表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/126

拾、桜満開

 桜目覚める。


 一郎は桜の嗚咽で目を覚ました。

「どうした!」

 がばりと跳ね起きた瞬間、2人の目と目が合う。

 それはスローモーション。

 桜は泣き笑いを見せる。

 一郎は安堵した顔の後、愛しい人を本能的に抱きしめた。

「・・・なんできたん」

「会いたかったから」

「そうか・・・ありがとう」

 今度は一郎が泣いていた。

 互いに笑い合う。

 

 ひとしきの再会を喜び合い落ち着くと、桜は静かに一郎がいなくなった後の事を話しはじめた。

 家が途端に静かになったこと。

 一郎の物はそのままにしていること。

 息子や嫁のこと。

 茜が舟に夢中になったこと。

 寂しかった事。

 悲しかった事。

 生きていると信じ続けた事。

 茜が突然いなくなってしまったこと。

 一郎にあいたいと掘割の大桜を見に行ったこと。

 彼は彼女が喋っている間、うんうんと頷き、優しく頭を撫でた。

 

 桜は一気に吐き出すかのように喋ると、ほうと一息ついた。

「・・・ということなの」

 一郎は大きく頷くと真顔になり、

「そうか、じゃ、あいつら(茜の両親)は辛い思いをしているんだな・・・お前までいなくなって・・・」

「・・・そう・・・ね」

 桜はこくりと頷いた。

「こりゃ、茜とケンジは絶対に(現世)に帰さなきゃな」

「そうね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 彼は渋い顔を見せ思案する。

 そんな彼の頬を彼女はぎゅっとつねる。

「痛っ」

「そんな顔しないで、せっかく会えたのに」

「・・・ああ、そうだな。だけど」

「そうね」

 2人はじっと見つめ合った。


 コンコン。

ドアがノックされる。

「・・・・・・」

「茜だ」

 一郎の言葉に桜は頷く。

「どうぞ」

「入るよ」

 茜は中に入ると、笑顔で手を振る桜を見た。

 くるりと小躍りして祖母に抱きつく。

「ばぁば!」

「茜」

 桜は可愛い孫の黒髪を撫でる。

「心配したのよ」

 と、祖母。

「私だって!」

 と、孫。

 互いに真剣な眼差し、やがて祖母と孫は思わず、ぷっと吹き出した。

「ふふふ」

「ははは」

 一郎は腕組みして優しい眼差しをおくる。


 不意に茜が振り返る。

「じぃじ」

「ん?」

「ばぁば、美人だね」

「まぁな・・・って言っていただろう」

「うん。でも、今こんなに若い2人なら若い頃の思いが蘇るんじゃない」

「ま」

 顔を赤らめる桜。

「じぃじとばぁばをからかうもんじゃないぞ」

 一郎は孫をたしなめた。

「はーい。でも、よかったね、じぃじ、ばぁば」

「ああ」

「うん」

 

 掘割の桜が咲き乱れ、暁屋に笑顔満開桜が到来す。




 暁屋物語次章へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ