第二話 姿を現した魔獣
【自分を化け物扱いをした奴らを庇うのか?】
その声は威圧的で、明らかに私を馬鹿にした声だった。
まさか、魔獣が話し掛けてくるなんて思ってもみなかったが、その言い方に、どうしても我慢が出来なかった。怖さも忘れて、私は声を荒げる。
「当然でしょ!! 仲間なんだから。化け物扱いされようが、嫌われようが、私には関係ない!!」
姿を見せない魔獣に向かって反論する。それは同時に、自分に向かっても言っていた。
【裏切られてもか?】
重ねて、魔獣は尋ねてくる。
(何で、そんな事を訊いてくるの?)
何かを確かめようとしているのか。それとも、ただの好奇心からか。判断が出来ない。
不審に思いながらも、私は律儀に答える。
「ええ。例え、化け物として殺されかけても構わない。私は信じるって決めたんだから! ……だから、私は最後まで、皆を信じる!」
きっぱりと言い切った。
真っ直ぐ、魔獣がいる方を見据え言い切る私に、魔獣は少しの間をあけポツリと呟く。哀れみを込めて。
【…………愚かだな】と。
その声は、やけにクリアに聞こえた。
そう、クリアにーー。
ついに、魔獣がその姿を現した。
十段ほど階段を上った先、遺跡の入口で止まると、魔獣は私たちを見下ろす。
月明かりに晒された魔獣の姿に、全員息を飲んだ。
その姿は、今まで見たどの魔獣よりも遥かに大きく、前足も人の太ももほど太くがっしりとしていた。
明らかに、S級ランクだと判断出来る。SSかもしれない。話しかけてきた時点で、もはやS級確定なのだが。
一見、獅子に姿がよく似ていたが、大きさは比較にならない。体毛は真っ黒で艶があり、目は赤く輝いている。その姿は魔獣でありながら、口調と同様威厳に満ちていた。神々しくて、綺麗だと思った。魔獣なのに。
【やはり、効かぬか】
魔獣は、私とサス君、そしてココを見下ろしながら呟く。
(効かない? それは、魔波のこと?)
魔獣は口角を上げる。笑っているのか、鋭く太い牙を覗かせながら、私に向かってこう言い放った。
【娘、我についてこい】と。
言うだけ言って、そのまま魔獣は踵を返す。私がついて行くと思っているのか、後ろを振り返りもしない。
「……もし、嫌だと言ったら?」
私は魔獣の後ろ姿に向かって、そう問いかけた。
【威勢がいい娘だ。その時は、後ろにいるそ奴らが死ぬことになるだけだが】
立ち止まり、顔だけ後ろに向けると、魔獣は淡々と述べた。
感情が全く含まれない冷たい口調に、その言葉が決しておおげさではないのだと感じ取った。私が行くのを拒否した瞬間、この魔獣はショウたちを、ゼロを躊躇うことなく無惨に殺すだろう。
言葉を操るが、冷酷な魔獣だーー。
命を奪うことに、はじめから躊躇いなどない。
今、ショウたちやゼロが殺されないのは、魔獣の気紛れに過ぎないのだ。いつ、その気紛れが心変わりをするか分からない。彼らの命は、魔獣の気持ち一つで決まる。それ程軽いものなのだ。私たちが弱かった。それだけだ。
諦めたからじゃない。そうじゃないけど……。
私がとるべき行動は、始めから決まっていた。
残された道など、どこにもなかった。
私は抜いていたナイフを鞘に直すと、遺跡の入口に向かう階段に足を掛ける。
その時、ガタッという音が背後からした。呻き声が聞こえる。
後ろを振り返ると、皆苦しそうに蹲りながらも、その目は「行くな!!」と必死に叫んでいた。フェイの目もそう叫んでいる。
胸の奥が急に熱くなった。泣きそうになる。顔を歪めたまま、何も言わないまま、この場から去るのはどうしても嫌だった。
涙を堪えると、無理して微笑んだ。
皆が私の顔を凝視する。だが直ぐに、苦しそうに表情を歪め俯く。
(ごめんね……)
私は心の中で、皆に謝った。私は敢えて謝罪の言葉を口にしなかった。代わりに出たのは正反対の言葉。
「皆に会えて、本当によかった。すっごく、楽しかったよ。ほんと、ありがとね!」
それは、心から出た言葉だった。偽りのない気持ち。
(初めてこの世界に来て、会ったのがショウたちで本当に良かった)
心の底からそう思える。
私は皆に別れを告げると、頭上にいる魔獣の方に視線を戻す。
一歩、一歩、私はゆっくりと階段を上った。サス君もココも、当然のように私に付いて来てくれる。
(それがとても心強いって、サス君、ココ気付いてる?)
優しい私の仲間は、ソッと背中に手を添えてくれる。
だから私は、真っ暗な回廊を魔獣について歩き出す事が出来た。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
遺跡編はどうでしょうか?
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




