表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/316

〈第三十六話 草原のダンジョン〉

 


 洞窟ダンジョン、二日目。



「ムツキ様、従魔の皆様、この先が六階層の入口になります。準備は宜しいですか?」

 メイド服を着て、大きなリュックを背負ったミレイが、私たちを見ながら確認する。



「その前に、ミレイ、これ」

 昨夜調合した特上ポーションの小瓶を三本、ミレイに手渡す。



「これは……」



「私が調合したポーション。昨晩作った」



 特上ポーションとは言わない。



 それでもミレイは驚き、私を見る。



「ムツキ様は、【薬師】のスキルをお持ちだったのですか!?」

 ミレイは興奮している。



「うん。まぁね」

 私は言葉を濁す。ほんとは持ってないけどね。



「ありがとうございます」

 ミレイは凄く嬉しそうに、ポーションを鞄にしまった。



「本当は、使わない方がいいだけどね」

 私は欠伸をしながら答える。



「それじゃ、行きますか」

 入口に立つと、皆に声をかけた。



「OK」

「行きましょう!」

「さっさと行くぞ!」

『『はい! 主様!!』』



 従魔トリオと双子が、元気よく答える。



 私は微笑みながら、薄暗いトンネルに足を踏み入れる。ここからは、セーブポイントの外だ。



『サス君、念のために、結界皆に張っといて』



 あくまで念のために。念話で指示をだしたのは、ミレイにサス君の能力を知られるのを避けるため。出来れば、あまり知られたくない。というか、隠しておきたい。



 シュリナの正体も能力も。

 そして、ココが妖精猫だということも。



 全部、隠しておきたい。



 ーー皆を守るために。



『はい。分かりました』



 サス君の結界が、私の体を温かく包み込むのを感じた。



 ミレイも、レベル三十五のシルバーカード保持者だ。当然、自分の周りを包み込む魔力を感じているはずだ。それが何なのかも、おそらく気付いているだろう。私の魔力が高いことは有名だから、私がかけたものだと思ってもらえればいい。



「ミレイは六階層から十階層までの道、知ってるんだよね?」



 私は歩くスピードを緩めると、後ろを歩くミレイの隣に移動する。



「はい」



「だったら、十階層までの道案内頼むね! 勿論、最短ルートで!」



「最短ルートですか?」



 意外だったのだろう。ミレイは訊き直してきた。



「昨日言ったでしょ。私たちは、経験値を稼ぎに来たわけじゃないって」



「……分かりました」



 ミレイとそんな会話をしているうちに、出口まできた。距離としては五十メートルぐらいかな。



 ……ダンジョンて、ほんと不思議だよね。



 まるで、この世界とは違う別の空間の中にいるような、錯覚さえ感じてしまう。



(もしかしてここは、異空間なのかもしれない)



 そんな考えが頭を過る。



「ムツキ様。従魔の皆様。ここからが、六階層になります。六階層から九階層までは、同じダンジョンで構成されています。……私たちはこのダンジョンを〈草原のダンジョン〉と呼んでいます」



 ミレイの声が、私を現実に戻す。



(草原のダンジョン……)



 ミレイの言う通りだと、私は素直にそう思った。



 崖の上から見渡す限り、青々とした草が一面生えていた。グリーンメドウの景色とどこか似ている。草原の中央には、土色の道が一本真っ直ぐに伸びているのが見える。



 暑くも寒くもない。ちょうどいい気温だ。頬を撫でていく風も心地好かった。



長閑のどかだね。遠くに見える白いのは、もしかして、羊?」



「はい、ムツキ様。全長二メートル強はある、【ビックシープ】です。ランクCクラスの魔物で、ドロップアイテムの羊毛と肉は、商業ギルドでも高値で取引されています」



 ……二メートル強の羊。

 真っ白な羊毛……あぁ……モフリたい。その上で眠ったら、フカフカで気持ちいいよね。絶対!!



「…………ムツキ様?」

 ためらいがちに、呼び掛けるミレイ。しかし今の私には、その声が耳に入らない。



「ミレイ、気にするな。これは病気だ」

 シュリナがきっぱりと言い放つ。



「病気ですか……」



「ムツキって、毛が生えた動物が大好きなんだよ」

 ココはミレイに教える。



 ミレイは、「毛の生えた動物ですか……」と小さな声で呟くと、不思議そうな顔をして主を見詰めた。



「好きのレベルは、はるかに越えてる」

 サス君の台詞に、シュリナとココは大きく頷く。



「「越えてる(な)よね~」」



「失礼な!! 少し人より好きな程度だよ!」



「「「どこが!!!!」」」

 従魔トリオに総突っ込みされた。



 ーー何気に、酷っ!!



「酷くない? そう思うよね、ミレイも」



 後ろを振り返ると、ミレイが私たちに、背を向けていた。上半身が小刻みに震えている。変な声も聞こえてきた。



(必死で笑いを耐えている方が、ダメージ大なんだけど)



 私は味方が誰一人いなくて、心の中で一人涙した。






 お待たせしました。


 今回で、九十話目!!


 最後まで読んで頂き、心からありがとうございますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ