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参、暁屋大繁盛

 朝の光景。


 春の訪れを感じる日々。

 三寒四温の日々が少しずつ温の方を感じはじめ、ヤナガー掘割の桜の蕾も大きく膨らんで、あとは開花を待つのみである。

 暁屋は勿論、今日も大繁盛だ。


 春の行楽シーズンを迎え、ヤナガーの川下りには多くのお客が足を運ぶ。

 長蛇に並ぶ列をフレアが誘導し、カウンターのフィーネは慌ただしくチケット販売や接客に追われる。

 配舟係のバリーは、桟橋にてお客への乗船案内、説明、誘導を行っている。

 一番手の茜は桟橋に舟を係留し、デッキの上に立ち、その時を待っている。

 二番手のケンジは、向こう岸に舟を寄せ、次の番を待つ。

 三番手のイチローは、桟橋の端っこで煙管を吹かしている。

 四番手のアルバートは、自分が操船する舟の船体を入念に磨いている。

 五番手クレイブは、番手が遅いのでバリーの補助をしている。

 六番手ギルモア、七番手李の年寄コンビは船頭部屋にて、早弁および駄弁(だべ)っている。


 クレイブは一番舟に乗るお客の最終人数を告げる。

「18名です」

 バリーは頷くと、桟橋を塞いでいた木のポール、ロープパーテーションのロープに手をかける。

「アカネさん行きます」

 茜はその声に、右手に竿を持ちそっと水中にさし、ゆっくりと右手をあげる。

 バリーはロープを外し、笑顔を見せる。

「お待たせしました。よい旅を」

 続々と18名のお客が舟に乗り込む。

「OKです」

 バリーは出発の合図を送った。


 背中越しにその声を聞き、茜はぐっと身をかがめ右手で桟橋の縁を勢いよく押し込む。

 ゆっくりと舟が水面を滑る。

 桟橋から離れると、茜は竿を使って掘割を進む。

「ようこそ暁屋へ」

 満面のスマイル。


 クレイブが対岸のケンジへ手を振る。

 こくりと頷くと、動き出して空いた茜の舟のスペースへ舟を滑り込ませる。

「ケンジくん、いいか?」

 間髪入れずにバリーの声、

「大丈夫です」

「よし。お待たせいたしました」

 次のお客がケンジの舟へと乗り込む。

 バリーがサムアップを見せる。

 ケンジは頷き、掘割へと舟は飛びだした。


 バリーが慌てた口調で叫ぶ。

「社長!」

 のんびり紫煙をくぐらす一郎が振り返る。

「ん」

「次です」

「え」

「3隻行きます」

「さよけ。聞いてないよ~」

「お客さん、桟橋に残っているでしょ。分かるでしょ」

「へいへい」

 一郎は舟を操り桟橋へとつけた。


 一郎は片手をあげる。

「へいどうぞ」

「行きますよ」

 お客が一郎の舟に乗り込む。

「それでは川下り出発します」

 一郎はいつも通り竿をさして舟は行く。


 一旦、桟橋は閑散とするも、受付にはまだまだお客が殺到している。

 バリーは大きく柏手を打った。


 今日も暁屋は大繁盛。

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