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〈第十三話 陽が暮れ始める前に〉

 


「で、何でゼロが当たり前のようにいるのかな?」

 壁にもたれながら、私は隣にいるゼロに話しかける。



「僕も一応、ハンターの資格を持ってるしね。それに薬屋だし、需要は高いよ」

 おどけたように、ゼロは答えた。



 ソファーに体を丸めてココは寝ている。その隣で、シュリナはテーブルに置かれた果物を勝手にモグモグと食べていた。サス君は私の足下で伏せをし、体を休めていた。



 私たちとゼロが思い思いに休んでいる横で、ショウたちはピリピリとしている。



 今私たちがいるのは、ホムロ村ギルド支部のギルドマスター室だ。



 ゼロたちとの偶然の再会をした後、私たちとショウたちは入口にいる兵士にハンターであることを告げた。



 私を一目見て、兵士は「子供がしゃしゃり出てくるな!!」と怒鳴り付ける。



 私はムッとしながらも、ハンターカードを提示すると、兵士は態度を一変させた。呆然とした声で、小さく「黄金の……」と呟く。そして、急いで私たちをギルドに案内した。そのまま、マスター室へと案内された。



 案内されて三十分ぐらい経った頃、ギルドマスが姿を現した。ギルマスは部屋にいる私たちを一瞥いちべつする。



「待たせて悪かったな。噂は聞いている。銀色の冒険者が黄金の冒険者へと進化したとな。それが、こんな子供だったとは驚きだ」

 ギルマスは私に視線を合わせ、飾らない言葉を投げ掛ける。



 好奇心が若干と、後は品定めをしているような視線だ。



 私は不躾な視線を、そのまま受け止める。挑むことなく。



 誰も遠慮してか、言葉を発さない。そんな場合じゃないと思うけど。このままじゃ埒があかない。私は内心ため息をつく。



「……それで、今はどういう状況ですか? 下はかなり混乱しているようでしたが」

 一番新米の私が切り出す。私は馬鹿にされないように、出来る限り、感情を圧し殺した声で尋ねた。



「ああ。怪我人も多数出ている。今のところは、村までは入ってきてはいないが、このままでは、正直時間の問題だ。魔石の効力も切れかかっている」

 その声はかなり厳しい。



 村に侵入されないように、魔石を使って結界を張り巡らせたのだろう。これだけの村だ。維持するのに、大量の魔石が必要になる。限られた量で張るのだ。当然、時間も限られる。階段下の混乱を見ても、魔物が現れてから数日が経過しているのは、容易に想像出来た。



「なら!! もっと早く救助を出すことも出来たんじゃないですか? もっとーー」

 フェイが苛々とした感情のまま、ギルマスに詰め寄る。



「フェイ。こんな大きな村で、簡単に救助を求めたり、封鎖は出来ないよ。出来るのなら、とうにしてる。下手にしたら、住民や観光に来ている人の間に混乱が生じるからね。混乱は騒動に繋がるわ。だから、封鎖は最終手段。……つまり、そこまで追い込まれたってことですよね、ギルマス。……魔物は何頭ですか? 怪我人は何人ですか? ゼロは薬屋です。彼を中心として治療にあたってください」



 私はフェイの言葉を一方的に遮る。睨まれても怖くない。私の提案に、ギルマスは頷いた。



「確認された魔物は、全部で五頭。殆どがAランクだ。うち一頭は、どうにか倒すことが出来た。怪我人は二十八名。うち重傷者は五名だ」

 ギルマスは私を真っ直ぐ見詰め、報告する。



 ーーAランク!!



 ホムロ山にAランクの魔物が!? 驚きを隠せない。だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。私は気持ちを切り替える。



「魔物の種類は分かりますか? 単独で行動するタイプですか? もしくは、複数で行動するタイプですか?」



 その答えによって、難易度はグンッと上がる。



「シルバータイガーの変異種だ。単独ではなく、複数で行動している」



 変異種!! それは厄介だよね。でも、複数で行動しているのなら……



 私は少し考え込む。



 複数なら十分に勝算はある。魔法が使えたらだけど。



「分かりました。今から、山に入ります。山には私たちだけで。今、山に入っているパーティーはいますか? あっ! それから、コンパスと地図頂けますか?」



 ショウたちとゼロが弾かれたように、私を凝視したが、気付かないふりをする。ただ、ギルマスの視線には目を逸らさなかった。



「……分かった。用意させよう」



 ギルマスは決断する。係員を呼ぶと、地図とコンパスを持ってくるよう指示した。一旦逸らせた視線を私に戻すと続けた。



「今、山に入っているパーティーは一組だけだ」



 直ぐに戻ってきた係員から受け取りながら、私は「分かりました」と答える。



「ゼロ、重傷者にはこれ使って」



 私はマスター室を出る前に、ゼロに作った特上ポーションを半分渡した。



「分かった。使わせてもらう。ムツキちゃん、くれぐれも気を付けて」



 眉を寄せ厳しい表情のゼロに、私は微笑みながら頷く。



「では、ギルマス、行ってきます」



「頼む……」



「はい」

 私は力強く答えた。少しでも、不安が軽くなるように。



 マスター室を出て行こうとする私に、ショウたちが次々と声をかけてくる。



「ムツキちゃん、気を付けて」

「「ムツキ、気を付けるんだぞ」」

「……ぜってぇ、死ねんじゃねーぞ」



 最後に、ボソッとフェイがぶっきらぼうに言った。その言い方が、フェイらしいと思った。自然と私の口元に笑みが浮かんだ。










 本来なら賑わっている村も、今は閑散としている。



 慌てて逃げ出したのだろう。屋台が出たままだ。



 民間人は誰一人歩いていない。今外にいるのは、兵士とハンターだけだ。民間人は木戸をしっかりと閉め、家の中で身を隠しているか、村の中で一番しっかりとした、石で建てられた教会に避難しているかのどちらかだろう。



 私たちは反対側の出入口に向かって、急ぎ足で歩いていた。



 出来れば、陽が暮れ始める前までに決着をつけたい。



 これ以上の混乱は、避難している人たちに過度なストレスを与える。避難している人の中には、貴族や豪商など、地位や権力を持っている人間もいるのだ。絶対、騒動に発展する。だとしたら、虐げられるのは、弱い立場の者たちだ。



 それだけは、絶対に避けなければーー




 残された時間は、五時間程だ。






 お待たせしました。

 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m


 今回は短め。


 次は、ホムロ山での討伐開始です!!




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