漆、ようこそ神の湯へ~後編~
夫婦漫才。
一郎と桜は茜に促されるまま、渋々壇上へとあがった。
「では、お二人お願いします」
無茶ぶりにもほどがある。
2人は鬼の形相で茜を睨みつける。
が、もう賽は投げられたのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・いえーい!」
一郎は咄嗟に思いついた一言を放った。
「ちょ、あなた何ソレ」
桜はベタすぎる言葉に赤面した。
しかし、この瞬間、2人のスイッチがオンに入る。
一郎「なにが?」
桜「なにがって、今のよ。何?いえーいって小学生か」
一郎「ワシ、こう見えて80代やで」
桜「棺桶ネコまっしぐらやな」
一郎「ワシ、ネコちゃうで、ぺていぐりーちゃむは好物やけどな。酒のつまみに実に合う」
桜「このジジイ、ネコちゃんの分、取ってたのアンタか」
一郎「アンタ~その言い方、好きでない」
桜「ほんまもんのネコにしたろうかい」
一郎「いろいろ想像をかきたてられて・・・興奮・・・おっと、ごめんなさい」
桜「しかし、私、アンタ死んだもんと思っとったわ~」
一郎「せやろうな」
桜「でも、ずっと生きとるとも思っとった」
一郎「ふむ」
桜「でも・・・死んで・・・」
一郎「どっちじゃい!」
桜「気分はハーフアンドハーフ」
一郎「ほへーついていけまへん」
桜「でも、また会えてよかった」
一郎「ワシも」
2人はしっかと手取り合う。
一郎・桜「では、歌います。桜と一郎で「昭和か〇すすき」」
一郎「って、お涙ちょうだーいやないかーい」
桜「おそまつっ!」
一郎・桜「ありがとうございました」
あっけにとられる一同。
も、のち盛大な拍手。
やりきった感のある2人は、顔を上気させ互いを見つめ合う。
そんな中、サルタヒコゆっくりと立ち上がり、拍手をしながら壇上へと向かう。
「どれ、オオトリのワシ番じゃて」
興奮気味の一同、そして茜は、やる気満々のサルタヒコに気づかない。
「それでは、暁屋の宴、終了でございまーす」
茜の〆の声に皆はぞろぞろと宴会場を後にする。
「うーん、いけずう」
ぽつりサルタヒコの寂しい声かこだます。
「ドンマイ」
トヨタマ女将が肩を叩く。
そういや、今年ゲラコンないよね。




