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肆、事後処理

 はじまりあれば。


 桜が芽吹く頃、朝早く暁屋船頭は大柳の乗船場に集合した。

 ぺこりと深々とユングとメルダ夫妻が頭を下げる。

「じゃ、いいんだな」

 手続き書類を交わし、一郎は念を大柳社長へ押す。

「いいも悪いも、アンタが辞めろって言ったんじゃないですか」

「あなた」

 メルダはぐいっとユングの袖を引っ張る。

「・・・・・・」

 今にも泣きだしそうな、メルダの表情を見てユングは改めて深々と頭を下げた。

「すいません。いろいろとこちらの不始末を綺麗にしていただいて、この店も買い上げて頂いて・・・これでスッキリ足を洗えます」

「そうか」

「なんて言うと、思ったか」

「あなた!」

「だがな、しかし!」

「すいません。イチローさん、この人は心の中では分かっているです。この仕事が向いていないことを、だけど変なプライドが」

「わかってますよ」

 一郎は頷いた。


 身の置き所の無いユングの目はせわしなく動き、標的を見つけた。

「おいっ!ケン!」

 ユングはケンジを指さす。

 茜は幼馴染に何か因縁をつけられたら一言かましてやろうと身構える。

「・・・社長」

「しっかりやれよ。俺がお前を鍛えたんだ。お前が大柳の魂を受け継ぐんだ」

「・・・お世話になりました」

 ケンジは深々と頭を下げた。

「・・・ケンジ・・・あんたね人が好過ぎるよ・・・よくも」

 茜は一歩前に踏み出し睨みつける。

 すっと、ケンジは左手を彼女の胸あたりに水平に伸ばし制する。

「フン、分ってりゃいいんだ!分かってりゃ!」

「ありがとうございます」

 次に慇懃に頭を下げた。

「もう、大人ぶって!」

 茜はケンジの前腕を右手で捻りあげる。

「いって!」

 思わず腰を曲げるケンジ。


 そんな2人のやりとりを、一郎は苦笑いを浮かべ見ている。

 彼はユングの目をじっと見る。

 大柳社長は目を逸らす。

「お前の思い、しっかりと受け止めて暁屋はやっていくつもりだ」

「当たり前だ」

「あなた!」

 メルダは夫を睨みつける。

「・・・よろしくお願いします」

 ユングは深く頭を下げた。

 一郎は、こくりと頷く。

 

 穏やかな春の朝。

 一郎は暁屋船頭に指示を出す。

「営業時間まで、動かせる8隻大柳の舟を暁屋桟橋へ持って行く。茜、ケンジ、アルバート、クレイブ、それとギルモアは連合(※舟を繋いで持ち帰る)で戻って、そのまま営業開始。ワシとバリーと李は残って、大柳の残り舟メンテと、会社および桟橋の清掃をする」

「はい!」

 船頭は素早い動きで散った。


「・・・・・・」

 ユングは静かに天を仰ぎ、目を閉じて溜息をついた。そして、

「いこう」

 妻に一言発すと、その場を静かに離れた。




 おわりもある。

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