〈第九話 名前を決めました〉
「…………つい……」
寝苦しくてうっすらと目を開けると、目の前に、銀色の小さな旋毛が見えた。
小さな女の子が、私に寄り添うように寝ている。規則正しい寝息が聞こえた。そして背中にも、自分とは違う熱を感じた。その瞬間、完全に目を覚ました私は飛び起きる。
「あーー」
上半身を起こした私は状況を把握した。
この子たちは……
眠っていた頭が働きだす。
二日前の早朝も、この子たちは私に寄り添って寝ていた。あの時は、本当にすっごくビックリした。今回もビックリして飛び起きたけど。上半身を起こし、まだ眠っているこの子たちを見下ろしながら、今だに信じられずにいる。
この子たちが人間じゃないことに。生物ですらないことにだ。
だったら何なのかーー
この子たちは、私の刃。
霊刀が擬人化した姿だ。魔物を倒し、その血で目覚めたらしいけど。その実態は今尚不明だ。ただ分かっているのは、魔力が切れたら、双刀に戻ることだけ。それは確認済み。現に、ダンのところで元の姿に戻ったから。
「睦月さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
伸びをしていたら、サス君がベットの下から声をかけてきた。全く驚いてない。
「サス君おはよう。あれ? ココとシュリナは?」
「スザク様とココなら、ジュンのところでコーヒー飲んでますよ」
「もう、皆起きてたんだ~。寝坊した?」
私はベットで寝息をたてている子供たちを起こさないように下りると、パジャマを脱いだ。そして、タンスから白いシャツを取り出すと羽織る。着替えを終えると洗面所に向かった。後ろからサス君がついてくる。
「確か、今日定休日だったよ、キャ!」
ねと言おうとした時だ。太股に衝撃が! 思わず、膝かっくんしそうになった。
私の腰に抱き付く女の子。ベットの側では、泣きそうな顔をした真紅の瞳をした女の子が立っていた。
何で泣きそうな顔をしてるの!? 私が二人を置いて洗面所に行ったから?
『たぶん、そうだと……』
戸惑い気味のサス君。
「ごめん。セッカ、おはよう」
私は真紅の瞳をした女の子に、朝の挨拶をした。
ーーセッカ。
私は真紅の瞳をした女の子にそう名付けた。
デンの武器屋を出る時に、双子に名前を付けてくれと頼まれていた。考えて付けた名だ。ある漢字を二つにわけた。
「…………セッカ……セッカ……」
セッカと名付けた女の子は、目を見開き驚愕する。小さな声で、何度も何度も、私が付けた名前を呟く。そして、ポロポロと涙を溢しはじめた。
えっ!!
「セッカ!! どこか痛いとこがあるの!?」
慌ててセッカのもとに行こうとする私の服を掴み、青い瞳をした女の子は邪魔をする。
「主様、あたちは?」
舌足らずの口調で、青い瞳をした女の子が、私のシャツの裾を掴み引っ張りながら、キラキラとした瞳で私を見上げねだる。
「ナナもおはよう」
苦笑しながらも、私はナナと名付けた女の子の頭を優しく撫でる。
その瞬間だった。
セッカとナナの体が蛍のように発光しだしたのは。その光りは直ぐに治まる。この時私は気付いていなかった。自分の左手の甲が発光していたのをーー
「これで、完全に繋がりましたね」
サス君が満足気に言う。
繋がる?
「左手を見て下さい」
そうサス君に促されて、私は自分の左手が仄かに光っているのに気付いた。
「何これ!?」
慌てふためく私の側に、いつの間にかセッカは来ると私の左手をそっと握る。
「これは、主様と私たちを繋ぐ契約紋です。ご安心を。その紋は直ぐに消えます。普通の者には、その契約紋を見ることは不可能でしょう。……主様に名前を付けて頂いたことで、私たちと主様は完全に繋がりました。主様の魔力が私たちを満たすのを感じます。先日は、途中で元の姿に戻ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。以後、このようなことは決してありません。これからも、尚一層、主様を御守りすることを誓います」
三歳児ぐらいの幼女が、大人顔負けの流暢な口調で、十四歳の少女に対して忠誠の言葉を口にする。異様すぎる光景だが、この場にそれを異様だと思う者はいなかった。
「セッカ」
「ナナ」
「「主に頂いた名と共に」」
セッカとナナは私から二歩ほど下がると、膝を付き頭を下げ忠誠を誓った。まるで騎士のように。ただ若干、ナナは舌足らずだったが。
それだけでも、私の動きを封じ込めるには十分だった。戸惑った私は、頭が真っ白になって、どう言葉を返したらいいのかも分からない。時間だけが流れる。その間も、銀色の髪の幼女はじっと頭を下げたままだ。
「睦月さん。ここで了承の言葉を言わないと、このままですよ」
足下から、サス君が助け船を出してくれる。
了承の言葉……? 了承の言葉って! もう! 悩んでても仕方ない。分かったわよ。言うよ。どんな言葉でもいいんだよね。認めればいいんでしょ!
「…………分かりました。これからは、私と共に歩むことを認めます」
その言葉を聞いた途端、双子の幼女は顔を上げ、ニコッと満面な笑みを浮かべた。心底、嬉しそうな。私もつられるように微笑む。
「「主様~~!!」」
感激した幼女たちは飛び付いてくると、私の太股に抱き付いたのだった。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
今回は久し振りにサス君を表舞台にだしてみました。この頃、ココとシュリナに押されぎみで出番が少なかったので。
後一話で、グリーンメドウ編終了予定。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




