224・はじめての かんゆうとうでだめし
|д゜)妊婦追加(ある夫婦が久しぶりに登場)
「おかーさん!
試練終わったよー!」
「レアンドロさん、キアーラさんから
合格をもらえたから―――
まあ大丈夫だと思うけど」
『試練』をクリアした後、ドラゴンの巣で
一泊した翌日……
私は娘、ラッチと共に自宅の屋敷に戻って、
妻たちに無事を報告する。
「お帰りー、2人とも」
「まあ困ったであろうな向こうは―――
後で我からも言っておくわ」
アジアンチックな幼顔の妻と、対照的な
堀の深い顔とプロポーションを持つドラゴンの
方の妻が出迎える。
ショートの黒髪をした中学生くらいのラッチは、
自分のお母さんであるアルテリーゼに抱き着き、
「やっぱりおとーさんはすごいね!
魔力溜まり、ぜーぶん消しちゃったもん!」
「その後のラッチもすごかったけどな。
大型の魔物をあの姿で蹴散らすなんて」
そう、実際自分がやったのは魔力溜まりの
無効化のみで、
ジャイアント・ボーアや巨大なバッファロー
らしき魔物が近付くと、それに私の能力を
使う前にラッチが突撃。
倒してしまったのは仕方が無いので、
『お土産』としてそれらをまず、
レアンドロ夫妻にドラゴンの巣まで運んで
もらったのである。
それでそこで一泊する流れになった。
なお、またドラゴンたちが試練で使うかも
知れないので、無効化は解除しており、
また解体した後、巣で使う分の他は
公都『ヤマト』まで運んでもらう手配まで
して頂いた。
多分明日中には到着するだろう。
「それよりシンー、お祝いの品がどんどん
屋敷の中に運び込まれているよー」
「人間の住処にしては広過ぎるとも思って
いたが、今は感謝じゃ。
以前の屋敷であればあっという間に満杯に
なっていたであろうのう」
聞くとウィンベル王国の付き合いのあった貴族・
豪商だけではなく……
各国からもお祝いの品が届き始めているとの事。
改めていろいろな人に関わり―――
お世話になってきたのだなあと思う。
「あとねー、新生『アノーミア』連邦の
あの3人?
ひとまず帰ったみたいだよ」
「その前にお土産を大量に注文して
いったがの」
あー、跡継ぎ問題に関する私の意思は
あっさり答えたからなあ。
探ったり調査したりする意味も無くなったし、
いったんその情報を持ち帰ったのだろう。
「そういえば公都の新たな『囲い』は
完成したんだよね?」
私がふと話題の方向を変えると、
「そだねー。
中では建築ラッシュが始まってるよー」
「魔界から石材が大量に送られてくるし、
王都で開発した新技術もある。
今はラミア族が仮の簡易住宅を作って、
ちゃんとした住居が作り終わったら、そちらへ
移り住むという事になっておるらしい」
あのコンクリートもどきか。
石材だと火事対策にもなるし、何より木材消費が
抑えられるのがいい。
今は大自然がいっぱい状態だが……
すぐに資源は枯渇するものだしなあ。
そう考えているとアルテリーゼがクスクスと
笑い出し、
「どうしたのアルちゃん?」
「いや、メルっち。
昔の我やシャンタルを思い出してのう。
2人ともあの『試練』を受けておるし」
そういや彼女たちはドラゴンだ。
当然、今回ラッチが受けてきた『試練』も
経験済み。
それで思い出し笑いをしてしまったのか。
「……ン?
シャンタルさんもあの『試練』を受けて
いるって事は―――
シャンタルさんは何を持って行ったんだ?」
『試練』は条件として、何でも一つだけ
持って行ってよい事になっている。
彼女が何を持って行ったのか興味を持ち、
聞いてみるが、
「それよ、シン。
あやつは大きなカゴを持って行こうと
したのじゃ。
それを思い出してのう」
「?? 何でカゴ?」
メルが聞き返すとアルテリーゼは苦笑しながら、
「『魔力溜まり』の生き物を持ち帰って、
観察しようとしたのだ。
一応あの『試練』は……
危険にどう対応するのかを見るのが目的の
一つ。
それがわざわざ危険物を持ち帰ろうと
いうのだから」
「アレ?
でも『持って行こうとした』っておかーさん
言ったよね?
という事はダメだったの?」
母親の言葉に今度はラッチが質問すると、
「観察と捕獲目的と聞いた事で、さすがに
却下された。
多分あやつが最初にして最後の、『試練』で
持ち物を却下されたドラゴンだと思う。
それで筆記用具に変更しておったわ」
それでも研究心は折れなかったか。
そこはさすがというか何というか。
「じゃ、そろそろお昼だし準備する?
アルちゃん」
「そうだのう。
もう米はとぎ終わっておるし」
二人が立ち上がろうとしたので、私は慌てて、
「いや、2人とも安静にしていないと」
と、料理は自分がやると言おうとしたところ、
「もー、まだまだ大丈夫だって!」
「それに産婆も言っておったぞ?
適度に動かなければ難産になると。
産まれるのはまだまだ先の話じゃ。
ほれ、ラッチも来て手伝え」
「はーい!」
と、家族は厨房へと向かい―――
私は一人それを見送った。
「オメーのところもかよ、カルベルク」
「しょうがねえだろ、出来ちまったもんは」
翌日、『試練』でラッチが倒した獲物が運搬
されるのを冒険者ギルド支部で待っていると、
思わぬ来客があった。
頬に十字の傷が入った四十代の強面の男性、
カルベルクさんと……
赤い長髪に機動性重視なのか露出の多い
服を着た、二十代前半の女性―――
エクセさんが私とジャンさんの前に、テーブルを
挟んで座る。
「あたいたちの方だって驚いたよ。
まさかレイドさんに子供が出来てたなんて」
「シンの話題で持ち切りで、それらの情報が
入って来なかったんだろうけどよ」
カルベルク夫妻は飲み物に口をつけながら語る。
「それはそれとして、だ。
もう結婚したって事か? お前ら」
「仲間内でささやかにやったからな」
アラフィフの筋肉質のギルド長が、
その白髪交じりの頭をガシガシとかきながら
たずね、それに別の町のギルド長が答える。
「何で呼ばねぇんだよ。
冷やかしに行ってやったのに」
「だから呼ばなかったんだよ!!
ってのは半分冗談だが、エクセが孤児院出身
だったろ?
俺もエクセも、ギルドぐるみで孤児院を
支援していた事は、町の連中なら誰でも
知っているが……
『それ目的』で孤児院を支援していたと
取られちゃかなわんからな。
だからエクセと相談して、身内だけでって
話になったんだ」
苦笑しながらのジャンさんの問いに、結構
真面目な答えが彼から返ってきた。
将来、嫁にする目的で子供を引き取る人間も
いると言っていたもんなぁ。
それでカルベルクさん、最初はエクセさんの
求婚を断っていたし。
(■170話 はじめての どらごんのす参照)
「とはいえさー、結局町総出でお祝いに
なっちまったけど」
「まあ、それはそれとしてだ。
エクセの出産はこの公都でと思ってよ。
それで予約なり手続きとか教えて欲しくてな」
年の差夫婦の夫の言葉に私とギルド長は
首を傾げ、
「そりゃ別に構わねぇが……何でだ?」
「あちらでは都合が悪い事でも」
するとカルベルクさんは首を左右に振って、
「そんなんじゃねぇんだ。
ただここの噂は聞いている。
死産の赤ん坊でも生き返らせたとか―――
初産だし、少しでも信頼出来る場所に
預けてぇ。
となるとどうしてもここ一択になる」
「それにものすげー発展しているしな、ココ。
医療でも治安の面でも、安心して産めると
思ってさ」
魔狼の赤ちゃんを心肺蘇生させた事はあったが、
そんな噂になっているのか。
(■82話 はじめての そーす参照)
「そういやここ、今何人くらいいるんだ?」
「確か8千人くらいだったと思う」
ギルド支部長同士が話し合い、
「そういやちょうどいい。
後で手伝え、カルベルク」
「ん? 何かあるのか?」
ジャンさんがグイッ、とコップを手に取って
中身を飲み干すと、
「今の囲いが出来るまでは、外側がスラム化
していてな。
もうそいつらの公都民登録は完了しているが、
連中をまとめていたヤツがいる。
要はまあ……裏の人間だ」
もともと無許可、非合法に公都周辺に勝手に
住み着いていた人たちだからなあ。
そんな人たちをまとめる人物―――
それが反社会的な人間であるのは仕方なく。
そして正式に外側の住人が公都民として
認められたからには、放置出来なくなったの
だろう。
ドラゴンやワイバーンが飛び交う都市で、
犯罪を行おうとする不届き者がいるのか?
という疑問はあるだろうけど、
外部からの攻撃に対しては、彼らは確かに
有効だが、内部でのトラブルについては実は
あまり対応出来ない。
対処しようとすると被害が大きくなり過ぎる上、
人に紛れ込まれたりしたら、どうにもならない
という事情もあった。
「オヤジ、それならあたいも行くけど」
「だからお前はまず診察を受けろ。
さっさとパックさんの病院に行って来い」
エクセさんの申し出を夫が却下し、
「私はどうしますか?」
「ゴールドクラスが2人行くんだから
大丈夫だろ。
たまには体を動かさねぇとな」
「そうだな。俺のところもすっかりお上品に
なっちまってよ。
体がなまってしょうがねえ。
ちょっくら運動させてもらうとするか」
私の申し出もあっさり断られる。
ジャンさんは『武器特化魔法』、
カルベルクさんは『疾風のカルベルク』という
二つ名持ちにして『飛走』の使い手。
そして数時間後……
主な反社会組織のメンバーは全員逮捕され、
地下牢に収容されたと報告が上がった。
「ズルズル……
まーた新しいモンが増えまくってんなぁ、
この公都は」
夕食時、宿屋『クラン』の食堂で―――
わさびとネギを薬味とした冷やしソバを
エクセさんがすする。
「しかし、エクセさんも子供が出来たッスか」
「びっくりしましたよ。
パックさんの病院の待合室にいたら、
突然入って来たんですから」
褐色肌の青年・レイド君と、その妻である
ショートカットの丸眼鏡の女性・ミリアさんが
チキンカツのみぞれ煮定食を食べながら話す。
「今旦那さんは?」
「オヤジなら、ここのギルド長と一緒に
例のスラムの反社会勢力?
をとっ捕まえた後の処理に追われているって」
冷やし中華を食べるメルの質問に、エクセさんは
何気なく答え、
「あー、少し騒がしかったがアレか」
「何それー、ボクも行きたかったなー」
アルテリーゼとラッチが母子で会話に加わる。
「アンタがラッチちゃんかー。
可愛くなっちゃって。
あたいの子供が息子だったら、嫁に来ない?」
他領の次期ギルド長が軽口を叩くと、
「いやー、今結構それ絡みの話が来ているみたい
なんですよ。
いったん王家預かりとなっているようですが」
これはお祝いの贈り物を受け取っている時に、
ライさんからの手紙も来たのだが、
ラッチの性別が女の子と判明した途端、
王都と有力貴族がこぞって動き出し、
『ウチの息子の嫁に!』『いや孫の許嫁に!』
とヒートアップする事を恐れ、
その前に王家を通じドーン伯爵家に一言あって
然るべきだと、釘を刺してくれたとの事。
「あー、今まで子供が出来たって事で、
そっちばかりに目が行ってたッスけど」
「ラッチちゃんの事もあるんですね」
レイド夫妻がうなずきながら語る。
「児童預かり所で初めてラッチちゃんを
見た時は、本当に驚いたよ」
「ドラゴンの赤ちゃんだとずっと思って
いましたから」
隣りのテーブルで、長身だが細身のギル君と、
亜麻色の三つ編みが特徴的なルーチェさんが
夫婦揃って話しかけてきて、
「ラッチ、児童預かり所や『ガッコウ』では
どう?
人間の姿になった事で何か変化とかは」
私がそれについてたずねると、
「結構驚かれたけど、思ったより大きく
なったのと、ボクより小さい子がいっぱい
いたからねー。
すぐ『おねーちゃん』って小さい子たちに
甘えられたよ」
そう言って彼女は胸を張る。
今までは赤ちゃん扱いだったけど、
『おねーちゃん』として頼られる事が
嬉しいらしい。
「あ、そういえば女将さん。
梅干しやトマト、みかんや梨ってあります?」
「あるよー。
ああ、妊娠しているんだもんね。
酸っぱいものやさっぱりした味覚のものは、
他の妊婦さんにも好評だよ」
エクセさんの注文に、髪を後ろで束ねた
四十代の女性、クレアージュさんが料理を
運びながら答える。
「やっぱりそういう注文ってありますか?」
「妊娠すると、今までの食事の匂いがダメになる
人って、結構いるからねえ。
今はいろいろな食材があるから、ウチとしても
助かっているよ」
私の質問にも答えながら、女将さんはテキパキと
料理を運んでいく。
「あ、何となくわかるかも。
気持ち悪いんだけど、何か食べないと
落ち着かないっていうか」
「そういえば我も、炊けたばかりのご飯の匂いで
気分が悪くなる時があったのう」
「あ、わかりますわかります。
『え? 何で?』って思ったんですけど、
今考えるとあれが悪阻かなって」
そこでメルとアルテリーゼ、ルーチェさんが
話し出したのを機に―――
他の妊娠中の人やすでに子供を産んだ事のある
女性陣が集まって、話が盛り上がった。
「?? どうしたんですか?
ロンさん、マイルさん」
ブラウンの短髪に、こげ茶のボサボサ頭の
兵士姿の二人が訪問して来たのは、翌日の
昼過ぎだった。
メルとアルテリーゼは『新ママ』たちの会合が
あるらしくお出かけ、
ラッチは児童預かり所へ行っており、私一人しか
いなかったので自分で対応する。
とにかく応接室にお通しして、用件を聞く事に。
そして彼らが話し始めた内容は、
二人は出会った頃はここの門番だったけど、
今は門番兵長にまで出世し、
今回公都人口が大幅に増加する事を受けて、
公都部隊長になる事を打診されているとの事。
警察署長みたいなもので、事実上の治安機関の
トップらしい。
「おお、出世しましたね。
おめでとうございます!
用件はその事でしたか」
私が祝福すると、彼らは微妙な表情となり、
「それがですね……
先日、ギルド長とカルベルクさん―――
公都内で捜査というか大暴れしまして」
「それで、スラムを牛耳っていた組織の
トップと思われる『リコージ』、
そして複数の幹部クラスを捕獲したん
ですけど。
それを俺たちの治安機関に所属させるか
どうかで、悩んでいるんですよ」
うーん、その話は知っているけど……
そんな事になっていたのか。
確かに今の公都では、殺人でさえなければ
(傷害は程度によるが)
服役期間を終えた後、ここで更生を兼ねて
職に就く者が多い。
これはジャンさんと相談して決めた方針でも
あるのだが。
そして今、治安対策に割ける人員は圧倒的に
足りていないとも聞く。
それを考えると、元犯罪者の彼らは適材適所とも
言えるが―――
「トントン拍子に出世しましたけど、
何せ俺たちは元はただの門番」
「そんな俺たちの下で、連中が大人しく従って
くれるかなあ……って。
魔法だってせいぜい身体強化くらいしか
使えないし」
その心配はわかる。
ジャンさんやカルベルクさんのように、
ゴールドクラスというわけではなく、
レイド君やミリアさんのように―――
特殊タイプというわけでもない。
魔法前提のこの世界では……
いくら地位が高くても、実力勝負となれば
止める手段が無い、というのは厳しいのだ。
それが治安機関ともなればなおさら―――
「それで俺たちが悩んでいたところ、
ギルド長から『シンにでも相談しろ』って
言われまして」
「奥さんたちに子供が出来たばかりで、バタバタ
しているところ、申し訳ないとは思ったん
ですけどね……」
確かにここ最近、いろいろと忙しくはあったが、
それは自分が『やった』結果なのでそれはまあ。
それにロンさんとマイルさんとは異世界に
来てから付き合いも長い。
何とかしてあげたいとは思うが―――
でもこれはかつての犯罪者、それも組織のトップ
クラスを彼らに従わせなければならないもの。
私が無効化して勝ってハイおしまい、という
ものではない。
せめて彼らにも私と同じくらいの伝手や人脈が
あれば……と思っていると、
「ん? でもお2人は私の知り合い、友人でも
あるわけで―――」
そういえば以前この二人から、
『シンさんと親しくしているせいか、俺たちまで
何か周りからすごい人間のように見られて困る』
とグチをこぼされたような。
それならいっそ、それを利用して……
「どうしたんですか、シンさん?」
「何かいい案でも思いつきましたか!?」
そして私は、一つの策を彼らに話し始めた。
翌日の夕方、冒険者ギルドの訓練場に……
とある一団の姿があった。
「何ですかねぇ。
ここで何をやらせようって言うんでしょうか」
顔に星のマークを道化師のように張り付けた、
細身の男がつぶやく。
「リコージ様、周囲にはドラゴンやワイバーンも
おりますが」
「まさか食われちまうんじゃ」
怯える部下たちの言う通り、周囲にはぐるりと
ドラゴン、ワイバーン、それにラミア族や魔狼、
獣人・亜人たちもいて、中には人間も
混じっており、
それらを前に、組織のトップであるリコージは
おどけて見せる。
「えっとぉ、あまり私はオイシクないですよぉ?
それにナマは消化に悪いとも言いますしぃ?」
それを側で聞いていたギルド長は、
「安心しろ。
別に取って食うために呼んだんじゃねぇよ。
周りのドラゴンやワイバーンたちは見張りだ」
「で、何をしろってんですかねぇ?
痛いのは嫌なんですけどー?」
するとジャンドゥは―――
一段せり上がった円形の舞台のような場所を
指差して、
その上には一人のアラフォーの男がすでに
立っており、
「あそこにいるのは『万能冒険者』、シンだ。
お前らに興味があるらしくてな。
対戦をご所望だ」
それを聞いた犯罪者たちはざわつき、
「え? 処刑? これから死ぬんですか私?」
彼らも『万能冒険者』の噂自体は知っており、
リコージもおどけながらも死を覚悟する。
「別に死ぬ事はねぇよ。
お前らが3回、何でもいいからシンに
攻撃を与えたら、放免の上金貨100枚
出すそうだ。
逆に出来なかったら言う事を一つ聞いて欲しい
ってよ。
やるかどうかはお前さんたち次第だが……」
その提案に部下たちは、
「や、やりましょうよボス!!」
「リコージ様、俺たちなら―――
3回くらい余裕ですって!」
口々に賛成する部下たちとは違い、にやけていた
リコージは両目を閉じて、
「……舐められたもんですねぇ。
『抵抗魔法』の使い手とは
聞いてますけどぉ?
使う間もなくカタを付けてあげますかぁ♪」
そう言うと彼らは、シンと同じ円形の舞台へと
上がった。
「ギャラリー無しの模擬戦は久しぶりですね」
「あー、今は全部『神前戦闘』に
取られちまっているからなあ」
セコンドのように付くジャンさんと話し、
私は彼らと対峙する。
ピエロのようなメイクをしているのが、
組織のボスであるリコージで―――
その周囲に五人ほどの部下を従えている。
「もう始めてもよろしいですか?
旦那ぁ♪」
からかうように彼は声をかけてきて、
「はい。いつでもどうぞ」
と、私の言葉が合図のように、一気に彼らは
私を囲むような配置につく。
「……1回目は外してあげてね♪」
そうリコージが言うと、
「えっ!?」
「おー、やっぱスゲェな」
私とジャンさんが対照的に同時に反応する。
四方八方から魔法攻撃―――
火球・石弾・風刃が
私の周囲を通り過ぎ、もしくは足元に
撃ち込まれたのだ。
「これが・私の・『認識阻害』でーす♪
ご理解頂けたでしょうか?」
大仰なポーズを取って私にお辞儀する。
「さすがにゴールドクラスには通用しません
でしたけどねぇ。
貴方には驚いて頂けたようで何より」
ジャンさんとカルベルクさんは彼らと戦い、
確保・拘束している。
そこはやはりゴールドクラスという事か。
「いや、びっくりしました。
でもどうして外したんです?
あの一撃で勝負はついたでしょうに」
「いやあ、私どものような『裏社会』の人間は、
舐められた終わりなんですよぉ。
調子に乗っている旦那に、意地を見せた
だけです♪」
まあ確かに、いきなり呼び出して攻撃を
当ててみろというのは……
いくら犯罪者とはいえ侮辱と感じても
無理は無い。
「確かに、ぶしつけな申し出でした。
そこは謝ります。
では続きをお願いします」
「いいですねぇ。
礼儀正しい人間は私も好きですよぉ♪」
そして再び戦闘の姿勢に入ると、
「私の『認識阻害』は―――
旦那が『抵抗魔法』を発動させるより
速いですよぉ♪
それにぐるりと囲まれている状況で……
全方位対応なんて不可能でしょう?」
この世界の『抵抗魔法』は、相手の魔法に
自分の魔法をぶつけて『相殺』するような
イメージのものだ。
そして恐らく彼は、一定の範囲内のとある
対象に対する認識を出来ないようにして、
対応させないようにする事が可能なのだろう。
そしてその対象は部下と自分自身。
何も無いところからの突然の攻撃は、
気付いても即座に対応は不可能。
それをものともしないゴールドクラスが
おかしいだけで―――
それにこの人物、魔法を単体ではなくきちんと
『運用』している。
これはかなり有能な人材だ。
「じゃあ、次で決めさせて頂きます。
金貨100枚も頂きますよぉ♪」
余裕の表情の彼を前にして、
「私の半径30メートル以内に……
火・風・土もしくは認識を阻害させるような
魔力・魔法など、
・・・・・
あり得ない」
と、小声でつぶやく。すると―――
「さぁて、覚悟は……
……っ!?」
「ボ、ボス!! 魔法が!!」
「まさか『抵抗魔法』!?
し、しかし魔力の発動は―――」
慌てふためく部下たちを横目に、リコージは
肩をすくめて、
「……ちょーっと遊び過ぎましたかねぇ♪
まさか発動させる気配すら見せないとは。
さすがは『万能冒険者』。
私たちの・負・け♪」
そして潔く敗北を認め、部下たちと共にその場で
座り込む。
と、ちょうどそこへ鎧姿の二人が現れ、
「シンさん!」
「もう終わりましたか?」
ロンさんとマイルさんが声をかけてきて、
「はい。腕試しは終わりました。
彼らなら十分戦力になるかと」
「……戦力、ですかぁ?」
リコージが聞き返してくると、
「はい。みなさんには服役後、この公都の
治安機関に所属して頂きたく。
そのテストとして、この度公都部隊長と
なられるロンさんとマイルさんから、
今回の件を頼まれたんです」
すると彼らは品定めするかのように、
二人の顔をジロジロと見る。
「(何なんですかねぇ?
この人たちが組織の長で本当に大丈夫
なんでしょーか?)」
「(魔力もそれほどありそうじゃねぇし)」
「(よくこれで公都の治安を任せられて
いるよな……)」
リコージたちがそう考えていると、突然
地響きが訓練場全体に響き―――
振り返るとドラゴンやワイバーンが歩み寄り、
ある程度距離が近付いて来たところで、
人外から人間の姿へと変わり、
「ロンさん、マイルさん。
いつも夫がお世話になっておりますー」
「また出世するそうじゃなあ。
今後ともよろしくお願いしますぞ」
まずはメルとアルテリーゼが挨拶し、
「この前はウチの子が迷子になったところを、
すぐに見つけて頂いて……」
「あ、そうそう、ロンさん!
あの屋台で働いている獣人族の子とは、
うまくいっているんですか?」
と、亜人・人外が集まって挨拶がてら、
雑談に興じる。
それは取りも直さず、対等もしくは敬意を
持たれているという事であり―――
それを見ている彼らは案の定目を丸くして
硬直していた。
「……なるほどねぇ♪
そもそも『万能冒険者』と対等に話せる
人間が、弱いはずもない、か。
そりゃあ治安を任されるはずだわぁ♪」
「えーと、では」
私が彼に返事を促すと、
「私ども一同、ここで働かせて頂きまーす♪」
と、リコージさんと部下たちは一斉に、
ロンさんとマイルさんに向かって頭を下げた。
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
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(;・∀・)カクヨムでも書いています。
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【ロートルの妖怪同伴世渡り記】【毎日更新中!】
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