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陸、初でえと

 初でえとやいかに。


 あの勝負から3日後、たまたま茜とケンジの休みが重なっていたということで、デート決行の運びとなった。

 朝早く起きたケンジは、暁屋の宿舎から待ち合わせの街の喫茶店まで1時間も早くに徒歩で出発した。

(初デートに遅刻は出来ない)

 彼なりの配慮であった。


 暁屋から徒歩20分、距離にして2㎞離れた所に街がある。

 周りが畑に囲まれた細い一本道を早足で歩きはじめると、背後から声がした。

「ケンジ」

 茜が手を振りながら駆けて来る。

「茜」

 ケンジは振り返ると歩きを止めた。

「早くない」

 息を切らせながら彼女は言った。

「ま、遅刻しないようにな」

 ケンジは素っ気なく答えた。

「ふーん、でもさ、だったら、ここ(暁屋)から一緒に出ればいいじゃん」

 茜は至極真っ当なことを言う。

「それじゃデートの醍醐味がないだろ・・・それに恥ずかしいし」

 ケンジは言った。

「ふーん、そんなものなの」

「そういうものなの」


 2人は他愛のない会話をしながら、以前の喫茶店へと入った。

「朝食は?」

 ケンジが尋ねる。

「ん、じぃじと食べた」

 茜は答える。

「そっか、じゃ俺、軽く食べていいか?」

「いいよ。私、名物レインボーパフェ食べる」

「ん、お姉さん」

 ケンジは猫耳獣人のウェイトレスを呼んだ。

「朝食セットとレイボーパフェを」

「かしこまりました・・・あれ、お2人」

 一度礼をして、その場を離れたウェイトレスが何かを思い出したように振り返る。

「はい?」

「あの時のお2人ですよね。深刻そうな感じの・・・良かった~ヨリが戻ったんですね」

「あ・・・あの」

 ケンジはしどろもどろになる。

「ま、そんなところです」

 茜は冷静に言った。

「ふふ、おめでとうございます」

 猫耳を動かし、ウェイトレスは調理場へと戻って行った。


 喫茶店から出た2人、ケンジは開口一番言った。

「どうする?」

「はい、はい。でた~ノープラン」

「なんだよ」

「アンタがデートに誘ったんだからちゃんと考えときなさいよ」

「・・・いや」

「ん、なんか、考えあるの」

「うん、いや今回茜には助けられたし・・・なんかプレゼントでも買ってあげたいかなあ

と思って」

「へえ」

 思わず茜の鼻の下が伸びている。


 2人は雑貨屋へ寄った。

 雑貨屋というよりは、骨董屋といった感じで何に使うか分からないようなイミフな品々で溢れていた。

 互いに顔を見合わせると、さっさと退散すべく頷き合うと、同時に後退りするが、店主のおじいとおばあのマンマークに合い、退路を塞がれる。

 止む無く店内を物色する2人。

 ふと、茜の目に留まったのが、真新しい菅笠だった。

「これいいじゃん」

 彼女は手に取ってみる。

「こんなん仕事用じゃないか。せっかくなら別のにしてくれよ」

 ケンジは抗議する。

「お嬢さん、お目が高い。これは主人の手作りなんです」

 おばあが割って入る。

「そう、じゃあ、これにします。今のがくたびれていたんで」

「毎度」

「おいっ」

 ケンジはツッコミを入れるが、茜は菅笠を胸に抱きしめた。

「お代よろしく」

 彼女は言った。

「・・・・・・」

「お代」

 と、おじい主人。

「わかりました」

 ケンジは笠代を払った。


 店に出ると、茜は言った。

「ねぇ、弁当でも買って、舟に乗らない」

「え」

「この笠、試してみたいの」

「・・・・・・」

 ケンジは肩をすくめる。

「はいはい。本当に(川下り)好きなんだな」

「うん」

 2人は並んで暁屋への帰路へと着いた。

 


 いつも通り。

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