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肆、暁屋の一日

 ざっくりと。

 

 早朝、船頭部屋に最初にやってくるのは、配舟係バリーだである。

 幽体の彼はポルターガイスト状態で、手書きの配舟表を掲示板に張り付けると、じっとそれを眺め間違いないか確認をする。

「よし」

 彼は頷くと、すーっと部屋を離れた。


 配舟表には、当日の船頭の動きが細かく書かれている。

 まずは、日付、天候、水位、風の向き、水の流れ、舟の状況(どこに係留しているか)。

次に番手。

 壱、茜。弐、ケンジ。参、イチロー(社長)。伍、クレイブ。陸、アルバート。漆、ギルモア。捌、李。予備輔佐、サクラ、バリー。

 それから予約状況と担当船頭、舟のスタイル(椅子、絨毯舟、花嫁舟、スピード重視は元大柳舟など)、お客の要望などが書かれている。


 ほどなくして、船頭達が出勤してくる。

 やって来たのはケンジ、ちらりと配舟表を確認すると、外へ出て舟の準備をはじめだす。

 それから茜、クレイブ、アルバート、そして一郎、桜、事務方のフィーネとフレア営業開始準備をはじめ、李とギルモアのベテラン勢が遅れてやってくる。


 朝礼が終わり、営業開始がはじまると、お客がぼちぼちと訪れる。

 あさイチの舟の乗客数は少ないが、昼にかけてぐんと多くなり、ピーク帯はまさに午後、夕方にかけて徐々に落ち着き閉店時間となる。

 船頭たちは、配舟表をもとに動き、忙しい時は昼食をとる暇でさえないこともある。

 各船頭平均3回くらいの割合で、川下りを行うが、必然的に最初に出る若手の船頭たちの回数は増える傾向にある。

 この日はギルモアに最終便があたった。

「なっ、俺もかよ。年寄に3回目はきついて」

 相変わらず不平不満を漏らしながら、彼は川下りへと出た。


 閉店後は舟の最終チェックを行い、傷んでいる所はないか等を確認する。

 茜は素早い動きで、係留した舟を飛び回り確認する。

 舟には番号が記されている。

「1、OK。2、もよし」

 桟橋に立つ桜が、舟のメンテチェック表に、彼女からの情報を記入する。

「・・・3は・・・ケンジ、この舟の係留ロープだいぶ傷んでるよ。新しいのと替えて」

「了解」

 ケンジは、道具部屋へ入り、新品のロープを持って、取り換え作業に入る。

 クレイブとアルバートは明日に備え舟まわりの清掃を行っている。

 李とギルモアは竿のメンテナンスを、バリーは事務所で明日営業の算段を練っている。

 フィーネとフレアは店じまい。


 そして、一郎はいつものように桟橋の端に腰かけ、煙管をふかしてる。

「今日も、無事終わりやしたと」

 紫煙が梅雨の晴れ間の空に吸い込まれる。

「こらっ!じぃじ、暇なら手伝ってよ」

 茜の大声が聞こえる。

「へいへい」

 彼は一服を切り上げ、腰をあげると、尻の埃を払い桟橋を歩きはじめた。



 一日の動き。

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