〈第二十二話 黒紫の契約紋〉
お祭り騒ぎに騒ぐ人混みを抜け、私は宿屋に戻ってきた。
村を救った恩人だからと、最高級の宿屋に無料で泊まっている。勿論、サス君たちも一緒だ。宿屋によっては、サス君たちは獣舎に泊まらなくてはいけない。ココは微妙だけどね。シュリナは姿を消すだろうし。サス君一人は可哀想だ。だから、今回はその好意に甘えることにした。
屋台で買い食いして、昼ご飯を済ませてから部屋に戻ると、テーブルには冷たく冷やされたココリのジュースが置かれていた。
私は皆にココリのジュースと、屋台で買ったデサートの揚げパンも一緒に配る。勿論、セッカとナナの分も。
少し冷めたけど、美味しい! パン生地には細かく刻まれたココリの実が練り込まれている。カラッと揚がった揚げパンには、砂糖と何かの香辛料かな、シナモンに近い香辛料がまぶされていて、すっごく美味しかった。
ココリの実はリンゴと味がよく似ている。スモモの大きさぐらいの実だ。リンゴは冬が旬だけど、ココリは初夏から夏にかけてが旬だ。今まさに、旬。グリーンメドウでも、ココリの実を使ったスイーツが色々発売されていた。その一般的なのが、この揚げパンだ。
美味しいデサートと甘酸っぱいジュースを飲みながらも、私の心は晴れない。
どうしても、頭から離れないのだ。
シルバータイガーの胸に、くっきりと浮かび上がっていた黒紫の契約紋がーー
あれはおそらく……
「契約紋だな」
シュリナがココリのジュースを飲みながら断言する。
(やっぱり……でも、私の契約紋とは全く違う)
私は声に出さずに呟く。
あの紋は根本的に何かが違う。私はそう感じていた。何か歪な……邪悪な感じがしたのだ。
「あれは、一種の呪いだな。あんな禍々しい色をした契約紋は、我も見たことがない」
不愉快そうに、シュリナが言い放つ。
(確かに、あの色は……)
私の体に刻まれた契約紋は、二つとも、こんな濁った、どす黒い色はしていない。シュリナとの契約紋は鮮やかな朱色だし、セッカとナナのは薄い水色だ。
だから私も、呪いだと思った。私はシルバータイガーの胸に浮かんでいた契約紋を思い出す。
「呪い? 一体、誰が?」
「誰が、というよりも、何のためにって考える方が先決だよ」
私の問いに、ココが答える。
「ココの言う通りだと。理由が分かれば、自ずと誰が行ったのか分かりますからね」
確かに、ココとサス君の言う通りだ。
「そうだよね、ココとサス君の言う通りだね。愉快犯か、計画的犯行か、それだけでも分かればいいんだけど。……でも、はっきりと分かってることもあるわ」
シュリナ、サス君、ココが私を見詰める。
「……それは、かなりの悪意があるってことだよ」
「確かにそうだな」
シュリナの台詞に、サス君もココも頷く。
「で、これからどうする? 一応、この事はギルマスやジェイの耳にも入れといた方がいいと思うんだけど」
ゼロがいなければ、あの場で話すつもりだった。
「そうだね。明日、魔石の代金を貰いに行くから、その時にでも話したら」
「今日にでも、もう一度会うべきだと。明日、ゼロがいるかもしれないので」
ココが提案するも、サス君は反論する。
「あーーそうだね」
ココは別段気を悪くすることなく、あっさり納得する。
(何か毒が含まれてるような、そんな気がするのは考えすぎかな?)
ココとサス君の会話を聞いていて、ふと私は思った。
「サス君とココは、ゼロのことが嫌いなの?」
つい、訊いてしまう。
「いや、嫌いじゃないよ」
「嫌ってませんよ」
即答だ。
「そうなの……」
何か含みのあるような言い方が気になる。
「主様。一旦、グリーンメドウに戻るのですか?」
それまで黙って聞いていたセッカが、口を開く。
「その必要はない。間もなく奴は来るだろう」
そう言いながら、シュリナは空になったグラスを差し出す。おかわりね。立ち上がると、セッカとナナもグラスを差し出した。私の頬が自然と緩んだ。
……そういえば、シュリナはジェイに加護を与えてたよね。
だとしたら、間もなくシュリナの言う通り、ジェイはホムロ村に来るだろう。
「シュリナ、口の端に砂糖ついてる」
私はシュリナの口の端についてる砂糖を指で拭ってから、皆におかわりを注いでいると、誰かがドアをノックした。
ドアを開けると、宿屋の従業員が立っていた。
「下で、ギルドの使いの者がお待ちです。如何なさいますか?」
「分かりました。準備が出来次第行きますと、伝えてください」
「畏まりました」
従業員は頭を下げると、伝言を伝えに行った。
さすが、シュリナの予感的中です。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
次回で一応、ホムロ村編終わりかな。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




