伍、七夕の夜に暁屋一役買う
ちょっぴり遅ればせながら。
ここはニライカナイ。
暁屋の桟橋でサルタヒコは腕組みをしながら唸っている。
「さて、一郎、どうしたものかの」
煙管をふかし一息のち、一郎はきっぱりと答えた。
「茜とケンジで」
「ふむ、お主の秘蔵っ子たちか」
「ああ、2人なら大丈夫だ」
「そうか、ならば、そうしてくれ」
「わかった」
一郎はゆっくりと立ち上がると、ズボンの埃を払った。
◇◇◇
その日の営業後、茜とケンジは社長室へ呼ばれた。
「織姫と牽牛をそれぞれ天の川に運ぶ?」
茜は驚きの声をあげた。
「ロマンティックだろ」
一郎は笑った。
「にわかに信じがたい話ですが」
ケンジが、眉間に皴を寄せる。
「難しい事は考えるな。今までさんざんお前たちも常識外れな体験してきただろ。その延長線の話だこりゃ」と、一郎。
「だけど、おとぎ話よ」と、茜。
「ここまでくれば、おとぎ話も異世界も変わらんだろ」と、一郎。
「そう言われれば、そう・・・なんでしょうが」と、ケンジ。
「いつものように、船頭すりゃあ、いいんだよ」と、一郎。
「だけど、織姫と牽牛と宇宙で天の川を挟んでいるんでしょ。どうやって」
茜は疑問をぶつける。
「それはサルタヒコが、お前たちを舟ごと送るそうだ」
一郎はサルタヒコから聞いた話をそのまま言った。
「神様が」と、茜。
「ああ、ま、どちらにせよ。貴重な体験だ。楽しんでくれよ」一郎は言った。
「はあ」と、ケンジ。
「・・・うん」と、茜。
「2人とも、うかない顔だな。お前たち神話の目撃者になるんだぞ」
「と言われましても」
「ねぇ」
「あ~分かった。これは決まり事だ。茜が牽牛さん担当、ケンジが織姫さん担当・・・な」
「質問」と、茜。
「はい」と、一郎。
「なんで、同性同士じゃないの」と、茜。
「別にそこ気にする?先方からの依頼だそうだ。さ、行った行った」
「へ、今から」
「今日は七夕だろ」
一郎は2人にサムアップした。
夕闇迫る暁屋の桟橋に茜とケンジが乗った2隻の舟が浮かんでいる。
「じゃあ、2人ともいいか」
「はい」
茜とケンジは返事をした。
サルタヒコは2隻の舟に両手をかざす。
「神速転移」
舟は瞬時に消えた。
七夕浪漫。




