第十二話 交わることのない視線
……温かい。
何か温かいものに包み込まれている。
「う……ん…………」
フワフワしてて、モフモフしている何かが、私を優しく包み込んでいる。それが気持ちよくて、私は無意識にその温かみに顔を埋めようとした。
「ムツキ!!」
「睦月さん!!」
「「「ムツキちゃん!!」」」
名前を呼ぶ複数の声が眠りを邪魔をする。
(うるさいなぁ! もっと、このモフモフを味わいたいの! 邪魔をしないで!!)
心の中で文句を言いながら、モフモフに顔を埋めている私を、何度も、何度も、呼ぶ声がうるさくてとうとう私は顔を上げた。
「ムツキ!!」
「睦月さん!!」
「「「ムツキちゃん!!」」」
一際大きな声で名前を呼ばれる。
あまりにも五月蝿くて起きて文句を言おうとした。うっすら目を開けると、私を覗き込む皆の顔がクシャと歪んだ。
「……サス君……ココ…………皆……」
皆の顔がホッとした安堵の表情へと変わった。
「やっと目を覚ました……。気持ち悪いところとかない!?」
「苦しいとこない!? 大丈夫!?」
「遠慮なく言うんだぞ!」
ゼロとアンリ、そしてショウが、上半身を起こす私に手を添えながら次々と尋ねてくる。
上半身を起こして私は思い出した。私はブラッキッシュデビルを倒し、気を失い倒れたことを。
そして、今私たちがいるのはセーブポイントのようだ。
私を包み込んでいた温かみの正体はサス君のお腹だった。
(あれ? アキとフェイがいない……周囲を見回りにでも行ったのかな。あの二人は特に身が軽いからね)
「ムツキちゃん?」
アンリが心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫。苦しいところはないよ」
私は皆を安心させるために微笑んでみせた。
「どうして、自ら危険な場所に飛び込む真似をした!? 方法はいくらでもあっただろ!!」
「自分の命を軽んじらないで下さい……」
私の笑みを見て、堪えていた気持ちのタガが外れてたのだろう。今まで声を荒げたことのないココが声を荒げ、サス君はまるで自分が傷付いたように苦しそうな声で私に願う。
「……ごめんね、ごめんね……本当にごめんね」
心配させてしまった。
かなり、無茶をした。結果的にはOKだったとしても、一歩間違えば私はこの場にいない。相談もしないで、一人立ち向かったことに、ココとサス君は怒っているのだ。それだけ、私のことを大事に思ってくれてる。思っている分だけ、傷付き、腹が立ったのだ。
私はココを胸に抱き、もう一度、サス君に体重を預けながら、何度も、何度も、謝った。
「目が覚めたばかりで悪いが、ムツキ動けるか?」
ショウが、サス君とココに謝り続ける私に尋ねた。
一晩、ドーンの森の中で過ごすことは、いくら今セーブポイントにいたとしても避けたい。泊まる準備もしていないし。動けるなら村に戻っておきたい。陽があるうちに。
私はココを地面に下ろし腰を上げた。立ち眩みもしないし、ふらつくこともない。体は少し重いかな。倦怠感は残っているけど、動けないほどではない。
「大丈夫みたい。自分の足で歩けるわ」
私の様子を見て、再度皆はホッと胸を撫で下ろしたようだ。その時、アキとフェイが戻って来た。
「近くに魔物はいない」
「こっちも大丈夫だ」
やっぱり、身が軽いアキとフェイが、周囲を見回りに行ってたみたいだ。ショウに報告する。
「大丈夫か? ムツキ」
アキが目を覚ました私に声を掛ける。私は頷くと、アキは安心したように微笑む。
「私は大丈夫だから、一旦、村に戻ろう」
その声を合図に、皆荷物を片付け背負う。
「しんどくなったら、遠慮なく言うんだぞ」
「ムツキちゃん、無理はいけないからね」
ショウとゼロが出発する前に、私に声を掛けてくれた。私はもう一度、皆に向かって頷いた。
「フェイ、心配かけてごめんね」
さっきから、私と目を合わせようとしないフェイの態度を気にしながらも、明るい声で謝った。
「ああ」
しかし戻ってきたのは、素っ気ない一言。「大丈夫か?」の一言もない。言って欲しいとは思ってもいないけど……。その一言以外で、一度もフェイと視線が交わることはなかった。
ちょっとだけ寂しさが胸を過る。胸の奥で、鋭い痛みが走った。
無言のまま歩く。幸いな事に途中倒れることなく、私たちは無事ドーンの森を脱出した。
ゼロは一日予定を伸ばすことにした。
どうにか宿屋に戻った私は、お風呂に入ってからベットに倒れ込む。思ってたより疲れてたようだ。泥のように眠った。夢も見ずに。次の日も、一日の大半をベットの上で過ごした。
そして翌日。
私たちとショウたちのパーティー、雇い主ゼロと一緒に、遺跡に向かうためにドーンの森にもう一度足を踏み入れた。
(蘇生草、生えてるといいなぁ……)
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




