〈第二十九話 地図に記載された場所は……〉
王都バーミリオンに到着した、次の日の昼頃。
私は王都から、一日と半ば馬車で走らせた場所に立っていた。
勿論、ジェイに送ってもらったからだ。ホムロ村やグリーンメドウに、例の黒紫の契約紋の模写を届ける途中、わざわざ寄ってくれた。
朱の大陸で転移魔法を習得し、且つ、何度も移動出来る人間は、数が知れている。私とジュンさんを省くと、ジェイしかいなかった。魔術師長様でも正直難しいらしい。それが実状。故に、王様自ら届けるらしい。彼らの中に、キャリヤーバードは存在しないらしい。
それにしても、ここに来れたということは、ジェイはここに来たことがあるってことだ。
【勇者】の職業に就いた者が、王位とグリーンメドウのギルマスに就任することは、昨日ジェイが教えてくれた。それは、世界を救った一人、勇者の出身がグリーンメドウだからこそだ。ギルマスの仕事をこなしながら、ダンジョンを攻略して、王様の仕事もする。
(ほんと、ジェイは働き者だ)
私は心底そう思った。それはさておき……
「……ここだよね。ケイさんの地図に書かれた場所って」
(う~ん。どうみても、ここにお店があるようには思えないんだけど。っていうか、家さえないよね)
目の前に広がるのは、薄暗い空間。
どこまでも続きそうな、闇が広がっている。
そして私の周囲には、リュックを背負い、ダンジョン攻略にのりだすパーティーたちの姿。
そう、目の前に広がっているのは、最近出来たダンジョンの一つだった。
「とりあえず、行ってみる?」
私は皆に声をかけた。
「「そうだ(です)ね」」
『『楽しみ!! 主様、早く行こ!』』
「ムツキのレベル上げには、丁度いいだろう」
従魔トリオと私の刃たちの、ウキウキとした声がする。
ホムロ村の件がすんで、レベル二十六になってるけどね。
「では、行きますか」
私は微笑む。
それから、洞窟の前に立ってる係員に声をかけた。私以外にも、洞窟の前で待っているパーティーが、五組ほどいる。
「地図です。お持ち下さい」
私は差し出された地図を受けとる。まとめて説明するみたいだ。
「色がついてる所は、調査済みの箇所です。このまま、色のついた所を探検するもよし、色がついていない所を探検するもよし。それはあなた方にお任せします。それでは、よい冒険を!!」
その言葉を合図に、五組のパーティーは洞窟の中に入って行く。
私は最後尾につく。入って直ぐに、前を歩いていたパーティーの一人が振り返った。
「おい!! お前! このダンジョン、一人で潜るきか? 舐めてんじゃねーぞ」
明らかに、私を小馬鹿にした口調だ。
「……だから何? それに、一人じゃないし」
ムカッとしながらも答える。このての言葉は、今まで何度も耳にした。グリーンメドウでもホムロ村でもだ。
子供が魔物討伐に加わり、ダンジョンに潜る。
どの世界でも、第一印象で人を判断する。実際の年齢よりも幼く見える私の容姿は、明らかに、その場で不適格だった。私自身、そう思う。
熟練のハンターたちは眉をひそめ、馬鹿にした。若いハンターでも、目の前の青年のように、いきなりいちゃもんをつけてくる者も多い。だけど、この世界は実力主義だ。実力を示せば、彼らは黙る。
「テイマーか知らないが、さっさとこのダンジョンから出るんだな! 足でまといがいると困るんだよ!」
「別にあんたたちのパーティーに入ってる訳じゃないし、ほっといてくれる。……それに、ここはダンジョンの中、大きな声を上げるなんて非常識な真似止めたら」
感情を含まない、出来るだけ低い声で、私は目の前を歩いている赤褐色の髪をした戦士の少年に言い放つ。
「はぁ~~~!!」
立ち止まった少年の脇を抜け、私は彼らを追い抜こうとした。
少年の手が私の肩に触れようようした時、手の甲をココが爪で引っ掻く。
「馴れ馴れしく触ろうとしないで」
少年を睨み付ける。思った以上に低い声が出た。
『ココ、グッジョブ!!』
私はココを褒める。
『グッジョブって、何?』
『ココ、よくやった』
言い直す。
「おい!! 俺が心配してやってるんじゃねーか!! グフッ!」
呻き声と共に、少年はその場にしゅがみこむ。
「ごめんね。この馬鹿は、貴女のことが心配だっただけなの。馬鹿だから、こういう言い方しか出来なくてね。気を悪くさせたわね~~」
このパーティーのリーダーだろう。やけに大柄な女の人が、代わりに謝ってくれた。
「いつものことなので。それじゃ」
私はそう言うと、止めていた足を進める。
「おい!! っで!! 何で殴るんだよ!!」
後ろで少年が怒鳴っているのが聞こえたが、私は完全に無視した。
◇◆◇◆◇
「殴られて当然だろ」
仲間の一人の言葉に、青年はくってかかる。その間で、少女がオロオロしていた。
「何でだよ!! 俺はーー」
「決まってるじゃない。あの子の方が強いからでしょ」
リーダー格の女の人が答える。
「だな」
「あの子供が、俺よりも強いって!? マジ、ありえねぇ」
その言葉に、残りの三人が残念な子を見るような目で見ている。
「リナもそう感じたの?」
「はい。あの子の魔力は私より遥かに上です。グリーンメドウのギルマスよりも強い魔力を感じました」
リナと呼ばれた少女は、素直に感じたままを口にする。
「接近戦でも、かなりの腕だろうな」
さっきまで、少年にくってかかられていた、大柄の髭を生やした男性もリナに同意する。
「私もそう思うわ。あの子、何者かしらね」
歌うように言うリーダーを見て、リナと髭の男は深々とため息をついた。彼らは思う。悪い癖が出たと。その横で、戦士の少年がショックを受け、沈み込んでいた。
彼らの実力を、少年はよく知っていた。その彼らが、そこまで言うのだ。まず、間違いない。
「しっかりして下さい、セイ。ショックなのは分かってますから。あの子、すっごく綺麗で可愛かったから、弱くても守りたかったんですよね」
肩に手をのせ、リナはセイを突き落とす。本人は慰めているつもりなのだが。
その様子を見て、残り三人は苦笑した。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




