捌、社長会談
直接会談。
舟が大柳の桟橋へと戻って来る。
メルダはその姿を見てぎょっとなった。
(暁屋社長イチロー)
社長室へと駆けこむ。
「ありがとうございました」
一郎はお客を見送った後、桟橋に立ち腕組をする。
「どういうことですかな。イチロー氏」
ユングは彼を訝し気に睨みつける。
「ん~ちと、話そうか」
彼は作り笑いを見せ、ポンとユングの肩を叩く。
社長室に入ると、一郎はソファにどかりと腰かけた。
「・・・・・・」
ユングは落ち着かない様子で、貧乏ゆすりをしている。
「なあ」
彼は語りかけるように言う。
「はい?」
大柳社長は、暁屋社長の意向を探る。
一郎は一つ小さな溜息をついて、
「ケンジが落水したぞ」
「ケンがまさか?」
「まさかそのケンジが・・・だ。俺たちは2、3日前からあいつの動きを見ていた・・・ふ、こっちの営業も人がいないんで大変だったんだぞ」
一郎は自虐気味に笑った。
「・・・まさか」
「ユング、気づいていたか?」
「何を」
「あいつが心身ともボロボロなこと・・・そしてこの店が・・・」
ユングは激昂する。
「黙れ、イチロー!なにが分かる、この大柳は・・・」
一郎は首を振った。
「お前同じこと繰り返しているな」
「・・・な」
ユングは言葉を失う。
「わからんのが問題だ」
「俺はちゃんとやっている。従業員にもちゃんと」
「本当にやってるのか」
「やっている!」
「じゃあ、なんでこうなった」
「・・・・・・あいつらが・・・あいつらが」
「そうなった原因は?」
「黙れっ!黙れっ!俺をないがしろにしたくせに」
「・・・そうだな。だがどうして・・・」
「・・・俺は悪くない」
「かもな」
「俺は・・・」
「ユング」
「何だ」
一郎は意を決する。
「お前は、この仕事やっちゃ駄目だよ」
「嘘だっ!俺は誰よりもこの仕事を愛している!」
「お前が去って行くあの時に、ちゃんと言えばよかった」
「何を・・・俺は・・・俺は・・・あなたを」
「もう潮時だよ」
「違う!断じて!」
「なあ」
「・・・・・・」
ユングは固く口を結んだ。
一郎は頃合いを見計らい、
「ケンジをうちで預かっていいか?」
と、言った。
「もう、勝手にしろ・・・みんな、みんなお前が・・・」
ユングはどかりと床に胡坐をかいて座りうな垂れた。
噛み合わぬ思い。




