〈第二十一話 一夜明けて〉
ベランダ付きの大きな窓から風が入ってくる。
気温は高いが湿気を含まないその風は、とても心地よい。そして何よりも、サラサラしたシーツと適度な弾力があるベットは寝心地よかった。いつまでもこのまま、まどろんでいたいと思ってしまうほどだ。そう、いつまでも……
「ーーなのに、何でこんなに煩いの!!」
私は自分の声にビックリして飛び起きた。
……あれ? ここどこ?
自分が今どこにいるのかが分からない。
小説や漫画に出てきそうな天蓋付きのベット。それもかなり大きい。もしかしてこれが、噂のキングサイズ? 私が五人、有に寝れる広さのベットだ。そんな大きさのベットが置かれているのに、全く部屋が狭く感じない。
(一体、何畳あるの?)
私は心の中で呟く。
いやそれよりも、今自分はどこにいるの? 部屋からみて、どこかのホテルのスイートかな? この世界では、ホテルではなく宿屋だけど。それとも、どこかの貴族のお屋敷かな? でも、そんな所に行った覚えもないし。私には場違いだ。う~ん。私は頭を抱える。
その時、自分が着ている服に目が止まった。
こんなの、私持ってない。超高価な、上等な、シルクの生地のパジャマだった。普段、私は木綿派だ。この世界で、シルクなんて、貴族や商家などのお金持ちが着るものだった。私のような庶民には着る機会など絶対にない品だ。
私が混乱している間も、窓の外から騒がしい声が聞こえてくる。
男性のダミ声や、女性の甲高い声。そして時折、子供の声も混じっている。何かのお祭りでもやってるのか、と思ってしまうほどだ。
「起きたの? ムツキ」
「大丈夫ですか? しんどくはありませんか?」
「もう少し、寝ててもいいのだぞ」
ココとサス君、そしてシュリナが、起きた私に話しかけてくる。
シュリナは空中に、ココはベットに上がり、サス君はベットの下からだ。上がってきてもいいのに。私は、サス君に「おいで」と手招きする。
「サス君。綺麗になってる」
ベットに上がってきたサス君を見て、私は首を傾げた。
サス君がいつも以上に、フワフワで可愛いのだ。確か、血がべっとりついてたはずなのに。
「ムツキも綺麗になってるよ」
そういえば、そうだよね。体が汗でべとついてないし、埃っぽくもない。髪の毛もサラサラだ。
「……私、無意識のうちに風呂入って寝てた?」
だとしたら、凄い才能だよね。
「「「…………」」」
従魔たちは、全員黙り込む。
「ーーココ、サス君、シュリナ、正直に話そうか」
私はニッコリと笑いながら言った。
◇◆◇◆◇
「迷惑をかけてすみませんでした!」
私は深々と頭を下げる。
ここはマスター室。私の目の前には、ゼロ。
「いや、僕としては役得だったよ。ムツキちゃんに一歩近付けたしね」
満面な笑みを浮かべるゼロ。
相変わらずの、王子様スマイル。眩しいです、ゼロさん。……後半の意味がよく分かんないんだけど、頷いていいのかな?
『頷くな!』
『頷いたら駄目だよ!』
『頷いたらいけません!』
同時に、全員念話で怒鳴ってくる。
駄目なの?
『『『駄目だ(です)!!』』』
綺麗にハモったね。でも何で? 仕方ないなぁ、迷惑掛けたんだし、微笑んどこ。
「痛っ!!」
突然、足首に鋭い痛みが走った。
足下を見ると、ココがまた甘噛みしていた。
「ココ!!」
私はココを咎める。ココはそっぽを向いたまま、尻尾で床を叩いている。
この仕草って。何で、ココが怒ってるの!?
「ココは悪くない。悪いのはムツキだ」
「今回は、睦月さんに非があります」
シュリナとサス君が念話ではなく、声に出してきっぱりと言い切った。
(何で? 私が何かした?)
納得いかなくて、私は憮然とする。
そんな私たちを見て、ギルマスが小刻みに体を震わせ吹き出した。
「……ギルマスは、理由分かります?」
私は憮然としたまま尋ねる。
「クックック……それは、俺からは何も言えないな。言ったら、お前さんの従魔たちに怒られる」
「怒られる?」
「ああ。こればっかりは、ムツキが気付かなきゃいけないことだからな」
ギルマスは温かい目で、私にそう教えてくれた。
(私が気付かなきゃいけないことって、何?)
心の中でギルマスが言ったことを反芻するが、全然分からない。
っていうか、何で、ゼロはギルマスを睨んでいるのかな?
「こいつは、見た目とは違うということだ」
こいつとは、ゼロのことだろう。こいつと言うあたり、仲が良さそうだ。
見た目と違う。
「確かに、違いますよね。悪くいえば、利用してる。でも、それって当然ですよね」
まぁ、ゼロが王子様風の容姿だからって、内面までそうだとは思ってないけどね。例えるなら、宰相かな。それも腹黒い。でないと、その年で何店舗も店を構えられないし、ましてや、商業ギルドのギルマスにはなれないだろう。だからこそ、信用出来るんだけどね。もし、見た目通りだったら、正直ここまで信用出来なかったと思う。色々な面で。上手く説明出来ないけどね。
「ムツキ、いつまでここにいる?」
シュリナが苛々しながら声をかけてきた。
ココの尻尾が、また床を叩きだした。サス君がドアをカリカリと引っ掻きだした。
私はそれを見て苦笑する。だから見ていなかった。驚いている、ギルマスとゼロの顔を。
「そうだね。……それじゃ、ギルマス、明日また来ます。失礼しました」
私は頭を軽く下げると、マスター室から退室した。
街中、お祭り騒ぎだ。
歌って、飲んで、皆はしゃいでいる。
魔物が強化された理由も解明されたしね。
ギルマスは、早朝、残り二か所の源泉に結界を張りに行かせた。シルバータイガーがいた源泉は、私が持っていた魔石を使って、討伐が終わった後サス君が結界を張った。これで、一応ひと安心だ。
空を見上げれば、雲一つない晴天。日差しも眩しい。
いつも間にか、春の日差しではなくなっていた。
(アンリに会ったら、お礼言っとかなきゃね。見られちゃったな……裸……)
私は心の中で思いっきり、ため息をついた。
晴天の空模様とは違い、私の心は曇っていた。
曇っているのは、アンリに裸を見られたことが原因じゃない。
どうしても気になることがあったからだ。
シルバータイガーの胸に、くっきりと浮かび上がっていたのはーー
お待たせしました!!
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
ちゃんと、フラグ拾いました。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




