漆、彦星
それぞれのスタイル。
その日、天の川にかかるといわれるカササギがつくる大橋は、宇宙の大雨(流星群)により、建設が中止となっていた。
ベガ星へと到着した茜は、彦星の家をノックする。
「はい」
出てきたのは、若い青年だった。
「あなたが、彦星さん」
「そうです」
「私は、予約をうけました。暁屋の船頭川田と言います」
「ああ、船頭さん。ようこそ。そうだったね、今年は橋が無いんだった。うちの牛も今牛検(車検みたいなもの)に出していていないからさ。ありがたいね」
「はあ」
「ま、立ち話もなんだからさ、中へ入ってよ」
「はい」
彦星は茜をリビングへと招いた。
コポポポ・・・お茶のいい匂いがする。
「はい。星茶だよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
茜は一口啜る。それはとてもおいしいお茶だった。
「美味しい」
「でしょ。一等星のお茶だからね」
「彦星さん」
「ん?」
「あと、数時間で7日です。急がなくていいんですか」
「ああ、毎年、嫁とは会っているからね」
「ドライですね」
「そうかい?」
彦星はそう言いながら、長い巻物を取り出し眺めはじめた。
「それは?」
「ああ、これは、マイハニーと過ごす1日のやりたい事、百か条さ」
「は・・・はぁ」
茜はクールを装う彦星の真の姿にドン引きした。
彼をよく見れば、貧乏ゆすりが甚だしい。
爪まで噛みはじめている。
彼女はお茶をごくりと飲み込み、立ち上がった。
「どうしたの。そんなに慌てて」
「さ、行きましょう」
「・・・そんなに急がなくてもいいのに」
「いいから」
彼女は促す。
「ん~、そうかい。川田さんがそうまで言うなら仕方ないなぁ~」
と、彦星は準備万端とばかりに巨大な風呂敷を背中に担いで、舟に乗り込んだ。
彦星出発っ。




