第一話 双子の幼女
「デンさん!! これは一体どういうこと!?」
朝ご飯もろくに食べずに、ドワーフが営む武器屋に乗り込んだ。そして、カウンター越しに詰め寄る。カウンターといっても、学校の机より低いんだけどね。
いきなり店に来て、挨拶もなしにくってかかった私に、デンさんは一瞬不愉快そうに顔を歪めた。だが直ぐに、私の後ろにいる銀髪の双子に目を留めると、状況が理解出来たのか、愉快そうに大声で豪快に笑い出す。
「ガハハハ!! 愉快! 愉快! やっぱり、嬢ちゃんに託して正解だったな!!」
「答えになってない!!」
バン!! と、カウンターを両手で叩き再度詰め寄る。
「どういうことか、詳しく説明してもらいましょうか」
はぐらかすのは無しだからね。勝手に納得されて自己完結されても困ります。なので、低い声でデンさんを問い質す。勿論、私がデンさんに詰め寄るには理由があってのことだ。
その理由っていうのが、私の後ろにいる双子の姉妹の件なんだよね……。
おそらく、三歳児ぐらいかな。
どちらも肩につくかつかないかぐらいの髪の長さで、前の毛も眉毛の少し下ぐらいに切り揃えられていた。陳腐な言い方だが、まさに天使のような幼女だ。二人とも、真っ白なワンピースを着ていた。シンプルだけど、双子にはよく似合っている。全く同じ容姿だが、唯一違うのが瞳の色だった。おそらく姉の方(喋り方がしっかりしていたから)が真紅で、妹の方(片言だから)が青色だ。
天使たちは私を挟むように立って、シャツを握っている。
そもそも何で、天使たちが私の服を握ってるのか、それは数時間前に遡る。
ドーンの森から、グリーンメドウに戻って来たのが昨日の夕方だった。
さすがに疲れきってたからね。ジュンさんの挨拶も早々に済ませ、倒れるようにベッドに入ると泥のように眠った。それで、寝返りが出来なくて目を覚ましたら、例の双子が私を挟むようにして寝ていたんだよね。
見知らぬ幼女が寝てたんだよ!! マジ、驚くでしょ!!
そんでもって、声も出ずに固まっていた私の目の前で、双子がのそのそと起きだすと、三つ指をついて私に挨拶してきたんだよ。その挨拶がなんというか……。
「主様、おはようございます。やっと、お会い出来て光栄です。ふつつかものですが、末永く宜しくお願い致します」
「主様、宜しくです」
真紅の瞳の子が大人びた挨拶をしたのに対し、青い瞳の子は短い挨拶だった。
いや、いや、いやその挨拶っておかしいでしょ。私、幼女と結婚した覚えないんですけど……って、そんなことよりも。
「…………誰?」
何で、私のベッドで寝てるの?
「はい。私は主様の刃です」
「刃だよぉ」
真紅の瞳をした子ははっきり答え、青い瞳の方はちょっと舌足らずだ。
(……刃?)
何、答えになってない。
「珍しいものを持っているな、ムツキ。それは、霊刀だぞ」
枕元で一緒に寝ていたシュリナが、欠伸をしながら教えてくれた。
「レイトウ……?」
「何、寝惚けておる。その双刀は霊刀だろうが」
(えぇぇっ!!)
まさか双刀が。シュリナの言葉に、慌てて机に置いてあった双刀を確認した。
「……ない」
鞘だけで、肝心の双刀はどこにもなかった。
(まさか……マジで…………)
「双刃なの……?」
恐る恐る確認する。
「はい!! やっとお会い出来るようになりました!!」
「やっと会えたお」
朝から、天使たちの屈託のない笑顔は破壊力があるね~~。って、そんなことはどうでもいいよ。ほんとに双刀なの……? スーハースーハー。取り合えず落ち着かなきゃ。
机に置いてあった水を一気飲みすると、普段着に着替え一階に下りた。この子たちが双刀なら、勿論行くべき場所はデンさんの所だ。という訳で、私たちはデンさんの店に突撃したってわけ。
「どういうことか、詳しく説明してもらいましょうか!! デンさんさん。霊刀だってこと、どうして買った時に教えてくれなかったんですか!?」
「教えたら買わなかったか、嬢ちゃん」
ニヤニヤと笑いながら、デンさんは訊いてくる。
「「主様……」」
双子が背後から悲しそうな声がする。見下ろせば、うるうるした目で見上げていた。ウッ。胸が痛む。
「……たぶん、買ったと思うけど」
負けです。完敗ですよ。魔剣でも買ったでしょうね。
「だろ。持った瞬間、手に馴染んだろ。霊刀とはそういうものじゃ」
「でも、まさかデンさんが霊刀を作れたとはね」
ココが会話に混ざる。
「そうしょっちゅう作れるものではないわい。今まで、五つ生み出した程度だからな。嬢ちゃんが持っているのは、三番目の我が子だ。なかなか、貰い手がなくてな。っていうか、この子たちが気に入らなかったって言った方が正しいな」
「もし、この子たちが私を気に入らなかったら?」
「勿論、別の我が子を紹介したぞ」
(どのみち、霊刀を持ってきたんですか!? デンさんさん)
「私の主様は主様だけ!!」
「主様だぁけ!!」
双子が私の服の端を強く掴み、デンさんを睨み付けている。それをデンさんは嬉しそうに見ていた。
「で、嬢ちゃん、左利きじゃろ?」
唐突にデンさんは尋ねる。
不思議に思いながらも私は頷く。
「青い目の子の方が舌足らずなのは、嬢ちゃんが左のダカーで魔物の止めを刺したからじゃ」
確かに、赤い魔石がついている方が左手用で、青の魔石がついている方が右手用だ。左利きだから、当然左手で止めを刺していた。
じゃあ、ブラッキッシュデビルと対峙した時に聞こえてきたあの声は、やっぱり、この子たちの声だったんだね。あの時も、私のことを主様って呼んでたし。私は服の端を強く握る双子を見下ろす。この子たちが段々可愛くなってきたよ。
「霊刀は成長する刀じゃ。魔物の命を糧に成長する。今は、こんな幼児じゃがな。それと、もしよかったら、名前を付けてやってくれ」
(ということは、双刀を使って魔物を倒す度に、成長して大きくなるってこと? えっ!? この子たちに名前? う~ん。名前かぁ……)
そんなことを考えていると、服を引っ張っていた感覚がなくなった。同時に、ガチャンと固いものが床に落ちる音がする。足下を見ると、二本のダガーが転がっていた。
ほんとに、ダガーだったんだ……。
私は双刀を拾うと鞘に収めた。
「魔力が尽きたんだ。人型は魔力を消費するからな。今は眠ってる。……嬢ちゃん、我が子を可愛がってくれ。この子たちは嬢ちゃんを裏切らねぇ。そんで、たまでいいから、顔を見せてくれると助かる」
デンさんはどこか寂しそうに、でもどこか嬉しそうな複雑な顔をしていた。ほんとに、双子の事を大事に想ってる気持ちが伝わってくる。
「うん。そうする」
そう約束すると、デンさんは嬉しそうに笑った。
これから、私は【護りて】という役目を果たすために旅にでる。
グリーンメドウにいつ戻れるか分からないけど、帰って来たら、必ずデンさんの所に顔を出そうと決めた。それと、旅に出発する前に一度寄ろうかな。
長旅になる予定だから、出発する前に、色々なことをしなくちゃいけないし、これから大変だ。私は大通りを歩きながら、小さなため息を吐いた。
本当にお待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
新しい仲間? の登場です。これから、ちょくちょく登場予定("⌒∇⌒")
でも、ムツキはあまり武器の攻撃をしないので、どうなることやら。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




