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副団長の思惑



 俺の家は属に言う貴族って奴だ。


 それも、多くの騎士を輩出している由緒正しい家柄ときてる。


 そして俺も、当然のようにその一端を担ってる訳だが。一応、これでも第二騎士団の副団長を任されている。


 とはいえ、全員が騎士になれる訳じゃない。


 そもそも騎士になるためには、最低限ハンターの資格が必要だ。


 騎士なのに何故? と思うだろうな。


 それは騎士の仕事の一つに、魔物を狩る仕事があるからだ。魔物を狩るのに、ハンターの資格が必要だから仕方ない。裏を返せば、ハンターの資格がない者は騎士にはなれないって事だ。


 幸いにも、俺の家族全員がハンターの資格を持っているが……正直、周囲から求められるのはもっと上だ。


 トップ合格。


 心底、馬鹿らしいと思う。トップで合格しようがしまいが、ハンターになる事は変わんないのに。それにこれから先、どんな風に成長するか分からない。化けるかもしれない可能性もあるのにだ。


 なのに、周囲は馬鹿げた過度な期待を俺たちに課せる。そして、トップ合格出来なかった者は脱落者として冷ややかな目を向ける。


 ましてや、トップで合格してハンターとして十分な実績を積んでいるのに、騎士にはならず、天文学者の道を歩む長兄を蔑む声は大きい。表立っては言わないが、影でボロクソに言われている。俺の耳に入ったら、間違いなく報復決定だ。


 その長兄は家督を放棄し、家も出、今は独り暮らしをしている。まぁ、ハンター時代に貯めていたお金もあるし、別段贅沢をしなければ一生衣食住には困らないだろう。


 俺たち家族は、長兄の生き方を応援している。自分の道を決め、真っ直ぐ歩くその姿は誇らしいとも思う。俺にはそんな勇気はなかったが。でも、今の自分はそこそこ気に入ってる。


 そんな俺たち、五人兄弟の末っ子が、この前ハンター試験を受けた。


 結果は二番目。


 トップは最後に入って来た少女だった。


 これは意外な結果だった。兄弟の欲目を無視して、才能で言えば、弟はずば抜けていた。当然、トップ合格するものだと思っていたが、現実は違った。まぁ、それは残念だが仕方ない。


 だが、弟は最悪な事を仕出かした。


 少女に乱暴しようとしたのだ。納得出来なくて、ハンターカードを奪おうとしたらしい。騎士を目指している弟にとって、それは絶対にしてはいけない行為だった。例え、自分のプライドを傷付けられたとしてもだ。


 やった事は許されないが、弟の気持ちも理解出来る。


 弟は長兄にすごく憧れていた。自分が脱落者になれば、関係ない長兄のせいにされる。ましてや、三人の兄もトップ合格している。その現実が、一番下の弟に過度なプレッシャーを与えていた事も分かっていた。しかし弟は、そのプレッシャーから逃げる事なく、必死で踏ん張っていた。そしてその頑張りは、間違いなく実を結んでいた。


 その頑張りを、弟は一時の感情で自分から無下にした。


 反対に、少女の方は最後まで手を出さなかったらしい。連れていた従魔を抑えていたと聞く。


 騎士を目指している者が、怒りを露にして年下の少女に手を上げ、理不尽に上げられた少女はそれを耐える。従魔をけし掛ければ直ぐに収まったが、敢えてそれを行わなかった。弟を、そして自分の従魔を護ったのだ。


 経緯を知った親父は怒りで顔を真っ赤に染めた。


「お前は才能だけでなく、その精神も負けたのだ。騎士を目指す者として恥を知れ!!」


 怒鳴られた弟は、親父に殴られ謹慎中だ。


 そんな時だ。マドガ村の魔物討伐の話がきたのは。


 あれから、何度も少女の噂は耳にしていた。


 わざわざ最下位の職である冒険者になったのも、才能だけでシルバーになった話も聞いていた。噂では、白の大陸に住む天翼人や蒼の大陸に住む竜人並の魔力を持っているらしい。それが本当なら、シルバーになった事も、トップ合格した事も頷ける。本当ならだ。


 俄然、興味が湧いた。


 シルバーなら、初心者だろうとも、今回の討伐に組み込まれる筈だ。


 俺は団長にお願い(脅迫)をして、その一員に潜り込んだ。


 マドガ村に到着したと同時に、空が光った。微かに、消え掛けてる魔方陣が見えた。雷魔法か……。あれ程の魔方陣を描けるのは、この大陸で数人しかいない。


 俺たちは皆唖然とする。


(やっぱり、噂は真実だったのか……)


 それから小一時間後、俺は少女と顔合わせをした。


 瞬間、その美しさに目を奪われた。肩まで伸びた艶やかな黒髪。陽に焼けていない白い肌。そして、強い意思を秘めた黒い瞳。思わず、触れてみたいと思った唇と頬。細くて小柄な体を抱き締めたいと強く思った。


 と同時に、凍てつくような殺気を感じた。直ぐに殺気は消える。


 発していたのは、隣に立つギルマスだった。


 目の前の少女は気付いていない。だが、従魔たちは俺を凝視している。


(完敗だ。手が出せない。でもまぁ、知り合いになれたのだから良しとするか)


 その後、夕食を兼ねて作戦会議となった訳だけど、俺は益々少女に、ムツキに魅せられた。それは隣にいるジェイも同じだろう。何か楽しくなってきた。でもその前に、足下にいる薄汚いこれをどうにかしないとな。


「……その笑み止めろ。部下が完全に引いてるぞ」


 因みに、引いてるのは部下だけじゃない。現在進行形で土下座をしている宿屋の店主も、顔を強ばらせて小刻みに震えている。


(殺気は放ってないんだが……)


「ジェイ。悪いが、宿屋にはお前だけで戻ってくれないか」


 その言葉に、ジェイは顔をしかめる。


「ムツキの所に行くつもりか?」


「勿論。従魔が一緒とはいえ、いたいけな少女を一人野宿させるなんて、俺には出来ない」


「ならば、俺も行く」


 だろうな。


 副団長とギルマスの言葉に慌てたのは、宿屋の店主だった。青い顔が白くなる。だが、その言葉に反論する事は許されなかった。足音が遠ざかって行く。


「ほんと、お前の息子、とんでもない事を仕出かしたな。……あの少女の装備品見たか? ハンター相手に商材してる俺たちなら気付いた筈だぜ。ローブも胸当ても、武器も魔装備だってな。魔装備を装備し続けるなんざ、余程の魔力がなければ出来ねーぜ」


 慰めに来たのか、止めを刺しに来たのか分からないが、食堂の店主の言葉に、宿屋の店主は項垂うなだれたまま顔を上げる事が出来なかった。

 

 



 


 弟君のその後を少し。

 頑張り屋の弟君が立ち直ってくれるのを期待しつつ……。


 次回は、いよいよ魔物討伐が始まります!!

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