表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/126

伍、競争

 2人の対決。


 大柳の舟は、暁屋の舟と比べてかなり軽量化がされている。

 暁屋のカラー赤に塗装された元、大柳の舟が桟橋につけられている。

 仕事あがりの夕方。

「茜」

 ケンジは幼馴染の名を呼ぶ。

「ん」

 振り返る彼女。

「競争しようぜ」

 彼は突然言い出す。

「アンタ、私に勝てると思ってるの」

 茜はフフンと鼻で笑って見せた。

「いいから」

 ケンジは薄らと笑う。


 その余裕に満ちた態度に、茜はカチンときた。

「負けたら、夕飯のおかず頂戴ね」

 待ってましたとばかりに、ケンジは言った。

「じゃ、俺が勝ったらデートしてくれ」

 驚き赤面する彼女。

「は?」

 彼は親指を立てる。

「決まりな」

 

「ぐ・・・ま、負けることなんて、絶対に無いからいいけど」

「それはどうかな」

 ケンジは余裕を見せ、元大柳舟のデッキの上へ立つ。

 茜はいつもの愛用の暁屋舟。


「ルールは」

 茜が尋ねる。

「そうだな。正面のヤナガー橋を抜けてUターン桟橋に戻って来るのはどうだ」

「だいたい100mくらいの距離ね。いいわよ」

 彼女は頷いた。


桟橋から2隻の舟が離れると、掘割に並ぶ。

 2人は同時に喋った。

「よーい」

「どんっ!」

 2隻の舟は水の上を滑るように爆走する。

 頭一つ抜け出した茜の舟は、次第に並走するケンジの舟を抜き去る。

「どう?」

 茜は得意満面の表情を見せる。

「まだまだ」 

 ケンジはぴたり茜の舟背後につける。

 気分はスリップストリーム走法だ。

 舟はヤナガー橋を抜けUターン。

 ここでケンジはドリフト気味に舟を滑らせ、茜舟の左腹にぴったり食いつく。

「やるわね」

 ニヤリと笑う茜に、

「どうも」

 と、クールを装うケンジ。

 

 ケンジは竿を高速で水中にさす。

 舟をぐんぐんと加速させると、一気に茜の舟を抜いた。

「まさかっ!」

 茜は絶句する。

「よしっ!」

 ケンジは勝利を確信する。

 右手を高々と突き上げ、桟橋に到着した。


 はあはあ。

 肩で息を切る2人。

「やるわね」

「まあね。茜約束な」

「・・・分かったわよ」

「でも、アンタめっちゃ速かったよね。信じられないくらい・・・」

「へへ、それな」

「ん、なんか含みのある言い方ね」

「別に」

「言いなさいよ。じゃないと、デートなし」

「うっ・・・」

「さぁ」

「・・・この舟、暁屋のと比べて軽いんだよ」

「へ」

「言わなくてごめん」

「・・・そう」

「あの・・・デートは」

「・・・ま、負けは負けだから・・・ね」

「やった!」

 ケンジは小躍りをして喜んだ。

 ちなみにその後、舟を替えて競争したら茜の圧勝であった。



 いいねぇ、青春(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ