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221・はじめての だいじん

|д゜)久しぶりに長くなってしまった

(計画性が無いともいう)


「おーし、集まったようだね。

 それじゃ今後の方針について話し合って

 いくよー」


ドラセナ連邦の首都島・レイブン―――


木製の南国らしい巨大な建築物の中で、

アラサーの真っ赤な長髪を持った女性が、

部下たちを前に会議スタートを告げる。


ドラセナ連邦はトップが女帝イヴレットと

いう事になってはいるが……

一応合議制を取っており、国家としての

戦略や決定をする際は、連邦各国から代表者を

集めての会議を開いていた。


「今回―――

 シルヴァ提督の姿が見えないようですが」


出席者の中の一人がそれについて疑問を

口にすると、


「あー、アイツは今ランドルフ帝国に滞在して

 もらっている。


 帝国の同盟国であるウィンベル王国の人間に

 知己(ちき)があるのでな。

 そこでしばらく情報収集や、あちらの

 大使館との連絡役をしているよ」


「たいしかん?」


続けて出た新しいワードに、代表者たちは

顔を見合わせる。


「その国と国交のある国々の代表のために、

 用意した施設だ。


 ランドルフ帝国は辺境大陸の各国と、

 国交・同盟を結んだからな。


 つまりその国と連絡を取りたきゃ、

 そこへ行けばいいってこった」


「ほお」


「そのような物が」


感心するような言葉があちこちから発せられる。


この世界、似たような施設はある事はあったが、

それは同郷の人間が用意するようなもので、


使節団や使者は王宮なり国が用意した宿泊施設に

泊まる事が多く、


また短期的な滞在しか必要無かった事もあり、

それで十分だったのである。


「まあそれはそれとして、だ。


 現実問題として、あの戦力を敵に回すのは

 愚策(ぐさく)だとアタシは思う。


 それにあちらからも、ドラセナ連邦の今後、

 見通しについて……

 いろいろと教えてもらったしな。

(■216話

はじめての かんきん(たいしかん)参照)


 まずは漁をする船の確保―――

 そして合法的に労働力の募集をする事。


 それらについて話し合いたい」


「そうですな。

 釣り竿という魔導具は簡単に作れそう

 なのですか?」


「労働力募集についても、これまでの事が

 あるから警戒されるかも知れませんが、

 背に腹は代えられない連中はいるでしょう」


そして女帝の言葉を皮切りに様々な議論が

行われた。




「それじゃあ、頂くとしようか」


「「「はっ!」」」


数時間後、キリのいいところで議論はいったん

休憩となり、


食事を交えての歓談へと移行した。


例の海鮮丼やカップラーメンを始め、

ボーロ(カレーライス)、ソバやウドンなどに

各代表が舌鼓を打つ。


しばらく『うまい』『魚が生で食べられるとは』

などの賞賛(しょうさん)が続いたが、


「しかし、醤油や各種調味料を海の向こうに

 頼るというのは、心もとないですな」


ふと誰かがそう口にすると、


「ある程度は帝国でも作り始めているらしい。


 あと、醤油や胡椒(こしょう)は鬼人族が作っていると

 聞いた」


女帝イヴレットの言葉に、全員が微妙な

表情となる。


彼らに取っては鬼人族も奴隷、商品の一つとして

扱った事もあり、


地理的には一番近いが、これまでの経緯から

交渉は難しい相手だと誰もが思った。


だが続けて女帝の口から、


「例の合同軍事演習の特別顧問?

 そいつが鬼人族とも伝手を持っていた

 ようでな。


 シンと言ったか―――

 もし鬼人族と交易するつもりなら、

 自分の名前を出してもいいとさ。


 まったく、至れり尽くせりな事だ」


それを聞いた各代表は互いに顔を見合わせ、


「ま、割増料金になる事は覚悟しねーとな。


 カタギになるのも楽じゃねーよ」


女帝イヴレットのぼやきにも似た言葉に、

全員が苦笑し、やがて大笑いに発展した。




モンステラ聖皇国、その首都・イスト―――


さらにその中央にある大聖堂の中で、議論が

交わされていた。


「白翼族様や天人族様のいる大陸や、彼らと

 友好関係にある国々との国交を結ぶ事に

 異論はありません」


「ただ今すぐ、というわけにはいかないかと。


 軍事力を見せつけられて屈したと取る連中が

 出てこないとも限りませんし……」


ランドルフ帝国で合同軍事演習を見て来た

使節団の報告をどう扱うか―――


聖皇国の意思決定機関、上層部が集まり、

その事について様々な意見が噴出(ふんしゅつ)していた。


「それにしても水中戦力とはデタラメ過ぎます。


 ゴーレムが水中から飛び出し、海上にあった

 軍船を次々と撃沈したと……


 本当に変身や幻影魔法を使われたわけでは

 ないのですな?」


「それについては何度も申し上げた通り、

 彼らはみな正常を保っておりました。


 それに一使節を騙すのならともかく、

 クアートル大陸の他の3大国家を(あざむ)くなど、

 リスクが大き過ぎます。


 なので事実と認識した方がよろしいでしょう」


疑いの意見が出た途端、即座に否定される。


「メルビナ大教皇様のご意見は……」


その言葉に、組織のトップにしては若く見える

青年に注目が集まる。


「向こうから敵対されているわけでもなし、

 さらに白翼族様や天人族様と良好な関係である

 国々と、事を構えるのは論外です。


 向こうはさらなる交易を望んでいるとの事。

 しばらくはそれで様子を見るべきかと」


その言葉に周囲はいったん落ち着くが、


「しかし今回―――

 アウリス殿が帰国を拒否されたと聞いて

 おりますが。

(■214話 はじめての ゆうかいそし参照)

(■アウリス=ベッセルギルドマスター)


 それにランドルフ帝国は、亜人や人外どもと

 友好関係を築く方針だとか。


 全ての種族は大精霊様に従うべし、という

 モンステラ聖皇国の教えとは相反するもの。

 とても相容(あいい)れるものではありません」


大教皇と同じくらいの年齢の青年が、突然

口を挟む。


「レオゾ枢機卿(すうききょう)


 アウリス様は協力者です。

 お味方であって配下ではありません。


 あと何度も言っておりますが、いい加減に

 その種族差別主義を直しなさい」


「これはこれは。

 メルビナ大教皇様のお言葉とも思えませんな。


 大教皇様は、大精霊様のお言葉を疑うと

 仰るのでしょうか」


組織のトップがたしなめるが、彼は一向に

意に介さず、メルビナ大教皇は言葉を重ねる。


「大精霊様は、全ての種族は自分に従うべし、

 などという言葉を残されておりません。


 大精霊様のお考えを()じ曲げて解釈する事こそ

 不敬(ふけい)でありましょう」


続けて注意され、さすがにレオゾ枢機卿も

頭を下げ、


「ご不興(ふきょう)を買いましたかな。

 申し訳ございません。


 私はこれにて失礼させて頂きます」


そう言うと席を立ち、静かに退室した。


「……申し訳ございません、大教皇様。

 我ら枢機卿の中にあのような者がいるなど」


「まだ若いゆえ、過激になりがちなのは

 わかりますが」


彼が去った後、口々に批判と擁護半々の言葉が

他から話される。


「そういえば、ランドルフ帝国も公聖女(こうせいじょ)教を

 国教としておりますが―――


 最近、排他的な主張をする者たちが

 こぞって重役から外されたとか」


「そういう背景もあるのであれば、今後

 他種族に対する差別的な言動は控える

 べきでしょう。


 みなさまも行動は慎重にお願いします」


メルビナ大教皇が方針を示し、それを最後に

会議は終了した。




大ライラック国、首都・マルサル―――


その王宮で、一つの審議がなされてた。


「空中戦力はわかる。

 水上戦力も。


 だが、水中戦力というのは……」


「使節団が持ち帰った試作品を否定は出来ん。


 となると、水中戦力なるものもまた事実と

 認めるべきだろう」


ランドルフ帝国で行われた合同軍事演習と、

また彼らが帝国上層部から手に入れた新技術に

ついて、


上層部は蜂の巣をつついたような騒ぎと

なっていた。


大ライラック国はかつてのランドルフ帝国、

マルズ帝国と同様の覇権国家であり、


クアートル大陸での軍事力は、ランドルフ帝国、

モンステラ聖皇国、ドラセナ連邦を上回る

超軍事国家であった。


またこの国も周辺諸国を謀略と武力で

屈服させてきた歴史があり……


その歴史が長いほど、また侵略してきた

国が多いほど、


『それが自分たちに向けられたら』という

危機感は強く―――


「対抗出来るか?」


「今のところは何とも。


 それに、ドラセナ連邦の女帝が余興で

 演習後に魔法を使おうとしたところ、

 慌てて引き留める一幕もあった。


 そこから考えるに、水中戦力などと

 大仰にとらえる必要は無いのかも知れん」


いかにも軍服、という衣装に身を包んだ面々が

話し合う。


「と言われると?」


「あの後、女帝が使ったのは雷魔法であった。


 つまり水に潜ったところで―――

 弱点は変わらないという事だ」


その意見に安堵した空気が広がるが、

一人が片手を挙げて、


「それはいいが、水上から水中の目視は

 難しいぞ。


 夜間ともなれば絶望的だ。

 見えなければ攻撃は出来ん」


場がざわめく中、他の一人が口を開き、


「魔力感知器はあるのだ。

 それを水中用に作り替えよう。


 あとランドルフ帝国は水中爆雷のような

 魔導爆弾も開発していた。


 全船がそれを装備すれば、一隻がやられても

 報復は出来る」


「空中戦力についても、対空飛翔体なるものを

 持っていた。


 こちらは目視可能だから、数を揃えれば

 何とかなるだろう」


うなずき合う中、まだ若そうな青年が一人

手を挙げて、


「あの、よろしいでしょうか」


「何かね」


促された彼はコホンと咳払いしてから、


「ランドルフ帝国とその同盟国は……

 大ライラック国を攻撃する意思があると?」


すると老人の域に達していた軍人が

テーブルを叩き、


「君はバカかっ!?

 相手の意思などわかるわけが無かろう!!


 わかっているのは、ランドルフ帝国と

 その同盟国が―――

 これまでとは一線を画す兵器や戦力を披露

 したという事だ!


 その対抗策を考えるのは当然ではないか!!」


あまりの剣幕に、青年は体を硬直させる。


「……君も知っての通り、大ライラック国は

 周囲を圧迫して周辺諸国を降してきた。


 今は武力によって従っているが、状況が転べば

 反旗(はんき)(ひるがえ)す国も出るだろう。


 良い悪いの問題ではないのだ」


言っている事がわからないのか、彼はまだ

きょとんとした表情をしているが、


「武力によって鎮圧されてきた国々。


 そんな中、他種族や亜人に寛容な国が、

 見た事も無い兵器や技術を(たずさ)えてやって来た。


 そうなれば千載一遇(せんざいいちぐう)の機会、と思う国も

 あるだろう」


「あ……」


ようやく理解出来たのか、青年は青ざめる。


「今までは四大国間での全面的な戦争は、

 地理的な条件もあり無いものとしていたが、


 今後は戦略を大きく書き換えねばならん」


「他二ヶ国はどうなのだ?」


そこで話が他国へと向けられるが、


「ドラセナ連邦だが―――

 すでに奴隷売買を止めるという方向で

 調整しているらしい。


 帝国が一番のお得意様だったからな。

 そこは仕方が無いかも知れん」


「モンステラ聖皇国は?」


次いでもう一方の国への質問が飛ぶ。


「あそこは宗教国家だからなあ……

 正直動きが読めんというか、下手に関わると

 こちらに矛先が向く恐れもある」


「だが、内部に他種族を奴隷と見ているような

 過激派もいると聞くぞ。


 そいつらを動かす事が出来れば、味方に

 引き入れる事も可能だろう」


そこで最も位の高そうな人物が、テーブルの

中央で立ち上がり、


「……よし。


 今後、ランドルフ帝国とその同盟国および

 ドラセナ連邦を仮想敵国―――

 いや、本格的な敵性国家として戦略を

 組み立てる。


 この方針を基に軍王ガスパード様に報告と

 共に、具申(ぐしん)する。


 これをこの軍議の決定とする……!」


その言葉に全員が立ち上がり、最敬礼のような

ポーズを取った。




「……いやはや。

 まさか私が人間の国の大臣となるとは」


「私の夫ですもの。

 人間社会でも、それくらい務まりますわ」


「お主もずいぶんと出世したのう。

 ワシも鼻が高いぞ!」


公都『ヤマト』―――

そのギルド支部の応接室で、


濃い青色をした短髪に筋肉質の上半身と、

ヘビの下半身を持つ亜人の男性……

その彼の隣りにブラウンのショートヘアーの

女性、


さらにその横で、透明な複数の羽を持った小さな

少女が胸を張る。


ラミア族の長、ニーフォウルさんに―――

奥さんである母エイミさん。

そして水精霊ウォーター・スピリット様だ。


この前ウィンベル王国の王都・フォルロワで、

とある部門の新設と、その大臣の任命式が

行われた。


新設されたのは『新交通部門』。


前回出来上がったゴムタイヤ鉄道と、

陸橋の組み合わせ……


それによる交通機関について、最高権限を

ラミア族に与えたのである。


陸橋に関してはラミア族の協力が不可欠なので、

それならいっそ最高責任者にしてしまおう、と、


現国王、ラーシュ・ウィンベル陛下と、

前国王の兄、ライさんの主導で、


王家の決定としてニーフォウルさんが大臣に

任命されたのであった。


「人外の大臣サマ、か。

 世界初じゃねえのか?」


からかうように、この施設・組織のトップである

筋肉質のアラフィフの男性が笑う。


まあミマーム(グリフォン)さんがいる

ライシェ国はまだ公表していないし、

それに彼女は宰相。

ウィンベル王国もドワーフのラファーガさんが

いるが、彼は極秘の鍛冶師だ。

それを考えると世界初の『大臣』は確かだろう。


「でもすごい出世ッスね」


「シンさんが関わる人はみんな出世していくん

 ですねー」


褐色肌の長身の青年と、その妻の丸顔・丸眼鏡の

女性が感心しながら語る。


「レイドもミリアも、何で他人事(ひとごと)のように

 話しているんだよ。


 この公都『ヤマト』の次期ギルド長と―――

 その奥方様だぜ?


 俺がギルド長になった頃は、それこそ

 人口500人程度の町だったが、


 今やっている再開発が終われば、

 1万人規模を収容出来る都市になるんだ。


 責任重大だぞ、お前ら?」


それを聞いてレイド夫妻は直立した姿勢のまま

固まる。


「あ~、あれかあ」


「我も手伝っておるが、ぐるりと石壁で囲んで

 おるからのう。


 確かにあれが完成すれば、それだけの人数が

 暮らせるであろうのう」


「ピュ!」


アジアンチックな童顔の妻と、欧州モデルの

ような顔立ちの、どちらも長い黒髪を持つ二人が

話に参加する。


魔界から石材が調達出来た事で、大規模な工事が

可能になった事、


さらにこれにも新素材が採用され……

多少のやり直しはあったものの、急ピッチで

工事は進み、


またドラゴンやワイバーンたちの協力もあって、

ほぼもう八割方完成している状態であった。


「でもあれ、ラミア族の土魔法は使って

 いないと聞きましたが」


母エイミさんが不思議そうにたずねると、


「そこは王家の方針でそう決まったのだ。


 これから先、『新交通部門』の開発を

 優先したのだろう。

 ラミア族は数が少なく、動けるのは男女

 合わせてせいぜい40人程度だ。


 しばらく我々はあの交通機関の開発に

 付き合い、飛び回る事になるだろうからな」


ニーフォウルさんが妻の疑問に答える。


自分も任命式には参加して聞いたのだが、

結局新交通機関はドーン伯爵邸を経由する

往復路線をそれぞれ二車線、


そして王都と、公都(ここ)を結ぶ直通路線の

開通が決まったのだ。


よほど発展している都市同士でないと―――

直通させても効果は薄い、そう説明したのだが、


『今の王都と『ヤマト』以上に、発展している

 ところはあるか?』


そうライさんに言われて反論出来なくなって

しまった。


それだけではなく、近い将来各国の首都・

王都間に直通路線を()くテストも兼ねているとの

理由もあり、


またこの公都にはすでにラミア族が土魔法を

かけた建物が数多く存在する。

こっちは引き続きラミア族のメンテナンスが

必要となるわけで、


数少ないリソースである彼らの移動を容易に

するためにも……

そう判断しての事だろう。


希望としては、この公都では人間に限らず

各種族のベビーラッシュが続いている。


ラミア族も人間や他種族とのカップルが

成立・増加し続けているが、


ただ次世代が戦力になるのは、十五年から

二十年を待たなければならないだろうし。


「そういえば他の方々は?

 もう自宅に戻られましたか?」


公都に戻るまでは、元ロッテン伯爵ご夫妻と、

娘エイミさんとアーロン君が一緒にいたと

思ったんだけど。


「あ、実はアーロンがこちらに着いた途端に

 熱を出してしまいまして」


「それで彼の看病を頼んでおります」


まだまだ子供だものなあ、アーロン君。

王都と公都の往復で体調を崩してしまったのか。


「それはご心配でしょう。お大事に……」


それを挨拶として―――

いそいそとニーフォウル夫妻と水精霊様は

退室していった。


彼は表面上は専属奴隷だけど、将来の娘婿でも

あるし、心配で仕方がないのだろう。


こうしてラミア族の大臣任命式の報告も終わり、

私たちもギルド支部を後にした。




「あなたがシン殿ですか!


 お初にお目にかかります、ファド伯爵です。

 どうかお見知りおきを……!」


「は、はあ」


数日後、私は自宅の屋敷である人物と

会っていた。


名乗った彼はやや小太り体形の、人が良さそうな

顔をしたアラフォーくらいの男性。


もう一人は暗い紫のロングヘアーを整えた、

細身の顔をしたアラサーの女性。


「グレイス伯爵様もお久しぶりです」


「急に悪いとは思ったのですが、シン殿が

 関わっている事ゆえ、ご迷惑を承知で

 参りました」


その彼女の言葉に妻二人は首を傾げ、


「何か穏やかじゃなさそうだね?」


「いったいどうしたのじゃ?」

(ラッチは児童預かり所)


とにかく話し合いはスタートした。




「私に軍事訓練での手合わせを?」


「は、はい。表向きの理由としましては、

 ランドルフ帝国でシン殿が若い軍人たちに

 稽古(けいこ)をつけてきたという話を聞きつけ―――

 ぜひとも自分たちにも、という事になって

 おりますが」


ハンカチで汗をぬぐいながら、恐る恐る彼は

説明する。


「んで、裏の理由というか本当の理由は?」


メルが火の玉ストレートで切り込むと、


「実は彼は、『急進派』と呼ばれる派閥に属して

 おりました。


 とはいえ今は無関係であり、派閥自体もほぼ

 自然消滅していると見ていいのですが」


グレイス伯爵様の言葉で、過去の記憶を

引っ張り出す。


確か魔力・魔法至上主義で……


強力な魔法や膨大な魔力こそが―――

最高の価値と位置付ける勢力。


それで何度かこちらも被害を受けそうになる度に

『解決』してきたのだが。


「まだいたのか、アレ」


面倒そうにアルテリーゼがため息をつく。


「それでは、今は無関係なのでは」


「お、お恥ずかしい話でありますが……

 愚息(ぐそく)ミゲールがまだ、この思想から

 離れられないようでして。


 今回、シン殿に稽古を要請したのも―――

 ミゲールとその取り巻きだと判明して

 おるのです。


 なのでこうしてシン殿にご相談に……!」


汗をぬぐい続ける伯爵様に、妻たちが飲み物を

勧める。


「つまり『急進派』の生き残りが、私に何か

 意趣返(いしゅがえ)しでもしようと?」


そう言う私も、自分の言葉に違和感を覚える。


今さら私に仕返しをしたところで、『急進派』が

かつての勢力を取り戻す事が可能かというと、

それは難しいだろう。


中心人物であるヴィンカー・サイリック前大公

その人も、今や『こちら側』だし―――

だとしたらその目的は何なのか?

といろいろと考えていると、


「……どうもシン殿は魔法の価値観を落とす、

 その急先鋒(きゅうせんぽう)と思い込んでいるようなのです。


 なので魔法のすごさを認めさせ、あわよくば

 『急進派』に寝返らせる事が出来れば、

 というのが狙いかと思われます」


女性当主の説明に妻たちは眉間にシワを寄せ、


「何とも短絡的っちゅーか」


「劣勢からの逆転を賭けて、というところか」


それに対し、ファド伯爵様はペコペコと

頭を下げる。


「王族の覚えもめでたいシン殿に、とも

 思いますが……

 一応、身分は平民ですので、それも狙われた

 原因かと」


いろいろと面倒になるから、貴族身分になる事や

縁戚になるのは遠慮して来たのだが―――

それが裏目に出るとは。


「わかりました。


 まあ、手合わせをする事自体反対は

 しませんし、何とか穏便に済ませて

 来ます」


「おおっ!!


 あ、ありがとうございます!!」


ファド伯爵様はブンブンと頭を上下に振り、

グレイス伯爵様も頭を軽く下げ……

こうして私は、その当日に備える事になった。




「お手合わせ感謝します、シン殿」


「いえいえ。

 そちらこそお手柔らかにお願いしますよ」


数日後、私は妻二人と共に、若い軍人たちを

前にあいさつしていた。


王都・フォルロワ―――

その軍の訓練施設において、


ファド伯爵様の息子・ミゲール様と他五人ほどの

集団に、『稽古』をつけて欲しいという要請を

受けて……


その実行をする日になったのである。


ところどころ髪がハネて曲がっている、特徴的な

黒髪の青年は笑いながら、


「確か、『魔法を使わないで君たちの動きを

 止めて見せます』と言っておりましたが、


 ぜひともやって見せて頂きたい!」


それを聞いて、他の青年たちもゲラゲラと

笑い出す。


「まーまー。ほんじゃ移動しよっか」


「そちらも何をするのか、楽しみにしておるぞ」


メルとアルテリーゼに促され、彼らと一緒に

訓練場へ向かった。




「それでは、シルバークラス冒険者、シン殿。

 同じくシルバークラス、メル殿。

 アルテリーゼ殿。


 それと―――

 ファド伯爵、シド伯爵、レーメ子爵、

 ラコン子爵、ザン男爵との団体・模擬戦を

 開始します!」


芝生とでもいうのだろうか。

草原のような広い場で、私たちと

ファド伯爵様たちは、離れたところに陣取る。


そこには私たちとファド伯爵様たちの他、

審判役と思われる人とギャラリーも集まっており、


「それでは……始めっ!!」


審判の開始の合図と同時に、百メートルほど

離れた向こうのチームが、一気に距離を詰めて

来るのが見える。


「あー、こりゃ身体強化(ブースト)だけじゃないね」


「カルベルクさんの、『飛走(フロート・ラン)』みたいなもの?」


メルの言葉に思わず聞き返す。


「もしくはそれに近い魔法を使う者で構成されて

 おるのだろう」


アルテリーゼも感想を話すが、私たちはこれと

いって動きを見せず、


ただチラチラと空へ視線を送っていた。




「!? アイツら、上を見ていますが」


「そういえば、風魔法で誘導攻撃(ホーミング)まで

 使えると聞きましたが」


一方、ファド伯爵サイドは走りながら、

取り巻きたちがリーダーであるミゲールに

確認を取る。


「速度を落とすな。このまま行くぞ。


 それに魔法を使わせる事が出来れば、

 それはそれでいい。


 魔法の必要性を、魔法の価値観を落とす

 男が認めざるを得なくなったという事

 だからな」


あちこちに曲がった髪先を揺らしながら、

彼は走りつつ指示を出す。


「このままですか?」


「当初の予定通り、あと10メートルまで

 接近したら、攻撃魔法をぶっ放せ。


 あいつはすさまじい『抵抗魔法(レジスト)』の使い手だと

 聞いているが―――

 どちらにしろ魔法を使わせれば、俺たちの

 勝利だ」


『急進派』の思想に取りつかれている彼は、

シンに魔法を使わせれば、魔法の重要性を

思い知らせる事が出来ると妄想していた。


「(上を気にしているという事は、

 ブーメランを待機させているのか?


 だがシン、お前は言った。

 『魔法を使わないで君たちの動きを

 止めて見せます』

 と―――


 それを自ら破るつもりならそれでいい。

 結局は魔法に頼ったと、大いに宣伝させて

 もらうとしよう……!)」


そして相手である三人の姿が近付き、

そろそろ攻撃魔法の準備をしようとした

ところで、


「んがっ!?」


「ぐっ!!」


「おわわっ!?」


ミゲールも含め、豪快に姿勢を崩した。


ある者は前転するように、ある者はまるで

ホームスチールのように地面と体を平行に

させて―――


ミゲール自身も前のめりに倒れ込み、

その前で何者かがしゃがみ込む。


「どうでしたか?」


それは『稽古』を要請したシンその人で、


「な、何が……」


彼が疑問を口にすると、私はそのまま目の前で

地面に生えている草をつかみ、その先端を

アーチのように結ぶ。


「昨晩すでに王都に来ていたんですよ、

 私たちは。


 で、昨夜のうちにこのように草を

 結んだんです。


 君たちはこれで転んだんですよ」


私はこの件について、少し悩んだ。


魔力・魔法至上主義の彼らが、『抵抗魔法』

(という事になっている)で無効化された

ところで納得するだろうかと。


だから今回は無効化を使わずに、このような

作戦を思いついたのである。


「ぐ、ぐぐ……っ!!」


うつ伏せに倒れたままの彼は、悔しそうに

うめく。


そこで私はしゃがんだまま、


「あとどうも誤解があるようなのですが、

 私は別に魔法を否定しているわけでは

 ありません。


 魔法以外の手段も合わせて使えばもっと

 強くなるし、便利なのになあ、と言って

 いるのです。


 こんな草でも使い方次第で、君たちの

 足を止める事が出来ますし―――」


「う、上をチラチラ見ていたのは……」


その質問に私はニッ、と笑い、


「気になったでしょう?

 上から何か来るんじゃないかって。


 結んだ草はうまく隠したつもりでしたが、

 気付かれる可能性もありますしね。


 そこであなた方の意識を上に向けさせ

 たんです。


 これも魔法じゃありませんよ」


「ずっりぃ……」


彼はそう言うとうつ伏せの状態から―――

仰向けになって手足を投げ出した。



( ・ω・)最後まで読んでくださり

ありがとうございます!

本作品は毎週日曜日の16時更新です。

休日のお供にどうぞ。


みなさまのブックマーク・評価・感想を

お待ちしております。

それが何よりのモチベーションアップとなります。


(;・∀・)カクヨムでも書いています。

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【ゲーセンダンジョン繁盛記】【完結】

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【指】【完結】

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【ロートルの妖怪同伴世渡り記】【毎日更新中!】

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― 新着の感想 ―
[一言] ( ๑>ω•́ )۶★★★★★  今回の稽古(模擬戦)で若者達が意固地ならず、 何か気付けば良いですよね。
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] ・どこで呟くのかなと思いながら読んでいましたけど、上手く躱された気分です。 ・草ではなくピアノ線を張っておけば大怪我間違いなし。 まぁピアノ線が手に入りません…
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