の指に入る

戦力であろう。


そして彼女の竜巻は、攻撃系の魔法を今のところ

全て弾き返していて―――

室内全体に暴風を巻き起こしていた。


ギャラリーを魔法から守る魔導具が発動して

いるので、こちらに被害は無いが……

対面のライさんは何とか踏ん張って立っている

状態だ。


「こりゃまた、完全に攻撃にして防御、だな。

 火も風も土も水も全部防がれちまうってか。


 じゃあ俺も、出し惜しみは無しだぜ」


ライさんがそう言うと彼の全身が光を帯び―――

室内が振動する。


全属性の魔法弾、その準備動作だ。

そして私は、その時を待っていた。


「今だよ、シン!」


「能力を使うのじゃ!」


メルとアルテリーゼもそのタイミングと

見たのか、私に能力発動を促す。


「魔法を封じる事の出来る魔導具は……

       ・・・・・

 この世界では当たり前だ」


その瞬間、室内を吹き荒れていた暴風が止まる。


「!?」


魔法発動準備中の本部長は目を丸くして驚く。


これがティエラ様に授けた策―――

(あらかじ)め彼女に魔力封じの魔導具の腕輪をつけて

もらい、それを無効化しておいたのだ。


そしてライさんが『切り札』として全属性の

魔法弾を撃とうとした時に、彼女の魔導具の

腕輪の無効化を解除。


つまり普段使う無効化の反対……

逆無効化を行ったのである。


無効化したのを元に戻せるのはかなり初期の

頃から知っており、


当然、そうすれば魔導具本来の効果である

魔力封印が働き……

ティエラ様の魔法は無力化され、


それを見た本部長は確実に動揺する。

そのスキに仕掛けてみては、というのが

策の内容だったのだ。


「後はティエラ様次第だけど……!」


「さてどうするかや……!?」


そう、私の策はあくまでもライさんのスキを

誘うだけ。


それから先は彼女が何とかするしかない。


「……いやああぁあああっ!!」


と、叫ぶようにティエラ様は対戦相手に

突っ込んでいき、


「うおっ!?」


タックルのように体当たりした後、ライさんは

仰向けに倒れ―――

彼女が馬乗りのように上になっていた。


「これは……」


「まさか本部長が!?」


サシャさんとジェレミエルさんもさすがに

驚きの声を上げ、


「参ったねぇ、こりゃ。


 降参、降参。

 あんたの勝ちだ」


と、上半身に乗っている彼女に向けて本部長が

声をかけるが、


「あ、あ……?

 わわ、わたくしっ、えっ!?


 まま、待ってください!

 今魔力が使えないのでその……!


 ……ふぃいい~……」


顔を真っ赤にしたティエラ様は―――

そのまま気絶して、ライさんに体を重ねるように

倒れ込んだ。




( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

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[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★  パック夫妻に半導体の基礎知識と応用例を伝えれば、 魔力で動く計算機等を造りませんかね?
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 逆転の発想ですか。 そう言えば昨夜だったかな。プロジェクトXですが、心臓のパッチ開発で福井の町工場から縦横ともに倍に、つまり四倍に拡がる繊維の開発をしていまし…
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