第三話 再会
ようやく夜が明けた頃、約束していた時間より少し早めに、私はゼロのお店に到着した。
荷台に積み込むものを、従業員にてきぱきと指示していたゼロは、私が来たのに直ぐに気付いた。
「おはよう、ムツキちゃん。すごい荷物だね」
ゼロの若干呆れた声が私を出迎えてくれる。
「おはようございます、ゼロさん。これ、ジュンさんから。お昼に皆で食べて下さいって。どこに置いたらいいですか?」
「えっ! ジュンさんから。助かるよ。ココ、サスケ君もおはよう」
ゼロはよほどジュンさんのお弁当が嬉しいのか、満面な笑みを浮かべながら受け取る。美味しいからね~。
サス君とココはかなり眠そうだ。ゼロの挨拶に頷きもしない。何度も欠伸をしている。ほんと、朝が弱いんだから。
ゼロと会話している間も、従業員たちが忙しなく荷馬車に荷物を積み込んでいる。
(あれ? あの男の人?)
ゼロの後ろを横切る男の人に見覚えがあった。気をとられていると、それに気付いたゼロが後ろを振り返り誰か確認する。
「どうしたの? ムツキちゃん。フェイと知り合い?」
ゼロが尋ねてくる。
「……うん」
(もしかして、彼らも一緒に行くのかな?)
ゼロがフェイを呼んだ。
「あーー何の用だよ! てめえの荷物だろ! 自分で運べよな!!」
苛々した口調で怒鳴りながらも素直にやってくる。
口は悪いけど、文句を言いながらも手伝ってるのを見て、やっぱりフェイは真面目でいい人なんだと、改めて思った。マドガ村でも、私の取り分をけちる事なくきちんと渡してくれたしね。誰にも知られずに、自分の懐に入れる事も簡単に出来た筈なのに。それをしなかった。
「そういう言い方は失礼だぞ! フェイ。すみません、ゼロ」
フェイの声が聞こえたのだろう。連れらしき青年が飛んで来て、フェイの頭を小突く。
「お久し振りです。ショウさん。その節は大変お世話になりました」
フェイの頭を小突いた青年に軽く頭を下げる。
マドガ村でお礼を言いたかったけど、何かと忙しくてショウたちを探す事が出来なかった。だから、会うのは半月ぶりだ。
グリーンメドウの街外れで、器用にも道に迷っていたちょっと残念なパーティーだ。でも親切な人たちだった。パンフレットをくれたし、ギルドまで案内してくれた。
私とサス君にとって、この世界で初めて会った人たち。それがショウたちだ。
「うっせーな、ジロジロ見るんじゃねーよ!! っで!!」
そんな事言うからまたショウに小突かれた。
(マジ、口悪っ!)
ついでに目付きも悪い。見た目、チンピラか不良。
「すまない。こいつ、すごく口が悪くて。でも、良い奴だから」
すかさず、リーダーの戦士さんがフォローしている。うん。分かってるから。
フェイがチンピラタイプなら、戦士さんはボンボンタイプだ。長男ではなく、三男あたりの。人が良いのが全身からにじみ出ている。見た目も性格も正反対の二人だ。だから、仲がいいのかもしれない。
「フェイさんが親切で良い人なのは分かってますから、大丈夫ですよ」
私が笑みを浮かべながらそう答えると、ショウはビックリしたように私を凝視する。
反対に、フェイは苦虫を潰したような顔をした。
「あの時は、本当にありがとうございました。おかげで、無事ハンター試験に合格出来ました」
私は頭を下げ、やっとお礼を言うことが出来た。
「マドガ村で見掛けはしてたんだけど、声掛けられなくて。フェイからは聞いてたんだけど」
ショウは残念そうな顔をする。
「君たち、知り合い?」
黙って見ていたゼロが尋ねる。
答えたのは、ショウではなくフェイと呼ばれた青年だった。
「初めてグリーンメドウに来たこいつらを、ギルドまで案内してやったんだ」
ゼロは驚いたようで、私とフェイを見比べている。世の中は意外に狭いようです。
「今回の依頼に、ショウたちも参加するんですね」
たぶんそうだと思いながらも、一応確認を取っておく。
「ああ、そうだよ。神殿に行くなら、ショウたちの力が必要だからね」
(ショウたち力が必要? まさか、地図じゃないよね)
方向音痴の彼らにはハードルが高いような気がする。ただの護衛だよね。
そんな事を考えていると、準備が出来たと従業人が報せに来た。私たちは荷馬車に乗り込む。
後ろの荷台には、既に猫科の獣人さんと綺麗なお姉さんが乗っていた。「久し振り」とにっこり笑いながら、私たちを迎えてくれる。
私たちを乗せた荷馬車は、ゆっくりとドーンの森に向かって出発した。
新たなクエストの始まり。
だけど不安が過る。それは、伊織さんが言っていた台詞だ。
ーーレベル15になったら、自動的に戻ってこれるからね。
と、伊織さんは告げた。
今、私のレベルは13だ。伊織さんの言葉通りなら、もしかしたら、このクエスト中に常世に戻ってしまうかもしれない。
このクエストを受ける事になった時、ゴール出来るかもしれないって喜んだ。けど……いざ、出発の段階になった時、胸を過ったのは、このクエストを取り消したいっていう気持ちだった。
私は笑顔の裏で揺れていた。引きつってたかもしれない。
いつしか私は、この世界が好きになっていた。もっと……色々な風景を、世界を見てみたい。そう願っている自分がいる。
そしてその願いは、抑え込めないほど大きく膨らんでいた。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




