宿屋の息子
閑話です。
商売柄、ハンターの方々と接する機会が多かった息子にとって、ハンターの仕事に憧れを持つ事は当然の成り行きだと思った。
まぁ、この仕事に関係なく、男なら一度は憧れる仕事だろう。俺自身も憧れた口だしな。だから、俺は息子の意思を尊重した。その仕事が、如何に危険と隣り合わせか知りながらもだ。
ハンター試験は三回まで受ける事が出来る。
俺も息子も三回とも駄目だった。息子には言えないが、親としては内心ホッとしたのはしょうがない。
意気消沈しながらも帰って来た息子が、ボツボツながらも俺の仕事を手伝い始めてくれて心底嬉しかった。嬉し過ぎて、仲間と朝まで飲み明かしてしまった。
仕事にも慣れ、俺は初めて息子にマドガ村の簡易宿を任せる事にした。といっても、大きな討伐が入るまでの一週間程だが。
そんな息子がやらかしたと聞いたのは、マドガ村に着いてからだった。
顔馴染みの食堂の店主が教えてくれた。
「おい!! お前の息子、シルバーランクのハンターを宿泊拒否してたぜ」
聞いた瞬間、呆然となった。
(シルバーランクのハンターを宿泊拒否!! まさか!?)
そう言えば、ギルドからギルマスと騎士たちとは別に、二頭の契約獣を連れたハンターが宿泊する旨の連絡を請けていた。ハンターになって間もない新人なので、特にフォローを頼むという注意喚起もされていた。
その新人は俺たちの間でも噂になっていた。
最下位職の冒険者に敢えて就き、持って生まれた才能でシルバーに昇格したルーキーだと。噂では、伝説の魔獣フェンリルと希少種である妖精猫を従魔登録している強者で、まだ成人していない子供だって話だ。
シルバーランクが討伐に加わる以上、いくら新人でも、シルバーである限り参加しなければならない。
危険なダンジョンや仕事を請け負う代わりに、彼らには様々な特典が約束されている。
乗合馬車もそうだが、特に優遇されるのが宿屋だ。
基本、商業ギルドに所属している宿屋にシルバーカードを見せたら、優先的に部屋を空けなければならない。そう確約されている。
特に今回は、わざわざギルドから連絡を請けていた。
勿論、俺は息子にその事を伝えていた。大まかな身体特徴も従魔登録の件もだ。
「……悪い冗談はよせ」
こんな悪趣味な冗談を言う奴じゃないことは分かっていた。それでも、冗談だと思いたかった。
「そう思いたい気持ちは分かるが、冗談じゃないぜ。野宿してたからな」
(野宿だと!?)
それが真実なら、最悪、商業ギルドから脱退させられるかもしれない。
俺は慌てて簡易宿屋に向かった。
「どうしたんだ、親父!? そんな真っ青な顔をして。馬車に酔ったのなら、奥で休んどけよ」
「……昨日、ここに成人前のハンターが来なかったか?」
「成人前……? ああ来たな。実力もないのに挑戦した馬鹿が。確か、ペット連れてたぜ。……親父、そんな怖い顔してどうしたんだ?」
「このアホが!!!!」
息子の顔を容赦なく拳で殴る。
「あれほど、客を見た目で判断するなと、口を酸っぱくして言った筈だぞ!! なのに、お前は……よりにもよって、ギルドから通達が来ていたハンターを宿泊拒否するとは、呆れてものが言えんわ!!!!」
殴った拳を緩めず、怒りで小刻みに震えながら怒鳴る。
殴られた息子は、父親が何を怒っているのか未だに理解出来ていない。
「はぁ!? 亡碌したのかよ、親父。あのガキが何だっていうんだ」
息子は苛々しながら吐き捨てる。
「俺は伝えた筈だぞ。今回宿泊するお客様の身体的特徴をな!!」
「成人前の従魔を連れた客だろ」
「……そうだ。そこまで言って、何故気付かん」
そこまで促されて、漸く気付いたようだ。
「…………う……嘘だろ。あんなガキがシルバーって……んなの、ある訳ねーだろ!!!!」
癇癪を起こした子供のように暴れる。
「お前は後ろに引っ込んでろ!! もう店に立つな!!!!」
自分の非を認めない息子を再度怒鳴ると、俺は店の奥に追いやった。
息子の気持ちは十分理解出来る。ハンターになりたくて、必死に努力していた事も知っている。だからこそ、頑なまでに認めたくない気持ちも、少しは汲み取れる。
だからといって、今回の件が謝って許される範囲を、とうに越えてる事に息子は気付いていない。
既に、この件はギルドに伝わっているだろう。ギルマスにも報告が届いているかもしれない。
明日から大きな討伐が入る。
今晩から、ギルマスと王都から騎士数名が宿泊する予定だ。
誠心誠意謝るしかない。それでどうなる問題でもないが、そうするしか道は残されていなかった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
最新話を更新しながら、地道に加筆修正をしていこうと思います。象並みに遅いと思いますが、見捨てないで下さいね。




