第七話 作戦会議(一)
「それで、痕跡は何も残っていなかったんだな?」
若干厳しい表情をしながら、ギルマスは確認する。
あの後すぐに、威圧感を感じた場所に行ってみたが、目に見える痕跡は何一つ残っていなかった。だが幸いな事に、魔物の臭いが微かに残っていた。
「はい。足跡等の痕跡は。ただ……微かに、魔物の臭いが残っていたみたいです」
(その魔物が厄介なんだけどね……)
胸の内で呟く。
「ああ。報告は受けている」
険しい表情のギルマスを見ながら、私も同じように険しい表情で頷く。
その頭の隅で、ほんと、イケメンって、どんな表情も様になるよねって、場違いな事を考えていた。口には絶対出さないけどね。
だって、これでも私は正常な十四歳の女子だよ。って言っても、そういう方面は超苦手で、出来れば避けて通りたいのが正直な気持ちかな。というより、そもそもそんなに興味がない。皆無に近い。まぁしいて言うなら、一般的感想かな。決して、モテないからじゃないからね。
「臭いですか?」
柔らかい口調で、騎士の一人が尋ねる。
報告受けてないの? 到着したばかり? それとも、知っていながらも確認のために訊いてるのか。私的にはどっちでも構わないけど。
尋ねてきたのは、細マッチョのお兄さんだ。とても綺麗な人だよ。無造作に後ろで髪を括ってるが、それがまた似合っている。師匠とどことなく似ていた。師匠もそうだけど、彼に格好いいという形容詞は似合わない。男臭さを全く感じさせない容貌だった。それでも、騎士として働く以上らその腕前はかなりのものだと思う。実際、師匠も強かったし。見た目と反しているところも似ていると思う。
まぁ、強くて当たり前なんだけど。
そもそも騎士は、ハンター資格と実績がなければ試験を受ける事さえ出来ない(魔物を狩るのも仕事だから)、狭き門だ。
それを突破するだけでも、実力者だと言える。その上、彼は副団長さんを務めているらしい。それだけで、相当な猛者だって分かるよね。そんな猛者が、こんな田舎にわざわざ派遣されるなんて、正直驚いた。ハンターの数が足りてないからかな。
もう一つ、驚いたらいけないのが、この美人騎士さんがアイツの兄だという事だ。世の中狭いよね……。
アイツーー。
そう、ハンター試験の後、「カードを見せろ!!」って絡んできた、超自分勝手で暴力的なアイツ。
アイツからは謝罪の言葉は一切貰ってない。まぁ、あれから会ってないけどね。代わりに、お兄さんから謝られた。一度アイツに頭を下げさせるって言われたけど、会いたくなかったのできっぱりとお断りした。お兄さんには苦笑いされたけど。いや、マジで会いたくないから。
お兄さんこと副団長さんは、明日の討伐に参加する一人だ。
ギルドからはギルマスと私。そして王都から派遣された騎士五名の計七名で行われる。
全体的指揮を執るのは勿論、ギルマスだ。
親睦会と明日の打ち合わせを兼ねて、かなり早めの夕食を皆で一緒にとる事になった。
それで、今席に付いているのは私たちだけだ。とても静かだね。お昼を食べ損なっていたから丁度よかった。
今日の夕御飯はビーフシチューか。肉も大きい。それに柔らかい。野菜もゴロゴロ入ってて、すっごく美味しい。最高!! サス君もココもガツガツ食べてるし。サス君、口の周り茶色に染まってるよ。後で拭いてあげなきゃ。
そんな事を考えてたら、咳払いが聞こえた。咳払いをしたのは副団長さんさん。ギルマスも副団長さんも苦笑していた。他の騎士さんたちも。しまった! 大事な話をしていた途中だったよ。今更遅いけど、真顔になって、
「……サス君曰く、ハイオークの臭いだと」
サス君の代わりに答える。
ハイオークの名前を口にした途端、副団長さんを除く騎士たちが私を見てざわつく。が、副団長さんの一睨みで皆口を閉じた。さすが、副団長さん。皆から恐れられてるね。
騎士さんたちがざわつく気持ちも、私を見るのも理解出来るけどね。だって、オークは男女共に私たち人間にとって天敵だからね。意味合いは全く違うけど。
【ハイオーク】
オークの進化系。
その数は、オークの中で数パーセントしか存在しないと考えられている。
身体的特徴は、全身筋肉質で薄い緑色をしている。潰れた鼻。鋭い目。尖った耳。見た目は然程オークと変わらない。だが、その体躯の大きさはオークを遥かに凌駕している。同時に頭脳も進化し、かなりの知恵を有している。
これだけ読んだら、とても強い魔物だってくらいにしか思わないかもしれないけど、オークの厄介な点はその性質だ。
その性は、性格とか性質の性じゃない。明らかに性的な性だ。
オークは雌の固有数が極端に低い魔物だ。
雌1に対して雄の割合は9。
殆どが雄。
個体数を増やすにも同族の雌が極端に少ない。ましてや、オークは性的欲求が非常に強い魔物だ。って事で、オークは人を襲うようになった。始めは欲求に忠実だったかもしれないけど。厄介な事に、異種族でも子が出来た。といっても、異種族同士、子が成せる可能性はかなり低い。それでも、オークたちは繁殖も相まって、尚一層人を襲うようになった。
いるのは、女性だけ。勿論、子供も含むよ。大きくなったら必要だからね。
で、いらない男性は、オークたちの食料になった。
だから、意味合いは違うけど、オークは男女共に天敵なのだ。
最後まで読んで頂きありがとうございますm(__)m
長くなりそうなので、切りがいい所で切りました。
初めてのクエスト編、長くなりそうな予感が……( ̄▽ ̄;)




