十章 神の舟二幕 壱、ディジーの神隠し
兄妹喧嘩。
ニライカナイは空と海に囲まれた広大な島であった。
暁屋の連中も行ったことのない手つかずの場所が多くある。
今日も元気にエルフの子どもたちは、外で駆け回る。
母のフレアは横目で子どもたちを見守りながら、洗濯物を干している。
桟橋で煙管を吹かす一郎も気配っている。
ディジーは砂浜で砂の城を一生懸命作るが、完成の一歩手前で兄のディドが、
「えーい」
と、踏みつける。
「ちょっとおにいちゃん」
「へへーん、ここまでおいで」
一目散に逃げる兄に妹は頬を膨らませて怒る。
「こらっ、ディドっ!意地悪しない」
桟橋に係留している舟のメンテ中の父クレイブが息子を叱る。
「ほーい」
と生返事のディド。
「お兄ちゃん、仲良くするのよ!」
母フレアは、両手で口まわりをメガホンにし言った。
「・・・うん」
彼は走るのを止めた。
「ほら」
母が指さす先には、妹が泣いていた。
ディドは、慌ててディジーの元へ駆け戻る。
「ごめん」
と、素直に謝る。
「いや、きらい、おにいちゃんなんて」
べそをかきながら、ディジーは砂浜とは逆の方向に走りだす。
「ちぇっ!せっかくあやまったのに」
「ディド、ディジーを追いかけろ」
一郎は煙管を妹の去って行った方へと向ける。
「わかった。みんなディジーにあまいんだもんな」
ディドはそう言うと妹が向かった方へ走り出した。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
ディドは懸命に妹の名を呼ぶ。
返事がなく姿も見えない。
長い事、大好きな妹を探した。
奥の森へと男の子は進む。
叫び走る。
息があがる。
くらり。
ディドは森の中で倒れた。
消えた?ディジー。




