第十話 災厄の魔獣と謎の声
「サス君!!」
私の声を合図に、サス君がブラッキッシュデビルに雷を打ち込む。
ブラッキッシュデビルはサス君が放った雷を、全て紙一重で避ける。それでもサス君は、ブラッキッシュデビルに雷を打ち込み続けた。
木々に雷が当たり、焦げた匂いが鼻につく。
雷を全て交わしたブラッキッシュデビルは、そのまま跳躍し、私目掛けてに襲いかかって来た。
避け切れずに、ブラッキッシュデビルの爪が私を容赦なく切り裂く。
悲鳴が上がった。ショウさんたちが私の名前を叫ぶ。
しかし、ブラッキッシュデビルは本能的に感じ取っていた。そして直ぐに気付く。私が何処にいるのかを。
予定通り。
(さすが、ココ!!)
ブラッキッシュデビルの動きを完全に止める事が出来た。
ブラッキッシュデビルが切り裂いたのは、ココが作り出した幻影。一瞬でも、ブラッキッシュデビルの隙をつくるためにとった作戦だ。
(ほんと、ココは天才だよ。こんな状況下で的確な作戦を考え出すなんて)
私はニヤリと笑うと右手を前に翳す。
【ウィンドボール!!】
ブラッキッシュデビルの後ろ足が岩を蹴った瞬間、私は口にださずに魔法を唱えた。
何度も唱えた事がある魔法だ。瞬時に緑の魔方陣が現れ、風の刃がブラッキッシュデビルを襲った。空中にいるブラッキッシュデビルに逃げ場はない。さすがに、空気を蹴るわけにはいかないもんね。
【ウィンドボール!! ウィンドボール!! ウィンドボール!!】
私は連続で魔法を打ち込む。
躊躇わない。容赦もしない。甘い考えも持たない。
私は目の前にいるブラッキッシュデビルを叩き潰すことに集中する。もしここで少しでも戸惑えば、それは間違いなく、私たち全員の命に繋がるのだ。
食うか、食われるか。
やるか、やられるか。
ハンターとは、そういう世界で生きる者たちだ。
ハンターという仕事を、成り行きとはいえ自分の意思でなった。
そしてマトガの村で、私は自分のこの手で、魔犬と結構な数の魔物を殺した。自分の手で殺した魔犬の牙を、私はペンダントに加工し首に掛けている。それが、私なりのハンターとしての決意だった。
四回連続で、私は風魔法を叩き込む。
バキッバキッバキッ!!!!!!
枝や幹が裂ける音が森に響く。その音の次に、重たい物が固いものに叩き付けられる音がした。ブラッキッシュデビルが地面に叩き付けられた音だった。
(殺ったか……)
ブラッキッシュデビルは魔犬や他の魔獣のような、「ギャン!!」という、悲鳴を上げることはなかった。さすが、魔獣の中で王者と称される魔物だ。
その耐性の強さも王者だった。
唸り声と共に、激しい息づかいが聞こえる。死んではいなかった。風魔法をあんだけ打ち込んだのに、ブラッキッシュデビルは体を起こす。体中に傷がつき、血を流しているのに、その目に絶望はない。あるのは、激しい怒りだけだった。
ゾクッ。
全身に寒気が走った。
(飲み込まれたら駄目!!)
「……厄介だね。この距離で、深手だけですんでるのは。……ムツキ、サスケ。もしかして、防御を魔耐に変化させたのかもしれない」
ココがとんでもないことを口にした。
「防御を、魔耐に? そんなことが出来るの?」
「高位魔獣の中には、出来るものがいるって、聞いたことがあるよ」
私は【鑑定スキル】を使って確認してみる。
【ブラッキッシュデビル(幼体)】
HP 86/845
MP 32/138
物理防御 49(-79)
魔力防御 106(+79)
ココが言った通りだった。物理防御のマイナス分が魔耐に追加されている。
私は試しに、もう一度ウィンドボールを放った。私が放った魔法は、ブラッキッシュデビルの目の前て消える。どうやら、吸収されたみたいだ。
「ーーーー!!!!」
私とサス君は息を呑む。
「魔法の耐性が上がっただけでなく、魔法防御に変換したみたいだね」
ココが冷静に分析する。
つまり、ブラッキッシュデビルが魔法を使えてなくても、あの壁を破壊するだけの魔法を、叩き込まなければならないってことだ。
それだけじゃない。壁を破壊してから、ブラッキッシュデビルが耐えきれないほどの威力の魔法を繰りださなければ、奴は倒せない。
深手を負っているとはいえ、同じ攻撃が通じる相手ではないってことだ。
となれば、物理攻撃しかーー。
明らかに、私たちの方が不利だ。
私は岩場に隠れているショウたちに、チラリと視線を移す。ココの声はショウたちにも聞こえたはずだ。なのに、今だにショウたちは座ったまま。腰でも抜けた?
(まともな物理攻撃が出来るのは、サス君だけか)
徐々に追い詰められている。悔しさに顔を歪めた。無意識のうちに、私は唇を噛み締めていた。
『そんなに唇を噛むと、切れちゃうよ。……それにしても、器用な魔獣よね~~。防御が、魔耐に変化したってことは、物理攻撃の威力はマシマシだよね。ましてや、物理攻撃も魔法防御に変換しているようだし。これって、チャンスよね!!』
『チャンス! チャンス!』
(何……この声?)
この場に似合わない、楽しそうな子供の声が聞こえてくる。
サス君やココはこの声に反応していない。それに、この声はアンリの声でもない。
(もしかして、私にだけ聞こえている? おかしくなった?)
『おかしくないよ』
『失礼しちゃうよね』
(声にだしていないのに……心を読まれてる?)
それに話してて気付いたんだけど、聞こえるというよりは、頭に直接響くような奇妙な感覚がした。
『念話だもん』
『念話! 念話!』
『念話!? テレパシーのようなものなの?』
私は心の中で尋ねる。
『悪いけど、説明は後。私たちに任せてくれたら、勝たせてあげる』
『勝てるの?』
『『うん!!』』
『絶対に?』
『『絶対に!!』』
謎の声は綺麗にハモりながら答えた。その答えに微塵も曇りがなかった。絶対的な自信が、声にありありとにじみでている。
(何を迷ってるの!!)
私は自分自身を叱咤する。
勝てる可能性が低くくても、少しでも勝てる可能性にかけるべきだ。例えそれが、得体のしれない力だったとしても。
『……分かった。お願い、力を貸して』
『『はい!! 主様!!』』
元気よく、謎の声は返事した。
(……ん? 主様?)
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
戦いのシーンは次で終わりです。
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




