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陸、織姫

 七夕浪漫じゃ。


 宇宙(そら)

 織姫の住まう星ベガと彦星のアルタイルまで、14.4光年離れている。

 煌めく天の川を隔てて、その日を一日千秋の思いで待つ2人・・・まさに浪漫である。


 ケンジは、ベガ星の織姫の邸宅へと舟ごと送られた。

 その豪奢な屋敷に、自分の思っていたイメージとのギャップに思わず苦笑いした。


(さて、どうするべきか・・・)


 玄関先で腕組みをするケンジ。


(やっぱり勝手に中に入る訳もいかないし、呼ぶか)


 彼はすーっと息を吸い込むと、


「お待ちしていました」


 いそいそと女性が現れた。


「あ、織姫様?」


「いいえ、私は侍女です。ささ、こちらへ」


「はあ」


 ケンジは、邸宅の中へと案内された。

 部屋から声が聞こえる。

 織姫は、かなり慌てていた。


「姫様、旦那様と会う時間が無くなってしまいますよ」


 侍女が呆れて声をかける。


「だけど、わらわは、あの人に喜んでいただきたいんじゃ、ああどの服にすればよいかの」


「・・・再会まで1年もあるのに、どうして毎年・・・」


 侍女は嘆息する。


「それは言わない約束じゃ」


 無尽蔵に散らばる着物の中、織姫はジタバタする。


「ほら、もう舟が到着しましたよ」


「なんと、もう、そんな時間か・・・」


「今年は天の川に橋がありません、いつもより早めに・・・」


 侍女がそう言うと、織姫は振り返りケンジと視線が合う。


「・・・お主、男じゃな」


「はい?」


「ほれ、わらわに似合う、男好きする服はどれがよいかの」


「はあ」


「船頭さん、てきとーでいいから答えてあげて」


 侍女が耳元で囁く。

 ケンジはぐるりと見渡す、そうして絵本でよく見た真赤て羽衣のついた着物を指さす。


「・・・じゃ、これで」


「おう。そうか。わらわも、きっとそうじゃと思っていた」


 織姫は破顔し、ケンジ指定の着物を手に取る。


「さ、姫様、お急ぎください」


「わかっておる」


 鼻歌を歌い始めた織姫をよそに、侍女はぺこりと頭をさげる。


「船頭、ケンジ様、ご協力ありがとうございました。姫はもう少しでみえられると思います。舟にてお待ちください」


「はい」


 丁重にお礼を言う侍女に、ケンジも頭を下げて退出した。



 真っ暗な空にひときわ輝く満点の星々。

 美しく着飾り、最愛の人との再会で胸を躍らせる織姫はケンジの舟へと乗る。

 彼女がケンジの通り過ぎる際、びっくりするほどの美しさに息を飲む。

 舟の真ん中で、織姫は腰をおろすと言った。


「さ、出発してたも」


 ケンジはその言葉に頷いた。

 必ず届ける。

 彼は強い使命感のもと、天の川へと向かい舟を進める。


 織姫出発っ。

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