玖、消えた紫球
いざっ。
ここはヤナガーの廃墟街。
かつては歓楽街だったこの場所も時代とともに廃れていき、今じゃ誰も住んでいない。
細い路地で紫球は着実に成長していた。
繰り返す斬撃音。
紫球は禍々しいオーラを放ちだす。
一撃にかけた攻撃を失敗した一郎たちは、建物の影に隠れ球体の反撃に備える。
「くそっ!」
ケンジが叫ぶ。
「落ち着け。まだチャンスはある」
一郎は隙間から球の様子をうかがう。
「じぃじ、私が行く」
茜は立ち上がる。
「茜、やめなさい」
桜は諫める。
「・・・・・・!」
ケンジは意を決して飛び出す。
「阿保う!」
一郎は慌てて追いかける。
茜、桜が後続に続く。
ケンジの突進を察知した紫球は、一点に光を集中させ光の矢を放つ。
「伏せろ!」
一郎の言葉にケンジは身をかがめる。
一郎は立ち止まり、黄金竿で矢をはじく。
その間、茜と桜が身を伏せたケンジを踏み台に、高々と舞いあがる。
一郎は紫球に急接近。
二の矢、三の矢と次々に放たれるが、悉く払いのけた。
上空から、竿を下へ向け兜割で球体を貫く茜。
右斜め横の側面に飛んだ桜は、竿を球体側面へと薙いだ。
ケンジはクラウチングスタイルで浮遊する球体の真下に潜り込み、斜め上から竿を突く。
崩壊をはじめる球体に、一郎は止めに真っすぐ突きを入れた。
これが2日目。
リミットになる3日目。
最後となる紫球が忽然と姿を消した。
日中、一郎たちは懸命に探したが見つからなかった。
夕方より、城の会議室にて、今後の方針が決まる。
少ない時間、人海戦術でしらみつぶしに紫球を探すというものだった。
名付けて「命の灯を絶やすな!ヤナガー紫球ローラー作戦」の開始である。
王家からはベルガモット王自ら陣頭指揮を行う。
営業の終わった暁屋メンバーも合流し必死の大捜索は続けられた。
夜の帳がおりる。
各自、松明を手に持ち、ありとあらゆるところを探る。
フィーネは手かざしで球の行方を捜す。それに続くギルモア。
クレイブはエルフの勘を頼り、アルバートと共に血眼で探る。
幽体バリーは建物をすり抜け、共に行動する李を置いてけぼりにする。
残された時間は少ない。
痣の傷みに耐えながらも、一郎たちは足を止めない。
「!」
フィーネが発見した。
堀の中で蠢く巨大な紫球。
「いつの間に」
ギルモアが唸る。
「みんなに知らせて」
「分かった」
一郎たちは一度、暁屋へ戻り、桟橋から舟をだす。
一郎の船には、ベルガモット並びに精鋭騎士団が乗り込む。
茜の舟に桜、ケンジ、フィーネ、クレイブ、アルバート、バリー、ギルモア、李たち暁屋メンバー。
「また消えませんか」
舟の中で、桜は尋ねる。
「それはないと思う。紫球はあの位置で根を張っている・・・最初からずっとそこにいたのよ」
フィーネは言った。
「そんな、じゃ元々最後の球は」
茜が尋ねる。
「なかった。カムフラージュよ。球はじっと姿を隠し、その時を待っていた」
竜神であるフィーネは言葉をかみしめながら伝えた。
眼前に見えるは、掘割を覆う直径10mはあろう巨大紫球。
禍々しいオーラを放ち、球体の中では不気味な紫の炎がゆらゆら揺らめいていた。
殲滅せよ。




