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捌、じぃじとばぁばと茜

 暁屋の夜。

 

 暁屋に夜が訪れる。

 医務室のベッドに寝かされた桜だった。

 彼女の意識はまだ戻らない。

「馬鹿野郎なんで、こんな所に来ちまったんだよ」

 一郎は、簡易椅子に腰かけ彼女の手を取り呟く。

 コンコン。

 ノックがした。

 茜が入って来る。

「じぃじ、ばぁばはどう?」

 彼は静かに首を振り、そっと繋いだ手を外した。

「そう」

 茜は簡易椅子を一郎の横に並べて座る。

「もう遅いぞ。先に寝ておけ、明日の仕事に差し障る」

「じぃじだって」

「ワシは平気だ」

「私だって」

「フン」

 一郎は苦笑し、茜はくすりと笑う。


 茜は桜の寝顔を見つめ思わず言った。

「ばぁばって若い頃、美人だったんだね。写真で知っていたけど、実物の方がいい」

「ワシの嫁だからな」

「はいはい。ごちそう様。そっか、私も美人な訳だ」

「ほう」

 2人は顔を見合わせまた笑った。


 2時間が経ち、ふいに茜が真顔になる。

「じぃじ」

「ん」

「ばぁばは、ずっとじぃじに会いたかったんだよ」

「うん、ワシもだ」

 一郎はこくりと頷いた。

「ずっと生きてるって」

「うん」

「私はじぃじ死んだと思ったけど、本当に生きていたし」

「・・・・・・」

「ばぁばの言っていたこと、本当だった」

「ああ」

「ねぇ、じぃじ、ばぁば目が覚めるよね」

「ああ、大丈夫。きっと」

 

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 静かに時は過ぎる。

 茜はこくりこくり、ウトウトとしだした。

「茜」

「うん?」

「もう寝ろ。流石に船頭の仕事は身体を使う。な」

 こくり頷く。

「うん。じぃじ、ばぁばを頼むね」

「わかった」

 茜は目をこすり、部屋を出ていく。


 一郎は茜が出て行った扉を見つめ、そのあと視線を桜へと戻し、再びきゅっと手を握りしめた。

「来てくれて、ありがとう」

 呟く言葉から、不意に本音がこぼれた。


 3人の夜は更ける。

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